リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
リーリエと茶をしばいて落ち着きを取り戻し、ついでとばかりに昼食をとる。
朝からリーリエが作り置きしておいてくれたらしいサンドイッチを貪り、休憩の延長ということで片付いた部屋で思い思いのことをしていた。
博士は工具箱の整理や、工具自体のメンテナンス。
リーリエは洗濯物を取り込みに行った。
「うーん……」
そして俺は、リュックの中身をぶちまけ、今の俺の装備の現状を改めているわけだ。
メインウェポンとなるのはやはりポケモンたち。
腰のモンスターボールホルダーに下げていたポケモンは現在5匹。
イーブイ。でんこうせっかやシャドーボールを得意とする。
リザード。譲ってくれた人にそろそろ見せにいかなきゃな。
ケンタロス。ここ最近は温厚になってきた。
ゼニガメ。今のマイブームは俺の髪の毛をいじることらしい。
そして……この正体不明のモンスターボール。
サカキから貰ったポケモンだ。出すに出せずに閉じ込めたままになっている。
よほど凶暴らしいし、迂闊に繰り出してリーリエを傷つけてしまうのではないかと思うと恐ろしくて……おおこわ。
とにかく、これは最終手段かな。期待だけにしておこう。
「モンスターボールの予備と……キズぐすり……」
RR団の備品。
元から用意していたものもあるけど、これから先はこの備品を使って行くことになりそうだ。マサキの依頼でも、RR団の仕事でも。
流石の俺でも、ポケモンの主人公のようにバッグにモンスターボール100個とかは入れられない。重すぎる。
……いやできないことはないけど、イーブイも俺も機動力を売りにしているが故にリーリエに何かあった時に速く走れないと意味がないんだ。
だから、リュックに入れる数は最低限。
「あとおやつ」
木の実。木の実ケースと言われるポーチに各種一つずつ入れていたりする。暇な時に食べたり、ポケモンが状態異常になったときに使用する。これは外せないだろう。
「あ……絆創膏、切れてる……」
「んー? 絆創膏ー? また怪我したんかクロウくんは」
「はは……」
擦り傷切り傷仲間の数。……というわけではないけれど、絆創膏だって俺には命綱。自分で言うのもおかしな話だが、無茶をしている自覚はある。……というより、リーリエに『絶対に持っていってください!』と言われて持って行くようになったんだよな。
自分の小さな傷はもちろん、ポケモンにも使えるので割と重宝している。戦っているとどうしても傷が目立つんだ。
「そんなクロウくんに、試作品として使ってもらいたいモンがあるんやけど……やってみない?」
「試作品……?」
ひょいと渡されたのは小さな小袋。
中を覗いてみると、まばらに撒かれた砂粒のようなものが表面で光る、包帯がロールで入っていた。
「この前の黒色のメテノのほしのかけら、それを砕いて練り込んだ包帯や。ほしのかけらの癒合作用で絆創膏より効くはずやで」
「はえー……でもこれ数に限りがありますよね」
「作れたのはそれを含めて3セットってとこやな。無駄遣いしたらアカンで」
「まぁ使うべき時に使いますけどもね。とはいえ、本当に俺が使って良いんですか?」
「神経毒の浄化には使えへんかったからな。好きに使いぃな」
ほしのかけらをすり潰すと傷を治す粉になるとは聞いたが包帯と来たか。
ほな、ちょっと使ってみますかね。
「えーい」
「おいッ!?」
ぴーっと良い感じに手首を切る。
できればナイフとかあったら自然治癒でも痕が残らないんだけど……あいにくナイフや包丁はリーリエが洗ったばっかりだし汚すのも申し訳ないよね。
まあだから手早く爪を立てたわけなんだけど。尚、リーリエと共に生きている以上、転んで彼女の顔に傷をつけたら死以外のなにものでもないので爪はちゃんと切り揃えてヤスリで角を取ってある。これだけは俺のこだわり。
「うっわ……痛くないんか……?」
「痛いから包帯を使ってみるんじゃないですか」
「えっ。サイコ……???」
