ウマ娘短編集   作:他人丼

2 / 12
アグネスタキオンが悪夢を見てやらかしてしまう、そんなお話。


悪夢のような現実

「ウマ娘のおねーちゃん!」

 

 ある昼下がりトレーナーと街を歩いていると幼い少女に声をかけられたタキオン。

 

「どうしたんだい?」

「おめめすごく綺麗!」

「はは、私の目が綺麗か。よく気味悪がられるんだがなぁ」

「まあいいじゃないかタキオン」

 

 ただ少女がウマ娘を珍しがって話しかけただけに思えた。

 しかし少女はどこからかスプーンを取り出した。

 

「おねーちゃんおめめ綺麗!」

「ありがとう。ところでそのスプーンを取り出したのはマジックの類かい?」

 

 ただマジックを披露しただけだと思った。

 しかしなにか気味が悪い。

 

「オネーちゃんおメメきれイ」

「あ、ああ。ありがとう……」

 

 少女の言葉遣いがどこかおかしく聞こえる。

 

「そうだ、私は用事があるから失礼するよ。さてトレーナーくん、行こうか」

「そうだな。ごめんね、お嬢ちゃん」

 

 少し怖くなったタキオンはこの場を離れようとする。

 

「オネーチャンオメメキレイ」

 

 しかし少女に袖を掴まれ、動くことが出来ない。

 

「は、離してくれたまえ!」

 

 少女の手を振りほどこうとする、しかし

 

「ダメじゃないカ、ケガしタらどうするんダ」

「と、トレーナーくん……?」

 

 トレーナーに動きを止められる。

 

「オネーチャンオメメキレイオネーチャンオメメキレイ」

「やめてくれ! 離してくれ!」

「ウゴカナイデ、ケガシタラタイヘンダ」

 

 全力で振りほどこうとするがビクともしない。

 

「オネーチャンオメメキレイ」

「うわっ!」

 

 自分よりもずうっと小さい人間の少女に押し倒される。

 

「やめろ! やめてくれ!」

「ウゴカナイデ、ケガシタラタイヘンダ」

「トレーナーくん離してくれ!」

 

 恐怖のあまり、目に涙を浮かべるタキオン。

 

「オネーチャンオメメキレイ」

「やだ、やめてくれ……!」

 

 少女がスプーンをタキオンの顔に近づける。

 

「オネーチャンオメメキレイオネーチャンオメメキレイオネーチャンオメメキレイオネーチャンオメメキレイオネーチャンオメメキレイ」

「いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!」

 

 首を振り、目を瞑って逃げようとする。

 

「ウゴカナイデ、ケガシタラタイヘンダ」

 

 しかしトレーナーに頭を抑えられ、瞼をこじ開けられる。

 

「オネーチャンオメメキレイ」

「あ、あぁぁぁ……」

 

 目からは涙が零れ、下半身が湿る。

 

「オネーチャンオメメキレイ」

 

 どんどん目にスプーンが近づいてくる。

 

「ダカラ……」

「やだ、やだ……助けてくれ……誰か……!」

 

 

ソノオメメチョウダイ

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 絶叫とともに勢いよくベッドから体を起こすタキオン。

 

「はぁ……はぁ……なんだ、夢だったのか……」

 

 時刻は深夜1時、どうやら先程のことは全て夢だったようだ。

 

「それにしても恐ろしい夢だった……ん?」

 

 少し冷静になり、自身の異変に気づく。

 

「え、いや……は?」

 

 何故か布団が濡れており、パジャマの下半分も濡れている。

 

「いやいやいや、たかが怖い夢を見ただけでこの私が?」

 

 ありえない、そう頭の中で考えるがこれは夢ではなく現実である。

 

「まてまてまてまて、嘘だろ……?」

 

 誰かに問いかけるように呟く。しかし聞こえるのは時計が秒針を刻む音と、同室であるアグネスデジタルの寝息だけ。

 

「この私が悪夢を見ただけで失禁をしたと……?」

 

 顔を真っ赤に染め、頭を抱える。

 そしてどのようにすればこの状況を隠し通せるかを考える。

 

「服は着替えればいいとして問題はこの布団だ……」

 

 そう、服だけなら水洗いし、洗濯機に入れれば何も問題は無い、飲み物でも零しただけだと思われるだけだ。しかし、一緒に布団も洗うとなると話が違ってくる。

 パジャマのズボンとシーツ、掛布団が一緒に洗われていては誰もが事実に気づいてしまう。

 

