『ごめんデジタル、明日予定入って行けなくなってしまった』
ピコンと通知音と共にスマホの画面にメッセージが表示される。
『わかりました。あの、夜少しだけでもいいのでお時間ありませんか?』
『ごめん……それも厳しそうなんだ……』
1週間前から約束していたのにトレーナーさんがあまりにも急な予定変更をするので少し戸惑ってしまう。
『あのでも、ずっと楽しみにしてたのでなんとかなりませんか?』
『ごめん、無理なんだって』
『あ、すいません……しつこくしてしまって……』
少し怒らせてしまったようだ。
でも、仕方ないじゃないですか。
トレーナーさんは忘れてるかもですけど明日はあなたの誕生日なんですよ。
日頃の感謝を伝えたくて、せっかく予定を立てたのに、それを前日で急に取りやめになったら悲しいじゃないですか。
『いや、大丈夫だよ。ごめんな』
なぜだかその返信に既読を付けられず、そのまま寝てしまった。
次の日、用意していた誕生日プレゼントだけでも渡そうとトレーナー室に行った。
おそらく仕事があって今日の予定が崩れてしまっただけなのに、しつこくしてしまったことも謝りたい。
そう思いトレーナー室に居るのだが誰か居る気配がない。
お昼時だしご飯でも食べているのだろう、食堂に向かおうかどうか悩んだが結局向かうことにした。
しばらく歩いているとトレーナーさんともう1人、同僚らしき人物と2人で一緒に話しながら歩いてるのを見つけた。
話をしているので話が終わるまで待とうと壁にもたれて気配を消していました。
そしてただなんとなく、話の内容が気になり聞き耳を立ててしまいました。
そんな卑しい事をした罰なんでしょう、2人の会話は私が聞きたくない、知りたくない内容だったのです。
「まじなんで今日なんだよって話だよ」
「今日はなにかあったのか?」
「いや、俺今日誕生日なのに予定入れようとするかって話」
「あー、朝話してた例の」
「そう、今日は休むってずっと前から決めてたのに……てか向こうも俺の誕生日くらい把握してるはずだろうになんでわざわざ被せるようなまねするんだよ」
「まあ災難だったな」
「災難どころの話じゃねぇよ。あれのせいで前からの予定がパー、形だけでも今日仕事しないといけないはめになったからな」
「そんなピリピリするなよ、向こうにも事情はあるんだろ。てか前もって言われてたんなら日程ずらすとかキャンセルとかできただろ? なんでしなかったんだよ」
「……昨日まで普通に忘れてた」
「いや、忘れてたってお前……いつ言われてたんだ?」
「1週間前から……」
「1週間前って……」
「いや仕方ないんだって! 担当が芝もダートもやるからそれのメニュー考えたり、ただただ話して気づいたらもう日が暮れてる。そんなんで予定覚えてられるかっつうの!」
「そこは突っぱねないお前が悪いだろ」
「お前もできてない癖によく言うよ」
「ごもっともです」
「ともかく! 俺の今日の予定を邪魔したのは許されないし許してはいけないことなんだよ! 罪人、ギルティ、死刑決定! 法で裁けないなら神が裁け! 八百万も神が居るんなら誰か裁け!」
「荒れてんねぇ」
「あーまじでダルいー、今頃贅沢なランチタイムのはずなのになんで男2人でむさ苦しい昼食なんだよ……」
「おい」
「冗談だよ冗談、トレセン冗談」
「なんか寒くないか?」
「シンボリルドルフなら笑ってるさ」
楽しそうに2人が話す傍ら、私の視界はぐにゃぐにゃと歪んでいた。
そっか、トレーナーさんは自分の誕生日しっかり覚えてたんだ。
それで今日は一日好きなことするつもりだったのに私のせいでできなくなっちゃったんだ。
トレーニングのあと話すのもほんとは嫌だったんだ。
いつも楽しそうに笑顔で話してくれたのに、全部勘違いだったんだ。
そしてトレーナーさんからしたら私は罪人なんですね。
もう、よく分からない。
ふらふらする視界の中、おぼつかない足取りで自分の部屋へと向かった。
ベッドの上でうずくまり、声を殺して涙を流す。
さっきの会話が頭の中で繰り返し流れる。
『ともかく! 俺の今日の予定を邪魔したのは許されないし許してはいけないことなんだよ! 罪人、ギルティ、死刑決定! 法で裁けないなら神が裁け! 八百万も神が居るんなら誰か裁け!』
