また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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いやぁ……グランドライブすこなんだ


【Ep.64】恐怖!

ユタカさんが私に乗る。それだけで気分が高揚した。

あの頃みたいに。

 

「今日もよろしくね、スズカ」

 

分かる。ユタカさんの言いたい事が分かる。あの頃みたいに。

嬉しい。

 

「僕もだよ。さぁ、焦らず行こう」

 

そう咎められても、貴方を乗せた私は止まらない。前へ前へと、体が求める。

ああ、これもあの頃と同じだ。

 

「……始めるか」

『!!』

 

少し離れた場所に立ってるニンゲンさんへ、ユタカさんが合図した気配。いつも通りの、スタートの合図。

駆け出した。エアグルーヴと競った、宝塚記念(あのレース)でやったみたいに。

 

風を切る。視界を流れていく事象が徐々に、線になって後ろに流れていく。加速していく。

ウッドチップを踏み締める感覚が、ひたすらに心地いい。

 

(──もう少し)

 

あと、もう少し。

 

(そうだ、もう少しだスズカ)

 

そうだよ。ユタカさん。

 

(あと、一歩)

 

それで、また辿り着けるんだ。

恋焦がれたあの世界に。

ずっと夢見たあの領域に。

 

(またユタカさんと、入れるんだ……!)

 

 

 

《さあ期待に応えて拓勇鷹とサイレンススズカ早くも先頭!》

 

そう思うと、一層足に力が入った。これだ、これだよこの感覚!これを待ってた!

朝焼けの光が大地を照らす!これは幻覚?それとも現実?どっちでも構わない!!

 

《早くも9馬身程の差をつけて、サイレンススズカと拓勇鷹が行く!これだけ引いても後ろが見えない!?》

(いける!)

(いけっ───!!)

 

聞こえる、あの日のニンゲンの声が。歓声が!

あの日の続きを、今!!

 

《ここでクロスクロウスパートだ、上がって来た、まだ半分も過ぎてないぞ!》

 

クロスクロウ君との、あの走りを───

 

《56秒台!56秒台です、これは伝説的なタイムだサイレンススズカッ───


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボギャッ

 

 

 

 

 

 


 

 

あ。

 

あ、ぁ。

 

『ぅあ、あっ……!!』

 

いや、ゃ、やだ!!痛いのいや!やめて!もうやめて!!!

ユタカさん、どこ!どこ!?怖いよ、寂しいよ!置いてかないで!!

 

「スズカっ、僕はここだ!」

 

ユタカさん!ユタカさぁん!!うわぁぁぁぁっ……!

 

「ここに、いるから………っ!」

 

ああ、ぁ……は、ぁ、あっ…!

ユタカさん、いる。私の上に、いる。良かった、良かった、良かったぁ……!!

たづな、引かれた。止まらなきゃ。もう今日はおしまいだ。

左脚、ある?あるよね?ある、あった!

 

『はぁ、はぁ、はぁ』

 

やっとの思いで止まる。私の足には怪我なんて無く、健康体そのもの。それで間違いない。

その筈なのに。

 

「ごめんな。ごめんな、スズカ。また無理させてしまった」

 

ユタカさんの想いが分からなくなってる。また逆戻りだ。

振り出しに、戻された。

 

「勇鷹君、無事か!サイレンススズカは!?」

「大丈夫です!しかし、すみません。今回も駄目でした」

「責める訳が無いだろう。元より分の悪い挑戦である事は承知の上だ」

 

さっきユタカさんが合図してたニンゲンさんが駆け寄ってきた。彼らが何を話してるのか、知る由も私にはない。自分の事なのに、どこまでも無力感が募る。

私が走れさえすれば、それできっと全て解決するのに。

 

「しかし……着実にマシにはなってきてるんだがなぁ」

「スパートを掛けようとすると、あの日の痛みをフラッシュバックしてしまうようです。人馬一体もそこで途切れてしまって……」

「道は遠いな」

 

足が竦む。あの領域(せかい)に入ろうとした瞬間の絶望を、身体が忘れてくれない。

それさえ無ければ、それさえ無くなってくれれば良いのに……!

 

「ごめんなぁ、スズカ。本当にお前を想うのなら安全に種牡馬入りさせるべきなのに、俺は」

「俺達がそれを選ばず、君は選べなかった。それが全てだろう、勇鷹君」

「分かってるんです。だからこそ、彼に夢を見た僕達には……」

 

謝らないで。申し訳なく思わないで。お願いだから。私はまだ走りたいんだから。

その一心で、降りたユタカさんに鼻を擦り寄せる。お願いだから、そんな顔をしないで。

 

 

 

どうする。どうすれば良い。

また走る為にはどうすれば良い?

