旬が過ぎたのは僕の書く速度が遅いからですね、もう少しなんとかならないですかね
四月一日、それは嘘をついてもいいとされている日。
どこの誰が思いついたか知らないが、今日はそこら中で嘘つき大会が広がっている。
「ククク、完成だ……!」
かくいう私も春の陽気に犯さたのか、そんな特別なのかよく分からない日に向けてあるものを作っていた。
「しかし我ながらバカな物を作ったねぇ、飲めば思ったことを嘘にしてなんでも話してしまう薬なぞ……まあしかし、たまにはいいか」
思ったことを嘘にして言ってしまう、少し捻った自白剤のようなもの。
言った言葉と逆の意味で捉えればいいのだから、簡単に本心がわかる。
「ふふふ、これをトレーナーくんに飲ませれば……」
いつもは聞けない本心を聞きたいがためだけに作った薬、さてこれをどうやって飲ませようか。
そんなことを考えているとガララと実験室の扉の開く音がする。
もしかするとトレーナーが入ってきたのかと思い、慌てて後ろを振り向くとそこには見慣れた黒い長髪のウマ娘がいた。
「なんだカフェか……慌てさせないでくれよまったく」
「何を慌てるというんですか……もしかしてトレーナーさんかと勘違いしてしまいましたか……?」
「ば……! 何をバカなことを言ってるんだい君は!」
「その慌てようは……ふふ……」
口に手を当てながら微笑ましいものを見たときのように彼女は笑う。
きっと私がトレーナーに抱いている想いを気づいていて、それを必死に隠そうとしているのがおかしくって笑っているのだろう。
別に嫌だというわけではないが、やはり少し恥ずかしい。
「カフェ、君もわかると思うがあまりそういうことを言われるといくら私でもねぇ……」
「嫌ですか……? 私は全然かまいませんよ、あなたのことあまり好きではありませんし……」
「え……?」
あまりにも衝撃的な友人の告白に、いや私が一方的に友人だと思ってしまっていた彼女からの言葉に動揺が隠せない。
では今までのことは一体何だったのだろう。
特段仲良しのようなことをしたわけではないが、一緒にお茶会したり、たわいもないようなことを話したり、少し自分の恋心について語ったりした日々は全て嘘だったのだろうか……。
いや待てよ、嘘のようなだと?
「おいカフェ、まさか君……」
「ふふふ……ええ、そのまさかですよ……」
「君ねぇ! ついていい類の嘘そダメなものってあるだろう!?」
「すいません、エイプリルフールなのでつい……ふふ……」
愉快そうに笑う彼女を恨めしく思ったが、それよりも安心感のほうが大きかったので今は何も言わないことにした。
「まったく……」
「まあたまにはいいじゃないですか……ところで手に持ってるそれはなんですか……?」
「ああこれかい? これはだねぇ……」
試験管の中に入った液体を不思議そうに見つめながらカフェが聞いてきたので軽く説明する。
案の定聞くんじゃなかったと呆れた顔をしながらため息をつく。
「はぁ……なんでまたそんな面倒くさいものを……わざわざ嘘をつかせる必要はあるのでしょうか……」
「ちょっとしたジョークさ、多少のユーモアというのは必要なのだよ」
「そうですか……まあほどほどにしておいてくださいね……」
「ところでカフェ、君も1つどうかな?」
「いえ、私は……」
口ごもるカフェに対して、私は煽るように言葉をつなげる。
「ふぅん、まぁ君のトレーナーの本心が聞きたくないなら構わないさ。どんな質問にも答えてくれるというのに君には無用の長物だったかね」
「いえ……あの、先ほどのは……」
一瞬はっとした表情を見せ、申し訳なさそうに何かを言おうとしている。
「おや、どうかしたのかね?」
「その薬……少し分けてもらえませんか……」
「しかしさっきいらないと言ったばかりじゃなかったかね?」
「それはその……そう、エイプリルフール、エイプリルフールの嘘です……!」
「ふぅん……嘘ねぇ……ま、いいさ1つ持っていくといい。無味無臭、それこそコーヒーに入れて飲ませてしまえば異変を感じ取ることなんてありはしないよ」
「ありがとうございます……!」
私の手から試験管を奪うように取り、パタパタと部屋から急いで駆け出していった。
もともと彼女にも渡すつもりではあったのだが、この茶番はさっきの仕返しということでいいだろう。
