また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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今回は特にはぐらかしとかも無く分かりやすく出来た、と思ふ
あとエアシャカール実装されましたね。課金しようと思います


【Ep.50】有馬!

《さぁ今年の中央競馬を締めくくる中山競馬場には、なんと20万人近いファンが詰め掛けております。芳田さん、これはもう第三次競馬ブームと称しても差し障り無いのでは?》

《そうだったら嬉しい事この上ないですね。しかし残念なのはクロスクロウの出走撤回、人気投票ではぶっちぎりの一位だったのですが……毎日王冠から中4週を3連続ですし、そこは受け入れるしかないでしょう》

《しかしこの有馬記念、クロスクロウとも遜色の無いこの時代の名馬が勢揃いしています!》

 

その時、クロの視線を感じた。

振り向いても誰もいない。ニンゲン達が大勢、騒いでいる姿だけ。

でも、感じたんです。

 

「歓声が気になるのかい、グラス」

 

マドバさん。クロが、ボク達を見てます。

約束を守ってくれてるんです。

 

『嬉しいなぁ』

 

たったそれだけの事で、心が温かくなる。力が湧き上がる。いけないですね、今は落ち着くべき時なのに。

貴方はどこまでも、ボクを掛からせてやまない。

 

……さぁ。

 

『勝ちましょうか、マドバさん』

「あぁ。怪物の再臨劇だ」

 

 

《女帝が念願の長距離で有終の美を飾るか、奇策士が全てを釣りあげるか、はたまた王者が今度こそ威を示すか。そして怪物は、戦士の前に最初に立ちはだかったグラスワンダーはどうするのか!?》

(全頭入りました、泣いても笑ってもこれが一年の最後ッ)

《有馬記念、今───》

 

ガシャン、という聞き慣れた音。体はすぐに反応してくれた。

 

『おっさきー!』

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アングリング×スキーミング

          Lv.2

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……Huh!?

 

『ハァ!?』

 

後ろのキング君と揃って変な声が出てしまう。だってスカイ君、そのペース(たも)てます?

……ううん、彼の事だ。()つにせよ()たないにせよ、何かの考えがある筈。なら、

 

「追おう、グラス」

『はい…!』

 

マドバさんが腰を入れる気配に、内心の肯定で返す。こういう展開の時に重要なのが「ペース配分」と「突き放され過ぎない」事であるのは、苦い記憶(毎日王冠)が教えてくれた。

……今気付いたんですけど。スカイ君、もしかして。

 

ペット3号(サイレンススズカ)の真似事でもしてんのか、野郎』

 

聞こえて来たのは、真隣を駆ける青鹿毛の先輩の声でした。声色はドスが効いていて、まるでストレスの化身のよう。

 

『……やっぱり、そうですよね』

『で、お前からは先輩の匂いがしやがる。ラストアンサーって知ってるか?』

『へ?あっ、いえ……少し前に見慣れない年上の方と併走はしましたけど』

『じゃあ、それだ』

 

走れるくらい元気なら良かった、と言って彼はまた黙する。謎の時間。

 

『あのっ』

『で、お前は()()()()()

『え』

『お前は、何の為に走んだ?』

 

耐えられなくなって話しかけようとするも、先を制される。出て来た問いかけに、ボクは。

 

『ずっと、一緒にいたい相手がいます』

 

スッと出て来た素直な答えで返しました。

 

『強いボクを見せたらきっと、彼の心の中にそのボクが焼き付けられるんです』

 

ボクがそうであるように。

 

『それが続く限り……ボクとその相手は、一緒にいると。そう言えませんかね?』

『腐ってやがる*1、早過ぎたんだ』

『!?』

『幾ら何でも度が過ぎんだよ。参考に出来る域を超えてくるな』

 

聞いといて失礼な、とすら思う。でも何故か、レースに集中しないといけないのに何故か、彼との会話を欠かしちゃいけない気がして。

 

『じゃあ、貴方は何の為に走ってるんですか?』

 

逆に聞いてみれば、彼は一層不機嫌なオーラを放つ。でもボクは怯まない、そんな()()()()に臆する程ヤワじゃない。

こんなもの、サイレンススズカを見据え続けたクロに比べれば。

初めて競い合ったあの日、決して諦めなかったスペさんに比べれば。

迷いの混じった覇気なんて、恐るにはまるで足りはしない。

 

『……俺は走りたいんじゃねェ』

 

やがて根負けしたように、彼は本音を漏らしてくれた。

 

『走らなきゃいけねェんだ』

『義務ですか』

『へし折ってやらなきゃ気が済まねェんだ』

 

