リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
「お掃除をしましょうっ!」
それは、唐突に発せられた言葉だった。
今までの出来事や自身の行動、出会ったポケモンの詳細などをレポートとして記録していた俺と、遅めに起きて遅めの朝食を行儀悪くがっつきながらそのレポートを眺めていた博士が揃ってリーリエの方を向く。
「「……お掃除?」」
「はい! おそうじです! 」
「なんでまた、急に? どしたのリーリエ」
「どうしたもこうしたもありません!」
うっ。前回の俺のセリフを使われてしまった。
「見てください、この惨状! 机の上のファイルや書類はまだ良いとしても、床にゴミや書きかけのレポートが散らばっているのは許容できません!」
「あ、ごめんリーリエ、それ書きかけじゃなくて失敗したヤツだから正しくはゴミの類」
「そういうことを言っているんじゃありません! 片付けますよ!」
「なにもこんな朝早くからやることないんやないの? リーリエちゃん」
「もう9時半です! 立派なお昼です!」
ぷんすこと腹を立てるリーリエは俺の隣……つまり窓際に立ち、フチを指でついとなぞる。
「ほら、こんなに埃が……。やはり、掃除は決定ですね」
「まぁ最近色々忙しかったしね」
「そもそもこんなにゴミが増えたんも、リーリエちゃんがこの小屋を改造したからなんとちゃうかな」
「言い訳しないッ!」
「「は、はいっ!!!!」」
エプロン着用のリーリエがはたきを手に怖い顔をしてらっしゃる。
まあもうリーリエとエプロンって絵が既に完成された究極の萌えなんだけど、今回ばかりはしたがっていた方が良さそうだ。
「じゃあ書類整理はわいが」
「それはクロウさんにやってもらいます。博士、途中で読み始めて掃除が進まないタイプですよね」
「うぐっ。はい……」
ぴっ!と指を刺されたので言う通りに床に散らばった書類を手に取る。
ファイルに入れるものとホチキスでとめたいものをバラバラにして、進捗度とページ順に……。
ふふん。こういう小さいスペースを片付ける仕事は得意なのだ。
「床から掃除をするのは非効率的です! 掃除は上から! 机の上の書類からお願いします!」
「は、は〜い……」
前言撤回。整理が得意でも掃除は全くのド素人だったらしい。
「博士は窓の掃除をお願いします」
「へいへい……ってなぁリーリエちゃん、この接着剤どう取んの?」
「お湯などでふやかして取ります。それでもダメそうなガンコなものなら、ナイフなどで削り取るしかないですね」
「……そんな面倒なのに窓接着したんか?」
「クロウさんを逃さないためですから。ご協力、してくれますよね?」
強かに育ったなぁ、リーリエ。
ゲームとかだとちょっと冷たいと言うか……真面目ちゃんなイメージがあった。だからこそたまに見せる笑顔やおこリーリエがとっても可愛かったわけなんだけど。
「えーと……ウルトラビーストテッカグヤ……博士、これは確認しました?」
「んぁ〜見た気……がすんなぁ」
怪しいようなら、今後確認するものをまとめるファイルに入れておくか。
「クロウさんはどうしてレポートを書いているんですか?」
脚立に乗って天井付近を掃除していたリーリエが上から声をかける。
ああクソっ、今日のリーリエはズボンだ。これ、朝着替える前から今日は掃除と決めていたな?
「博士からのお小遣い稼ぎってのもあるけど……記録しておくと何かあった時に楽かなって」
「何が楽なんですか?」
そりゃあ、不慮の事故で電源が切れてしまった時とか。
こまめにセーブしておけば何があっても途中からやり直せるし。
……って、電源もセーブデータもないこのリアルポケモンの世界じゃレポートは意味ないんだろうけど。
「レポートに行きたい場所とか書いておけば、もし俺が唐突に行方不明になった時としても、どこにいったのか大体目星がつくでしょ?」
「なるほど……」
あ、このレポート誤字ある。昨日の真夜中に書いたやつだ。下手くそな字だなぁ、眠かったんだろうなぁ。
「自分のことでも記録をつけるのは、案外楽しいもんだよ」
「そう捉えると、まるで日記のようですね」
「言えてる」
……っと、これでこの辺に散らばってるレポートは最後か。これを纏めれば……ヨシ。とりあえず、書類の整理は完了だ。
これなら風で吹き飛ぶ心配もないので、扉を開けて空気を入れ替える。
リーリエがはたき落とした埃が外に出ていった。
「いい風だぁ」
朝のうちにリーリエが洗濯した衣服が、すぐそこで風にはためいている。ちなみに女性陣の服は人目につかない場所に干しているらしい。えらい。
確認してみるが、当然ながらまだ乾いていない。取り込むのは後だろう。
「キャンピングカーの掃除はいいの? リーリエ」
「あっ、ではお願いします。写真に本に……そちらも色々なものが転がっていると思うので、本棚にまとめて仕舞っておいてください」
「あいよ〜」
ああ、せっかくこんなに天気が良いんだし。
「出てこい、みんな」
「えぼ!」「ザァー!」
「ぶも」「ぜにぜに!」
「今日はバトルの予定もないからみんなで遊んでて良いぞ。休暇だ休暇!」
「えぼぼい!」
「ぜにー!」
なんて平和な光景だろう。
特にイーブイなんか、この前ウルトラビーストと殺し合いしてたとは思えないくらい無邪気な顔をしている。こいつはこいつで可愛い。
それでケンタロスは……昼寝というより、日向ぼっこか?
