ブライトも持ってないので、キャラの解釈違いがあっても体調の所為って事で許してちょ♪(死語)
【Ep.62】動揺!
パクパク、モリモリ。
モグモグ、ゴクゴク。
「よく食うなぁマジで」
キュームインさんが呆れてる気配がするけど、無視無視。今僕はしっかり栄養つけなきゃいけないから。
その為にも、ご飯ご飯!メキメキ、ムシャムシャ!!
「それ以上食ったら破裂するぞ?ホラ、ニンジンあげるから今回はここまで」
うわぁい、いただきまぁす!ニンジンはやっぱり別腹、本腹もまだまだいけるけどそれでも別腹。
パクパク、ポリポリ。うん、この甘みが堪んない!
『ごちそうさまでしたー!おかわりー!!*1』
「終わりだぞー」
『えぇ〜〜〜〜〜!?』
ケチ!ビンボー!もっとくれたって良いじゃんか〜!!
僕はいっぱい食べて、いっぱい蓄えて、いっぱい強くなるんだ!それが、クロから願いを託された僕のやるべき事なんだから!
うおおおお発想の転換だ!食べるのがダメなら走るぞ!という訳で出して!!
「ダメダメ、太り過ぎになったらどうすんだ。臼井さんもお前の適正体重を見定めようと四苦八苦してんだから、厳しくしなきゃいけないこっちの身にもなってくれ」
『なんだか分かんないけど、ダメかぁ。残念』
うぅーん、クロだったら生沿さんに頼んでもっと簡単にご飯を出して貰えたし外にも行かせて貰えたんだろうけど*2。やっぱ彼のようにはいかないや。
「まったく、騒がしいクロがいなくなったと思ったら今度はお前がそんなに元気になるとは。あんまり暴れないでくれよ、次のレースも近いんだからな?」
『……!』
やっぱり、そうか。詳しい事までは分からないけれど、最近のニンゲン達の様子から察してはいた。
ピリピリした気配。
追い込むよりも、調子を整える事に重点を置いた
(クロがいなくなってから、初めてのレース……!)
よーし、見せてやるよ!
クロがそばに居なくたって、僕はやれるって事を!!
びっくりしました。
去年も挑んだレースだというのは、感覚で分かっていました。ただ違うのは、年下の方だったあの時と違い、今回の
追いかけられる側の重圧。充分、覚悟していたつもりでした。
『先輩、よろしくお願いします!』
それを踏まえた上で、目の前にいる後輩君へ下す評価。それが、“凄くてびっくりした”。
確かに凄い存在感です。僕達の世代は去年はここまでじゃなかったし、なんなら今でも凌がれるくらい。でも、あのグラスワンダーくん程じゃありません。
そう、僕は思っていました。
『ええ。此方こそよろしくお願いしますね』
でも自覚出来るぐらい能天気な僕と違い、周りの馬はざわめいて近寄って来れない。きっと面と向かって話せるのは、この場で僕だけなんでしょう。
『うおー!クロの分までかっ飛ばすぞぉー!!』
クロ。ああそうですか、クロスクロウ。彼のその舎弟でしたか。
あのサイレンススズカ君に追い付きかけ、救ったという。
あのエアグルーヴさんを置き去りにしたという。
あのステイゴールド君を論破した、ともいう。*3
そんな彼がこのレースに出ていたら、どうなっていたのでしょうか。
『スペシャルウィーク君』
『何ですか?』
否。
そう言われない為に、思わせない為に、僕はここにいるんです。
『舐めないで下さいね?』
『………!』
そして、レースが始まります。
鉄格子が開き、蹴り出した視界。地面の状態は良くない、ペースは遅くなりそうです。
僕は差しだから後方に控えて、でもペースも考えて終盤出遅れない為にも少しだけ前──要するに中団に紛れて。
すると、スペシャル君の姿が右斜め前に見えました。
(先行策ですかぁ……)
良かったのか悪かったのか。少なくとも、差し同士でポジション争いする懸念は無い状態。
突出した2頭を追うスペシャル君のスタミナがどこまで保つか、そして僕は終盤までどれだけ足を残せるかの勝負になります。
と、ここで気付きました。
(……集中できてない?)
心無しか、否か。スペシャル君の目が、忙しなく動いてる事。
もしかすれと、ややもすれば?
