また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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今日こそ連投記録が途絶えるかと思ったら、やっぱ出来た。もうけっ(ルフィ並の感想)


久し振りのウマ娘時空回です


冠が仰ぐ星は

「クッ、このキングが見失うなんて…!」

 

芝越え、砂越え、床も壁も飛び越えて。もう少しで私自身の領域を発動できる、というタイミングで、クロさんはその姿を晦ましてしまった。

 

「キング、どこにもいないよ!?」

「2階全滅~!」

「ピンクウララ~!出てこぉい怪人クロスちゃん!私が相手だよ!!」

「ありがとう皆さん、もう戻って良いから…ウララさんに至っては放課後に追試があったでしょう、勉強なさい!!」

「「「でもキングが困ってるのは放っとけないし…」」」

「ああもう!」

 

クロさんを追いかけている道中、見かけて援護に駆けつけてくれた皆さん。その温情はありがたいのだけれどね……と、今は一刻も早くクロさんを探さないと。

しかしおかしいわね。この校舎に逃げ込んだのは確実なのに、大人数で探しても出てこないだなんて…隠れられる場所は全部洗い出した筈だし、出口も有志の子達が見張ってくれているから脱出は不可能。窓から飛び降りようにも、目立ち過ぎるし何より高過ぎる……。

もう!急がなきゃいけないのに、どれだけ器用に隠れたっていうの!?

 

「オイオイ、物騒なもんだな。何があったんだ、ヘイロー令嬢?」

 

その焦る理由というのがこれ。この校舎、他ならないシリウス先輩の根城なのよね。クロさんもそれを見込んでこの建物に逃げ込んだのでしょう。

厄介ね、だからこそ二人が接触する前に引き摺り出さなきゃいけないっていうのに。いやもしかすると、もうすでに手遅れ……

 

「随分立て込んでるようだが、まぁ好きにすればいいさ。オイ、行くぞお前ら」

「へーい」

 

…ん?

ちょっと待って。

 

「そこの貴女」

「うへぇ」

 

うへぇ、じゃないわよ。貴女よ貴女、今サッとシリウス先輩の背中に隠れた貴女!

言っとくけど第一声で確信したわよ!そんな眼鏡とウイッグと化粧とアイシャドウと厚着と気配消去を幾ら上手く重ね掛けしてるからって、このキングの目から逃れる事なんて不可能だといい加減知りなさい!

……なんで私、一瞬で看破出来たのかしら?自分でも怖いのだけれど。

 

「言いがかりも甚だしいな。ウマ違いだって言ってやりなよ、手前の口から」

「悪ぃ姐貴、オレは嘘ってやつがド下手なんすわ」

「おまっ!?折角庇ってやったってのに自分から台無しにする奴があるか!!」

「疑われた時点で詰みだったという事でここはひとつ……」

 

そう宣って自主的にウイッグを外した彼女。下から現れたのは白髪交じりの、なのに艶やかな黒髪。やっぱり…!

 

「来なさいクロさん!説教の時間よ!!」

「アイエエエエ」

「ッとそこまでだ。もうコイツは私の管理下、私の縄張りで好き勝手するのは控えてもらおうか」

 

案の定あなたの妨害が入ったわね、先輩。でもここは譲れないのよ。

 

「シリウス先輩、この学園に“縄張り”という規則はありません」

「不文律って言葉を知らないのか?お嬢様はこれだから」

「なんとでも。私は貴女ではなくクロさんにこそ用があるので」

「いつもの五人組でまたコイツを隔離すんのか?それを許可するような規則も聞いたこと無いぞ」

 

くっ、やはり一筋縄じゃ行かないようね!私が右手で、シリウス先輩が左手でそれぞれクロさんを拘束してるこの状態だと両者思うように動けないし、どうしたものかしら。

・・・・・・って!

 

「ちょっとー!どいてよー!」

「行かせるかよ、シリウス先輩の所には!」

「キングさんから離れろ!!」

「お前らこそクロクロ姐貴から離れろ!!!」

「ちょ、ストーップ!争わないでくれ!」

「「「「アンタ(お前)が発端でしょうが(だろうが)ッッ!!!!」」」」

「スマン……」

 

ちょ、ちょっと!?お互いの取り巻き同士でいつの間にかにらみ合いが発生してるじゃないの!

迂闊だったわ、ここまで大事にしてしまったのは明らかに私のミス!どう納めるべきか……!!