それは、憎悪。

これには流石に慄いてしまう。でもここに来て退いたりしたら、クロに合わせる顔が無い。

向き合おう。引き摺り出したからには、真正面から。

そしてその全てを飲み込んで、力に。

 

『あの野郎の言う事為す事に、ケチ付けてやらなきゃ、やってられねぇんだ』

『貴方の走りで、それが出来るんですか』

『知るか!走りでやられたんだから走りで返す以外無いだろ!?』

 

それを聞いてようやく分かった。彼は今、迷いの中にいるんだ。少し前のボクがそうだったように──いや、それより酷い。一度得た確信の信念を打ち崩されてる分、一層。

ボクは助けてあげられない。ボクより経験を積んできたからこそ陥っている坩堝に、どうやって飛び込めば良いんです?

 

……でも。

 

『じゃあ、見てて下さい』

『は?』

 

出来る事は、ある。

具体的には、短期的に()()()()()()()()()事ぐらいは、出来る筈。

 

『悩むのを忘れるぐらいの衝撃を』

『待て待て待て待て何だお前アイツみてェな事を急に』

『じゃあ、ちょっと身構えてて下さい。“ライバル”に戻る前の最後の親切ですよ』

『まてまて何だお前一方的な所までそっくr』

 

はい、ここまで。

皆さん。ちょっとここで、

 

 

 

『ボクのご馳走になってくれませんか?』

 

 

 

 


 

 

 

 

『──ぇ?』

 

素っ頓狂な声が出ちゃった。出さずにはいられなかった。一瞬、領域(あの世界)すら途絶えた。

……首を、食いちぎられたかと。

振り向かない。振り向いたら()()()。現に、ボクの後ろの奴らは振り向いて終わってる気配がする。

 

『うわ、うわ、うわ……!』

 

ここまでやるかい、グラス君。

 

 


 

 

後ろから見ていて、ただただ絶句した。

“範囲外”だった事に、心から安堵した。

 

『これが、貴方を最初にへし折った相手なのか……!』

 

クロ。

お前、どうやってコイツに勝ったんだ。

 

前のライバル達が、殆ど全員ペースを崩した。グラスが存在感を僅かな間放った、ただそれだけで。

 

『助かったんだ、ドン引きしてる暇は無いっ』

 

幸い、今のお陰で前の壁は崩れたんだ。()()()()()()()()()()()()()けど僥倖、ここから巻き直す。

……けど。

 

(どうやって、勝てば良いんだ?)

 

こんな。

まるで悪夢の中から飛び出したような。

天使の顔をした───

 

 


 

 

『怪物め!!』

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ブレイズ・オブ・プライド

          Lv.4

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クソッ、舐めていた!反射的に領域に入らなければ呑まれていたッ!!

 

『ちょ、え……え…!?』

『ミギャーッ!祟りか何かですかー?!』

 

ドーベルは凌げなかったか……エリザベス女王杯(先のレース)では私を超えて行ったというのに、苦手な牡馬に囲まれてしまってはどうしようも無かったようだな。*2

 

「マドバさん、アンタよく御せるな()()を…!?」

『ユタカ、もうやるしか無い!いけるな?!』

「勿論だ!」

 

一度踏み行ってしまった以上は引き返せない。何が後顧の憂いなしだ、そんな事を言っていた自分を蹴り飛ばしてやりたい。

 

『だが、勝負はここからだぞ……!』

 

長距離は本来適性外だが、最後のレースで栄光を見せるべく万全の準備を整えて来たのだ。スタミナは充分、理想からこそ乖離すれど、お前がやったのは有象無象の露払いにして有力馬への援護に他ならない。例えば、私のような。

さぁここからだ。どうやって私達に追い付く、グラスワンダー……!

 

 

 


 

 

 

さて、ここからどうするか。

プレッシャーでレースをかき乱した、それは良い。実際前が崩れて、通り道も出来上がっています。

ただそれは、他の強い方々にとっても良い影響を及ぼす。現にスカイ君や、あの牝馬の方(エアグルーヴ)は既に立て直してて、ウカウカしてたら突き放されてしまいそう。

 

『仕掛けましょうか』

「仕掛けよう」

 

鞍越しに伝わる“YES”を受けて踏み出そうとした、その時の事でした。

 

『……っ、く……!』

 

……スカイ君?

 

「あれは………」

 

………そうか。そうか!

見つけました、食らいつく喉笛!!