 

『クロスクロウ君……!』

 

君なら、どうする。私ですら救えた君なら、すぐにでも走り出せる?

また走りたいんだ、またあの世界に行きたいんだ、またユタカさんと入りたいんだ。

また、あの景色を見たいんだ。

帰り着いた馬房で、独り左回りしながら思い耽るしか出来ない。ここの所ずぅっと、同じ事の繰り返ししか出来ていない。もう秋天(あのレース)から、月が何回も同じ形になったというのに。

私の心は、痛みへの恐怖に囚われたまま。こんな情けない姿じゃ、エアグルーヴに顔向けなんて……

 

 

そう嘆いた、その時だった。

 

『エーッ。アナタ、クリゲノセンパイ?』

『!?』

 

窓から、声。見れば1羽の鳥。

今のって、もしかして君が……?

 

『私は見ての通り栗毛だけれど……栗毛の馬なんていっぱいいるよ』

『デモ、ユタカガノッテタノ、ミタ!タブン、アナタノコト!』

 

ユタカさんと私の関係を知ってる?言っちゃ悪いけど、何で鳥がそんな事を。

混乱している内に、追撃するように彼(彼女?)は告げた。

 

『スp……クロカゲクン、サガシテタ!デンゴン、アル!!』

 

……?

クロカゲクン?

くろかげ、くん?

 

──えっ。

 

『黒鹿毛君を知ってるの!?』

『エーッ、ウン!クリゲノセンパイ、アイタガッテタ!!』

 

黒鹿毛君。ユタカさんを通じて出会った仲間、でも僕が領域に入れなくなってから会えてなかった。

そんな彼とまた会えるかも知れない機会、逃す訳にはいかない。

 

『教えて!お願い!!』

『エーッ、マッテ!デンゴン、アルッテバ!』

 

デンゴン?ああ、もしかして伝言って事?

それはごめんなさい、焦り過ぎた。

 

『聞くよ。言って』

『エー、リョーカイ。クロカゲクンハ……』

 

そうして始まる、久方振りの交流。

孤独感と無力感に打ちひしがれた私にとって、それは正に救いで。

 

それと同時に、色んな事に対する転機となっていく。

 

 

 


 

 

 

黒鹿毛

お久しぶりです!お元気ですか?

最近、夢でも走りでも会えてなくて心配してたんですが、この伝言を聞いてるって事はシーラちゃんが見つけてくれたって事なので安心しました!

もし、シーラちゃんを介した伝言に気が向かなかったら言ってください

 

栗毛

久しぶりだね、黒鹿毛君。私は元……うん、元気だよ。急に話せなくなってごめんね

この鳥、シーラちゃんって言うんだ。彼に伝言してもらう事に異論は無いよ、私もまた君と言葉を交わしたかったから

 

黒鹿毛

本当ですか!良かったぁ……

……早速ですが、実は教えて欲しい事があって。良いでしょうか?

 

栗毛

良いよ。私も君に話したい事あるし、まずはそっちからどうぞ。

 

黒鹿毛

ありがとうございます!では───

 

 

───栗毛さんは……恐怖を、どうやって飲み込んだんですか?

 

 


 

 

恐怖?飲み込んだ?

私が、いつ?

 

『エーッ、クリゲサン?ダイジョブ?』

『……っ!』

 

シーラちゃんの声で我に返る。そうだ。分からないなら聞き直さなきゃ。

 

 


 

 

栗毛

恐怖を乗り越えてなんてないけれど。黒鹿毛君は、なんで乗り越えてると思ったの?

 

黒鹿毛

え?だって先輩ですし、あんな凄い逃げが出来るし、追われる事なんて屁でもないんじゃないかって……もし違ったなら、その、すみませんでした

 

 


 

 

───いや、その通りだ。

まだ黒鹿毛君に偉そうに物を言ってたあの時、私に恐怖なんて無かった。クロ君に追われたのだって、怖いというよりスリルで楽しんでいた。

 

そうか。黒鹿毛君は怖がってるのか。追う側から追われる側になったんだろう、だから。

その気持ちを、私に聞きに来たんだ。

だったら、せめて。

 

 


 

 

栗毛

黒鹿毛君、会い方は覚えてるよね?

私達の片方がユタカさんと走って、片方が寝ている時。

 

黒鹿毛

はい!そうしたら、夢で会えるんですよね

 

栗毛

次にユタカさんに乗ってもらう時を、待ってて。もしくは私が乗られる時を。

 

 

 

何を伝えられるかは分からない。

でも、今の私の姿に、走りに、何か答えがあるなら。ヒントになれるなら。

見せてみようと、そう思ったのだった。




あとライトハローさんに……その…ふふっ
下品なのでこれ以上はやめておきますね
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