「うぐ……おぇ……」
あまりのショックで吐きそうになる。
楽しいのはいつも私だけでトレーナーさんは無理して合わせてくれていた、彼が大人だからか私が子供なのか分からないが一切そんなこと気づかなかった。
良く考えれば嫌われていて当然かもしれない。
休日だろうが出かけるのに着いてきてもらって、朝から夕方まで拘束して時間を無自覚に奪っていた。
楽しそうにしていたけど、きっとそれは気をつかっていてくれていたのだろう。
「あぅ、うぐっ……」
思い返して涙がどんどん出てきて止まらない、彼の楽しそうな顔を、一緒に語った事を、悩みを聞いてくれた時の真剣な顔を。
そこで間抜けな私はやっと気づいた。
「そっか……あたしトレーナーさんのこと……でももう……」
気づいたところでどうにもできない。
賽が回っていればまだ可能性はあったが、もう目は確定してしまった。
私が目を決めてしまった。
「あ、プレゼント……」
ふと今日のために用意したプレゼントを思い出す。
この前出かけた時に財布がボロボロだったのをみて、新しくした方がいいと思いプレゼントに買った財布。
キラキラしたリボンにHAPPY BIRTHDAYと書かれたメッセージカードが挟まっている。
もちろん中にはメッセージが書いてある。
『お誕生日おめでとうございます! 芝もダートもなんて無茶を受け入れてくれるトレーナーさんと出会えてとても嬉しいし充実してます! これは日頃の感謝の品です!』
綺麗に縁取られ、キラキラしたイラストの中に書かれた感謝の言葉。
「うぅ……なんで……」
ベッドに横たわり、そのまま目を瞑る。
久々に泣いてしまったせいか私はあっという間に意識を手放してしまった。
どれくらい時間が経ったんだろう。
明るかったはずの部屋は暗くて、すっかり日が暮れてしまっている事がわかる。
「うぅ、今何時……」
「おや、お目覚めかい」
瞼を擦りながら体を起こすとタキオンさんが座っていた。
「タキオンさん……? なぜここに……?」
「いやなに、トレーナーくんから君への伝言を預かっていてね」
いつもなら驚いて飛び起きてしないところだが、今日はそんな元気もなく横になったまま話しかけてしまった。
「あの、なにかご用事ですか……」
「ああ、私のモルモットくんから君のトレーナーくんが君と連絡がつかないから、私に伝えといて欲しいと言われたんだよ」
「連絡……?」
「そうとも。まあ、あんなに疲弊して眠っていたら気が付かないのも無理はないと思うがね」
そう言われスマホをつけて通知を見ると、確かにトレーナーさんからメッセージがきていた。
『早めに用事が終わったけど会えるか?』
1件だけ、しかも会ってもいいといった内容。
今回も無理してこのメッセージ送ってるのかもしれない。
でもトレーナーさんの方から誘ってきたことはなかったはず……
などと考えているとけだるげな声でタキオンさんが話し出す。
「確認したかい? まあ、何が書いてあったかは知る由もないし知ろうとも思わないのだが、大方彼となにか問題があってその後に会いたいといったメッセージでも送られてきたのだろう」
まるで見ていたかのようにタキオンさんは話す。
「ま、そんなに迷うくらいなら会って早く問題を解決した方が私はいいと思うがね」
「そう、ですね……」
正直に言うと顔を見るのも苦しいが、会いたい気持ちが勝ってしまい結局向かうことに決めた。
「よ、デジタル」
「……こんばんは」
トレーナー室へ向かうとパソコンとにらめっこしているトレーナーさんが居た。
まだ仕事が終わらないといった感じにカタカタとキーボードを叩く音が部屋に響く。
「もうそろそろ仕事終わるけどご飯でも食べに行くか? 前からの約束だったし」
「いえ、もういいんです……」
気を使ってくれている、そう感じた。
だってそうだ、今日あんな話を聞く限り、私と一緒に出かけるなんて思うわけが無い。
「なんでだよ、俺今から暇だし前から楽しみにしてたんだったら行こうよ」
「だって……トレーナーさんに迷惑かけたくありませんし……それに、どうやら嫌われているみたいですし……」
