僕と騎士と武器召喚Ⅱ   作:ウェスト3世

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二十年の月日

吉井明久が阿修羅を倒し、二十年。また、イフリートを倒して十年という月日が流れた。

 王都フミヅキの町の中心には彼の銅像が立っている。見ていると今にも動き出しそうな像だった。しかし、それは永久にない。また、この世に現れることもない。彼は十年前に死んだのだから。

 王都全員を護る為に。たった一人の愛しい娘を護るために。

 この十年間でフミヅキは変わった。

 今まで日本を統括していたカヲール二世が亡くなり、新たに王位に就いたのはヒメージ三世だった。そして国家騎士のメンバーも大分変り、町並みも十年前とは大きく異なっている。

 また、十年というのは少女が成人を迎えるほどの年月である。嘗て七歳だった少女は今年で十七歳を迎える。まだ、成人というよりは少女の色合いの方が濃く残してはいるが、少女は十年前の無力で非力な少女ではなかった。

 今は、この国を支える国家騎士である。それも七人いる内では五番目にあたる、第五国家騎士である。

 彼女の名前は…。

「真那(まな)、今日は学校?それとも任務?」

「いえ、今日は陛下に呼ばれているので…。」

 友人である間宮恵に質問される。藍色の髪をポニーテールに結んだのが印象的な少女だ。

 そして真那と呼ばれた少女は申し訳なさそうに首を振った。

 吉井真那(よしい・まな)。それが彼女の名前である。十七歳という若さで第五国家騎士に就任し、様々な任務をこなしている。

 とはいえ、勉学にも励む、ということで学校にも通っており、国家の責務と学生の責務を両立という形で勤めていた。

 彼女の名は王都中に知れ渡っていた。何せ、この町を救った英雄、吉井明久の娘なのだから。だが、理由はそれだけじゃない。また、おしとやかであり、容姿端麗ということもあり、学校の男女共に憧れの的だった。また、これは真那が心の拠り所としているものなのだが、頻繁に教会で祈祷している。そのことから『聖女』などと言われ、慕われていたりもしていた。

 だが、彼女はそれをあまり良くは思っていなかった。何処に行っても彼女は人々の視線を毎日のように浴びて、それは何処か息苦しいものがあった。

「真那、真那ってば!」

「あ…っ!はい、何でしょう?」

 頭の中で思考回転していたせいか、友人の恵の声に全く気付かなかった。

「じゃあ、今日は先生に欠席って言っておくけど良い?」

「ええ、お願いします。」

 それじゃと踵を返し、恵は学校へと向かう。

 恵は真那にとって良き理解者であった。常に問題事を抱えてしまう真那を常に気遣ってくれる。実は恵も真那程ではないが、上級騎士と極めて上の階級に位置する騎士なので、学校以外でも良く一緒に居る、真那にとって大切な掛け替えのない友人である。

「さて…。」

 真那は町の中央から見える巨大な城に目を移す。王族の住む王宮だ。

 そこに向け、一歩足を踏み出した。

 

 

 

 ヒメージ三世が居座る『王の間』。天井は高位の者が住むところであるせいか、とても高い位置にある。また、ぶら下がっている電球もとても華やかなものである。簡単に言えばシャンデリアなのかもしれないが、アレンジを加え、何処か和風を漂わせている。

「真那さん。お久しぶりです。元気にしていましたか?」

 それを耳にして真那は少しムッとした表情になる。

「いいえ、陛下。陛下とは毎日のように顔を合わしている筈なのですが。」

 すると、ヒメージ三世は「そうそう、そうでしたね」と微笑む。ふんわりとした柔らかい笑みで、一見癒されるように思わされるが、そんなことはない。このやりとりが毎日のように繰り返されている為に軽い苛立ちの方が募っている。

 カヲール二世からの側近である竹原も「ババアの娘だけはあるな。」とたまに愚痴ったりする。真那と似たような感情を抱く者も居るが、この柔らかい笑みが国民に非常に好かれる要因の一つとも言える。

「それで、お話というのは…?」

「はい。貴女を呼んだのは他でもありません。少し調べて欲しいものがあるのです。」

「調べて欲しいもの…ですか」

「真那さんは、京都に位置する嘗て最も巫女の勢力があったとされる『神無神社』(かんなぎじんじゃ)をご存知ですか?」

「はい、まあ名前くらいは聞いたことはありますが…。」

 『神無神社』(かんなぎじんじゃ)。名前を聞いたことはあった。古くからある神社で、巫女の勢力が最も強いとされた寺社組織でもあった。

 カヲール二世の時代までその勢力は途絶えることがなかったというのだが、約二十年ほど前から衰退していったという。その原因は未だよく分かってはいない。ただ、衰退の原因で一つ分かっているのは、そこの巫女を務めていた女人達が次々と社を抜け、それ以来神社は人を寄せ付けないほどの強い結界が張られるようになった。

