リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
ゼニガメが俺の手持ちに入った翌日。
「あ゛ーっ。あ゛ー死ぬー」
「タオルの替えを持ってきました……クロウさん、入っても大丈夫ですか?」
俺は無事に風邪を引き、ソファで死んだ目をしていた。
「そこに置いておいて……。風邪がうつったらだめだ……」
「でも……」
「風邪は万病のもと。舐めたらダメだよ」
「現在進行形で風邪っぴきのあんさんが言うことちゃうで」
カーテンの向こうで眠そうな声のマサキが苦笑する。
ここ最近はリーリエママ……ルザミーネの毒を抜くための研究を続けていて寝不足らしい。何か手伝うことはないかと聞こうとも思ったが、専門的な内容を聞いても素人の俺がわかるはずもない。病気が治ったら力仕事とかやろう。今の自分が情けないことこの上ないのだ。
「しかしまあ、クロウくんがこの調子じゃあなぁ」
「……? 博士、なんかわかったんです?」
「ウツロイドの毒に効きそうなきのみの文献を見つけてな」
「母様は、それがあれば治るんですか!?」
「あくまで効きそうってくらいや。『稲色のモモンの実』って言うんやけど、これが簡単には手が出ない場所にあるんや。イワヤマトンネルの奥の奥にでっかい木があるらしくてな、その木になるって書いてあんねん」
………………。
「イワヤマトンネル……ポケモンさんも多いですよね。私一人では行けそうに無いですね……」
「それに、イワヤマトンネルには今、凶暴なカビゴンが住み着いてるらしいねん。せやからクロウくんに任せようと思ったんやけど、本人が風邪じゃあ無理はさせられへん。風邪が治ったらリーリエちゃんのために行ってくれへんか、クロウくん」
………………………………。
「クロウくん?」
「寝てしまったのでしょうか……? クロウさん、開けますよ? …………って、え……?」
「おいおい……クロウくんもしかして」
「窓から逃げた!?」
全身が重い。
でもルザミーネさんはもっと辛いはずだ。
「クロウさん!? どこに行ったんですか!?」
イワヤマトンネルに決まってるだろうJK。
「クロウさんを追いかけないと……!」
「まずはジュンサーさんに連絡や。イワヤマトンネルはポケモンの巣窟。トレーナーじゃない一般人が行っても襲われるだけや」
「でもクロウさんが!」
「……信じるしか……あらへん……」
着いたぞイワヤマトンネル。あーしんど。でも風を浴びてたら風邪も良くなってきたわ。洒落じゃないよ?
さて、入り口は……っと。
おわ、暗い。さすがは洞窟。
「頼んだ、ヒトカゲ」
「カゲ……? カゲカゲ!」
「体調なら大丈夫だ。もし心配してるなら、早めに稲色の……? モモンの実? を持って帰ろう」
眉をひそめながらもヒトカゲが尻尾で暗闇を照らす。
湿った空気が喉にまとわりつき、ごつごつした石や岩が足元を邪魔する。それに、そこかしこからポケモンの声がする。いつ襲われるかわかったものではない。
しかし引くわけにも。ここまで来たんだ、持って帰ってやる。俺はアローラからカントーまで泳ぎきった男だぞ。イシツブテの一匹や二匹、拳で粉砕してやる。
……あなぬけのヒモとか、持ってきてないな。
「帰り道も覚えないとか……」
やっぱり、こんなとこにリーリエを連れて来れない。危険すぎる。
「カゲ!」
「どうした、何か見つけた?」
ヒトカゲが何かを拾い上げ、俺に渡してきた。
細長い棒で、後ろの方が丸く膨らんでいる。
尻尾の炎でよく照らすと、丸いのはモンスターボールの膨らみ。蛇を操る笛のような形をしている。……というか、そもそもこの棒自体が笛なのか?
