リーリエロスでカントー行ったよ   作:バケットモンスター、縮めてバケモン

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地球の夕日は、この世で最も美しいものである。
その輝きを纏う彼女の姿もまた、この世で最も美しく、儚いものである。ピッピカチュウ。

オーキド・ユキナリ


m9(^Д^)

扉が開いた瞬間、リーリエが首をすくめる。

もともと異世界産の俺は慣れてるけど、ポケモンの世界生まれかつお嬢様のリーリエにはこのけたたましい電子音の波はさすがに威力が高かったらしい。

 

「大丈夫?」

「クロウさんは平気なのですか……。だ、いじょうぶ、です。落ち着いてきました」

「慣れないようなら今日はやめとこうか?」

「いえ、いえ! 大丈夫です! クロウさんの好きなものを見てみたいので!」

 

う〜ん……。リーリエが苦しそうにしているのは見たくないな……。

でも、ここまで耐えてくれてるわけだし……。

やるか!

 

「まずはここでコインを買うんだ」

「コイン、ですか?」

「そうそう。このゲームセンターだけで使えるコインを買って、それでゲームができるんだ」

「なるほど……」

 

げっ、コインケースも買うの? 初期費用かぁ……。

そういえばゲームでは誰かから貰うんだっけ? うーん、流石にそこまでは調べてないな。仕方がない、2人分買うか。

 

「ではこちらがコインケースです。付属でコインが30枚入っておりますのでそちらで遊んでください!」

「あ、良心的。はいリーリエ、これ」

「えっ? 私もですか?」

「1人でやるより2人でやった方が楽しいからね。さ、やろうか!」

 

向こうではメダルゲームは得意だったんだ。よし、手頃な席に座って……。

 

「……この絵柄を揃えるのでしょうか?」

「スロットじゃねえか…………!!」

「スロット、というのですか? 楽しそうですね!」

 

お嬢様をギャンブルに誘ってしまった! ただの遊戯のはずだったのに! どうなってんだ、これはスロットでは!?!?!?

ていうかスロットは流石に経験がないぞ! 勘!? 鑑でやるしかないのか!? リーリエにかっこいいとこ見せたい!

 

「えーと……1、10、100からコインを入れれるみたいだね。一回に入れたコインの量が高いほど、成功した時に貰えるコインの量が多いみたい」

「なるほど……。このコインケースに入っているのは30枚ですから……1枚を30回か、10枚を3回やるかに分けられるわけでしょうか」

「成功するかなぁ……とりあえず……10枚で」

「いきなりですか!?」

 

一番倍率が高いのは7のマーク。続いてハイパーボール、スーパーボール、モンスターボール、カビゴン、キズぐすりの順。周りを見るに、他の台は絵柄が違うようだけど……。

これは運は絡まない。ほとんど目押しの勝負……のはずだ。見た目からして。

 

10コインベット。

 

「わっ、回りだしました!」

「ここからよ……」

 

タン。

ハイパーボール。

タン。

ハイパーボール。

ティウンティウンティウン!!!!

 

「な、なんですか!?」

「リーチ的な何かだと思う。ここでハイパーボールの絵柄を揃えれば……!」

 

タン。

 

「ごくり……!」

 

スロットが回る。

カビゴン。

モンスターボール。

キズぐすり。

ゆっくりと止まるスロットは……。

 

 

 

 

 

当たり!!!!!!!

 

 

 

 

 

「ハイパーボール!」

「やった!! やったよリーリエ! 俺ツいてるかも!!」

「あっ、たくさん出てきました! ここから……!」

 

ちょっとセンシティブな言い方をするリーリエにドギマギしながらも、俺はコインをケースにしまう。

一気に80枚くらい増えた。これならポリゴンを手に入れられる……!

 

「よし、このままじゃんじゃん行こう!」

「頑張ってください! がんばリーリエ、です!」

 

あああああああ!!!!!

がんばリーリエ! がんばリーリエですよ!

安売りはあかんですがまじでもうこれは元気がでちゃうね!!!!

 

 

 

 

…………。

 

「……く、クロウさん……」

 

………………。

100枚ベット。

 

「クロウさん?」

 

ハイパーボール。

スーパーボール。

カビゴン。

 

「クロウさん……」

 

…………100枚ベット。

 

「クロウさん!?」

 

モンスターボール。

モンスターボール。

きずグスリ。

 

「クソッ!!!!!!」

「クロウさん……!!」

 

100枚ベット。

 

「も、もうやめましょうクロウさん! 先ほどから外れてばかりです!」

「もう少しなんだ! もう少しなんだリーリエ! 次で出るんだって!!」

「おこづかいまで使ってるじゃないですか!! 楽しむというレベルを超えています!!」

 

ハイパーボール。

ハイパーボール。

ハイパーボール!