 

「……オイ、令嬢サマ」

 

そんな折、シリウス先輩が。

 

「河岸を変えるぞ。ついて来い」

 

クロさんの手を放して、そう言った。

 

「「え?」」

 

クロさんと私の声が重なる。だって、さっきまで独占する気満々で掴んでたのに。

呆然とする私達に向けて、もう背を向けて歩き出していた先輩は振り返る。

 

「良いのか?全員処分食らうぞ」

「……!皆さんお待ちなさい!このキングが直接話を付けてくるわ、貴女達はもう下がって!!」

「「「はーい!!!」」」

「「「チッ…」」」

 

「おいクロス、お前スペシャル達の所に戻ってろ」

「えっでも…」

「でももだってもない。そもそもこの場で逃げ回ってたって長期的には何の意味も無いんだから、今この時ぐらいは諦めるんだな。多少縛られたってお前抜け出せるだろ」

「それはまぁはい」

「上等だろうが、曲がりなりにもこんなにお前を想ってくれてるんだから。拗れない内に、お前も胸の内を曝け出すぐらいしておけ」

「…ウス」

 

先輩たちの囁き合いは気になるしクロさんを確保できなかったのは心残りだけれど、これでひとまず安心ね。何より、いまだ謎であるシリウス先輩の思惑を探るチャンスでもある。

 

「じゃあクロさん!変な気は起こさないように!」

「ウス」

「じゃあ行くか」

 

これで良し。気を取り直して、私は先輩と共に連れ立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

そうやって着いたのは、屋上。

 

「手を組まねぇか?」

 

開口一番、屋上で先輩はそう言う。対する私は、意図を図り損ねていた。

 

「……一致する利害があると、思ってるんですか?」

「シンボリルドルフ」

 

ゾクリ、と薄ら寒いものが背筋に奔る。その名はそれ程までに、今の私達にとって警戒するべき単語となっていたから。

シリウス先輩は続けて言う。

 

「私のコミュニティで保護すれば、アイツを会長サマからシャットアウト出来る。それだけでもお前たちにとっては垂涎ものの環境の筈だ」

「……そう、ですね」

 

この学園における日の当たる場所で、シンボリルドルフの——会長さんの目の届かない場所なんて無い。自分で秘密の場所だと思っていても、悪巧みをしていても、それらは基本的にお目こぼしされているか検挙の準備中かの二択になる。

そんな環境下で…明らかに日向(ひなた)側の存在であるクロさんに関わることなど、全て見透かされてしまうだろう。私達が転生者スレでせっせこ策を立てたところで、それを実行に移した瞬間に気取られる。だから私たちは現状、物理的に引き離すという単純な対応しか出来ない。

会長さん側からそれを上回る力で詰め寄られた時。クロさんを守れないのだ。

 

でも、彼女なら。

 

「私なら、ルドルフの粘着を引き剝がせるんだぞ」

 

日向ではなく、学園の日陰を司るシリウスシンボリなら。

会長さんの手から零れ落ちた、つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()をまとめ上げる彼女なら…クロさんを、影に隠せるかも知れない。その可能性があった。

 

「それだけじゃない、腐ったって私もダービーウマ娘だ。オグリキャップやタマモクロスとだって走ったそういう経験も伝授できる。取り巻きという並走相手だって用意可能。クロスの奴にとって、これほど良い特訓環境を他に用意できるのか?」

「……っ」

「何ならお前らをその環境に加えてもいい。()()()は多重に展開してこそだからな」

 

私もルドルフを遠ざけたいんだ、と言外に告げる先輩、その態度に嘘は見られない。おそらくは真実。

なるほど、一致だった。対会長さん戦線において、彼女と私達の思惑は完全に重なっていた。

そして同時に、私は代案を用意出来ない。

 

「……公式なディベートだったなら、ここで私の負けですね」

「いやに潔いな。グラスワンダーとは大違いだ」

「お褒めに与かり光栄ですが、友人を侮辱するというのなら容赦するつもりはありません」

「……やっぱ最高に面白いな、お前ら」

 

何が楽しいのか、笑みを隠そうともしないシリウス先輩。対する私はと言えば、一つ大きなため息を吐く。

 

「私個人としては、そちらの提案を前向きに検討したいと考えています。同期の皆にも伝えておきましょう」

「ほう?」

「クロさんの持つ輝きはあまりにも強すぎる。このままでは、どこに隠そうとすぐに会長さんに見つかってしまいますので」

 

クロさんの持つ光は、他者を輝かせる光だ。燻る灰に焔を灯す太陽。そんなものが目立たない訳が無い、見初められない訳が無い。かつての私達が———俺達が見初められ、そして彼を見染めたように。

それでいつ会長さんが動いてクロさんと接触するかわからない現状、安全な環境はいち早く用意しておきたかった。クロさんを“死”の可能性から引き離す、そのことに対して余念を割いてる暇は無いのだから。

 

「ですが」

 

だけど。

 

「何だ?」

「その前に明らかにしておくべき事があります」

 

絶対に抑えておくべき事がある。必ず外してはいけない点がある。

 

「貴女がクロさんを求める理由です」

「言わなきゃいけないか?」

「私達と真に協力し合いたいのなら。信頼も信用もない同盟なんて、脆弱も甚だしいでしょう。“支配”したいのなら別ですが」

「ふざけんな。私はルドルフとは違う」

 

どうやら何かを逆撫でしたらしい。重苦しい重圧の視線を浴びるけれど、この程度で臆するキングじゃなくてよ?