 

「よぅしまだだ!溜めろ!」

『分かりました!!』

 

標的を見据えたなら、制御も容易い。

あと数秒、いや明確に3秒。

2。

1。

 

──っ、

 

「『今っ!!』」

 

《さぁ最終コーナーで直線に向かう馬群、()()()()()を突っ切って!グラスワンダー上がって来たァ!》

 

『なッ……!!』

『クソッ、バレたかぁ!!!』

 

ええ、すぐに分かりましたよ。スカイ君、貴方が先ほどよろけたのは。

無理なタイミングでの領域(ほんき)と、私のプレッシャーで、隠すまで頭が回りませんでしたか?明からさまに荒れた内側を避けたの、丸分かりでしたよ。

 

でも、ボクは違う。

 

『クロが言ってくれたんです』

 

あの日、あの時。

 

『アリマを2連覇できるくらいだと、言ってくれたんです』

 

そんなボクが、荒れた地面如きで。

 

有馬記念(アリマキネン)の土の上で、立ち止まれる訳が無いでしょう──!!?』

 

突っ切れ、突っ込め、押し潰せ。

最短距離で、前にいるライバルを全員食い潰せ!その為の足、その為の走り!ボクの牙!!

 

「そうだ、グラスワンダー!!」

 

マドバさんの叫び。

それにボクの鼓動が、合わさって。

 

『マドバさん!』

「斬り裂け、全てを!!」

 

 

 

瞬間、花びらが咲いた。

 

舞い散る花弁が、風に乗って渦巻いて。

 

 

静かで、鮮やかな。

 

 

彼によって色付けられた思い出が、溢れ出るような。

 

でも、ここに甘んじるボクじゃないから。

だから、見てて。クロ。

もうボクは、貴方から与えて貰うだけの存在じゃない。

 

『次は、ボクが刻みつける番』

 

 

そうだ。

そうか、今分かった。あの時に、先輩──ラストアンサーさんにクロの走りを真似されても、焦らなかった理由が。

 

あんな風にわざとらしく()()されなくとも。

既に彼の爪痕は、ボクの中で花開いてるからだったんですね。

 

 

なればこそ。

今度は貴方に。

 

『………いざ』

 

 

その瞬間、響いた声は。

 

 

『いっけぇアメリぃぃぃぃっ!!』

 

最高で。

最大で。

最愛の。

 

『我が道をッッ!!!』

 

声援(エール)となって。

 

ボクの心を、研ぎ澄ませ。

 

その鋭い切っ先にて、世界を一閃してみせたのでした。

 

 

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精神一到 何事か成らざらん

          Lv.4

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《グラスワンダー先頭!グラスワンダー先頭!!戦士の覇道を揺るがすべく今、怪物が蘇る!!メジロブライト上がって来たがしかしっ!

グラスワンダーここに復活ッ!!

3歳牡馬頂点を競った馬は、4歳でも強かったッッ!!!

 

 

有馬記念【G1】 1998/12/27
着順馬番馬名タイム着差
グラスワンダー2:31.6 
10メジロブライト2:32.23
ステイゴールド 2:32.31/2
11セイウンスカイ2:32.51
エアグルーヴ2:32.61/2

 

 

 


 

 

オイ。

オイオイオイオイ!

 

何だこれは!どんなザマだ、どいつもこいつも俺自身も!?

 

全員揃って、アイツに喰われちまったじゃねェかよ!えェ?!あんな可愛い顔して牙隠し持ってた奴によォ!

 

いやしかし……あー!!笑いが止まらんな!

 

見た事あるか!あんなの初めてだ!!

あんな()()()()()走り、初めて見た!

俺も大概な自覚はあるけど、その俺が言うって相当だぞ?分かッてんのかよ“怪物”さんよォ!?

 

 

……はぁーあ。何から何まで、規格外過ぎてまるで参考にならねェ。して堪るか。

いやでも、あーあ。間違いなく、この走りはクロスクロウのそれとは対極にある。見本にしない出来ないなんて、甘えた事抜かしてる場合じゃなくなってきたか?

………冗談。後輩の真似っこなんて出来るかよ。

 

アイツの走りで、俺の迷いは驚きで吹っ飛んじまった。感謝してるよグラスワンダー、だからこそ真似しない。その疾走はお前の物で、俺の物じゃないから。

でも、充分過ぎる“ヒント”だ。

 

足掛かりになる。俺が求めてる物に近い。

サンキュー怪物。こんな事滅多に無いから、心して聞け。口には出さねェが。

 

壊れてくれるなよ。

先輩(ラストアンサー)からお墨付き貰ったその身体、大事にしなきゃキレるからな。人間なんかに使い潰されたら許さねェから。

自分を貫け、押し通せ。周りを不幸にしてでも幸せになってみせろ。

 

 

 

……さて、と。俺はどうするかなぁ………。

*1
色んな意味で

*2
フクンクス「オーイ!」




Q.ブライト「ほわぁ〜(なんで2着なのにこんなに影薄いのですか)?」
A.マジでごめん

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