言ってしまった。わざわざ言わなくていいことを言ってしまった。
でももういいか、終わってるんだし。
「嫌ってるって、誰がだよ」
「だって、トレーナーさん今日のお昼話してたじゃないですか!」
「お昼……?」
「いいですよ! 気を使わなくたって! あたしがバカだったんです、自分勝手でトレーナーさんを困らせてあなたの時間を奪って! 嫌われて当然ですよね、罪人ですよね!」
ああ、涙が止まらない。
トレーナーさんが困ってる顔が滲んで見える。
あたしのせいだ、あたしが困らせてるんだ。
「えっと、もしかして食堂でしてた話のこと?」
「そうですよ! 前々から予定があったのにあたしが誘ったせいで出来なくなったって話ですよ!」
「あー……ちょっと勘違いしてるな?」
「勘違い……?」
なんのことだ、あの話に勘違いできるところなどあっただろうか。
「えっとな、昼話してたのはな、今日はデジタルと出かける予定だったのに俺が仕事断るのを忘れてていけなくなったことに対しての愚痴だったんだよな。や、たぶんデジタルの話してたから勘違いしたんだろうと思うけど1週間前から決めてた予定っていうのはお前と出かけることで、誕生日に被せられて俺がすっかり忘れてたのが今日の仕事なわけ」
「えっとそれじゃあ……」
「うん、俺は今日デジタルと出かけるのを楽しみにしてて、たぶん誕生日を祝ってくれるんだろうなって思ってた」
話を要約すると、トレーナーさんは私とのお出かけを楽しみにしてた、愚痴は仕事に対してだった、別に嫌われてはいなかった。
「しゅ、しゅしゅ、しゅいましぇぇぇん!!」
「やめてデジタル! トレーナー室で担当が土下座とか誰かに見られたら大事だからやめて!」
勘違いとはいえトレーナーさんにあんなことをしてしまった恥ずかしさで顔をあげられない。
「この度はデジたんの勘違いでご迷惑をおかけしてしまってしゅいません!」
「いや大丈夫だから! 全然大丈夫だから!」
「でも嫌われてるかと思ってしまって……」
「嫌ってない嫌ってない! むしろ好きだから、大好きだから!」
「はえ……?」
好きって言われました。
大好きって言われました。
もしかしてこれは愛の告白かもしれません。
「君が走る姿が、好きなことに全力を尽くす姿が好きなんだ、そこが大好きなんだ」
「そ、そうなんですね……」
「勘違いさせて悪かった……」
しばらく黙ったあと、トレーナーさんが話し出す。
「まあ今回のことは俺も悪かったし、謝るよ。お詫びと言ったらなんだけど晩御飯でも食べに行こうか、奢るよ」
「あ、あの、ありがとうございます」
そう言って財布の中身を確認しようとした時だった。
ブチッ、チャリーンチャリーン
財布が破れ、小銭が床にばらまかれた。
「あー……そろそろヤバいって思ってたけど寿命がきたか……」
「見事にぶちまけましたねぇ……あ、そういえば!」
カバンの中から綺麗に包装された物を取り出す。
いっときはもう渡せないと思ったていた誕生日プレゼント。
「あの、これ誕生日プレゼントなんですけど……」
「おお、これ財布じゃないか! しかも結構高そうなやつ!」
「日頃のお礼とあたしも財布がそろそろ限界そうだなって思っていたので……」
「いや、ありがたい。タイミングもバッチリだな」
「ですねぇ〜」
「よし、それじゃあ行くか! 今日はとことん騒いで食べまくろう!」
「はい!」
勘違いもとけた、もうこんな勘違いはないと思うが気をつけよう。
トレーナーさんに告白もされたことですしね。
そして私たちは出かけることにしたのであった。
「そういえばさっきトレーナーさんデジたんのこと、す、好きって、大好きって言ってたじゃないですか……」
「ん? ああ、好きだよ、大好きだ。君の生きる様は同志として尊敬できるし誇りに思うよ!」
好きって言われました。
大好きって言われました。
告白じゃなくて友愛の方でした。
早速勘違いしてました。
誤字脱字等多いのであったら教えてください
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