リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
いやー尊さで死ぬかと思った。
癒されすぎて浄化された妖怪みたいな顔になってたもん俺。
ナツメとエリカはこの後また用事があるそうなので、俺たちがカフェを出るタイミングで同時に店を出た。
三人寄れば乙女
もうじき来ることもなくなるであろう最後の春風に、一つの纏まりもないさらさらの髪の毛が、リーリエの背中で揺れる。
「……あっという間に過ぎてしまいました」
二人を見送ったリーリエが寂しそうに呟く。
まばゆい夕陽を横からいっぱいに吸い込んだ瞳が、沈みゆく太陽と同じようにゆっくりと伏せられる。
それほどまでにあの二人との会話が楽しかったのか。やたら寂しそうだね。
「あの二人と話す機会はまたあると思うよ。趣味もあってたみたいだし」
「違います」
はて。違うとは。
「日が沈んだら、私たちは家に帰らねばなりません」
「……まぁ、そうだね?」
「クロウさんとのおでかけが、もうすぐ終わってしまいます……」
そう言って太陽を恨めしそうに見つめるリーリエが美しかった。
「また来れるよ」
「でもッ……母様が……。母様の病気が、この先もずっと治らなかったら……ッ」
「治るよ」
「…………」
「早く帰ってボクレーの茶を試そう。もしも効かなかったら、新しい日記に効かなかったって書き込もう。そうやってちょっとずつ1ページを積み重ねていけばきっと良くなる。マサキ博士もそうやってきたんだ」
「でもっっっ、私ッ……」
振り返ったリーリエは泣いていた。
過ぎる時間と、遅い歩みに焦っているのだろう。
有り体に言えば思春期……。例えるなら、高校生活やその先の受験に悩む女の子。
ただし、そのような陳腐で枯れきった言葉ではリーリエの感情を表現することなどできないだろう。
「…………わた…………私……。どっちを選べば良いんですか……」
どっち?
どっちってなんだ。なんの迷いだ。
「……すみません。なんだかちょっと、今の私はおかしいみたいです……」
「おいで、リーリエ」
ここで俺は自分の心臓の鼓動を対価に、リーリエに安心を提供。
小さな身体は素直に俺の腕におさまった。
「リーリエが何に悩んでいるのかはわかんないけど、両方欲しいなら両方貰えば良いんじゃないかな」
「…………りょうほう……?」
「『どっちか一つしか選べない』って言われたら、頑張って両方手に入れる。お金がないなら働いて、力がないなら鍛えて。そうやって
リーリエを守りたい。ルザミーネを助けたい。
一つしか選べないって言われても二つ欲しいんだからしょうがない。
だったらまぁ、命くらい賭けるよ。
「与えられた選択だけが全てじゃないしさ」
「与えられた選択だけが……」
どうやら泣き止んだみたいだ。
顔を上げたリーリエの頬を、ハンカチで拭う。
このハンカチは後で舐めよう。というか今舐めたい。ベロリンガ。
「帰ろっか、リーリエ」
「……はい」
「アッ、腕を組むのはやるのね」
「はい!」
俺、無事死亡宣言。
宣誓! 僕たち私たちはリーリエの涙ベロリンガ組合に所属し病める時も健やかなるときもリーリエをベロリンガすることを誓います! でもリーリエが腕を楽しそうに組んでくるので心臓が動きません! 衛生兵を呼んでくれ!