 

「やったあああああ! ほらみろリーリエ! 間違いじゃなかった! ほら800枚だよ! 取り返した!」

「クロウさん! 目が! 正気を取り戻してください! クロウさぁん!」

「はははは!!」

 

ほら、ほら!

どんどんコインが増えていくねえ!?

いける、いけるぞお!

 

「クロウさんッ!」

 

リーリエのおうふくビンタ!

こうかはばつぐんだ!

 

「痛え……」

「このゲームはちょっとだめです! 怖いですクロウさん! 他のゲームをやりましょう!」

 

俺の手を引っ張ってリーリエがやってきたのは別のゲーム。

波乗りピカチュウが、10秒の間にアイテムをとりつつサーフィンをするゲームだ。

アイテムの量によってもらえるコインが増え、またレア演出では波乗りの時間が増える。

コインを1枚入れたリーリエが操作レバーを俺に握らせる。

 

「落ち着きましょう! ね?」

「お、おう……」

 

軽快なリズムと共にピカチュウがサーフィンを始める。

出だしは良好。タイムアップまで走り切れたらコイン獲得。オジャマアイテムを取ってしまったらその時点でコインは没収。

さっきまで目押しスロットやってた俺にはこんなもん屁でもないぜ!

 

「可愛いですね、ピカチュウ」

「人気だよな。隣の『ふうせんピッピ』も似たような感じっぽいぞ。やってみたらどうだ?」

「いえ、私は見ているだけで楽しいですよ」

 

そうか……。これはこれで平和で楽しいのに……。

 

「クロウさんって、こういったことの経験がおありなんですか? 先ほどからとってもお上手ですが……」

「お、時間増えるやつゲット。……うんまあ、一通りはやったことあるんじゃないかな、こういうの。上手い下手は別として……っとと、あっぶね……」

「ますます謎です。クロウさんはここにくる前は何をしていたんですか?」

 

ここに来る前、か。

リーリエロスで……味のない人生を送ってたよ。

なんて、口が裂けても……

 

「あっ!?」

「ぐおっ!?!?」

 

オジャマアイテムが、ピカチュウにぶつかってしまった。

倍率二倍アイテムが、四倍アイテムが、報酬コイン×10アイテムが……。

あのままゴールしていたら、400枚はくだらなかったんじゃ……。

 

「…………」

「あの……クロウさん……?」

「………………」

「も、もともと1枚でしたから……ね? 元気を出してください」

「…………」

「クロウさん?」

「………………」

「クロウさん……???」

 

100枚ベット。

 

「もう!!!!!!」

 

 

 

 

「いやはや、お見苦しいところをお見せしました……」

「あんなクロウさん初めてみました……」

 

ゲームセンターを出て、疲れたような顔で笑うリーリエ。

結果としては+。増えたり減ったりを繰り返して、600枚で終わった。

まあ初期の30枚が増えたのなら上出来だよ、上出来。

 

「あとは、景品交換所でコインを交換するんだ」

「なぜゲームセンターと景品交換所が離れているのですか? 店内に設置したほうが楽だと思うのですが……」

「ふ、雰囲気じゃないかな。ほら、あのうるさい音の中だと景品をじっくり決められないでしょ?」

「……そういうものですか」

 

そ、そういうものだよ。

さて、600枚で買えるものは……っと。

 

ニトロチャージのわざマシン。

最新モデルのリュックサック。

かみなりのいし。

いかりまんじゅう。

それと……。

 

「リーリエ。これ、要る?」

「……あ」

 

俺の指差した先に書いてある文字を読んで、リーリエが懐かしそうな顔をする。

 

「ピッピ人形……」

「どうかな。いざという時には囮にも使えるよ」

 

リーリエはカントーに来る前、愛用のピッピ人形を譲渡している。

それはいつまでも、プレイヤーの……俺に(まじな)いのように深く根を張り、『たいせつなもの』として(ここ)に残っている。

だから俺は……返したかった。

彼女がくれた、一夏の思い出を。

 

「……いえ。大丈夫です」

「……どうして?」

「ピッピ人形は……たいせつなものですから」

 

リーリエは夕陽に照らされて、絵画のように美しくて。

懐かしむように細めた目をこちらに向けた。

 

「たいせつなものは、二つあっちゃいけないんです」

 

その目は俺を見ていなかった。

俺の前にある、何かを。

それこそ、『たいせつなもの』を見ていたんだろう。

 

「……そっか」

「はい」

「じゃあ……いかりまんじゅうにしようかな」

「はい! 帰ったらみんなで食べましょう!」

「12個入りだから4人で分けて1人3つだね」

「……!! はい! お母様も!」

 

そうして俺は味のしないお土産をコインと交換し、リーリエに手を差し伸べる。

もれなく、ポケモンども三匹にまんじゅうを食われて俺の分が無くなったのは言うまでもない。




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