また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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そろそろクロが見たいと仰っていた読者の方、そしてそれに共感した皆様
大変申し訳ありませんが、当列車は宝塚編が終わるまでずっと国内のスペ視点の予定となっております


【Ep.65】懐抱!

その時は、拍子抜けな程にすぐに来た。

 

『春天が目前に迫っとる。前走の阪神大賞典こそ獲ったとはいえ実質次こそが本番や、気ぃ入れていくで』

「ええ。セイウンスカイへのリベンジでもありますからね」

「菊花賞では苦い汁飲まされたからなぁ」

 

ユタカさんが、僕に乗る。向かうはいつものコース、ウッドチップの敷き詰められた場所。

 

「最後の強度高めの調教だ。頑張ろうな、スペ」

『はい…!』

 

フンス、と気合混じりの鼻息を噴いた。今ユタカさんから言われたのはきっと、今日は厳し目の練習になるって事。

そして同時に、僕にとってはもう一つ重要な意味を持つ。

 

(先輩と夢で会うチャンス……!)

 

この前やっと連絡を取れた栗毛さん。追われる圧力も恐怖もなんのその、自由に逃げ切る凄い先輩に、話を聞く機会なんだ。眠ってくれてれば良いんだけど、どうだろうか?

 

「ユタカ、分かっとるとは思うが……」

「ええ。春天が終わったら臼井さんは海外ですよね。イスパーン賞前にクロスを仕上げに」

「おう。今は助手が上手い事やっとるようやから任せとるが、最後は俺が見んとな」

『今クロの事言いました!?』

「「どわぁ!?」」

 

聞こえましたよ!今クロの事を口にしましたよね?今どうしてるんですか彼は!海外でのレース結果は?!

 

「落ち着け!闇雲に暴れると危険や!もっと慎重に情報を聞いてからでも!!」

「どうどう、スペシャル。そうだ落ち着いて、クロスは絶好調だってさ」

『元気なんですか!?』

「ああ、元気だ」

 

肯定のニュアンスを感じ取って、これで一安心。あー良かった、ちゃんと向こうに馴染めたんだね。エルやマンボとも仲良くしてると良いけど。

……って、ダメだダメだ。今は自分に集中!クロの事は今も気になる、それでも僕には僕の問題があるんだから。

 

『よーし頑張るぞ』

「スイッチが入ったかな……僕も気合い入れようか」

 

そして到着したコースの上で、弾むように跳ねてウォーミングアップ。これで準備オーケーだ。

ユタカさんが手を挙げる。ウスイさんが応じる。そして手綱が扱かれ、僕は駆け出す。加速する。

さぁ栗毛さん、後は貴方の番です。よろしくお願いしますよ……!

 

 


 

 

ピリッと来る感触。

運が良い。この時間帯なら、私は私の事だけに集中できる。

馬房の隅に座り込んで、自分の中のユタカさんの記憶に深く深く入り込んでいく。

前に黒鹿毛君と夢で会う時、陥ったのと同じ感触。要は、ユタカさんを介して通じ合うという事。

人馬一体が容易に叶わなくなった今、ただ寝ているだけではここまで来れない。もっともっと、ユタカさんに集中しなきゃ。

そうだ。走っている時、あのヒトは私の半身なんだ。

もっと。

そうだ、もっと思い出せ。あの重みを、その手綱捌きを。

もっともっと、もっと───

 

 

 

来た。

 

 


 

 

待っていた時が来た。

 

「本腰入れるぞ、スペシャル…!」

『はい!!』

 

三度目の走り込み、いよいよユタカさんと同調しての人馬一体。その向こうの領域に入り込みかけた、その瞬間。

 

 

・。・゜ ・。・。 ・。・゜・。・。 °・

 

 

 ^^   ^^^   ^^  

^^^   ^^  ^^^^   ^^^

 

「───あゎゎわわわっ!?」

 

気付くと、風景が様変わり。やった!栗毛さんの夢に入れたんだ!!

