リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
前略、俺クロウ。
今日は風が強くて、リーリエの帽子が飛ばされてしまった。
手を伸ばしたリーリエが、たまたま橋の上にいたもんで。
ぐらりと、その小さな女の子はバランスを崩した。
「リーリエ!」
「きゃっ!?」
リーリエを引き戻し、そのまま帽子を掴む。
その頃には俺の体は宙にいたわけで、もうどうしようもなくなってフリスビーみたく帽子をリーリエに返した。
もちろん、俺は───。
ざぱんっ!!!!
「ゲホッ、かは、こほっ!」
うおおおあっぶねえ死ぬかと思った! リーリエのために!って飛び出したのは良いけどその後のこと考えてなかったわ!
いやあ、まあ体勢の問題から水を飲み込んでしまったわけだけど、何を隠そうこの俺はアローラからカントーまで泳いで渡った男。
ここはすぐにリーリエのもとへ戻って……っと、お?
「割と流れが急……」
あっ、もうリーリエの声が聞こえん! ごめんリーリエ! ちょっくら流されてくるわ!
流されて行ったらそのうち捕まるものが見えてくるはずだ!
しかし、こう流されていると渡カントーの時みたいで楽しいな!
あの時はもはや執念でこっちまで泳ぎ切ったわけだし。
リーリエのいないアローラに転生したところで意味がないんよなぁ?
「……こぽ」
「ん? 誰だ?」
流されている俺の隣で、泡がはじけた。
ちゃぷっと水面から顔を覗かせたのは……。
「ガメ」
「ゼニガメ!!!!」
「がっ!? ゼニー!」
ガメガメガー!
……じゃなくて。
「どうしたんだお前。俺になんか用?」
「ゼニ? がめがー。ゼニゼニ!」
「…………? もしかして、俺が溺れてると思って助けようと?」
「ゼニ!」
わお、なんてお利口な子!
「はは、大丈夫だよゼニガメ。俺は溺れてるんじゃないから」
「ぜに? ぜにがー!」
「漂流してるんだ」
「!?!?!?!?」
途端、ぐいぐいとゼニガメは俺の服の裾を噛み、浅瀬まで引っ張ろうとしてくれる。
「なんだよ、お前優しいやつだなぁ。いつもここで人が居ないか見張ってるのか?」
「ゼニ!」
親指(?)を立てたゼニガメ。この人馴れしてる感じ、もしかして誰かのポケモンか?
お、足がついた。ありがとうな、ゼニガメ。もう歩ける。
「ゼニ!」
「なあお前、腹減ってないか? お礼させてくれよ」
「ゼニ……? ガメー! ゼニガー!」
「お、じゃあ行くか! パンケーキみたいなやつでいいか? それともポフィン?」
「ガメ」
「ポフィンだな」
確かカントーの全タウンに、出張でポフィンショップが出来てたはずだ。リーリエにプレゼントしようとチェックを付けてた。
えーと、ここはどこだ? 何タウン?
「……クチバシティ? 結構流されたな」
「ガメ……」
「大丈夫だ。出てこいケンタロス」
ぶもうと鳴き声を上げたケンタロスにゼニガメが俺の後ろに隠れる。
驚かせちゃったかな。
「怖がらなくて良いんだぞ。ケンタロス、こいつを乗せてやってくれ。命の恩人なんだ」
「ばもう」
「いいってさ!」
膝を曲げしゃがんだケンタロスに、恐る恐ると言った感じでゼニガメがライド。
すぐさま目を輝かせ、きゃっきゃとはしゃぎ始めた。
こどもだなぁ……。
「それじゃ、行くか」
「ガメ!」
───。
クチバシティのポフィンショップは、昼飯時と言うのもあって客はまばらになっていた。ポフィンだけじゃお腹膨れないもんね。
皿に盛られたポフィンをガツガツ食べるケンタロスに対して、ゼニガメは野生だったためかちょっとずつ齧っている。
どれ、俺も一口。
「…………蒸しパンだ」
マカロンと蒸しパンを足した感じの味がする。硬いけどふわふわでほんのり甘い。アローラのマラサダとは何か違いがあるんだろうか? マラサダをまず知らないからなぁ。
しっかしまあ、俺の格好のまあなんとみすぼらしいこと。ひったひただよひったひた。もうおひたし。
この世界に来た時の服と違って今着ている服……リーリエがプレゼントしてくれた服はすぐに乾く様子が無い。下手すると風邪を引くかもな。
「がめが……」
「もう食べたのか。早いなぁ……おかわりいるか?」
「がめ!」
そうかそうか。そりゃあ良い。
席を立ち店員さんにおかわりを要求する。
支払いをしていると、店員さんが小さく「あっ」と声を上げた。
「ん? どうかしました?」
「いえ……その……お連れのポケモン様が……」
「え?」
振り返ると、そこには謎のお姉さんに両脇から持ち上げられているゼニガメの姿があった。
「ぽっ、ポケモンドロボー!?」
「ジュンサーよ失礼ね! この子にちょっと用があっただけよ!」
「あ、そうなの」
まあその制服見ればわかるよね。
「このゼニガメ、もしかしてこの辺で有名なヒーローくんじゃない?」
「ヒーローくん?」
「そう。川に落ちた子供とかを助けたり、落とし物とかを拾ってくれたりするの」
「はえー……。お前すごいんだな」
「ゼニガー!」
えっへんと胸を張るゼニガメ。ジュンサーさんに抱えられたまま威張り始めた。
「しかし、そっかあ」
「?」
「ゼニガメ、なんならゲットしようかと思ってたけど……地元のヒーローって感じじゃあ連れて行くわけにも行かないよな」
「いいんじゃない?」
「え?」
「どうなのヒーローくん。この人は君と一緒に戦いたいんだって」
ジュンサーさんがゼニガメと目線を合わせる。
ゼニガメはチラリとこちらを向いたあと、
「がめがー!」
と笑顔を見せた。
「ほら、良いって」
「はぇ!? いいんすか!? なんで!?」
「この子がそうしたいって決めたなら良いんじゃないかしら」
俺から何を感じたのか、ゼニガメは俺について来てくれるらしい。
「それに治安維持や人命救助はもともとジュンサーの役目よ」、と付け加え、ジュンサーさんが俺にモンスターボールを手渡す。
「…………良いのか?」
「がめが!」
そっと差し出したモンスターボールをゼニガメがタッチし、その体が光に包まれる。
俺の手のひらの上でゆっくり3回ボールが震え、カチッと音が鳴った。
ゼニガメ、ゲットだぜ。
「この俺のポケモンになったからにはリーリエ親衛隊の真髄を叩き込んでやろう」
「かげ!」「えぼ!」「ぶもう」
あっ、震えてる。なんだよ今更怖気付いたかヒーロー?
もう逃げられないねえ……! 君も魂をリーリエに捧げるしかないねえ……!