僕と騎士と武器召喚Ⅱ   作:ウェスト3世

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巫女の少年

 電灯の光が射しこんだのか、深い眠りから意識が戻ってくる。深く閉じていた瞼をゆっくり開け、真那はムクリと起き上がる。

「…あれ…?」

 真那は辺りを見回す。自分が居る場は仏像が立っていることから、寺の中だと判断できる。

 確か自分は社にかかっていた強い結界を斬り裂くために奮闘していた筈だったが、いつの間にか寺で寝ていたらしい。

 しかし、そこで首を横に振る。此処は先程居た神社の中だ。

 寺の窓から先程見た鳥居が見える。それを真那は不思議だ、と見つめる。日本は平安時代から確かに神仏習合で神宮寺や僧形八幡神像など、神と仏を統合した考えが明治時代まで続き、明治の神仏分離令で神、仏を区別するように考えた。

 だが、この神社は未だに神仏習合の思想を未だに象っているように思える。神社にも拘らず、寺があり、仏像が立っており、寺があるにも拘らず、鳥居がある。それを真那は感心したような表情で見る。

 いや、待てよ…。そんなことよりも…。

 真那は寝起きの脳で思考を巡らす。そういえば、社の奥から黒髪の少女が現れた気がするが、あれは何だったのだろう?確かにこの眼ではっきりと見た筈なのだが、錯覚だったのだろうか?

「とても綺麗な人だったな……」

 ボソリと素直な感想を述べる。何と表現すればいいのか分からないが、あの美しさは人の枠を超えている、そう思った。

「起きたか…。」

 後方の襖から声が響く。振り返ると、思わず「あっ」と声を上げてしまう。

「貴女は…さっきの…」

 真那の視線の先には先程の思い浮かべていた少女がそこに立っていたのだ。

「意識が戻ったらこの社をすぐ抜けろ。此処は貴女が居て良い場所ではない。」

 少女はそう告げる。しかし、真那は首を横に振り、「いいえ、そういう訳にはいきません」と言う。

「実は此処に用があって来たのです。陛下からの命令で…。」

「用?こんな社に一体何の用だ?」

 少女は首を傾げた。こんな社に何かを成すほどのようでもあるのか?と顔で訴えている。

「陛下はこれからの時代は我々フミヅキ、つまり騎士だけが活躍する時代ではない、悪魔、悪神に対抗するには『聖』の力を持つ聖職者、僧、陰陽師、そして巫女の力が必要だと仰りました。」

 少年は真那の瞳をじっと見る。その瞳は何かを伺ったような目つきだった。

「それでこの神社に来たという訳か?」

「ええ、貴女の力を我々に貸して頂けないでしょうか?」

「断る。」

 少女の返答は素早かった。少しも迷う素振りなしに勧誘を断った。

「えと…何故ですか?」

 真那は気まずそうに訊く。流石にこうも即答で返されるとは思ってもみなかった。

「誘いを断わって申し訳ないが、オレはそもそも社会の中に溶け込むのは正直苦手でな。国に助力したところでオレに何か利点がある訳でもないしな。」

 確かに少女の言うことは正しいかもしれない。しかし、真那もヒメージ三世の命令を受け、「任せてください」とまで言ってしまった為に、少女の言葉に「はい、そうですか」で納得して帰る訳にもいかなかった。やはり、国家騎士としての責任とプライドというものがある。

「しかし、陛下の勧誘に少しは乗ってみようとか思ったりは…」

「全くない」

 再び拒まれる。何があっても勧誘には乗らない気でいるらしい。どうやら勧誘はまだ早かったらしい。

「では、逆に質問しても宜しいでしょうか?」

「答えられる範囲ならばな。」

 それに真那は頷き、早速質問する。

「この社には巫女は貴女しかいないのですか?」

「ああ。オレしかいない。昔はこの社にも多くの巫女が神職に勤めていたが、皆出ていった。で、オレ一人が残っている。」

 それに真那は眉を顰めた。どうやらヒメージ三世の言っていた通りのようだ。

 カヲール二世の時代の時の此処、神無神社は全国で最も勢力のある社と耳にしていた。それが、どうして此処まで衰え、どうして巫女が一人しかいないのか、疑問に思った。それを目の前の少女に聞くと、