でもおかしいな、前は昼間の草原だったのに……今回、まるで僕が領域(ゾーン)に入った時のように、空は夜色に染まって星が瞬いてる。草原は変わってないのに、なんで?

 

「きっとそれは、あなたが前よりも深く“自分の本質”に踏み入れられるようになったから」

「……!栗毛さん!」

「久しぶりだね、黒鹿毛君。シーラちゃんを通じて、探してくれてありがとう」

 

声の方へ振り返れば、そこには久方振りの栗毛さんの姿が。前と変わらず緑色の瞳、長い栗色の髪を靡かせたニンゲンの姿で走って──

 

 

はし……あれ?

 

「なんで座ってるんですか?」

「なんで、って……」

「いつも走ってたので」

「……」

 

草原に座り込んだままの栗毛さん。不思議とその静かな様子も似合っていたけれど、栗毛さんはやっぱり走ってこそだ。

 

「っとと、それはそれとして。何しに会ったんでしたっけ」

「追われる恐怖を乗り越えたい、でしょ?」

「そうそうそれです!栗毛さん、良ければ教えて下さい!!」

 

気合と決意と覚悟を込めて、鼻息をプシューと噴出。一つも漏らさず学び取る覚悟は出来てますか?僕は出来てる……!

 

「……うん、そうだよね。黒鹿毛君は、その為にここに来たんだもんね」

 

そして、栗毛さんはようやく立ち上がり。

 

「始めましょうか。私達の走りを」

 

そう、僕に告げたのだった。

 

 

 

 

2人、並ぶ。けど何か様子がおかしい。

 

「あの、栗毛さん」

「何?」

「大丈夫ですか?」

 

僕はともかく、栗毛さんが妙に興奮してるような。息を荒立てるタイプじゃないのに、なんだか走る前から呼吸が早い。体調が悪いなら、また今度にでも……

 

「良いんだよ。ここは夢の世界だし、体調なんて関係ないもの」

「でも……」

「それに、今を逃したら次がいつになるか分からないんだよ?それでも良いの」

 

そんな僕の懸念を振り払うように栗毛さんは言う。

本馬がこう言ってるんだからきっと大丈夫……なのかなぁ?でも、そう信じるしか無かった。実際、今回を不意にしたら次に会えるのはいつになるやら。

 

「黒鹿毛君こそ、ちゃんと集中してね」

「……!す、すみません!!」

「優しいのは良い事だけど、まずは自分の事からね」

 

うう〜、叱られちゃった!反省だ反省、さっき「覚悟は出来てる」とかいったのは誰だ!せめて次に活かさないと……。

 

「く、栗毛さん!胸、お借りします!!」

「………ええ、よろしくね」

 

なんて、自分に発破を掛けた僕の言葉にも、栗毛さんの反応は芳しくなくて。

って、ダメだよ僕。集中だ集中、集中集中焼酎集中集中…!

 

「───はッ!」

 

出遅れたぁ!!雑念が空回りしちゃったぁ!

不味い不味い、栗毛さんは大逃げなんだ!最初から大差付けられたら学ぶ以前の問題だよ!!

 

(待て待て待ってぇ!!)

「……くっ」

 

あーもう、逃げについていくのに先行じゃなくて差しみたいになっちゃってるよぉ……ってあれ?なんか思ったより離されない?

いやいや落ち着けスペシャル、これは栗毛さんの罠だ。誘うだけ誘った後、最後にとんでもない末脚で突き放す気なんだ!

 

「そうはいくかぁ!」

 

持てる全てで食らい付いてやる。そっちが脚を溜めるんならこっちだって……!

決めたゴールまでもう少し。そろそろだ、そろそろスパートだ!!

 

「栗毛さん、勝負ですよ!!」

「……分かってる……!」

 

ええそうです、もうタイムトライアルなんてさせませんから!あの頃からクロと一緒に走った僕の強さ、見せてあげます!!

 

「ふんぬぬぬぬ……!」

「………!!」

 

さぁどうですか?抜かしますよ?抜かしちゃいますよ?