「さて、私のほうも準備に取り掛かろうかね」
そして私もトレーナー君にこれを飲ませるために紅茶を入れる準備を始めた。
お湯を沸かし、紅茶を入れているとまるで見ていたかのように部屋の扉が開く。
「タキオンいるか?」
「やぁやぁトレーナー君、ちょうど紅茶を入れているところなんだ! よかったらどうだい?」
「別に構わないけどトレーニングのじかんだぞ」
その時私はあるいたずらを思いついた。
彼もこの後嘘をつくのだから私だって今日くらいはいいだろう。
「ああそのことなんだが……実はもう脚が限界でねぇ……次、走ったらもう──」
そういい終える前に彼は弾丸のような速さで私に駆け寄り、すぐさま脚を触りだした。
「どこ!? どこが悪いんだ!? くそっ、俺がもっと早く気づけてれば……!」
「ちょ、ちょっと君!」
「すまない、すまないタキオン……俺が、俺がもっと早くに……」
今にも泣きそうな顔をして私の脚をくまなくさすられ、申し訳ない気持ちと脚を触られていることの恥ずかしさで胸の中がいっぱいになる。
「ええい、離したまえ! 嘘だよ嘘! エイプリルフールの嘘さ! だから脚から手を離したまえ!」
「嘘……? そっか、嘘かぁ……」
心底安心したようで、今にもあふれそうだった涙も止まり、表情がほころぶ。
しかし脚をさするのはやめてはくれなかった。
「だーかーらー! 脚から手を離せと言っているんだ! 脚がくすぐったいだろう!」
「あ、ごめんごめん」
「まったく……」
くすぐったいのは脚だけではなかったのだが、細かいことはいいだろう。
胸の鼓動が聞こえていなければいいが。
「というかねタキオン、ついていい嘘と悪い嘘があるだろ」
「多少はいいだろう。それとも何か? 君は私に研究以外興味を持つなと?」
「そういうことじゃないけどさぁ……」
「まあとりあえず紅茶でも飲みたまえよ」
そう言い、自然な流れで薬入りの紅茶を渡すことに成功した。
さて、まずは何をしようかと考えていると後ろでバサバサと資料の山がくずれる音が聞こえ、慌てて振り返る。
「しまった、あの中にはまだ纏めていないものもあるというのに……」
「手伝おうか?」
「いや、大丈夫さ。それよりお味はどうだい?」
「ああ、おいしかったよ」
どうやらちゃんと飲んだようだ。
さて、まずは何を質問しようか。
「ところでいくつか聞きたいことがあるんだがいいかい?」
「え、やだよ」
実験は成功だねぇ、しっかりと真逆の意味で答えてくれている。
トレーナー君が私の言うことを聞かないなんてありえないだろうから確実に効果が出ているね。
「まあそういわずに答えておくれよ、そうだねぇ……そう、さっきの紅茶のお味はいかがだったかな?」
「なんか変な味がしておいしくなかった」
「ふーん、そうかい」
つまり好みの味で美味しかったというわけだ。
まあそうだろうね、いつも美味しそうに飲んでいるし私のほうでも彼の好みの味を研究もしている。
今日は特に彼が好きな茶葉を使ったし、当然の結果ともいえるだろう。
さて、次は何を聞こうか。
そうだ、昨日の昼食について聞こう、いつもより少し味が薄かったのはなぜか聞いておかないと。
「そういえば昨日の弁当、何か変えたかい? いつもと味が違う気がしたのだが……」
「ああ、昨日は時間がなかったからちょっと冷凍食品を使ったんだ」
「ふぅん……」
つまりまじめに作ったがなぜか味が落ちていたと、体調でも悪いのかもしれない、あとで要検査だな。
さて、効果は確かなようだし少し踏み入った質問をしてみるか。
「さてつぎの質問だが……トレーナー君、私と出会ってどうだった?」
「難しい質問だね……どう答えればいいんだ?」
「それはまぁ、楽しかっただの楽しくなかっただのを答えてくれればいいよ」
「あ、それならまぁそうだな」
少し考え込んでいるが答えは1つしかないだろう。
そもそもこの質問の答えを聞くためにこの薬を作ったといっても過言ではない。
答えは決まっているだだろうが、こうやって聞かないと安心できない私はやはり臆病なのかな。
そんなことを考えていると、彼が口を開く。
「まぁ、楽しかったよ。うん、今でも楽しい、毎日が刺激的でずっと続けばいいと思ってるよ」
「そうだろうそうだ……ろう……?」
今彼は何と言った? 「毎日が楽しい、ずっと続けばいい」と言ったか?
