ようこそ、やっぱり俺の妹が世界で1番可愛い実力至上主義の教室へ。   作:スイソー

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一年生が入学する数日前の話。とある空き教室で、3人の男女が昼食をとっていた。

「堀北くん、櫛田くん、今年のDクラスは随分と優秀な生徒が多いみたいですね。」
「そうだな、お前達は誰か気になる生徒はいたか?橘、竜胆。」
「んー、俺は別に?強いて言うなら綾小路清隆と坂柳有栖。」
「意外だな、お前なら妹である櫛田桔梗を真っ先にあげると思っていたが。」
「桔梗のことは大大大好きだし何に代えても守るけど───…気になるって面で見たらこの二人がダントツ。橘は?」
「私は特には…会長の妹さんである堀北鈴音という子、とかですかね?」
「あーー…でも学と仲悪いんじゃないの?」
「別に悪い訳では無いさ、俺が一方的に突き放しただけだ。彼奴は俺の幻影を追っている、あのままでは成長出来ないだろう。」
「だからこそ導いてやるべきだとは思うけどな〜…妹に甘々な俺と真面目で一本気な学じゃあ方向性が違うみたいだね。」
「それはそうだろう。それぞれの家庭によって家族の形があるものだ。」
「確かにそうですね…入学当初の頃は、堀北くんと櫛田くんは学校のツートップって呼ばれるくらい仲良くなるなんて思いもしなかったですもん。」
「はは、確かに俺も当初は竜胆の猫被りに驚かされたものだ。こいつほどの能力があれば、俺と一緒に生徒会に入れば活躍出来ただろうに。」
「まあ、どっちにしろ俺は来年から別クラスだけどね。」
「ああ、1000万ポイント、ちゃんと足りるか?」
「当然だろ?使い切っても余るくらいだが?ま、困った時は頼れよ。その時は貸してやってもいいけど〜?」
「全く、そろそろ昼休みが終わりますよ。堀北会長はまだ生徒会の仕事も残っていますし、早く移動しましょう。」
「そうだな、それじゃあまた後で。」

そう言い別れると一人の男は職員室に、残りの二人は生徒会室に向かったようだ。
『1000万ポイント』『来年から別クラス』
この二つの言葉は何を指すのかは、今話していた3人しか知らない。
この学校で言う「クラス移動」はつまるところ敵同士になるということだが、随分と仲良さげな彼等はそれを理解した上で話している。
この時の3人の選択が、これから入学してくるとあるクラスの人生に深く関わっていくことになるのだ。



可愛い子には旅させよ、なんて言葉俺は間違ってると思う。

5月1日。

Sポイントに関する情報、CPの減少、そして赤点による退学のリスクが開示され、Dクラスは混乱に包まれていた。

そこで、茶柱によりさらなる爆弾が投下される。

 

「ああ、そうだ。焦っているところ悪いがもう一つ報告がある。」

「こ、これ以上あんのかよ?!まさかプライベートポイントの貸し借りは無しとか?!」

「え〜、そしたらあたし今月生活出来ないんだけど!」

「いや、そういう話ではない。お前たちは少しくらい静かに出来ないのか?今日から新しくクラスに編入してくる奴がいる。」

「「は、はぁ〜!!????」」

「なんすかそれ!こんな時期に編入とかあるんですか!?」

「みんな、落ち着いて。特別な事情があったりもすると思うから、大人しく茶柱先生の説明を受けてから考えよう。」

「うん、私もそう思うな。大切な情報を聞き漏らしちゃったりしたら損するのは私達だよ?ただでさえ茶柱先生は分かりずらい言い方をするし…。しっかり話を聞いた方がいいと思うなっ!」

 

さらに騒がしくなってしまったDクラスを鎮めたのは、やはりというか平田と櫛田だった。

男女のツートップがそう声をかければ、女子も男子もすぐに声を鎮める。

未だに須藤や山内などはなんだよそれ、という言葉を呟いたりもしているが、とりあえずは場が落ち着いたようだ。

それを見計らい、茶柱が口を開く。

 

「待たせたな、もう入っていいぞ。」

「は〜い。失礼します。」

 

ガラ、と扉を丁寧にスライドさせ男が入ってくる。

黒板の前に立ちサラサラと名前を書くと、紳士的な笑みを浮かべて一礼した。

 

「どーも。僕の名前は櫛田 竜胆(クシダ リンドウ)。三年A組から移籍してきました。一応ツートップの軽い方って言われてます、今は三年じゃないけどね。みんなより歳上だけど仲良くしてくれると嬉しいな、よろしくね。」

「かっこいい〜!」

「三年?!しかもA組なんて、どうしてわざわざ移籍してきたんだ…!?」

 

堂々と挨拶をした竜胆に、再度騒めきが広がる。

先程Aクラスが優秀で、そのクラスに選ばれた者だけが希望した場所に就職できると伝えられたばかりなのだ。三年なんてあと一年持てば薔薇色の人生を駆け抜けて行けるのに、どうしてわざわざ一年の、しかもDクラスに来たのだろうと思うのは不思議なことではない。