「ああ、この神社が衰えた最もな原因は恐らくオレなのだろうな…。」

「貴女が…?」

 真那は良く分からなかった。衰退の原因は個人によって発生したものなのだろうかと思ってしまう。

「貴女に先程、この社にいる巫女はオレしかいないと言ったが、正確には違う。」

「違うのですか?」

「ああ、違う。何故ならオレは巫女でありながら男性として生まれた。巫女であって巫女でないのだ。どんなに霊術を極めてもオレが本当の巫女になることはまずないだろう。」

 不意に静寂が訪れる。

 今、目の前の少女は何て言ったのだろうか?とても衝撃的な発言をサラッとしたような気がする。

「あの、今何て仰いましたか?よく聞こえなかったのですが…。」

「だからオレは男性だと……」

「ぇぇええええええええええええええええええええええッッ!?」

 少女だと思っていた『少年』の言葉を遮り、真那は余りの驚きに叫ばずにはいられなかった。

「何を驚いているんだ?」

 まるで少女のような動作で首を傾げた。

「いえ、嘘…。その見た目で………男……?」

 真那は信じられないと言う風に首を振った。

 艶のある腰まで伸びた漆黒の髪、少女のように華奢な身体、可憐な容姿、高く透き通った声。全てが少女を象っているのに…。

「そんなに綺麗な容姿で股の間には、悍ましい附帯物がついているのですか!?」

「貴女は男性を何だと思っているんだ?」

 悍ましい物扱いされた少年はふてくされた様に言う。

「さて、もう用は済んだ筈だ。出て行ってもらおう。」

 少年は真那を無理矢理外に連れ出す。

「え…いや、でもそういう訳には…」

 真那は必死に抵抗しようとするが、それを拒み、

「オレも、この神社を離れる訳にはいかない。オレはこの土地とは縁を切ることが出来ない。それが天涯孤独であったとしても…だ。」

 真那は少年の悲しそうな瞳を見る。とても孤独な瞳だった。

「なら、貴女の名前だけでも教えてください。」

 そう問われて、少年は一瞬言って良いものか迷っていたようだったが、暫くして、

「神無咲夜(かんなぎ・さくや)」

 と、自身の名を告げる。

「神無…咲夜さん…ですね。」

 その後も、名をしっかり記憶できるよう、何度も繰り返しながらその名を呟く。

 結局、外に追い出されたが、真那は既に決心していた。明日も此処に来ようと。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 吉井真那と言う少女がこの神無神社を初めて訪れてから、彼女は毎日のように、この社を訪れてきた。

 何度も何度も来るなと拒んでいるのだが、この少女は何度も何度も笑顔を絶やさずにこの地を訪れてきた。その笑顔は少年にはとても眩しすぎた。

「貴女は人の話を全く聞かないのだな。オレは昨日も一昨日も、この地に訪れるなと言っているのに…。」

 神無咲夜は溜め息を突きながら愚痴るように呟く。

 しかし、少女はそんな咲夜に対して、微笑んだまま接してくる。

「いえいえ。咲夜くんはお友達も少ないでしょうし、お近づきの印に。」

 しかし、その言葉に咲夜は眉を顰める。

「ホントはオレをフミヅキの兵士に駆立てようとしているのはバレバレだけどな。」

 それを聞いた真那と名乗る少女の体がブルリと振るえる。

 ―――やはりバレていたか…。

 咲夜に返す言葉がない。少し、自身の中に腹黒い物があると思わされてしまう。

 しかし、何もフミヅキの兵士への勧誘目的でこの社に何度も赴いているわけでもなく、ただ、この少年を放っておけない気もした。彼はずっとこの狭い社の中で生活してきた。この社そのものがまるで呪縛のようなもので、彼を長年縛り付けてきた。

 恐らく、彼は外の世界がどういったものなのかを知らない。真那はそんな彼にこの世界がどういうものなのかを知って欲しいと願った。

 だから、外の世界がどんな所なのかを、この三、四日間、彼に語り続けた。その結果、少しずつではあるが、彼の瞳の色には興味のようなものが現れ始めたのを真那は感じ取った。

 だが、確かにこの神社の巫女は彼しかいない。だが、この神社はそれほど縛り付けられるほど、居続けなければならないものなのかという疑問も生まれてくる。

 それを咲夜に訊く。すると、彼はこう答えた。

「そうだな、確かに貴女の言う通りだ。わざわざこの神社にずっと留まらずとも、もっと外の世界で生きていくことも可能だろう…。少なくとも、貴女が話してくれる外の世界はとても魅力的だ。少しずつではあるが、オレも、その世界に足を踏み入れたいとも思う…。」

「なら…。」

 なら、外の世界に踏み出せばいい。もっと外の世界に足を踏み入れ、沢山の者に出会い、触れ、知っていくべきである。

 そう主張しようとするが、咲夜は遮り、

「だが、それは永遠に出来ない話だ。」

 咲夜はやはり外の世界を拒む。本当はそこに足を踏み入れたいはずなのにそこから一歩も踏み出せず、そのまま動けないままでいる。

「何故、この社にそこまで拘るのですか?」

 真那はそれをどうしても聞かなければならなかった。それは、ヒメージ三世の命令というのもあるのだが、何よりもこの少年が何を抱え、何を背負い、生きてきたのかを知りたかった。

「この神社が唯の社だったら、オレはこの社を抜けても良いだろう。自由で居られるだろう。だが、この神社はただの神社ではない。」

「一体…何が……。」

「この京都にある堕天使が現れた。その堕天使はオレの亡き母により滅され、この社に封印された。それ以降、この社はその悪神を縛り付けるために多大な霊力を必要とした。それがこの社の神職に勤める神無神社の巫女の役目だ。」

 そこで、咲夜は「だが」と言う。

「此処の巫女たちは皆、巫女でありながら男性であるオレを軽蔑し次々とこの社を出て行ってしまった。そのせいで、その堕天使を封印するための霊力が圧倒的に少ないために、オレはこの地を離れることが出来ないんだ。この地を少しでも離れれば、堕天使はすぐにでも目ざめてしまう。そうなれば、この京都は焼きつくされるだろう………。」

 余りにも衝撃的な言葉だった。彼は堕天使を封印するための人柱であり、彼が堕天使を目覚めさせてしまうか、そうでないかの権限を握っているのだ。まだ十七歳と言う少年にも拘らずだ。

 この土地は神無咲夜という少年には正しく呪縛と言って良い土地だった。

 

 

 

 

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