「……だれか……いる……のか……?」
「!?」
「だ、誰だ!?」
「ここ……だ……」
こん、こん、と石で岩を叩く音が響く。
ヒトカゲが照らした先には、腹部から大量の赤黒い液体を流している男の姿があった。
「……!? どうしたんですかそのケガ! えっと、応急処置を……オレンの実!!」
オレンの実を鞄から出して皮を剥く。
潰して果汁を傷口周辺に振りかけ、皮で血を拭う。
「うっぐ、あああああ!!!!」
「辛抱してください。すぐに良くなります。ゼニガメ、出てきてくれ」
「がめが……!!」
モンスターボールから出たゼニガメが、男を見て絶句する。
「周囲の警戒を頼む」
「ガメ!!!!」
洞窟の中だし、いわタイプやじめんタイプのポケモンが多いはず。タイプ相性は良いと思う。
「あなぬけのヒモは持っていますか?」
「持っていないが……手持ちのポケモンが『あなをほる』を覚えている……」
「……モンスターボールはこれか」
「ひんしの状態だ……カバンからげんきのかけらを使ってくれ……」
「何があったんですか? こんなになるなんて」
「俺は……ポケモンレンジャーを……やって、いるんだが……。急に暴れ始めたポケモンがいると……ぐっ……聞いて、来たんだ。その笛は……そのポケモンの注意を引く……。というより、眠りから覚ますアイテムなんだが……。こんなに強いとは、思っていなかった……」
「そんなポケモンが、この洞窟に……?」
「普段はたくさんきのみを食べれば眠るんだが……ずっと暴れているようで……」
「ガメッ!!!!!!」
ゼニガメが叫ぶ。
振り返ると、そこには巨大なカビゴンがいた。
その等身は、俺やリーリエ、マサキを縦に並べてもゆうにそれを越える。糸目であるはずの目は赤く光り、俺が先ほどまで使っていたオレンの実をじっと見ていた。
「逃げてください」
「……え?」
「ポケモンは治療してあります。俺が時間を稼ぐので、逃げてください」
「き、君は……?」
俺は手に持っていたものを……
「こいつを吹けば、カビゴンの注意を引けるんですよね」
「待て、よすんだ。君まで怪我を……いや、死んでしまうぞ」
時間はない。
……ピィィィイイイ!!!!
「モ゛アアアアアアアアア!」
「こっちだ!!!!」
「……くっ。すぐに助けを呼ぶ! サイホーン、『あなをほる』!」
ポケモンレンジャーが離脱した。あとはこいつが疲れ果てるまで逃げるだけ。
風邪の身体で。
ふらつき、もつれて転んだ俺の頭上をカビゴンの太い腕が通過する。
数拍の後、岩をえぐる爆発にも近い音が鳴り、身近に死を感じた。
「ゼニガメ、『みずでっぽう』!」
「ガメガメガー!」
「モアッ……」
「いい目眩しだ!」
カビゴンの横をすり抜けてヒトカゲとゼニガメを回収。抱えたまま洞窟を走る。
重くて重くて仕方ないが、ヒトカゲは灯り。ゼニガメは攻撃。どちらが欠けても俺は死ぬ。
走れ、走れ、走れ!!
この狭さじゃケンタロスは出せないし、手持ちで1番強いイーブイのシャドーボールは効果がない。他の技は物理技のため近づかなければならない。身軽な戦いをするイーブイには分が悪い。
「モ゛アアアアアアアアア!」
「うおっ!?」
カビゴンが地面を踏みつける。
軽い地震のようにイワヤマトンネル全体が振動し、足を取られた俺は尻餅をついてしまった。
そして、頭上から迫り来る右ストレート。
「戻れ二匹とも!」
二匹をモンスターボールに戻す。これで二匹がぺちゃんこになることは免れたが……。
人間はそうもいかない。
俺は超重量のパンチを真上から直に受けた。
「か゜ッッッッッ───」
体から何かが砕ける音がする。
そして、俺は俺の体は地面に埋まり、ボゴッという音とともに空中に放り出された。
……空中?