布団を干すみたいにして、体のダニとかそういう生き物を追い払っているんだろうか。
うんうん、たまにはこう言う日があっても良いじゃないか。
「ルザミーネさん、入りますよ」
多分聞こえてないけど、断りを入れてからキャンピングカーに入る。
食器類や衣服などは綺麗に整頓されているが、よく見れば角の埃や机の上のチラシなどが目立つ。
埃とかはリーリエに言われてないし、まずは紙類の整理をして……時間が余ったら床掃除とかもしよう。
……で、掃除は上から……なんだっけ? てことは2階から?
シルフカンパニーの掃除とか上から下まで大変そうだけど……まぁいいか。
「じゃあルザミーネさん、2階行きますからね」
返事はない。寝ているのか。
階段を上がって2階、ルザミーネの寝るベッドが置かれた部屋。
窓を開けて空気を入れ替え、近くに散らばる本を纏める。
……物語系が多いな。これなんか、マサキの持っていた治療薬の伝承じゃないか。
まあ療養中は暇だろうし、読む本もこういったジャンルに偏りもするか。
えーと……『はじまりのポケモンミュウ』……『ながれぼしキラキラ』……『ときわたりの君は』……お、これなんだっけ? セレビィ? あんまり関わりのないポケモンだ。多分やったことのないシリーズなんだな。
「で、えっとこれは……ウルトラビースト調査ファイル:UB01
パラサイトってなんだっけ。
……チラッて見るくらい、良いよね?
えーと……寄生方法は取り付いた相手に超強力な神経毒を注入し、寄生主の肉体や精神の潜在能力を極限まで引き出す……。極度の興奮状態に陥り、自我の解放、自らの情動や欲望のままに暴走する……。
ウルトラビーストの中でも特に厄介な存在……とな。
最近は野良ウルトラビーストも多いし、ウチもかかしとか立てようかしら。
せっかくならリーリエの形にして、やってきたウルトラビーストを見惚れさせよう。ポケモンだってウルトラビーストだってリーリエの美しさには勝てない。
……ダメだ、雨風にさらされるリーリエを想像してしまった。というよりそんなカカシがあったら俺が保管して毎晩月夜に照らして愛でる。リーリエカカシの案は却下だな。
「えっと、じゃあこのファイルは別で取っておいたほうがいいな……」
絵本と一緒に怪物の調査記録が混ざってたら子供泣くぞ。
「よし。2階の書類や本は片付け完了、と」
ちらりとルザミーネを見る。
ぐっすりすやすや、しかし先ほどのキッチンに使用した痕跡やある皿が積まれていたことからちゃんと朝食は食べていたみたいだ。
動けるようになったとはいえ、キャンピングカーからこちらに歩いてきて力尽きるレベルだもんな。
ま、寝たきりよりはマシだけど!