だが、この場に竜胆が存在する事に誰よりも驚いている人物がいた。

 

「なんで、どうしてここに…!?」

「あはは、ビックリした?来ちゃった。」

 

そう、"櫛田桔梗"。櫛田竜胆の実の妹である。

堀北学がどこまでも妹を突き放す存在だとすれば、

櫛田竜胆はどこまでも妹を甘やかす存在なのだ。

学と竜胆はお互いを相方、さらに強調すれば相棒と言っても差し支えない程の仲であるとお互いに自負している。しかしながら、二人の存在はいつだって対になっている。

ならば、妹に退学を強要させる学に対し竜胆が妹が退学にならないよう手助けするのは当然のことなのである。

 

「え、え、どういうこと?!櫛田ちゃんとどういう関係!?」

「改めまして、櫛田桔梗の兄です。どーもー。」

「「は、はぁぁぁあ!?!?!」」

 

桔梗に兄が居るということも、その人物がこの学校にいるということも知らされていなかったのだ。

この後桔梗は質問攻めにあうだろうが、事の発端である竜胆はといえば一年の新しい友人探しについて考えていた。

 

「とりあえず私はもう行く。授業の準備をしておけよ。」

 

そう言い茶柱は出ていってしまった。

自身が落ちこぼれと言われ憤慨し、感情が爆発しそうになっていた生徒の興味も既に櫛田兄妹の関係に移り変わっている。

一斉にほぼ全員が桔梗の元に向かおうとするが、その前に平田が動いた。

 

「みんな、櫛田さんと…えっと、櫛田先輩?櫛田さん?だっていきなり沢山質問されても困るんじゃないかな。まずは自己紹介した方がいいんじゃないかな?」

「さんせー。あたし、軽井沢恵。今自己紹介を提案した…洋介くんって言うんだけど。洋介くんの彼女だから、よろしくね。」

「平田洋介です、よろしくお願いします。サッカー部に所属しています。櫛田先輩と早く仲良くなりたいと思っています。」

 

二人につられ、協調性に欠けた須藤や堀北といった面子以外は自己紹介を始める。その中で、俺が目を付けたのは一人。

『綾小路清隆』、入学前に話していた男だ。

 

「えーっと、あー…綾小路清隆です。えー、オレはコミュニケーションが苦手ですが早く仲良くなりたいです、あーっと…よろしくお願いします。」

 

自分が目にかけた男の自己紹介が散々で思わず吹き出してしまったが、よろしくな、清隆、と返しておく。

その後授業が始まるからと一度解散になり、質問などはSNSで受け付けると言っておいた。

 

外村という生徒の後ろ、王という少女の隣、須藤というヤンキーの前。

中々濃いメンツに囲まれてしまったが、俺も大概だからなんとも言えない。

外村という生徒はコミュニケーションが清隆とは別方向であまり得意とは言えず、王という生徒もあまり男子と話すのは得意じゃないようだ。須藤は常識さえ覚えれば良い奴そうなんだが…。

まぁそんな風に一日が始まり、当然やった事のある授業を復習として真面目に受けた。

俺が試験で赤点をとるなんて嵌められる以外ではありえないし、それこそ俺だけ問題が玄人レベルなんて罠じゃなければ解ける自信がある。

 

授業を受けながらも、俺の意識は別に向いていた。

何故桔梗がDクラスなのだろうか、ということだ。

桔梗は別に運動が出来ないわけでも、勉強ができないわけでもない。友達は多いし判断力も知力もBクラスに余裕で入るくらいにはあるはずだ。

つまり、俺の知らない空白の二年間─────、中学二年生から三年生の間に何かしら事件を起こしたのだろう。

素直に教えてくれるとは思わないが。桔梗は俺の事をあまり良く思っていないだろうしね。

一応部屋に行って聞いてみることにするか、その後各クラスの重要人物になりそうな人達の様子を見に行こうかな、なんて考えて居ればいつの間にか放課後になっていた。

教科書類を整理し、カバンを持ち上げる。

一応3年の方に顔出しとくかな〜、なんて考えながら俺は教室を後にした。




高度育成高等学校学生データベース

名前:櫛田 竜胆
クラス:3ーA ⇒ 1ーD
学籍番号:S01T004180
部活動:剣道部・弓道部
誕生日:1月6日

ー評価ー

学力:B+
知性:A-
判断力:A+
身体能力:A-
協調性:A+

《面接官からのコメント》
学力が高く、協調性もあるため面接時における評価も高い。身体能力も平均以上であり欠点らしい欠点もない。妹への異常な庇護欲が見られるが、改善を期待しAクラスへの配属とする。






好きなこと:ポーカー、映画鑑賞
嫌いなこと:暴力
好きなもの:幸運、犬
嫌いなもの:愚か者
好きなひと:不明
嫌いなひと:茶柱佐枝、南雲雅
得意なこと:詐欺、情報収集
苦手なこと:人を信じること

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