ひゅるひゅると落下する俺の体。
眼下には一本の木が生えていた。
その枝葉がクッションとなったのか、落下死は免れている。
でも全身が痛い。カビゴンに殴られる時に盾にした両腕が変な方向に曲がったまま動かない。
一際太い枝に引っかかった俺はどうすることもできないまま、意識を落とした。
◇
「えぼぼ。えぼぼえぼ!」
「…………ん」
「がめがー! がめがめ!」
「カゲ!」
口の中に何かがある。
柑橘か? すっごく甘くて美味い。 身体の芯から痛みが抜けて行くような……。
…………。
「はっ!?」
っと身を起こした瞬間、バランスを崩して俺は木から落ちた。
尻に鈍痛が走るが、カビゴンパンチと比べればそこまで痛くない。
「って、手が動く? 折れたんじゃ……?」
「えぼえぼ」「かげ〜!」
イーブイとヒトカゲが俺にきのみを渡してくれる。
これはオレンの実? ……でも、普通のオレンの実より金色にきらきら輝いている気がする。すっごくうまそうだ。
「っと……いてて……擦り傷だ……」
気づかなかったが、左手を擦りむいていた。
ちょうどオレンの実がある。せっかくだし治療しよう。
皮を剥き、実を潰して果汁を振りかけ…………え?
「治った……?」
なんだこれ気持ち悪。擦りむいたところが治った……っていうかもはやこれは再生のレベルだ。かさぶたとかそんなもんじゃなく、もうすんげえ勢いで皮膚が張って行く。
通常ならSAN値を減らすべきこの異常現象だが……。もしかして。
「お前ら、このきのみを俺の口に運んだりした?」
「えぼ!」
なるほどね? 金色のオレンの実を食べたら超再生して、腕の骨折も治ったってことだ。
……いやそんなことある???
改めて木を見上げると、その枝には種類豊富なきのみが大量にぶら下がっていた。
俺が食べたオレンはもちろん、オボンの実やナナシの実、チーゴの実に至るまで。
そしてそのどれもが、金色に輝いている。
「モモンの実も金色だ……。もしかしてあれが稲色の……ってやつ?」
その木の向こう……洞窟の天井にぽっかりと空いた穴。
なるほど、イワヤマトンネルの地下に空間があって、俺はそこに落ちたのか。無事でよかった……。
「とりあえずモモンの実を収穫しよう。これじゃなくても、良い土産になるだろう。ゼニガメのみずでっぽうなら落とせるか……な? ……っくしゅん」
その瞬間、寒気が体を支配する。
無理をした反動か、頭も痛いしだるい。
少しなら、休んでもいいでしょ。
近くに俺のポケモン以外の気配は感じられない。もっと奥の奥はどうなってるかわかんないけれど、そこさえ警戒していれば大丈夫なはずだ。超絶美味いきのみもあるしね。
俺は木のみきを背もたれに座り込む。
木全体が発光しているのか、ヒトカゲの炎をあてにしなくてもこの木の周りだけがふんわりと明るい。
……こんなに素晴らしいきのみがある木、ポケモンが利用しないわけないと思うんだけどな。
俺がショートカットしたから見つけれただけで、正規の方法で行こうとするとかなり奥地にあるとか?
「なんにせよ、ここだけは安全そうかな」
そんな俺の安堵を引き金にするように、地面が揺れ始める。
地震じゃない。何か、大きな生き物が這いずっているかのような……。
……洞窟の奥の方に何かいる。
どこかの穴から出てきた二つの首が、入り口の周囲の岩を噛み砕く。
バリバリと、まるでチョコレートでも割るかのように穴を広げていくその首は……いや、アレは舌だ。アギトのような形の、ただの舌。
「詰んだかもしれんね」
穴が木の二倍ほどの大きさになった頃には、俺の視界にはあのカビゴンよりもデカイポケモンが。
「ドカグイィィィイイイ!!」
ウルトラビースト、アクジキングが映っていた。