「今、悪魔や悪神に包まれた世界で、騎士や軍人といったものも大いに必要となるでしょう。科学が生み出した核兵器も必要となるでしょう。しかし、それ以上に神に仕える者の力も必要不可欠だと思うのです。」

 真那は成程と納得した。確かにそうかもしれない。

 悪神、悪魔を滅するにはそれを滅するだけの『聖』が必要となる。それを扱えるのは陰と陽を扱う陰陽師、そして神に仕える巫女と聖職者。その力がこれからの世界を先導する。

「つまり、その神無神社の衰退の原因、そしてそこの巫女達をフミヅキに勧誘すればいいわけですか?」

「ええ、そういうことになりますね。お願いできますか?」

 真那は少し考える。だが、断る理由も特にないので「分かりました」と承諾する。それにヒメージ三世は「ありがとうございます。」と微笑む。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 神無神社には嘗て大勢の巫女たちがこの社を支配していた。全国の社でも霊力は頂点に達するほどと言われていた。

 しかし、今この社には巫女はいない。今の神無神社には嘗ての勢力はない。

 だが正確には巫女は一人だけいた。端麗な容姿に腰まで伸びた漆黒の髪。そして華奢な体に羽織った装束は正しく巫女の装束だ。

 だが、その巫女は成り損ないだった。どんなに霊術を鍛錬しても完全な巫女となることはない。

 永遠に、永久に。

 そしてただ狭い社の中で、その一生を終える。それが孤独な巫女に与えられた人生だった。

 

 

 

 

 

 新幹線に乗り、真那は窓に映る自分の素顔を見つめる。腰まで長く伸びた薄茶色の髪、そして成長するたびに自分の容姿は母親に似てきていると、心の中で思った。

 そして鏡を見る度に自分の素顔が母親そのものに見えてしまう。そして、思わず、その鏡の中に飛び込んで、母の胸に飛び込もうとする。まるで、幼い子供のような行為だ。

 だが、そうと分かっていてこんなことを何度も繰り返している。その度にまたやってしまったと思う。だが、それでもこの気持ちはきっとこれからも忘れてはいけないのだと思う。

 母を思い出すために、父を思い出すために、これは必要な行為だ。

 だから、これからもそうして父と母を思い出そう―――。

 

 

 

 そして京都に着き、気付けば社の前に立っていた。目の前には階段がずらりと並び、その向こうに鳥居が見える。恐らく此処がヒメージ三世が言っていた神無神社なのだろう。

 此処まで特に地図など持っていないのでほとんど直感で此処に来たようなものなのだが、その感は正しかったと悟る。

 京都に着いてから一際強い霊力が感じ取れた。その霊力を辿って行きついた先がこの場だったわけなのだが…。

 そもそも真那には母親譲りの高い霊力があった。その為、感知がスムーズに済んだ。

「………。」

 真那は一歩前へと踏み出す。だが、その時何かが真那を拒んだ。とても強い力で押し返される。

「これは…結界…」

 そういえば、ヒメージ三世が社には強い結界が張られてると言っていたか、確かにこれほどの強い霊力で張られているとは思わなかった。

 ならばやることは一つしかなかった。

「この結界を、斬る…!」

 真那は「試験召喚(サモン)」と叫び、武器を召喚。召喚した武器は紅い光芒を灯した妖刀だ。名は『鬼切』。嘗て源満仲が鬼を斬ったとされる源氏の宝刀である。

 そしてこの刀は嘗て真那の母が使っていた愛刀でもあった。

 その刀で結界に触れる。だが、触れた瞬間、強い霊力が流れ込んでくる。

「ぐ……ぅ…!」

 結界は言葉を話すわけではない。だが、これ以上抵抗するなと言っているようにも思えた。しかし、真那はそれでも抵抗を続ける。

「ハアアアアアアアアアアアッ」

 だが、途中意識が途絶える。いや、自分の放出した霊力がまるで社に奪われた、とでも言おうか。そして鳥居の辺りに人影が見える。体が徐々に地面に倒れていく。

 

 

 『そこまでだ』

 

 

 凛とした声が響き渡る。綺麗な透き通った声だ。

 真那は思わずその声の方に視線を向ける。そこには今まで見たことのないような程の美しい『少女』が立っていた。

 長い漆黒の髪は風に吹かれている。端正な顔立ちには麗しさを放っていた。

 そして月夜に照らされている彼女を真那は思わず見惚れてしまう。綺麗だ、と。

 そして、そのまま視界は暗黒に塗り替えられる。

 

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