『フッ───!!』
物は試し。僕なりに、威圧を掛けてみる事にしました。するとどうなったか。
『うわっ!?』
(やりました!)
しめた!案の定動揺しました、これで立て直すまでに相応の持久力が奪える筈です!
最終コーナーが近づく。仕掛けるのはもうすぐ、もうすぐ、もうちょっと……
………!
『ここッ……!』
『フンッッガァァーー!!』
《スペシャルウィークがグーンと押し上げました!二番手から先頭を窺い、そして3コーナーからトップへ!》
むっ、スペシャル君もここで行きますか!さぁて、となるとここからどこまで伸ばせるかの勝負。
いざ……!
《そしてメジロブライトもズーッと上がって来て、三番手から二番手!先頭を追う形となりました》
『なっ、がい……』
『むぅ〜り〜!!』
後続がどんどん落ちていきます。残るは僕達二頭、僕達での一騎打ち!
どうですか、スペシャルウィーク君。前で無理した君と後ろで溜めた僕なら、有利がどちらにあるかは明白ですよ。
今、トドメを───
『もう、いっ、ちょォ!!』
『なっ……!?』
嘘。何でまだ伸びるんですか?
領域?いや、もちろんそれもあるんでしょうけど、それでもこれは……!!
『貴方のスタミナは底無しですか……!』
そんな、こんなの。
不味い。負ける。
《スペシャルウィーク頑張った!スペシャルウィーク頑張った!!》
勝つつもりで来たのに。
期待に応えるつもりで来たのに。
舐めていました。
《メジロブライト追い詰めるも今、スペシャルウィーク先頭でゴールインっ!》
舐めた結果が、この有様。
完全敗北です。悔しい。悔しい。悔しい!
『スペシャルウィーク君……!』
なんとか減速して、未だ前を走る背中を視界に捉えました。なんて事でしょう。僕が抱いてた“強者の自負”は、彼によって今“傲慢な油断”だったと証明されてしまいました。
でもこれは……幾ら何でもおかしいでしょう、あの持久力!?
『この世代は、揃いも揃って』
グラス君だけではなく、スペシャル君まで。
オマケに、セイウンスカイ君とやらは君に2回勝ったというじゃないですか。何なんですか。何なんですかそのバカげた強さは。
だがしかし、だからこそ。
(負けるものですか…!)
心まで折れる訳にはいきません。そうだ、次こそは。
次に
『また会う時こそ、本当の勝負ですよ!』
負け惜しみと言われても仕方のないような、そんなセリフを吐き捨てした。笑われても良い、その覚悟で。
……が。それを受けた当馬は。
『え。あ、はい……こちらこそ、そのつもりです』
あれ?
『……勝ったんですよね?』
『はい、勝ちました』
『何で喜んでないんです?』
『……ちょっと、反省点が多くて』
『………それじゃ負けたこっちは立つ瀬が無いですね』
『あっすみません!ば、ばんざーい!!わーい勝ったー!』
『いやそういう意味じゃなくて』
勝っても浮かれずに自己分析とは、見上げた冷静さですねぇ……と思っただけなんですけれど。でも何にせよ、僕の思う事は変わりません。
『今回は貴方の勝利です。完全にやられました、お見事でした』
『ど、どうも……』
『ですが、今度はそうはいきません。もっと長い舞台で、お待ちしてますから』
『……!』
ペコリ。僕からの挑戦を受けると、ニンゲン同士がよくやっているように、スペシャル君は頭を下げて踵を返した。なんだか、不思議な仔だったなぁ。
(意気揚々、覇気もあるのに重圧を受けたら簡単に崩れました。あべこべ……)
彼の芯は、どこにあるんでしょうか?
『勝っても素直に喜ばないし、ギャップぅ……ですかねぇ』
『お前、それ勝った時の自分を見てから言えるか?』
『え?何でしょうかシルク君』
『何って、去年は素直に喜ばないどころか1番になった事に気付いてもなかっただろ』
『ほわぁ〜』
『あっ、誤魔化しやがった!前年2着の俺に対する嫌味か!!』
──こんなんじゃ、ダメだ……!
Ep.59、「わやかわ☆マリンダイヴ」のレベルを3から1に修正しました
タイキシャトル、どうか安らかに。その最期が羊毛のような温もりの中にあった事を祈っています