「トレーナー君……? ず、ずっと続けばいいと思っているのかい……?」
「まぁ、ね。君といると飽きないしどんどん成長する君をとても誇らしく思うよ。ずっと君の走りを隣で見れたらいいなとも思ってる」
彼は何を言っているんだろう。
彼は私のことをとても褒めてくれている、とても誇らしげに。
さて、私が作った薬はどんな効果だっただろう。
ダメだ、思考がまとまらない。
「な、なぜそんなことを思うんだい……?」
「んー恥ずかしいけど君の実験に付き合ってるうちに、君がどれだけ努力家で他人を思いやっていて、そんなところに惹かれていったんだ」
「は、はは……そうか……」
ああ、私はバカだったんだな。
勝手に舞い上がって、思い込みで浮かれて、挙句の果てにはなんでも自分の思い通りになると思って。
そんなことは今までなかっただろうになぜ勘違いしたんだろう。
彼が思わせぶりな態度をとったから? 今までの積み重ねがあるから? もしくは自分がそうだったから?
いいや、すべて違うだろう。
私がちっぽけで、バカな小娘だったからだよ。
「なぁトレーナー君、最後に1つだけ聞いてもいいかい?」
「うん、もちろんいいよ」
涙を必死に我慢しながらおそらくもう最後になるであろう質問をする。
「私のこと、君は好きだろうか?」
そう聞くと彼は少し悩んで
「まあ、大好きだよ」
と笑いながら言った。
それを聞いた瞬間涙があふれて止まらなくなってしまい、最後に想いを伝えたかったのだが上手くいかず震えた声で
「あぁ、私も大好きだよ、トレーナー君……」
と小さくつぶやいた。
そのあと、この空間にいることが耐え切れなくなった私はゆっくりと扉のほうへ足を進める。
その時ふと彼の前にあるティーカップを見ると一口も飲んでいない紅茶が見えたので、一言だけお願いをする。
「トレーナー君、せっかく君のために入れたんだ……最後に一口でも飲んでくれれば嬉しいよ……」
そう言い残し部屋から出ようとしたがあることに気づく。
一口も手を付けられていないティーカップ。
すなわち彼が一滴も薬を飲んでいないということ。
それに気づいた私はあわてて彼のもとへ走り、少し乱暴に胸ぐらをつかんで問いただす。
「トレーナー君! まさか君紅茶を一口も飲んでないっていうのかい!?」
そう聞くと彼はヘラヘラ笑いながら
「バレた? 飲んだっていうのはエイプリルフールの嘘でした~」
と軽々しく言った。
それを聞いた私は安堵で体中の力が抜け、そのままトレーナー君の胸へと倒れこむ。
「タキオンどうした!? やっぱり脚が!?」
「そうじゃない! 一体私がどれだけ……どれだけ……!」
「一体どうしたんだよ、嘘ついたことは謝るから機嫌を直してくれよ……」
薬のことなど毛ほども知らない彼は困惑した表情で私をなだめる。
そして私はまたあることに気づく。
「そういえば……さっきの質問の返答に嘘はあるかい?」
「いや、さっきのは全部本心だよ」
そう聞いた瞬間に私は顔が、いや体中がかぁっと熱くなり、まともに彼の顔を見れなくなってしまった。
「そういやタキオン、君も最後に大好きって言ってたけどあれは……」
「バカ! 今日はエイプリルフールだぞ! 嘘だ嘘!」
「ほんとに嘘でいいの?」
そう彼が聞いてきたので私は一言
「バカ、嘘に決まっているだろう……」
と、どっちでもとれるようなことを言って彼の胸に顔をうずめた。
余談になるが、マンハッタンカフェが顔を真っ赤にしてトレーナーから逃げる様子がその日の学園では目撃されたらしい。