「クロウさーん? 大丈夫ですか? 入りますよ?」
リーリエが来たらしい。
「クロウさ……あ、2階にいたんですか。母様の様子はどうでしたか?」
「相変わらず寝てたよ。でもうなされてる様子はなかったかな」
「母様、最近はうなされることも少なくなってきたんです」
「そっかあ……いい傾向だね」
「はいっ! ……2階の掃除は後で私がやりますので、今は一緒に1階の掃除をいたしましょう!」
「あれ、上からやった方が良いんじゃなかったっけ?」
「そうするとクロウさんは手持ち無沙汰になってしまいますし……それに、母様のお部屋は定期的にしっかり掃除をしていますから」
確かに、本などが散乱していた割には埃などがあまり見当たらなかった。リーリエのお手入れのお陰か。
「母様、早く起きてほしいです」
「すぐ良くなるよ。黒色メテノのほしのかけらってどうなったんだっけ?」
キャンピングカー1階にて、俺は同じく書類などを、リーリエは食器を洗っている。
「試行錯誤の結果、粉末で傷口に塗り込む薬になったのですが……母様の神経毒にはあまり作用しなかったようです」
「再生能力って言っても外傷専用か……骨折り損だ」
「クロウさんは実際に骨を折っているのですから、シャレになりませんよ」
「へいへい……」
骨どころか腹に風穴空いたんだが。
「リーリエもこういう資料とか読むんだ?」
「内容はわからないことが多いのですが、せめて見てみるだけでもと思いまして」
「これは博士しか無理なんじゃないの……?」
「そういえば博士って、ちゃんとポケモン博士をやっているわけではないのですよね」
「この辺で有名な人ってオーキド博士だもんなぁ」
「アローラにも博士がいるんですよ。ククイ博士と言うのですが……」
「ポケモンのわざについて研究してるんだっけ? あの人も大概変人だよなぁ」
「お会いになったことが?」
「無いよ」
「ますます不思議です!! クロウさん、まるでアローラの全てを見てきたような言い方をするんですもん」
ははは、すまん。
リーリエがいなくなった後のアローラ、探索し続けたもんでね。
どこかにリーリエはいないか、どこかにフラグはないかとずっとね。
「そろそろ教えてくれても、いいと思うのです」
「説明できるなら説明したいけどね。説明を信じてもらうために何から説明すればいいのかわかってないから……まあ少し待って欲しいかなって」
私は異世界から来ました。あなたは創作上の人物です。私はあなたの今までの行動のほとんどを見てきました。私はあなたに恋をしました。
……生贄を要求する土地神??????
「むう……わかりました。いつかは絶対に教えてくださいね」
「教えるよ絶対。ふぁ、あ……」
はしたなくも、リーリエの前で大あくび。
疲れた寝不足のお陰か、横になったらすぐ寝てしまいそうだ。
「眠いのですか?」
「最近はレポートとかもずっと書いてたし……肉体的疲労と精神的疲労が同時にね」
「レインボーロケット団のマニュアルなども読んでいましたよね。お疲れならお休みになられても良いのですよ」
「いや、もう少し働く。寝てばかりは落ち着かないんだ」
「それ、クロウさんが言うとすごく説得力があります」
リーリエが苦笑する。
いや、俺だって平穏が嫌いなわけじゃない。リーリエの隣で、リーリエの笑顔を見ていたい。
だけど、リーリエが危険に晒されるのなら呑気に隣で寝ているわけにも。……ね?
「そういやリーリエ、レポートとかは書かないの?」
「私が……ですか? あまり書くようなことも無いと思うのですが……」
「そう? 日記とか付けてたじゃん」
「むっ」
あっヤベ。地雷だ。
「そんなことも知っているんですか……? 本当にどこでそんなことを知ったんですか」
「日記とか付けてそうな顔してるからね」
「どんな顔ですかっ!?!?!? ……もう、ほんっとぉ〜に! いつか教えてもらいますからね!」
「ごめんって。……それで日記は?」
「クロウさんの言うとおり、アローラにいた頃は日記をつけていましたが……アローラに置いてきてしまいました。誰にも読まれていないといいのですけど……」
そう言って不安そうな顔をするリーリエだが、別段アローラの日記に悔いがあるとかでもなさそうだ。
今すぐアローラに取りに行くとかじゃなくてよかった。
「リーリエの日記読みたいけどな」
「読っ!? い、いやです! 恥ずかしいじゃないですか!」
「レポートは誰かに読ませるものだよ〜」
「レポートと日記は違います! もう!!」
濡れたままの手で俺の肩を揺するリーリエ。かわいい。
うーん幸せ! 好きな子がこんなに近くに存在するとかこれ以上の幸福はないね!
というか最早さ、この状況? リーリエが皿洗いして俺が書類整理するって言うこの状況。これがもう夫婦みたいだよね。結婚しない?
