リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
『クロウさん……♡ いつもありがとうございます……♡』
扇情的な格好のリーリエが俺の頬に手を当てる。
舌なめずりをするリーリエはゆっくり目を閉じると、ふるりと震えた小さな唇を近づけて来て……。
これは夢だ。
「リーリエは!! そんなこと!! しない!!」
人間は起きた直後は夢の内容を覚えていると言う。
ゲームシンク(ポケモン白黒)で保存しておきたい夢をクソデカ感情で振り払う。
「煩悩退散っ」
壁に一撃頭突きを入れてから着替え。
モンスターボールを腰に下げカーテンを引くと、もうそこには天使の後ろ姿が見えた。
机に突っ伏し、すうすうと寝息を立てているようだ。
全くリーリエったらお茶目さんなんだから。さては昨日、ルザミーネにつきっきりで夜更かししたな? このこの。
美しい髪の毛が陽の光に当てられ、きらきらと…………。
きらきら……と……。
「こいつリーリエじゃない」
夜通しの看病でリーリエが昨日お風呂に入っていなかったと仮定しても、こんなボサボサの髪じゃない。
そもそも香りも違う。リーリエはこんな匂いじゃなくてもっと全身がふわふわと浮くような甘い香りなんだよ。シャンプーとか香水とかじゃなくて、もうリーリエ自体がそういう香りなの。そこんとこお分かり?
大体さあ、リーリエがこんなとこで寝るわけないんだよね。あの清楚な子がこんなだらしなく突っ伏しているわけがない。似せるならもう少しエレガントかつ上品な偽装の仕方をしろ偽物め。
っていうか何だこの髪質? ウィッグにしちゃよくできてるかもしれんがこんなもん髪と言えるのかね。まぁリーリエを真似したくなっちゃう気持ちもわかるよ? わかるけどさ、もう少し頭つかおっか。
さぁて、そろそろそのリーリエと似てすらいない御尊顔でも拝見しちゃおっかナ????
さらり。
「りっ、リーリエッ!! 御母様が! お義母様が何故かこちらに! リーリエはやく来て! リーリエッ!!」
◇
「なるほどなぁ。じゃあモモンの実は完全とは行かなくても、少しは効いたっちゅうことか」
「はい。クロウさんの声で起きた時には稲色の実はお皿から無くなっていましたから……」
「ここまで歩いた来たは良いものの力尽きてここで眠りについた……って感じなんやろな」
「はい、おそらく……。それでその……クロウさんは……」
リーリエが恐る恐ると言った感じで俺を見る。
「なぜ土下座をしているんですか……?」
「この度は御母様に無礼な態度を重ねてしまい誠に申し訳ありませんでした。つきましては今よりこちらの刃物を持ってこの腹を裂く所存でございます」
「まっ!? 待ってください、どういうことなんですか! 刃物はしまってください! あっお腹の中に仕舞おうとか思ってますね!? させませんからね!?」
不躾にもリーリエの母であるルザミーネをリーリエの偽物呼ばわりした愚かな己の腹に包丁を突き立てようとするもリーリエが止めてくる。
下手に抵抗してリーリエを傷つけるわけにもいかないのでルザミーネが起きたらハラキリしよう。
「大丈夫ですよ、クロウさんのおかげで母様がここまで歩けるようになったんです。よくわかりませんが、自分を責めないでください」
「
なんて優しい慈母の心の持ち主。今世に生まれ落ちた創世神か?
まったくこんな清廉な女の子がキスなんてするわけないじゃないか。なあ? 邪なこと考えるのはやめとけよ。
「それで……稲色のモモンの実をもう一つ手に入れる手段は無くなったんやんな? クロウくん」
「まあ……そっすね……あの洞窟にはもう無いです。皮も種も、葉っぱ一枚すら残さず食べられちゃいましたから」
「せやよなぁ……もっとあればええんちゃうかって思ったんやけど……」
モモンの実が毒の影響を減らしたのは大きい。
だけど、次はそれに変わる手段を見つけなからばならない。
今度は何色のモモンの実を回収しにいくんだろ。ゲーミングモモンの実?
