また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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暑い日が続きますので、皆さん水分・塩分補給を忘れずに
スタークは塩飴がマイトレンドとなっております


【Ep.58】米騎!

『よ〜〜〜し行こうぜ生沿ぃ』

「ガッテン承知!」

 

1999年1月24日!って生沿に聞いたけど、アメリカンジョッキークラブカッ……いや長いなオイ。AJCCでいっか、うん。

確かGⅡだっけ?

 

「クロスクロウ〜!」

「こっち向いた!!」

  「かわいい〜〜」

 「ジャパンCに勝って以来、朝日杯から加速したクロスクロウの人気は最早当事者達の手を離れて暴走状態とすら言えるレベルに達した」

「どうした急に」

「ネットサイトが発端となった市井への血統に関する情報普及、乗っかったメディア、馬主である宮崎氏の娘さんとの逸話、娘さん本人の可愛さ。それらが複合してからのワールドレコード大勝利……スピードシンボリが大敗した凱旋門賞初挑戦、そのリベンジを今こそ。と、沸き立っている」

「おっそうだな」

「それに背を押される形で決められた海外遠征、今日はその前の国内最終出走ときた。ファンは皆、クロスの前祝いをしたいと躍起になってこのザマという話だ」

    「うおおおおお!それと同時にスペシャルウィークとの最後の直接対決でもある!関係者によれば年末には国内復帰する予定だそうだが、これは見逃せない!熱い捲りを記事にしてやるからなァァァァ!!?」

「……コイツ、例のブログ?サイトの管理人じゃね?」

「流石に考えすぎだろう」

 

『GⅡなのにこれかぁ』

「これだぁ」

 

前の毎日王冠の時も大概だったけど、正直桁違いと言うか。こうなると嫌でも自分の注目度合いを自覚せざるを得ない。

 

「今更緊張してるとか、そんな事は無いよな?……ごめん、虚勢張った。俺はめっちゃ緊張してる」

『ええんやで。俺も内心ビクビクだし』

 

軽口を叩き合ってはみるものの、はてさてどうしたものか。気合い入れて来たつもりだけど、いよいよ以て柔な走りは出来んぞコレ。

なんせ、今回は。

 

『クロ、負けませんよ』

 

スペ。

お前と走るのは、これで暫くは最後になっちまうんだから。

 

『イレ込むのだけはやめてくれよな。安心して海外行けなくなっちまう』

『そっちこそ、空回りして掛かりでもしたら死ぬまで揶揄いますから』

『そりゃキツいなぁ』

 

不可能って事に目を瞑ればよォーッ。って、なんかこれ使い方違うな。やめとこ*1

ところで今回、スペの鞍上は勇鷹さんではなく外国の人(Oさん)。なんでも生沿曰く、勇の字さんはアメリカであのシーキングザパールと一緒に遠征しているらしく、なんとか中継でこのレースを見てくれてるんだとさ。

 

『大変そうだなぁ』

「大変そうっすよ」

『大変そうだけど、まず自分達の事に集中するべきなんじゃ?』

 

っとと、そうだったそうだった。まずは俺達がちゃんとしないとな。

 

『本当ですよ。安心して海外行けないってさっき言いましたけど、その調子じゃこっちが安心して送り出せません』

『言ってくれるじゃん?』

 

ぐぬぬぬぬ、流石に聞き捨てならねぇなあ!こりゃ思い知らせてやる必要がありそうだ、このレースで。実力で。

……だがまぁ、しかしだ。

 

『解決した、と見て良いか』

『…さぁ、どうなんですかね』

 

俺の帰省以来、悪化していたスペのメンタルはいつの間にか回復していた。っぽい。

不確かな物言いになるのは、回復の度合いが量れないのといつ吹っ切れたのか全く分からなかったのが重なっているからだ。隣の馬房でよく調教と共にするってのに、これじゃ仲間として失格ってモンだぜちくせう。グラスが相談に乗ってくれたとは聞いたけど、やっぱアイツが何とかしてくれたのかな?

 

『神様仏様グラス様、だなぁ』

『天使でしょう?』

『それだ!くそッ、またアイツの理解度で先行かれた』

『また変な事で悔しがってる…』

 

はー、と大きく溜息を吐くスペ。それに俺が反論しようとするその前に、続け様に。

 

『多分、クロが思ってるような状態だったじゃないですよ。今の僕』

『へ?』

『でも、うまく行けば……今回の走りで見せられると思います』

 

コイツは、こう告げた。

 

『僕の、“答え(走り)”を』

 

 

『……へぇ』

 

なんというか、もう何度目かって話なんだがさ。

一回り二回り……どころじゃねぇ。またスペが、俺の把握してる範疇を超えた。

 

『全く黄金世代(お前ら)って奴らは…』

『僕達?』

『独り言だよ』

 

あっという間に進化しやがる。結構頻繁に会ってた筈なのにもう精神を完成させて威風堂々としたキング、毎日王冠から飛躍的に実力を上げやがったエル、怒りを力にワールドレコード叩き出したスカイに……怪我にも屈辱にも折れず、グランプリを掴み取ったグラス。

そしてスペ、お前について言えばダービーに続き2()()()だ。

 

(俺を負かしたあの時と、同じ何かを感じた)

 

口には出さないが。いや、ホントさ……

……怖ぇわ。

 

でもな。

 

『どいつもコイツも生意気だなぁ!』

 

勇気を奮い立たせる。今目の前にいるのはスペで、弟のように思っている仲間で、というか心理的にはマジで兄弟のつもりで接して過ごして来た親友で。

 

でも今この場では最高のライバル!その目の前で、弱音なんて吐けるかよ!?

