リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
バトルカフェ『ガラガラハウス』は閑古鳥が億単位で鳴き散らしていそうなその名前とは裏腹に、わりかし盛況。上から目線で何を言うかって話だけど。
上から吊るした電球はステンドグラスの傘を通して柔らかい光を隅々まで行き渡らせ、木製の机に艶を持たせている。
棚に収納された小瓶は茶葉や豆類が詰まっておりそのあたりは一際清潔。
……思ってたよりちゃんとした喫茶店だ!!!!
「いらっしゃいませ、空いてるお席へどうぞ」
落ち着いた雰囲気の女性店員さんが席へ促してくれる。
適当に窓際の席に2人で腰掛けて……イスやわらかっ。
「す、すごいですね……なんだか……すごいです」
「雰囲気あるね」
「それです」
緊張した面持ちでメニューを手に取るリーリエ。
雑誌に載っていたと言うが、何かオススメのメニューがあるんだろうか。ほら、新メニューとかがあるとそういうのに特集組まれるイメージある。
「わ……! クロウさん、アローラフェアですって!」
「アローラフェア……?」
「アローラの郷土料理や飲み物が期間限定で出ている様です。名前だけでも懐かしいです……」
メニューを眺めつつ目を細めるリーリエ。
多分、写真とか一緒にあるんだろう。俺からだと背表紙しか見えないけど。
……いやしかし、ほんとにリーリエはどこにいても絵になるな。
まさか喫茶店のメニューですら小道具になるとは。ここまで来るとその辺に落ちている石とかでもリーリエの魅力を引き立てる要素になるぞ。
「クロウさんは何にしますか…………あっ、すみません、私ばかり見てしまって……」
「良いよ。リーリエが来たかったお店なんでしょ? じっくり見なよ」
「……なんだか今日のクロウさん、大人っぽい気がします」
カッコつけてるのバレてた!
……とはいえ心から楽しんで欲しいのは本心である。
俺はもう推しとの買い物デート、喫茶デートとかいう極上の褒美を貰っているのだから。返報性の原理。一緒に幸せになろうね♡
「一緒に見ましょう」
そう言ってメニューを机に広げ、リーリエはメニューとの睨めっこを再開する。
窓際だから、リーリエの黄金色の髪がキラキラ輝いて……。
惚れる。万人が惚れる。あまねく全ての命が彼女に恋をする。もしも彼女を自分のものにできるのなら、世界中の富豪が私財を全て投げ打って彼女に花を差し出すだろう。
可愛いと、綺麗だと、口に出すのもおこがましい。
言うまでもなく、リーリエが何より美しいことは決まっていることなのだから。
……直視していると頭がおかしくなりそうなので、慌ててメニューに視線を落とす。
「何か気になるものはありましたか?」
「んー……期間限定って書いてるしグランブルマウンテンかな。とりあえずアイスで」
「私は…………、決めました。すみません、注文をよろしいですか?」
やがて来た店員にリーリエがメニューを指差しながら注文をしていく。
「グランブルマウンテンのアイスを……クロウさん、シロップやミルクは」
「ブラックで」
「かしこまりました」
「あと……こちらの紅茶のホットを……それと……ごにょごにょ……」
リーリエが指差した紅茶の隣に、『私が厳選しました』という文字と共にこちらに笑顔を向けるオーロットの姿が。
「楽しみですね!」
「最後、何頼んでたの?」
「ふふふ……秘密です!」
は? 可愛いか?
この娘、自分のかわいさを自覚してやがるな? そういうところ好き。生涯を共にしような。
「お待たせいたしました。お先にお飲み物です」
「わぁ……! ありがとうございます!」
ソーサーの上に置かれた紅茶がゆっくりと湯気を揺蕩わせながらリーリエの前に置かれる。
机を挟んだ距離でも香る紅茶の優しく、しかし強い匂い。うわぁ……俺も紅茶にすればよかったかな。
続いて俺の前に置かれたコーヒー。
まぁアイスだし匂いは特に……いや、割と香りが強いぞ。どうなってんだこれ。アイスコーヒーだよ?
「……私もコーヒーにすればよかったかもしれないですね」
「俺も同じこと思ってた」
「!? ですよね!? とても香ばしい匂いがして、つられてしまいます!」
「どんな淹れ方してるんだろうね」
「そもそもグランブルマウンテンは淹れるのがかなり難しく、バリスタの仕事をしている人に弟子入りしないと淹れることすら許されないと聞きます。……ここの店主さんは何者なのでしょう……?」
「雑誌には載ってなかったの?」
「受け答えは全て先ほどの店員さんがしていました」
謎のマスターさんってコトォ!?
