また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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【Ep.54】母親!

『母さーん!』

『なんで……どうして…』

『俺だよー!クロだよーぅ!!』

『あの仔がここにいるの……!』

 

ちょっとー!受け入れてくれるにしろ拒絶するにしろ、言いたい事があるなら近くに寄ってくれないと聞こえないんですけどー!?

と全力で叫んでみても、聞こえているのかいないのか。母さんは俺のいる方向からいつも真反対側の柵に控え、チラチラと此方を見てくるのみ。

そんな関係がもう4日目である。進展、ゼロ!

 

「クロ坊、戻る時間だぞ〜」

「エクスプログラーは僕が引いてくるっす」

 

そんな折に厩務員コンビが来て、俺達を連れ帰るのも通例になって来た今日この頃。馬房も隣だからチャンスあるとはいえ、なぁ……。

柵から出て、連れて来られた母さんを見る。けどその瞬間、視線はプイと逸らされて。

……はぁ。

 

「クロ坊、もう良いんじゃないか?」

『…諦めたくないんだよ』

 

もう、間違えたくないんだよ。

 

 

 

という訳で、幾つか作戦を考えてみた。不肖クロスクロウ、知性には自信があるもので。

……いや前世的には自信が無いとヤバイんだけれども!無かったら今度こそ前世の存在意義が無くなっちまう!!

という訳で、そうなる前に作戦①!遂行!!

 

 

 

①お裾分けから始める井戸端会議

 

俺達は馬だ。当然、草食動物だ。

必然的に、食べ物も、その中での好きな物も植物性になる。ニンジン、バナナ、リンゴetc.。

今回、自分に宛てられたそれらを全部母さんにあげる事にした。

 

『母さーん、俺お腹いっぱいだから食べてくれぇ』

 

どうだっ、バケツいっぱいのこの匂い!香り!抗えまい!!

 

 

『……』

 

 

普通に抗われた件について。鼻先すら出して来ないとは恐れ入りました。

 

 

②不沈艦紀行

 

あ間違えた。紀行じゃなくて奇行だったわ。草。

ともかく、放牧中に隣の柵で目につく変な行為を繰り返す!これで無視出来る奴はいねぇ!!取り敢えず周囲に人間の目やカメラが無いか確認して……

 

まず二足歩行!元人間だし楽勝だぜ!

次に空中浮遊、ならぬ四足ジャンプ!!

クラウチングスタート!!!

逆立tあっ流石にこれは無理だ!!!!

変顔!!!!!*1

 

 

『うわ……』

 

 

引かれたァ!?

当たり前かぁ!(正気)

 

 

③死んだフリ

 

『Zzz…』

『……うん、寝てるだけ。良かった』

 

 

 

 

 

……ファッ!?やべ、普通にガチ寝してた!横になって目を閉じたら完全に睡眠モードに入っちまったでござる。

母さんは……うーん!離れてる!失敗!!

 

 

 

 

結果:全作戦失敗

 

『つ……詰んだ………!?』

 

やべぇ。見事に全部ダメだった。

というか特に最後が失敗だったのキツい。えっ俺死んでも気にされないの?そんなレベルで母さんの視界に入れない感じ?今も嫌われてる、つーか憎まれてるレベル?

 

『流石にこのレベルとはなぁ』

「おっ、また走ってんのか」

「飽きないなぁ」

 

まぁ、ここで気を抜いて力落としたらそれこそヤバいしな。馬の身でも、掛けられてる期待がこれまでとは段違いになってるのは分かるし。

休み中も、いや休み中だからこそ一層精進しとかなきゃ。未来あるスペ達と違って、俺のただでさえ緩い成長なんかいつ止まるか分かんねぇんだから。

 

「走るのは良いけど、明日はもう栗東だからな。ちゃんと準備しとかないと」

「うう……もうお別れかぁ」

「競馬場行けばいつでも会えるさ、なんなら海外も俺たちで一緒に行くか?」

「有り寄りの有り」

「マジかお前」

 

もうそんな時期か。確かにここに来て割と経つもんな、そろそろ戻らないと。母さんとは結局、何一つ会話出来なかったけど。

 

『行くかぁ〜〜!』

「あっ伸びした」

「気合い入れたのかねぇ」

 

ウジウジは終わりだ!とことん勝ち切って、また帰って来れば良い。何も今生の別れって訳じゃ……いやその可能性も存分にあるのか……でも最悪マンボにコネクション取って貰えば良いんだから*2

 

『よーし頑張るぞー!!』

 

 

 


 

 

 

この場所は、私の故郷だった。

家だった。

そして何より、壁だった。

母の胎から生まれてから、ここ以外の景色をほとんど知らない。例外と言えば、たった一度だけ連れ出されて、真っ黒な牡馬と交わったその時だけ。

それから月が10回程、同じ形になった時。

 

あの仔が生まれた。

母親としての立ち振る舞いなんて、殆ど見た事無い。お母さんは私を産んで暫くして、動かなくなってしまったから。

それでも、覚えている事はある。初めて光を目にした時、『立ちなさい』と示してくれた声を。気配を。

己の足で立つ事が生きる事だと教え、寄り添ってくれた影を。

日に日に大きくなる自分の腹を見て、私もそう在りたいと。その願いは徐々に強まっていき。

 

そして、迎えた当日。

 

痛かった。想像もしてなかった。

お母さんも動けなくなる筈だと、心から共感した。そして、私もそうなるのではと恐ろしかった。

その果てに、あの仔が私の胎から、私がそうだったように生まれ落ちて。

お母さんと同じように、励ます言葉を掛けてあげようと。ずっと昔から憧れてきたそれを、今する時だと思った。

 

 

『うぇえ……ああ、どうも。こんちには…で良いですか?』

 

──違う。

反射的に、そう感じた。何が、かは分からなかった。

 

『俺の母さん、ですよね。ちょっと待ってて下さい、今立ちますから』

 

何だ。

何なんだ、この仔は。

本当に、私の子供か?