「とりあえずルザミーネさんは俺がベッドに運んでおくよ。こんなとこで寝てたら体調も良くならないし」
「お願いしま……ってクロウさん??? 昨日の今日でまた無茶ですか??? 風邪は治ってな い で す よ ね???」
「いっ、いやいや、全然絶好調! 何でか知らんけどマジで症状がない!」
嘘じゃないんだよ本当なんだよ。
多分だけど、洞窟怪獣大決戦の時に稲色の木の実を食べてるからだと思う。オレンの実でさえ、果汁を振りかけただけで皮膚が早送りかと思うレベルで張るんだ。病気を一瞬で治すものがあってもおかしくあるまいて。
「……本当ですか?」
「まじまじ」
「じー……」
アッ可愛ッ。
「……無理はしないでくださいね?」
「はあい」
エプロンを装着するリーリエかわいいね。
……試しにルザミーネを揺さぶってみるが起きる気配は無い。
静かな寝息を立て、ただ眠っている。苦しんでいるとかうなされているとか、そういった様子は見受けられない。
「そもそも神経毒ってどうやったら治るんだ……?」
「今んとこは、わいの作った装置でポケモンとの分離を試みようと思っとる。けど『入れ替わった』と『合体した』は似てるようでちゃうからな……。入れ替えるだけならボックスへのポケモン転送の要領で……ってわからんか。まあとにかく改良中ってことやな。時間もかかるし、装置の改造以外にも治療法がないか探しとる」
なるほど?
もしルザミーネとウツロイドの精神が入れ替わっていたのなら、簡単にことが進んでいたかもしれないってことか。
ルザミーネが突っ伏しているテーブルの上に重ねられたファイルを手に取り、適当なページをマサキが開く。
「わいの時は双方意識のあった状態で装置を起動させたからな……それに、脳に影響を与える毒なのか、寄生なのか、はたまた洗脳なのか……わからんっちゅーねん」
「先は長そうですね」
「いっそウツロイドに寄生された人か、合体した人がおれば話が早いんやけど」
俺、寄生されて来ましょうか?
あっなんかリーリエがこっち向いてる。かわいい。なんでそんな怒ってるの? 俺の言おうとしてることわかってるみたいじゃん。かわいい。
「よっと……軽いな」
「寝たきりで、運動量も落ちとるからな」
「じゃあちょっと
ルザミーネを抱えて小屋を出て、そしてすぐお隣に駐車しているキャンピングカー。
そこの寝室のベッドにルザミーネを寝かせ、ついでに隣にあった皿を手に取る。
「………………」
稲色のモモンの実がもう一つあれば助かったのかな。
アクジキングからあの木を守れていれば、もっと良い結果が出せたんじゃ無いか?
カビゴンが飢えることもなく、ルザミーネも助かる。
……せめて、俺が手の擦り傷ごときに使ってしまったオレンの実が残っていれば、何かしらの研究ができたかもしれないのに。
キャンピングカーの窓を開ける。
そろそろ春から夏になる。春の朝の空気はまだ冷たいが、この時期になるといくらかマシだ。冷えはするけどそれが心地いい。
「リーリエ……」
俺はリーリエのためになれているのだろうか?