ぐるぐる巻きにするのは勿体無いしガーゼ状でいっか。
包帯をぴりぴりと引きちぎり、自分の手首に押し付ける。
じんわり血が滲む包帯を眺めていると、いつしか手首の痛みが消えている。
外して見れば、薄皮一枚こそちょっぴり治りきってないが、血は完全に止まっている。
「はえーすっごい。包帯を巻く余裕さえあれば数分でほとんど完治とかどういうテクノロジーなんだこれ」
「ははん! どうや! 崇め奉れや!」
「おみそれしました」
こんなだらしない人でも一応は博士なんだもんな。
さっきリーリエとも話していたけれど、マサキはちゃんと働いてるんだ。
俺も何か、リーリエに貢献しなきゃなぁ……。
「じゃ、ありがたくいただきますね」
「おう、使い使い! 素材さえあればもっと作れるんやけどね」
「勘弁願いたい」
色違いメテノ探しはもう懲り懲りだよ。ふえええん。
「あと……これはいる。これも……いる。これは……んー……。んー……?」
「……クロウくん、今やってるのってリュックの軽量化のために整理してるんよな?」
「え、はい、そうですが」
「そのデカいカメラはなんや?」
今まさに、必要かそうでないかを悩んでいた代物。
まさにドでかく、どんな暗闇でもどんな煙の中でも対象をしっかり撮影できる特注品。
ボタンを押せばクリアスモッグというポケモンのワザがカプセルから放たれて、どんな空間でも綺麗に撮れるのだ。
「やだなぁ、スナップ用ですよ、スナップ用」
「あ、なんだそっかあ! スナップ用かぁ! ははは! ポケモン図鑑渡してるのにこんな大層なモノを用意するなんて、クロウくんは熱心やなぁ! ははは!」
「ええもちろん! どうですか、試しに写真を見てみますか?」
「ははは! どれどれご拝見……………………。…………なんかそんな気はしてたけど……。ポケモンがソロの写真が一枚もあらへん……」
……?
そりゃそうだろう。リーリエ用のカメラにポケモン単体で写す意味がどこにあるというのか。
「それにクロウくん、なんかこれ構図が怪しいんやけど……。盗撮臭がするで」
「……? 盗撮……?」
許可を取るのも良いが、リーリエがカメラに視線を向け始めたらいよいよ尊すぎてシャッターを切れない。
「…………?」
「ええい! リーリエちゃんのタメや! ここにある写真全部消してわいの写真に変えてやる!」
「ア゛───ッ!! やめて! やめて博士! やめろ! やめ……一眼レフで自撮りをすんな!!」
「うおおおおお!」
「あああああ! 俺のリーリエコレクションが汚れて行く! ムサいオッサンになってしまううう!!!!!!!」
抵抗むなしく、カメラは没収。
「ひどい……ッ!! こんなことってあるかよ……ッ!! 俺が何したって言うんだ……」
「犯罪や」
「リーリエに罪は無いッ!!!!!!」
「犯罪者はお前や!!!!」
もう無理ぽ……。ダメぽ……。
夜寝る前にリーリエの写真を眺めることが日課だったのに……。
しょうがない……。
すでに現像したチェキは500枚くらいあるしこれで我慢するしか……。
「没収!!!!」
「そんなああああああああ!!!!????」
俺の趣味が! 生きる意味が! 世界の希望が!
「まったく……お小遣いを何に使っとるんかと思ったら、こんなものに……」
「こんなものってなんですか! チェキは素晴らしい文化だ!」
「犯罪は荒むべき文化や。存在してはならない」
「うぐ……しょうがない。ポケモン図鑑にある写真だけで」
「フンッ」ボタンポチー
「遠隔で消された!?!?!? そんなのアリかよ!?!?!?」
「保護者としてな、クロウくんみたいなのからリーリエちゃんを守る責任があるんや」
「ふええええん!!!!!!!」
「泣くな鬱陶しい! 写真撮るならちゃんと本人に頼んで撮りぃ!」
無理だァ!
リーリエのカメラ目線なんてそんなのどうやって撮るんだ!
推しの写真なんてどんな構図で撮ればいい!? どんな風にシャッターを押せばいい!? 許可ありで写真を撮る機会なんてなかなかないんだぞ! 馬鹿がよ!!!!