人見知りなのかな。
まぁとりあえずコーヒーブレイクといくか。リーリエはティータイムだけど。
「「美味しっ」」
「……ここまで来ると店の名前だけが残念だなぁ」
「あはは……」
「いらっしゃいませ、空いてるお席へどうぞ」
こうしている間にもまた一組客が来たみたいだ。
まぁこの味を知ったら盛況ぶりも納得できる。
「……あら、なんだか見知った顔」
「あっ……お久しぶりです!」
リーリエが声の方にお辞儀をする。
振り返ると、そこには黒髪の美少女が二人いた。片方はロングで片方はショート。
リーリエに肩を並べる美少女なんて存在しない(2回目)。
「ナツメさんじゃないすか。どもっす」
「久しぶり。奇遇ね、こんなところで」
「雑誌で知って、来てみようってなったんすよ」
「私たちもよ」
ナツメの後ろの人……なんかどこかで見たことあるんだよな。
いや、和服か特徴的すぎて「和服の人」としか覚えてない……。
「……あ。紹介が遅れたわね。この子はエリカ。同じジムリーダーなのよ」
「エリカと申します。タマムシシティでくさタイプを専門にしておりますわ」
「あー……どこかで見たと思ったら……」
ポケモンカードで見たんだ。そうそうエリカさんね、エリカさん。
「雑誌に載っていたこのお店を調べたら、エリカが気になるメニューがあるって。ね、エリカ」
「…………」
「エリカ?」
「すぅー……。すぅー……」
「………………こういうコなの。許してあげて」
俺たちが座っていたのが四人席ということもあり、立ち話もなんだと言うことなので二人を先に座らせる。
「ではクロウさん、お隣失礼しますね」
「えっあっ、うん。……え? 普通にそのままでよくない?」
「お隣失礼しますね」
「…………はい」
「そっちの方はうまくいっているようね!!」
「ギリギリかもです」
そっちの方ってなんだよ。わかるように話してくれよ。
「それで気になるメニューって?」
「エリカ、起きてエリカ。……これよ」
「……『ボクレーの葉の茶』?」
ボクレー、くさ・ゴースト
またゴーストタイプかよ!!!!
「エリカ」
「……はっ。……ええと……ボクレーの葉っぱを煮た汁は万病に効くとか……。くさタイプ使いとして、興味が湧きまして」
「「万病に効く…………」」
「……なに? あなたたち、何か病気でもあるの?」
強いて言うなら恋の病☆
じゃなくて。
「リーリエ」
「はい。お持ち帰りでいただきましょう」
万病というのがどれほど効くのかはわからないが、ルザミーネの治療に役立つかもしれない。
たしかボクレーはXYのポケモン。カントーで手に入れるチャンスは結構レアじゃないか?
「ご注文お伺い致します」
「……私は紅茶。このコはこのボクレーの葉の茶を」
「あ、それテイクアウトで俺たちも」
「ボクレーの葉の茶はバトルカフェメニューとなっておりまして、店主とのポケモンバトルに勝利するとご注文いただけます」
ここでくるかバトルカフェ要素……!!
「エリカ、バトルだって」
「すぅー……」
「エリカ!!」
「はっ。んにゅ……行ってまいります……。わたくしまけませんわよ……」
……かなり眠そうだけど大丈夫かなぁ……。
「大丈夫よ」
「へ?」
「『かなり眠そうだけど大丈夫かな』でしょう? あの子強いから大丈夫よ」
「エスパーって怖いから嫌いだ」
「あら、さっきまでゴーストがなんたら〜とか考えていた癖に。怖がりさんなのね」
「はァ〜???」
なんだコイツ掴みどころ無いな!
俺を揶揄いながら紅茶を啜るナツメ。先ほどまでスプーンが一人でに動いて砂糖を混ぜていたが、もはやそれはエスパーではなく本当にゴーストだと思う。
……そう言えば初代ってゴーストポケモン少ないよな。
「クロウさんクロウさん、コーヒー、一口いただけませんか?」
「ん。あぁ……いいよ」
「終わりましたぁ……」
「酸味が少なくて美味しいですね。こちらの紅茶も飲んでみてください」
「「……早ッ!?!?!?」」
「言ったでしょ、強いって」
おぉ〜……。びっくりしたわ。
バトルカフェだから手加減とかしてるんだと思うけど、まさかこんな数分も経たないうちに出てくるとは。
「……続いてお客様……」
「あっ、俺か。俺もボクレーの葉の茶頼んだもんな」
「クロウさん、頑張ってください!」
「まっかせーい」
通された先……中庭らしきバトルコートで、先ほどの店員と同じ制服に身を包んだ男性が立っていた。
この人が店主か。あの美味しいコーヒー淹れた人。
「ご来店いただきありがとうございます。店主です」
「連戦でごめんなさいね」
「この子達もバトルをしたがっていましたから構いません。それでは早速始めましょうか」
「よぉし! 頼むぞ、イーブイ!」
「……リザードン」
◇
クッソ強かったが???