なんたって、友の命運が懸かっているんですもの。

 

「ならお答えくださいな。貴女の噂はかねがね聞いておりますが、何の対価も無しに他者を助けるお人よしでは無いという話ばかりですが」

「……そりゃそうだろう。何かが欲しけりゃ代わりを差し出す、それができないなら残るのは暴力だけだ」

「ですので、一見無償でクロさんを助けようとする“理由”が欲しいんです」

 

貴女は、クロさんから何を受け取った?

何を貰った?

もしくは……何を貰う()()だ?

その問い掛けを込めて視線を送る。ここが正念場、負けは許されない。

 

そして。

 

「———ははっ」

 

私は。

 

「今度はお前の勝ちだよ、キングヘイロー嬢」

 

勝った。

 

「私は、クロス(アイツ)をな———」

 

 

そして。

 

 

「———にしたいんだよ」

 

 

 

 

負けた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ふざけないでッ!!」

 

その時、私は王威を見た。

 

「最低よ、貴女…!!!」

 

目の前のお嬢様の中に、ルドルフに似た何かを見た。

凄いな。凄まじいな。黄金世代、と持て囃される訳だ。

 

……分かってる。分かってるんだよそんな事は。

 

「好意を利用して、使い倒して……責任を取る気すら無いなんて!」

 

ごもっともだ。心が痛い。頬も痛い。

でもな。もうコレしか無いんだよ、私は。

 

「クロさんは…貴女の道具じゃないわっ!!」

 

知ってるんだよ、そんな事は……!

 

身勝手な癇癪と共に、反論しそうになった。手が出そうにすらなった。

 

 

その時、ガチャリと音がする。

私もキングヘイローも、一斉にそちらを向く。

……何故、ここにいる?

 

 

「……キング?」

 

 

クロスクロウ……!

 

早かったのはキングヘイローの方だった。私なんて意にも介さず、ツカツカとクロスに詰め寄ったかに思えば、すぐさまその手を引っ掴んで共に階段へと消えていった。

追う気は起きなかった。

 

「……はぁ」

 

酷い有様だ。年下の後輩に臆しかけるだなんて、これじゃとんだ笑い話。協力関係だって破談になっちまったしな。

 

「お前みたいには出来ねぇわ」

 

なぁ、ルナ。

 

 

……けど、今はこれで良いか。

私の本心がキングからクロスに伝わったって、特に問題は無い。どっちにしろアイツは私に懐いてくるだろうから。なんなら、一層寄ってくるかもな。

 

クロスは……そういう奴だ。

その点においては、()()()()()()()()()()()()奴だ。

だから選んだんだ。わたしが、アイツを。

 

「…ハハッ」

 

なんでだろうな。心が痛いのに、こんなにも痛いのに。

 

「夢なら醒めてくれねぇかな……!」

 

自分じゃもう、止まれないんだよ。

 

 

 

 


 

 

 

 

やらかした。

感情に任せた。

でも、ああするしか無かった。

 

「ちょ、キング!手痛いって!!」

「何で来たの!?」

「スペの所に行っとけとは言われたんだけど、なぁんか嫌な予感してさ!見に来たら案の定ケンカ始まりそうだったし!」

 

貴女ってヒトは、と怒鳴りそうになるのを何とか堪えた。その資格は私には無い。

でも、それでも言わなきゃいけない事がある。

 

「クロさん、もうシリウス先輩に近付かないで」

「え゛ーっ!それは嫌だって、」

「お願いだから!」

 

ダメなのよ。

それだけは、本当にダメなの…!

 

「キング…?」

「私と絶交してくれたって良い、それでも良いから……」

 

お願い。

お願いよ。

お願いだよ、クロスクロウ。

 

「頼むから……っ」

 

死ぬな。

 

生き急ぐな。

 

 

王冠を磨き、煌めかせた陽光。

 

 

 

俺を照らしてくれた、日輪。




投稿ペースを制御出来なくて不整脈みたいになっとる今日この頃
まぁ明日は流石に無理。多分ね

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