もう時間はすぐそこまで迫ってる。さぁ見せてみな、お前の答えって奴をさぁ…!

 

『来いよスペ。御託も何もかも捨てて掛かってこい、走りだけで以て()り合おうや!!』

『上等!連敗はもうウンザリなんだから!』

 

 


 

 

やっぱりクロは凄い。あのジャパンC以来の本番(レース)を前にした顔合わせで、改めてそう思った。

 

『来いよスペ。御託も何もかも捨てて掛かってこい、走りだけで以て捻り潰してやる!!』

 

溢れんばかりの期待を込められた威圧に、全身の毛が逆立つ。分かっているつもりでも、何度目の当たりにしても、こうやって向かい合う度に思い知らされるようだった。

 

(クロスクロウは、僕の親友は──!)

 

紛れも無く、日本最強(いちばん)の馬なんだって。

僕の目指す座に就く、最大の壁で……最高のライバル。

兄のように慕っていた。本当に血を分けた兄弟のように*2想っていた。そんな大好きな、どこまでも恐ろしく誇らしい相手。

 

 

そんな風を前にして、僕はといえば。

少し前の、グラスからの伝言を思い出していた。

 

 

 

 

『ニンゲンは、ボク達と一緒に走ってくれますよね』

 

その言葉に、何か引っかかってピンと耳が立つ。マンボの口越しに放たれたその言葉に、直感で()()()を感じ取って。

そうだ、僕が走る時はいつだって誰かニンゲンが跨っていた。それが、それが、えっと……

 

と、まごついている間に続けられる言葉。

 

『ニンゲンがボク達を危険に晒しているというのは……否定し難い事実だと思います。でもそれだけじゃなくて、Well(ええと)…』

 

グラス自身も言葉選びに迷うようで、でも言いたい事はヒシヒシと伝わって来て。感じ取れて。

そうだ。僕達は危険な場所に駆り出されて、でもそれは僕達だけじゃない。

勇鷹さん達も、一緒に。

 

『一緒に危険に身を投じてる…!』

()()()()()()()()()と、思うんです』

 

ニンゲンの身体は、僕達よりも遥かに小さくて脆い。そんな彼らが、僕らの疾走に乗っかって、万一落ちればどうなるか。

僕達が転んで投げ出されれば、どうなるか?

 

『タダでは済まない死地。そこに、ボク達と違って彼らは、恐らく()()()()挑んでいます』

『………っ』

『その覚悟は少なくとも……“尊敬”に値するのでは、ないでしょうか?』

 

──ああ。そうか。

そうなんだ。

グラスは、そう思うんだ。そっか。

 

『マンボ、最後の伝言をお願い』

『アーッ?オーケー』

 

ありがとう。君の誇りのお陰で、僕にも道が見えた。

 

『僕は、尊敬はしない』

 

そんな()()()()()()行動も心持ちも、まだ出来ないから。何より、そんな堅苦しい関係は性に合ってない。

 

『代わりに僕は、ニンゲンを()()に見る』

 

上でも、下でもない。

同じ死線に臨む、命を共にする“仲間”として。

 

僕は、信頼する事にした。

背に乗るニンゲンの、その覚悟の重みを。

 

 

 

 

『上等!連敗はもうウンザリなんだから!』

 

その決意を胸に、クロに啖呵を切る。それを聞いて、彼は満足そうに微笑んで踵を返した。

背が遠のく。でも、必ず。いつかなんて言わない、今日ここで追い付いてみせる。

 

「Faisons de notre mieux, Special Week.」

 

上に乗ってくれている見慣れないニンゲンさん。あなたはユタカさんじゃないけれど、同じように覚悟してここに来ている筈。

だから。

 

『僕の背中、預けますよ』

 

あなたが命を、僕に預けるように。

さぁ、決戦だ……!

 

 

 

 


 

 

 

 

それは、次の出番を待つ者達の他愛無い立ち話だった。

 

『んーと。クロスクロウってどいつの事だ?』

『は?ああ、アイツが昔言ってた奴の事か』

『んだんだ。エアグルーヴが破られたって噂を聞いて思い出して以来、なんか気になっちまって』

 

一頭が馬房から首を捻り、辺りを見回し。しかし該当しそうな顔はそこに無く、暫くしてから諦めて顔を引っ込める。

 

『で、何で今探してんの?ここに来ているとは限らないぞ』

『や、来てるらしいぞ。ランバートの奴が《アイツら義兄弟は洒落にならんのです。競わされるこっちの身にもなって欲しい》ってピリついてた』

『マジか……そういやアイツ、ダービーで酷い目にあったって言ってたな』

『そうそうそれそれ』

『でも、ランバートはもう出てるだろ?俺達はその次のレースだから大丈夫だろ』

『じゃ大丈夫かぁ』

『大丈夫だぁ』

 

それで終わり。何か起きるでもなく、何か変わる訳でもなく。

 

『カルマの奴、元気にしてっかなぁ』

 

ただいたずらに、時を過ごしただけであった。

*1
手遅れ

*2
SS「分けてるぞー」

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