「何でこうなってしまったのだろうか」
僕は隣を幸せそうに歩いている少女の顔を見ながらそんなことを呟いた。僕の隣を歩いているのは五番隊副隊長の雛森桃。彼女は同級生の間でもとても人気がある。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ。本当になんでこんなことになってしまったのかなぁと過去を後悔しているだけだよ」
数日前の彼女はお世辞にもこんな風に笑顔を浮かべられる感じではなかった。もう生きていき気力すらも消え失せてしまった感じだった。
それに比べれば今の彼女の方が良いのは分かるし、僕も彼女にはこれぐらい満面の笑みを浮かべられるぐらいまで回復したことはとても嬉しく思う。
だけどなんでそれがこのような状況にまでなってしまうんだろう。
「私は今の状況をとても幸せに感じています。自分の好きな人と一緒に過ごせるんですから良い時間じゃないわけないですしね」
今の雛森の発言から分かる通り、彼女は僕に惚れてしまっている。弱っているところを支えてしまったが故に惚れてしまったのだろうと思う。誰だって弱い時に優しくされればその相手のことを好きになってしまう。
それは雛森桃だってそのはずだ。彼女が一番敬愛していた五番隊隊長の愛染惣右介に裏切られたことによって精神は不安定になってしまっていた。
だから彼女は惚れてしまったのだ。
「そうですか……」
今の彼女に何を言ったとしても意味はないかな。僕以外にもっと良い人がいるよと言ってもそんなことに聞く耳を彼女は持たなかった。
だからと言って彼女を突き放すような真似は出来ない。今、彼女を突き放せば彼女は本当に精神が崩壊してしまうだろう。
今でさえも綱渡りのような現状なんだから。
誰かにこの荷が重い役を代わって欲しいところだけど…そんなことは出来ない。これは僕が彼女を支えてしまったが故にこうなってしまったのだからその責任を取らないわけにはいかないよね。
「私と一緒に居るのはつまらないですか?…そうですよね……こんな私と一緒にいるんじゃ………」
明らかにさっきの元気がなくなっているのが分かる。雰囲気からも顔からも正気が抜けているような感じ。今の彼女を見ると本当に彼女は不安定なんだなと思ってしまう。いつ壊れてもおかしくない…彼女の不安定さ。
「僕は雛森さんと居られて嬉しいですよ。今がとても幸せです!」
僕がそう言うと彼女の顔は見る見るうちに笑顔に戻っていく。本当に単純な人だなと思ってしまう反面、本当に壊れやすい人だなと再確認させられる。
「そ、そうかな!?」
「そうだよ。だから大丈夫だよ」
雛森さんの頭を優しく撫でながら囁くように口にした。なるべく彼女の精神が安定するようにこれからは努力をしよう。いつか彼女が本当の意味で好きな人を見つけるまでは僕がその人の代わりになってあげよう。
そう心に決めた少年とそんな少年を好いている少女の物語