「まぁ読ませないにしてもさ、日記は付けた方がいいんじゃないかな」
「……どうしてですか?」
ふくれっつらリーリエ。
ふくれっつらリーリエという文面がもう興奮を誘うよね。そそるよね。
「リーリエって……俺らのために時間を使いすぎない気がするからさ。日記を書く時間とか……そういう一人の時間も必要なんじゃないかって」
「でも……以前のように毎日書くと言うのも難しいですし……。日記自体もアローラに置いてきてしまったので……」
「じゃあさ、リーリエの新しい日記、俺がプレゼントするよ」
「へっ? クロウさんが、ですか? 私に?」
「お小遣いも貯まってきたし、リーリエになにか貢ぎtゲフンゲフン、プレゼントしたい気分なんだ」
おう。どんなブランドものでもどんとこいや。
金額が足りなかったとしても問題ない。臓器売れば余裕。
仮に臓器でも足りない……そうだね、島とか欲しいですとか言われたらRR団の経費の『負けた時に渡すためのお金』をジャラジャラ使おう。
だって俺負けないし。
「ダメ……かな?」
「いえ……! 嬉しいです! 是非……!」
「今度買いに行こうね」
「はいっ!!」
よっしゃぁデートだこりゃ! ふひひ!
プレゼントを選ぶと言う口実の元デートを予約することに成功したぞ!
RR団のテレポーターを使えばカントーならほぼノータイムで移動できるっぽいし、移動範囲が大幅に広がった。どこへ行っちゃおうカナ???
「楽しみですね……♪ せっかくですから、クロウさんに貰った帽子を使ってみましょうか?」
「あのベレー帽? 季節外れだから良いよ」
「しかし、クロウさんとの折角のデ……出かけ!! お出かけ、ですから……」
今、言葉に詰まってなかったか? 疲労かな?
疲れてるんだったら、リーリエこそ休むべきだと思う。
「本当に気にしないでいいって」
「そう……ですか? じゃあせめて……クロウさん、服の指定はありますか?」
「えっ。服? 服の指定?」
「クロウさんの隣を歩くのですから、クロウさんが決めてください」
「えぇ〜…………本当になんでもいいよ。そんなに畏まられるとさ……俺も一張羅ってくらいに服が無いから……。申し訳なくなっちゃう」
リーリエの服を俺が決めるとか、付き合いたてのカップルみたいじゃん。なんだか恥ずかしいし、本当にリーリエに申し訳ない。
ワンピース! 暖かくなってきたしワンピース! 二の腕隠すなんかふんわりしたアレがついてる清楚なワンピースがいいです!*1
「そうですか。では……ワンピースとかにしますね」
「ぅぇっ!? あ、ああ、良いんじゃない?」
「クロウさん、ワンピース好きそうでしたから!」
エスパーおる!?
ナツメばりのエスパーがおるばい、拝んどかんとこりゃバチ当たるでやんがなばってんだにがんす!
はぁもうしんどいわぁ。自分がワンピース似合うってのがわかってるから余計に可愛い。大人ぶっちゃって『服は何がいいですか?』だって。俺の好み知っててそんなイタズラっぽい笑みを浮かべて質問してきたんだ? 自分が可愛いこと知ってるなコイツめ。一生ついていくわ。
「楽しみにしてますね、クロウさん♪」
「お、おう……俺も……」
「………………」
「えっと……」
「はっはい!? なんですかクロウさん!?」
チラリとリーリエの方を見るが、向こうの方を見たまま顔を合わせてくれない。
金色の艶やかな髪から覗くその白い耳は、なぜか真っ赤に染まっていた。
……本当に、体調が悪いなら休んだほうがいいと思う。
「書類、終わったけど……どうする?」
「あ、えっと……んと……」
「…………」
「…………」
どうにかリーリエを休ませる方法はないだろうか……?
「一旦、休憩にしない?」
「そっ、そーですね! お茶にしましょう! 淹れて行きますから、先に博士の元に向かっていてください!」
「わ、わかった!」
慌ててキャンピングカーを出る。
駆け寄ってくるポケモンどもを撫で回しながら小さくため息をついた。
またリーリエを働かせてしまっている……。
ここで俺が淹れるよ!とか言えればカッコいいんだけどな。
リーリエに惚れられるのは至難の技……どうしたらリーリエを休ませられるんだ?
「……博士、休憩だそうです。今リーリエがお茶を淹れてくれてますから、お菓子用意してください」
「おー、おかえりクロウくん。お菓子な。今出すからちょいと待って……。………………。」
「な、なんです?」
「なんやクロウくん、顔真っ赤やないの。心なしかニヤニヤしてるようにも見えんねんけど……なんかあったんか?」
「…………い、言わないでください……」
リーリエが来るまで、それこそニヤニヤしたマサキにイジられるのであった。