「俺はリーリエの力になりたい……」
もしもジラーチがここにいたのなら、この願いを叶えてほしい。
どうか、どうか。
リーリエのために命を燃やせる力を、俺にください。
「クロウくん?」
「えッ、ルザミーネ……さん? 起きたんですか」
声に振り返ると、上半身を起こしたルザミーネがいた。
「今すぐリーリエ呼んできます」
「大丈夫よ、すぐにまた寝ちゃうと思うから」
「あ……そうですか……」
「それに……たまにはゆっくりしたいじゃない? 娘につきっきりで看病されるのも悪くは無いのだけれど、プライベートは必要だわ。ウフフ、あの子には内緒よ?」
冗談なのか本気なのかわかんないことを言いながらルザミーネは人差し指を口に当て「しーっ」のポーズをとる。
その仕草が妙に様になっていて、妙齢とは思えない美貌を誇るルザミーネが少し可笑しくなってしまった。
「じゃあ一人の時間も必要ってことですし、俺はそろそろお暇します。といっても、すぐにリーリエが朝食を運んできますよ」
「それまでに意識を保てていれば良いわね。なぜかしら、夕ご飯に木の実を食べてから調子が良いのよ」
「それは……良い木の実だったんじゃないですか?」
今ここで俺俺俺俺!って言っても何にもならん。
というか、体調を良くする木の実がもう手に入らないって知ったら多分ショック受けるだろ。ここは本人には内緒にしておいて、プラシーボ?思い込み?でどんどん体調を良くしてもらおう。
「それじゃ……」
「あぁ、クロウくん」
「ん、なんです? お茶とか欲しいですか?」
「いいえ? あなたに伝えておきたいことがあるの。ちょっとこっちへきて頂戴」
「は、はぁ……」
もう階段降りようとしてたんだが。
ルザミーネの元へ近づくと、彼女は病人とは思えない素早い動きで俺の手を掴む。
すわっ暗殺かと身構えている間に、俺の手のひらに石が捩じ込まれていた。
「これは……?」
「あなたにあげる。リーリエの用心棒のお駄賃と思ってくれて良いわ」
まさしくそれは、Zクリスタル。
この色は……ん? 何クリスタルだこれ。
そもそも俺、Zリング持ってないんだけど……。
いや待てよ。そういえば俺、洞窟でZワザ使ってたな。カビゴンと一緒に。え? なんで?
「私にはもう、必要ないものだもの」
「私にはって……」
そういえば、とカバンに入れていたもう一つのZクリスタルを取り出す。
うっすら黄色のクリスタルと違い、ルザミーネにもらったものは青色。
まるで夜空……いや、そのさらに上の宇宙みたいな色だ。銀河。銀河が似合ってる。
「でもこれ、模様が無いですよ」
「お楽しみよ」
「は、はぁ…………」
とにかく、貰えるのなら貰っておこう。
「じゃあね、クロウくん」
「え、あ、はい」
圧で半ば強制的に追い出される。
キャンピングカーを出る直前に、前にも見た写真立てが目につく。
ポケモンSMゲーム中盤でロトム図鑑が撮った写真だ。
写真の中と比べると、今のリーリエの方が背も伸びて日に焼けている。
マジで可愛いなリーリエ。今のリーリエもすんごく可愛いが写真のリーリエもお嬢様みが強くてイイ。
その写真の下には靴箱が……スニーカーやローファーなど、リーリエの靴が入っている。
………………。
あたりを見渡す。
キッチンと、冷蔵庫と、靴箱と、箪笥。
スラウチハットがポールの上にかかっている。
そしてキッチンの反対側に、ソファが。
…………リーリエの使っていたソファベッド…………。
ごくり。
「はっ!?!?!?」
まずい。まずいぞ。
命懸けの戦いをし続けたからか、俺のほとばしる生存本能が抑えられん。
リーリエを邪な目で見るな……見るな……!
いや無理だろエロいだろリーリエは。
今日土下座した時のことが思い出される。
ハラキリ包丁に反射して写った、リーリエの白い脚。
少し角度を変えれば、スカートの中身だって。
「……たんす」
スカートの中身。
「…………」
俺の意思に反して、俺の手は箪笥の取手へと伸びていく。
───コラァクソガキ! 今日もロケット団が来てあげたわよ!
───変なことされたくなければ大人しく出てくるっす!
「いらっしゃいませロケット団! 今ボコボコにしてやるからな!」
俺は満面の笑みで外に出た。