「ヤダヤダヤダ! せめて一枚くらいは欲しい!」
「リーリエ離れしなさい!! お父さん怒るよ!!」
「死ぬ! リーリエロスで死ぬ! もうリーリエを失うのは嫌なんだよおおお!! びえええん!!!!」
「何言うてんねん……」
地面をごろごろと転がり、床に落ちていた書類の全てをぐしゃぐしゃに潰して回る俺にマサキが呆れたような視線を見せる。
「そもそもそのリーリエちゃんに対する執着はなんやねん。もう告りぃや」
「無理だが?」
「うお急に止まるな! ……というか、やっぱクロウくんて色々謎なんよ。急にやってきたと思ったらリーリエちゃん探して来た言うし、普段はそうでもないのにリーリエちゃんが絡んだ時だけ変に力を発揮するし。リーリエちゃんが心臓必要なら喜んで死ぬとも言うとったな。でもなんかこう、リーリエちゃんと一歩距離を置いとるっちゅうか……」
「…………さぁ……なんでしょうね」
「本人がわからへんのかい。クロウくんはリーリエちゃんのこと好きなんやろ? くっつきたいとは思えへんのけ」
「俺がリーリエとくっつくとか恐れ多いですよ」
だってリーリエは推しだしなぁ……。
ポケモンの世界のアイドルであるリーリエと……異世界から来た俺が、釣り合うはずが無いんだよな。
この世界には親もいないし、トレーナーズIDとやらもない。この世界の細かいことはわからないけど、戸籍すらないんだ。
それがこの先、どんな結果を生み出すかわからない。
リーリエを危険から守ることはできる。俺から巻き込むのは絶対にダメだ。
「俺は……叶うはずのない恋をしてるってことです」
「そんなことは……無いと思うんやけどな……」
「リーリエだって、急に来た不審者の俺を嫌ってますよ。今仲良くしてくれるのも表面だけで……。もし告白したとしても、受け入れられることなんて絶対に、万が一にも、宇宙がひっくり返ってもありえません」
「そんなことは……!! 無いと思うんやけどなぁ……!?」
複雑そうな顔をして項垂れるマサキ。体調悪いのかな?
もしくは俺に同情してくれてるのか。
「なんでキミそっち方面には鈍感なんや」
「鈍感……? 何がです? リーリエのことなら足音でも判別できますけど……鈍感?」
「そう言うところや」
痛ァ!? なぜチョップ!?
「にしてもリーリエちゃん遅いな。洗濯物ってそんな時間かかるかね」
「あぁ、リーリエなら足音的に俺のポケモンと遊んでますね。洗濯物の取り込みは終わったみたいですし……距離的に俺らの声も聞こえてませんよ」
「ホンマさぁ!? なんでさぁ!? そのスキルがあってさぁ!?」
マジでなんなんだマサキ。おかしいぞ。
本当に体調が悪いのなら、ちゃんと休まないとダメだ。
ルザミーネが回復するかはマサキの腕次第なのだから。
「疲れてるみたいですね。後半の掃除は俺がやりますんで休憩続けてて良いですよ。リーリエには及びませんけど、お茶のおかわり淹れますね」
「オ……アオ……オマエ……ッ……その彼氏力をリーリエに……ッ」
「何悶えてるんすか?」
「苦しんでんねん……ッ!! どうすれば気付かせられるのかすっげえ苦しんで悩んどんねん……ッ!!」
気付かせられる……? なんの話だろう。
……チャカチャカとお茶を淹れ直してマサキに提供するが、マサキはお茶に気づかず机に突っ伏して頭を抱えている。どうやら何かに悩んでいるようで……気づく……気付け薬? 失神とかを治す薬だっけ? 作るのに手伝えることがあればいいんだけど。
「まったく……このままじゃ進展があらへんぞ」
「なくて良いんですよ。そりゃあれば嬉しいですけどね」
「クロウくんも大概やなぁ…………あっ」
「俺はいつも笑顔でこっちにも元気をくれるリーリエが好……博士? どうしました?」
俺の後ろを見つめて固まる博士。
なんだろ。俺の後ろには玄関扉しかないはずなんだけど。まさかゴーストポケモンが出た?
パッと後ろを振り返ってみる。
「……あ」
リーリエおる。
アイエエ? リーリエナンデ……?
「くっ、くろうさん、その、す、す……す……」
「………………」
「す……っ……?」
顔を赤らめこちらを見つめる彼女に、自分が口を滑らせたことに気づく。
「わっ!! わたくし!! かあさまのようすをみてきます!!」
「う、うん!! 気をつけて!! うん!!」
そして逃げるように退散したリーリエの背中を見送り、俺は力無くその場に崩れ落ちた。
「…………なんや、わりと進展はあるみたいやん?」
「やめてくださぁい……」
全身から吹き出る汗を感じながら、浅く呼吸を繰り返すことしかできなかった。