ここから突き放すのはわかってるんですよ!いつでもどうぞ、ついて行きますから!

ほら、栗毛さん!

 

 

栗毛さん?

 

 

 

栗毛さん…!?

 

 

 


 

 

 

案の定、また上手くいかなかった。

スパートを前にして竦む脚。これからだというのに、ここからだというのに。

 

「何があったんですか」

 

一足先にゴールを終えていた黒鹿毛君が問うてくる。ああ、先に走り終えてくれたんだね。良かった。

 

「良かったじゃなくて……!」

「話すよ。話すから待ってて」

 

ごめん、はぐらかしたみたいになっちゃった。大丈夫、ちゃんと全部話すから。

 

「簡単な話なんだ。走るのが、怖くなっちゃった」

「……栗毛さんが?よりによって、あなたが?」

「騙したみたいになっちゃって悪いね。恐怖を克服した経験を聞きに来たのに、その相手が恐れに二の足を踏んでるだなんて」

「そ、そんな事どうでも良いでしょう!?もしかして怪我したんですか!足は無事なんですか!!」

 

そう騒ぎながら足へ顔を近付ける黒鹿毛君。それ以上寄ったら危ないよ、でもありがとう。もう大丈夫だから。

少なくとも、身体は。

 

「そうは言っても……思うように走れないんじゃ、大変ですよ」

「まぁ、ね……」

 

正直、本当に──辛い。どれだけ頑張っても、苦しんでも、楽しかったあの頃に戻れない。その事で、ユタカさん達を苦しめている現実が悲しい。

そんな私が今、黒鹿毛君に伝えられる事は。

 

「恐怖は、乗り越えられないんだよ」

「栗毛さん?」

「何度でも蘇るんだ、何度振り払っても」

 

ありのままの現実を、嘘偽り無く話す事だろう。誤魔化しても、黒鹿毛君にも同じ事が起きた時にただ惑わせるだけになるから。

 

「私はそれと折り合えなかった。でも君はまだ大丈夫」

「……」

「走りたいという気持ちと、死にたくないという気持ち。君はちゃんと、選べるようになってね」

 

私は迷う事しか出来ない。付き合ってくれるユタカさんに、時折様子を見に来てくれるエアグルーヴに、色んな馬やヒト達から応援してもらってるのに。あの日の痛みが怖くて一歩を踏み出せないでいる。

どうか、君はそうじゃありませんように。

 

「君に、勇気が湧きますように」

 

そう、願った。

 

 

 

「そんなの、勇気じゃありませんよ」

 

……え?

思わず、俯いていた顔を上げる。視界に写ったのは、怒ったような悲しむような黒鹿毛君の顔。

紫電の視線が私を貫いた。

 

「僕の親友に、怪我して思うように走れなくなった仔がいます」

「……私と、同じ」

「はい。久しぶりに会った時、見る影も無い走りをしていて愕然としました」

 

そんな仔が、黒鹿毛君にもいたんだ。それを既に見ていたのなら、私の見識なんてお節介だっただろうか。

 

「でも、約束したんです。また走り合おうって、不屈を示してみせるって。そしてその通りに、彼は勝ってみせたんです」

「乗り越えられたんだ、その仔は」

 

そこは私と違うな。強いなぁ、羨ましいなぁ……

 

「違いますよ!」

「!?」

 

そう思っていた時に、響き渡る声。夢とはいえ、いや夢だからこそ、その音に私ごと世界が揺らぐようだった。

 

「彼が──グラスが、怖くなかった訳が無い!クロにも会えなくて寂しがってた彼はきっと、ずっと苦しんでたんだ!!」

「それはつまり……それでも尚立ち上がる強さがあったんじゃないの?」

「そうです。でもそれは、恐怖を決して捨てたわけじゃない……!」

 

分からない。分からないのに、理解したいと強く思える。

黒鹿毛君、なら彼は……グラス君は、恐怖をどうやって抑えたの?