なんなら残りの手持ちイーブイしか残ってねぇ!!
ていうかリザードンだけでゼニガメとケンタロスとリザードの三匹全員ひんしにしてきたのヤベェだろ! なんだアイツ!!
……あっぶねぇ〜……。最後がニャースじゃなくて同じ強さのリザードンだったら負けてた……。いやガラガラ出て来なかったやんけ。何がガラガラハウスじゃ。
っていうかえぇ〜??? エリカさんあのリザードン相手にタイプ相性不利な状態で瞬殺してきたんですかぁ〜???
「……あっ、クロウさん! 結果は……」
「勝ったよ」
クソボロボロな状態でなんとかな。
「すぅー……すぅー……」
このジムリーダー、やべえ!!!!
とは言えなんとか勝ったと言うことで俺はテイクアウトの権利を獲得。エリカは飲む権利を手に入れた。
エリカの前に置かれるお茶。見た目は緑茶のようだが扱いは紅茶らしい。俺たちがもらった乾燥茶葉を使う時も、紅茶の要領で淹れればいいんだとか。
「……あれ? リーリエ、俺のコーヒーどこから飲んだ? 俺が飲んだあとしかない」
「えッ!? ……どこでしょう? クロウさんがバトルしている間に水滴がついてしまったのかもしれませんね……!」
間接キス作戦失敗(´;ω;`)
「ふふっ、ふふふっ、うふっふふ……」
「ナツメさん……!! ナツメさん…………!!」
「わかってるわよ……ふふっ」
「ではボクレーの葉の茶、いただきますね」
リーリエの『しー』のポーズ二度目。今度は必死に何かを訴えているようだけど……これはこれで可愛いな。
乙女3人よれば姦しい、とは言うけどまさか本当のことだったなんて。
コーヒーひと啜り。
「「きゃあ!!」」
「エッ何、なんすか! えっ、なに!? ナツメさん? えっ、リーリエ?」
「「なんでも無い!」です!」
「?????????」
なんなんだよ。
何かに憑かれたかのようにきゃいきゃい盛り上がる二人をよそに、エリカはマイペースに茶を口に含む。
一度ぱちくりと目を瞬かせると、首を傾げた。
「……んん……?」
「どうしたのエリカ? 口に合わない?」
「いえ、深みがあって美味しいです。舌の上で転がすと甘みが出てきてそれもまた……」
「じゃあ何が疑問なの?」
「いえ……。ちょっと失礼しますね。ラフレシア?」
「もふーん」
「『どくどく』」
「「「!?」」」
唐突にポケモンを出したかと思うと膝の上に乗せ、自身でその『どくどく』を浴び始めた!?
ナニ!? なんナノ!? M!? Mに目覚めるお茶ナノ!? ジムリーダーってクセが強いんだよ!
「ずず……。……やはり……」
「な、なにしてるのよ……???」
「どくが消えています……。今朝からあった頭痛もさっぱり。このお茶、すごいです」
「び、びっくりしました……エリカさん、クロウさんと同じ匂いがします……」
「あなた『どくどく』を自分で浴びるの!?」
「流石にしないよリーリエ!?」
風評被害だ!!
……しかし毒も頭痛も消えるのは良い。なんでも治しの人間用みたいな感じじゃん。
ウツロイドの神経毒にどれだけ効くかはわからないけど、稲色のモモンの実みたいに起きていられる時間を伸ばしたりできるかもしれない。手に入れて正解だったかも。
「流石は文字通りの
「くさタイプ使いとしてはどう? 気に入った?」
「はい。このお店、気に入りましたわ」
「ボクレーの葉の茶自体は限定ということでもないようですね。クロウさん、また来ませんか?」
「また来るのは良いけどバトルはちょっと……」
「?」
次は負けかねん。
せっかくカントーに来てから無敗を誇っているのだ。俺は勝てる相手としか戦わないぞ!(クソダサプライド)
できればジムリーダーとの戦いも避けたいところだね。ゲームクリア後の本気ジムリーダーみたいなやつあるじゃん。アレ無理。少なくともエリカは強いって分かってるし避けた方がいいだろう。ね。無理だよ。
そんな感じで悔しさを滲ませながら苦笑いを───コーヒーだけに「苦」と言うわけではない───していると、店員が俺の目の前に一皿のパイのようなものを置いた。
シナモンの匂いがする。アップルパイか何かだろうか。
「あの、俺これ……」
「私が頼んだのですよ」
「あぁ、最後にごにょごにょしてたやつね」
メニューを取ろうとしたが制止される。
リーリエは緊張した面持ちでナイフとフォークを手に取ると、俺の前に身を乗り出してパイを切り分け始めた。
ウッ……リーリエの匂いが……存在感が……俺の目の前に……!