 

『今度こそ、孝行するから』

 

そもそも。

この仔は、()()()()

 

 

 

気が付くと、蹴っていた。

 

生まれたばかりの、まだ立つのにも必死な仔供を蹴っていた。

我が仔を、蹴っていた。

 

取り返しのつかない事をしたと気付いたのは、足を振り切ったその瞬間だった。

蹄を掠めて一筋の血を頬から流し、呆然と此方を見るあの仔の顔。今でも忘れられない。私が母親である権利を失った瞬間だから。

 

以来、ずっと。

あの仔の顔を見られない。

どんな表情で私を見ているのか、知るのが怖い。

憎しみだろうか。

恐怖だろうか。

あの日の痛みを訴えるだろうか。

怖い、怖い、怖い。

 

そうしている内に、あの仔は旅立って。

私は、最低にも安心して。

月日が流れた。色んな物事が移り変わっていった。

 

食べ物をくれるニンゲン達が、ある日を境に別の個体にすり替わった。

牧場(いえ)が、心なしか綺麗になった。

他の馬達が、少しずつ元気になっていった。

そして、私には。

 

『……お久しぶりです』

『あ?ああ、いつぞやの。芦毛じゃなかったら忘れてたよ』

 

また、あの黒い馬さんと交わる機会。

 

『後悔があるんなら、果たすまで生きるしか無いだろ』

『その権利が無かったとしたら…?』

『権利?誰が許さないんだ?俺は故郷の奴らを見返すつもりで子種を撒き散らしてるけど、誰かの許可なんて貰った覚え無いぞ』

 

そう言ってくれた彼に、励まされて。それでやっと、前を向けたと思ったのに。

今度は間違うまいと、決意したのに。

 

『母さん…!』

 

私は、また間違うのか。

帰ってきたあの仔は、見違えるようだった。鍛え上げられた肉体が薄い肌を通して伝わり、黒色から生え変わった毛が銀色に輝きその脈動を表していた。強い牡がそこにいた。

誇らしかった。けど恐ろしかった。

もし彼が怒れば、抗う術が無かったから。そもそも、誇る権利すらありはしない。

 

だから、また避けた。同じ過ちを繰り返した。

 

……分からない。

何であなたは、こんな私に構うの。

叶うならいっそ、見捨てて欲しかった。自分を捨てた母親に関心なんて示さないで欲しかった。あなたが向けられる感情がどこまでも謎で、理解出来ないのよ。

なんでニンジンを分けてくれるの?

なんで気を引こうと必死なの?

 

(なんで?なんで?なんで?)

 

疑問だけが脳裏に渦巻き、そして恐怖への後押し。

あなたと共には、いられない。

やめて。話しかけてこないで。

私はあなたを捨てたのよ。

嫌って欲しい。

憎まれたくない。

もう無関係の筈なのに

今度こそ、母として。

 

……もう、グチャグチャ。

 

 

そんな風に悩んでいた、ある日。

 

 

『んじゃ、母さん。行ってくるわ』

 

あの仔はそう言って、ニンゲンに引かれて馬房から出た。気配が、いつもと違った。

……これが、最後だと。勘が告げていた。

 

『──待って』

 

思わず顔を出し、身を乗り出して……やっと絞り出した言葉がそれ。でもあの仔、いや彼はそれでも立ち止まって。

驚きながら、でも嬉しそうにしてくれながら振り返ってくれた。

言葉を待ってくれている。早く何か言わないと。母失格でも、出来る事はある筈だから。何を?もう彼は自立しているというのに。

 

でも。

 

 

でも。

 

(それでも……っ)

 

 

『悔いを、残さないで』

 

やっと伝えられたのは、それだけだった。何もかも中途半端、励ます事も応援する事も出来ず、託したのは温かみの無い叱咤。

お母さんみたいには、結局なれなかった。

 

『……!』

 

それでも、あの仔は。

 

『分かった、分かったよ!やり遂げてみせるから、また戻ってくるから見てて!!』

 

それはもう、本当に嬉しそうに。

その笑顔を見て、安らいで……一層深く思い知った。あの仔から、この笑顔を私は奪い続けていたのだと。

ならばせめて、これからは。

 

『分かったわ。諦めないあなたを、失わないようにね』

『うん!』

 

結局私は、あなたの母になれなかった。今度こそ去りゆく背中を、ただ見送る事しか出来なかった。

 

 

けれど、もし“次”があるなら。

 

『神様──』

 

ニンゲン達が祈りを捧げる、壁の天井近くの飾り(神棚)。そこに私も、同じように目を瞑って。

 

『私に、勇気を下さい』

 

次にあの仔が帰って来た時、親として受け止められるだけの勇気を。

母親としての、やり直しを。

*1
何を隠そう、全てゴルシのパクリである

*2
アーッ!サスガ(流石)タヨ()()ギ!!




申し遅れましたが、2回目のサンデー×プログラー配合は不受胎となりました。関係者一同ショボン

拙作におけるウマ娘世界では、芦毛のウマ娘は在学中に髪色が変わってく設定(クロもスカイもオグリも最初は銀髪じゃない)ですけれども

  • 設定そのままでおk
  • 必要無くね?最初から銀髪で頼むわ
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