 

「グラスの誓った不屈は、これからの全てを飲み込んで進む覚悟でした」

 

質問した私に、黒鹿毛君は答えてくれた。

 

「痛みも、恐れも、思うようにいかない苦しみも……全てを()()()、進む想い」

「抱く……?」

「そう、抱くんですよ栗毛さん!あなたが持ってる恐怖だって、立派な心だもの。恥ずかしがる事なんてありません!!」

 

 

──ああ、なんだ。

 

「……あは、は」

 

なんだ、そんな事だったのか。

 

「捨てなきゃいけないと思ってた」

 

そうしないと、とてもじゃないけど重くて進めそうになかった。

でも、その重みは幻だったんだね。

 

「抱く、かぁ。簡単そうで、難しいね」

「でも栗毛さんなら出来るでしょう?あんなに凄い大逃げが出来るんですもの」

「凄い理屈を言ってるって自覚してる?」

 

でもありがとう、黒鹿毛君。なるほど、必要なのは受け入れる余裕だったんだ。ただ独りで焦ってたら、分からなくなっていた。

自分のありのままの感情を受け入れ、抱いて、前を目指す。それだけなんだね。

 

「でも、まだ少し掛かりそうだ」

「……厳しいですか?」

「でも、必ず立ち上がってみせるよ」

「!!」

 

心はなんとかなっても、全力を忘れたこの身体はすぐには思い出してくれない。本当の意味で立ち上がるまで暫く、昔のように走れるまではもっと時間を要しそう。

でももう臆さない。いや正確には、臆しても構わない。

 

「ちゃんと折り合いつけて、君やクロ君と走る。それを待ってて」

「栗毛さん……!」

「だからそれまで……ユタカさんをお願い」

 

私にだって全盛期という物がある。それを怪我と恐怖で費やしたこれまでの時間が悔しい、立ち直るまでに消えていく未来の時間が惜しい。

だからこそ、叶うなら。

 

「私の分まで、ユタカさんと一緒に──走り抜いてね」

 

夢が叶う、その日まで。

 

 

「もちろん、もちろんですよ!よーし、じゃあ最後にもう一回走りましょうか!」

「望む所だよ。私、もう立ち止まってられないし…!」

「ええ!私、また差しでギリギリまで溜めますから。栗毛さんは先頭で、逃げの感覚を思い出して下さいね?」

「……それは、舐めてるって事?手加減しなきゃ練習にもならないって?」

「あ゛っ、いやそういう意味ではえっとえっとえっと」

「ふふっ。冗談だよ、ありがとう」

 

 

 


 

 

 

スペシャルと共に領域に入った時、緑色の風を幻視した。

 

「スズカ……?」

 

僕達の1馬身前を行く、見慣れた栗毛。どうして見える、どうしてここにいる?

それとも、本当に僕の気が狂ったのか?

 

フルルルルッ(行きますよ先輩っ)……!!」

 

いや、これは現実だ。

だってスペシャルもまた、彼を認識していたから。意識していたから。

 

「スズカ……スズカ!!」

 

嗚呼やっぱり。前を行く君は、どうしようも無く美しい。君のその姿をまた見たくて、見せて欲しくて、探し求めた半年だった。

気持ちよく前を行く背中は懸命に風を切っていく。取り戻せたのかい?

 

その瞬間、目が合う。

告げられた。それで良いのか、と。

 

「……そうだったな、スズカ!」

 

悪かった。今僕が乗ってるのは君じゃない。そして同じコースを駆けている以上、今の君は最高の──ライバルなんだ!

 

「そうだよな、スペシャル!!」

『ですよ、ユタカさぁん!!』

 

手綱を扱く、腰を入れる。人馬一体を為し、僕らは一つになって風を追った。

また共に走る、いつか追いつく。その想いを胸に、しっかりと抱いて。




グラグラの実
食べた者は全身グランドライブ人間となり、クライマックス育成に疲れてグランドライブシナリオしか出来なくなる
あとライトハローさんを邪な目で見てインペルダウンに収監される

白ひげ「おい(地震パンチ)」
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