抱きしめたい……! 頭を撫でてみたい……! シヌゥ……!
「クロウさんにはいつもお世話になっているので、お礼です!」
「えっ、あっ、いや全然そんな大したことしてないって言うかむしろ俺がリーリエに助けられているというかリーリエがいるから頑張れるんであって何度も言うけどリーリエが気にすることじゃ全然ないって言うか」
「私が……クロウさんに
「いいや!? めっちゃ嬉しい! ヤッタァ! サイコー! まじ最高すぎてサイコソーダかもしれん」
「サイコソーダは最高から来てるわけじゃ無いのよ?」
うるせえなエスパーサイコガール。サイコガールだとなんかマッドな言い方になるな。
……目の前のパイは綺麗に切り分けられ、そのひと切れをリーリエがフォークで刺す。
やはりアップルパイだったようで、甘い香りがその場に漂った。
「ありがとうリーリエ、いただくよ」
「はいっ!」
「…………」
「………………」
「……あれ? フォークくれない?」
リーリエが一つしかないフォークを掴んだまま離さない。
自分から食べる様子もなければ、こちらにアップルパイを見せつける体勢のままにこやかな笑顔を携えている。あまり笑わない方がいいぞ。俺が死ぬ。
「あーんです」
「はい!?」
「はい!」
「いや『はい』は肯定とかじゃ無くてね!? なな、なんで!? リーリエ!? どうしちゃったの!?」
「ダメ……ですか?」
「いただきます!!!!」
くそぅ! なんで俺はリーリエにこんなに弱いのだ!?
って言うかなんで急にあーんなんてことしてるわけ? あらやだ積極的♡。 変なラブコメ見て当てられちゃった感じだろう。全くリーリエはおませさんなんだから。そう言うのは好きな人にやることだぞ。
「いやでもさ。二人の目もあるし」
「「お構いなく〜」」
「では、どうぞ!」
「じゃあまず二人にも分けよう!! ね!? 結構大きいしさ!!」
「初めてはクロウさんに食べて欲しいです……」
「いただきます!!!!」
ええいままよ!
───ッ。
それは一瞬の出来事。
ただ、甘い菓子を口に運んだ、それだけのこと。
たとえ俺とリーリエの視線が交差して、まるで自分が甘露を飲んだかのように嬉しそうに笑う彼女に、俺の心臓がこれ以上にない高鳴りを放っていたとしても、それはただ一瞬の、ほんの数秒の出来事。
彼女が世界に差し出すそのフォークと愛が、その数拍の間だけは俺だけに注がれている。
不恰好なままの自分を、受け入れてくれている。
寵愛を受けている間だけは、周りのことなんて気にする余裕が無かった。
全てを捨てて好きですと伝えられたら、どれだけ素敵なことだろう?
もしその唇から俺への愛が紡ぎ出されたら、どれだけ素敵なことだろう。
───ッ。
「……どうですか」
「…………おいしい」
「これからもよろしくお願いします。クロウさん」
「……うん」
このデート、俺にはちょっと刺激が強すぎるのかもしれない。
今にも鼓動で死にそうだ。こんな幸福感の中で死ねるなら本望かもしれないが。
「では、ナツメさんたちもどうぞ! おいしい、だそうですよ!」
「あら良いの? いただくわ」
「このアップルパイ、雑誌にも載っていましたね。確か、くさ・ドラゴンタイプのカジッ……」
「はいエリカ、私たちもあーん!」
「もごっ、もごっちゅ……おいひいれふ」
……あれ!? フォークあるじゃん!? なんで人数分!? いつのまに!?
「ねぇ、リーリエ……?」
「はむ。……んふ……! おいしいですね、クロウさん!」
「……そうだね!」
細かいこと考えるのはやめとくかァ!
今日はもう頭三歳児でいこうぜ! 耐えられねぇや!!!!
昔どこかの街のどこかのカフェを経営していたマスターの店に、トルテという子がやってきて目を輝かせていたとかなんとか