「この事実を抹消さねば……そうだ! ラボ、ラボに行こう! あそこなら何とかできるはずだ!」

 

 思い立ったが吉日。早速着替え、黒の不透明のビニールに証拠品を詰め、静かに部屋を出ていく。

 

「ふぅ、これで何とかなりそうだ。デジタルくんが起きなかったのが不幸中の幸いだよ」

 

 タキオンは部屋を出る前アグネスデジタルが寝ていることをしっかりと確認していた。

 しかしアグネスデジタルは寝てはいなかった。

 タキオンが絶叫したタイミングで目を覚まし、五感全てで状況を把握しそのまま意識を失った。

 ただ気絶しただけであり何が起きてしまったのかはしっかり記憶されていた。

 このことを本にしようとし、彼女のトレーナーにバレて原稿を破り捨てられたのはまた別の話。

 

 

 

「よし、誰にも会わずに到着したぞ」

 

 時刻は深夜1時半、見つかれば怒られるどころか何が起きたのか全てバレてしまう。

 

「さて、どうやって証拠隠滅をしようか……」

 

 自身の脳をフル回転させて打開策を探るタキオン。

 

「燃やす……のはダメだな、不自然すぎる。ならば透明にすれば……いや、そんなことはできない。物を透明にすることは流石の私でも不可能だ」

 

 うんうん唸って考えるがどうにもいい案が思い浮かばない。

 

「トレーナーくんに相談……いやいやもっとだめだ。カフェ……もだめだ」

 

 この事実は自分だけの中に留めておきたい。

 決して他の誰かに知られてしまってはいけないのだ。

 

「薬品を使って干すにしても明日必ずカフェにバレる……バレたら最後、いつもの仕返しと言わんばかりになにかしてくるに違いない」

「私がどうかしましたか?」

「っ……!」

 

 声のした方を見るとマンハッタンカフェが立っていた。

 

「ど、どうしたんだいカフェ? こんな時間に用事でも?」

「それは貴方もでしょう。私はお友達が言うので来ただけです。ところでその袋はなんですか?」

「あ、いやこれはだな……」

 

 いつもなら瞬時に言い訳ができたがこの時はそうはいかなかった。

 カフェが何故かスプーンを持っており、先程の夢を思い出してしまっていたのだ。

 

「……もしかしてまた変な実験でもするつもりですか?」

「い、いやいやいや。それは実験とは何も関係ない。うん、全く関係ない。ところで何故君はスプーンを持っているんだい?」

「ああ、これですか。お友達が日頃の鬱憤がこれで晴れると言うもので持ってきただけです」

「そ、そうか」

 

 お友達め、なんてことを。

 そんなことを思っているとカフェが疑うような目を向けてくる。

 

「それにしてもさっきの誤魔化し方なにかおかしかったですね……」

「ふ、普通だろ!? 何も関係ないと言っただろう!」

「ますます怪しいです。中身を見させてもらいますね」

「そ、それだけはやめてくれ!」

 

 カフェを取り押さえ、なんとしてでも袋の中を見るのを阻止しようとするタキオン。

 しかし上手くはいかなかった。

 

「なっ……! 体が動かない!?」

「暴れられると面倒なのでお友達にお願いして金縛りにあってもらいました」

 

 お友達の力により、全く体が動かなくなってしまったタキオン。

 

「やめてくれカフェ! なんでもいうこと聞くから!」

「そのセリフを聞くのは何回目でしょうかね。そして貴方がそう言っていうことを聞いたためしはありません」

 

 カフェは袋に手をかけ、結び目を解く。

 

「そうだ! コーヒー! 極上のコーヒー豆をプレゼントしよう!」

「それはありがたいですね。袋の中を確認してから詳しく聞くとしましょう」

「やーめーろー!」

「やめません、貴方が私に変な薬を飲ませて一日中発光していた恨みです」

 

 そういい袋を開け、中身を確認しだすカフェ。

 

「これは……パジャマと布団……?」

「あ! 大変だ! カフェ、UFOがいるぞ!」

「何故こんなものが……?」

「あ、カフェ! あっちに火星人がいる!」

「しかも濡れている……」

「カフェ大変だ! 隕石、隕石が落ちてきた!」

「まさか……おねしょ!?」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 タキオンの健闘むなしくカフェに全てバレてしまった。

 

 

 

「もう終わりだよ、何もかも……プランAはとうに潰れ、プランBももう無理だ……可能性の果てへと到達してみたかったなぁ……」

「いや、おねしょがバレただけで大袈裟ですよ 」

「うるさい! 私にとっては重大事件なんだ!」

 

 部屋の隅で体育座りをしてしょぼくれるタキオン。

 

「こんなはずではなかったんだ……私の計画では全てが完璧に進むはずだったんだ……なのに、なのに……!」

「それにしても貴方が、ふふっ……おね、しょふふふっなんて……」

「あー! 笑ったな! 今笑っただろカフェ!」

 

 立ち上がり、カフェの方へタキオンは向かう。

 

「だって、おかしくって……ふふふふっ」

「君は友人だと思っていたがどうやらそれは私だけのようだな! 私の友人ならこんなことで笑ったりはしないはずだ!」

「私もこの前友人だと思っていたのに変な薬を飲まされて一日中光って表に出れなくなったことがあったような……」

「しかし、友人の不祥事を笑って誤魔化してくれるほどいいものはないと思うんだ。カフェ、君もそう思うだろう?」

 

 事実、カフェが笑い飛ばしたことで少し気が楽になった。

 

「ほんと、変わり身が早いですね……ところで何故あのようなことに?」

 

 カフェが袋を指さし、タキオンに尋ねる。

 

「いやぁ……なんというか……そのぉ……」

「寝る前に紅茶を飲みすぎでもしたんですか?」

「そうではなくてだなぁ……なんというか……夢を見てね……」

「夢……?」

 

 タキオンは隠すことを諦め、これまでの全てをカフェに話した。

 

「つまり悪夢を見てその恐怖で……ということですか?」

「いや、それはなんというか……」

「違うんですか?」

「……その通りだ」

 

 タキオンは抵抗するのを諦めた。

 

「ところであれはどうするんですか? あのままにって訳にはいかないでしょう」

「汚れなどは薬品で落とせるが問題はその後洗って乾かす場所だ……」

 

 タキオンはしばらく考えるがいい案が出ない。

 見かねたカフェがアドバイスを出す。

 

「ここに干せばいいんじゃないですか? どうせ私にはバレてますし鍵をかけておけば私と貴方以外入れませんし」

「それだ! その手があった! そうと決まれば早速行動だ!」

「良かったですね、では私はこれで」

 

 そういい、カフェは部屋から出ていこうとする。

 

「えー!? カフェも手伝ってくれよー!」

「なんで私が貴方のおねしょの処理をしないといけないんですか。もう眠たいんです」

「行かないでくれよ、一緒にいるだけでいいんだ」

「なんで手伝うわけでもないのに居ないといけないんですか……あ、なるほど。そういう事ですか」

「どうしたんだい?」

 

 カフェがなにかに気づく。

 

「幽霊が出るかもと思ってひとりが怖いんですね」

「ま、まさか! そんなはずないだろう!」

 

 明らかに目を泳がせながらタキオンは反論する。

 

「図星ですか……ま、いいですよ」

「本当かい!? やはり君は最高の友人だよ!」

「但し、今度スイーツでも奢ってくださいね」

「えー!?」

「えーじゃありません」

 

 そうしてタキオンは布団等を処理し、カフェと少し話してから部屋に帰って寝たのであった。

 また悪夢を見るかもと思い、寝つきが悪かったが何も無く、平穏な朝を迎えた。

 

 

 

「それで今日は寝不足なのだよ」

「タキオンも悪夢で目を覚ますことなんてあるんだな」

「心外だな、私だって怖いものはあるさ」

 

 昨日の(正確には今日だが)のことをトレーナーに話す。

 もちろんあのことは秘密にしてだ。

 

「にしても聞くだけでも恐ろしい内容だな」

「当たり前だとも、夢だから良かったものの死を覚悟したんだからな」

「まあでも夢でよかったね」

「全くだよ、夢の中で君は助けてくれるどころか私のことを抑えつけていたんだからな」

 

 トレーナーと話しながら街を歩く。

 そうすると声をかけられた。

 

「ウマ娘のおねーちゃん! おめめすごく綺麗ね!」

 

 振り向くとスプーンを持った少女が立っていた。




彼女にとって何が悪夢のような現実だったんでしょうか……
彼女がこの後どうなったかは……いえ、語らないでおきましょう。
それでは私はこれで失礼します。



感想や評価をくれると今後の励みになります。
また書いて欲しいキャラなどがいたらあげてもらえれば書く可能性が高くなります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。