んん〜頭皮から漂う赤ちゃんみたいな香りがトレビアン。
リーリエの頭皮スゥーwww カーッ!!たまんねえな!! あ、よだれ出ちゃった。
おほー(´ω`)みたいな顔をして夕陽を浴びる俺を知ってか知らずか魔性リーリエ、るんるんである。
片手に日記の入った袋を吊るして、まさに乙女の表情。神が天の上に人を作った上に二物を与えてるわ。
「……ウッ!!」
そしてそんなリーリエの表情を曇らせるような唾の吐き方をしたロケット団員が一人。
「彼女に振られて一人で黄昏てたんだよ! お前ら前を通りかかるなよ!」
あ、これポケモンバトルの流れだ。
ポケモンバトルってなんか割と雑な導入で始まること多いよね。
「あーあ、俺の連れ不機嫌にしちゃったね。サカキ様に報告しよー」
「なっ!? お前、そりゃねえだろ! こうなったらポケモンバトルだチキショー!!」
「リーリエ。ちょうど良いから教えてあげる」
「……なにを……」
「与えられた選択だけが全てじゃないってこと」
ボールホルダーに手を伸ばす。
ガラガラハウスでの戦闘でイーブイ以外は戦闘不能、イーブイ自身も満身創痍。ポケセンなんか近くに無いし、そんな時間も無かった。
一応アイテムで回復はしているんだけど、今回は一瞬でやられた慢心の戒めということで、ケンタロス達には見ていてもらおう。
「出てこい、クサイハナ!」
「くっさぁ〜ん」
「頼んだ、イーブイ」
「へぽォ!」
相変わらず気の抜ける声だね君。くっさぁ〜んもどうかと思うけどね。
「なんだなんだイーブイかぁ??? レアなだけのポケモンじゃ勝てねえぜ?」
「『まねっこ』。エアスラッシュ」
「っぽォ!」
「は!? ひこうわざ!? ナンデ!?」
イーブイの首のもふもふから何故か羽毛が舞い散り、それらが鋭利な刃のようにクサイハナに直撃する。
「俺たち気づいちまったんだよな、イーブイ!」
「えぼぼ!」
後ろのリーリエにも聞こえるように大声で。
「俺のイーブイは! 前回戦った相手が使った技も『まねっこ』できる! その戦闘を覚えていられる!」
「あ、アァ? どういうこった?」
「こういうことだよ……『まねっこ』、かえんほうしゃ!」
「えぼぶぉ───ッ!!」
「ほげえええええ!? 避けろおおおおお!!」
本来ポケモンが覚えられる技は四つ。
頭が良いとされるポケモンでも、基本的に使える技は四つまで。それがポケモンの断り。正確に言えば、使いやすさとか使い分けとか癖とか色々あるんだろうけど……少なくともイーブイは、四つしか技を出せないはずだった。
それが今は。
「『まねっこ』」
「えぼぼ!」
「そらをとぶ!!!!」
「飛んだァ───!? スゲェ───!?」
夕陽よりも高く、イーブイが舞い上がる。
物理も化学も関係ない、なんてことはない
「見て、リーリエ」
「空を……飛んでます」
「イーブイは……空を飛べないって道を与えられたから空を飛んで無かったんだ。けど、空を飛ぶポテンシャルは待ってたんだよ。『まねっこ』なんて技を覚えるんだからさ」
これがイーブイの選んだ、与えられずとも選んだ道。
やっぱ俺の相棒は最強だね!
「俺たちで奇跡を起こそう」
「……はい」
「欲張って、全部を幸せにしよう」
「はい!」
「……見てて、リーリエ。『まねっこ』……!」
旋風にのっていたイーブイが急降下する。
その短く小さな肉球に、燃えたぎるオーラを宿して。
オーラは肥大化し、イーブイ自身と同じくらい大きくなり、1番大きくなったタイミングで……。
「ドラゴンクロー!!」
刹那を持って、振り下ろされた。
◇
「あ、しもしもボス? おたくの下っ端にケンカ売られてポケモンバトルしたけど1ターンもあげずにノーダメキルしたよ。ざぁこ♡ざぁこ♡ もっと下っ端教育しろ♡ それじゃね」
『待っ』ピッ
「あのオッサン良い声で『マ゛ッ』とか言ってるんだけど超ウケる」
「…………」
「ウケるよなぁ!?」
「ひいっ!! ウケます!! ウケます!!」
「笑えよ」
「は、はいっ!! あは、あははは!!」
「なぁ!! ウケるよなぁ!! ははははは!! ははははは!!」
涙目の下っ端を踏みつけ瞳孔の開いた瞳で狂ったように笑う彼を背に、彼女は───を抱え上げた。
緑色のおめめが宝石みたいで綺麗だな、と思う。
「とても綺麗でした」
「えぼ?」
何を言ってるのかは理解できないけれど、なんとなく褒めてくれているのだけは伝わる。
「あなたの起こしてくれた奇跡が……私に勇気をくれる」
「えぼぼ」
「私、決めました。母様も、…………その、あの人も。欲張ってみせます」
何かで悩んでいたのがふっきれたようだ。
……それが、己のおかげでふっきる決心がついた、と?
なんだか誇らしい気分!!!!!!!
「ふふ、そんなに胸を張って……でも、本当にかっこよかったですよ」
「えぶぶ……ぶい!」
「やっぱりかわいいかもです……」
耳の付け根のあたりが最高のなでなでポイントなんだ。
もっと撫でてもいいよ。などと考える。
「あなたはどうして……クロウさんといっしょにいるのですか?」
そんなもの覚えているものか。ただなんかすごく、命をかけるには微妙な動機だった気がする。
「……えぼぃ」
「ふふっ、ふふふ! ……かわいい〜……♪」
こうして彼女に撫でられるのは、彼女と出会って何回目だったか?
気がつけばブラッシングとかもされてたような気がする。たぶんされてた。眠くて覚えてない。
そうだった。毛繕いなんて、もうしばらくやってない。
最後にしたのは、あの洞窟の中───。
「ぷいっ!!」
「わ。急に頭を振ってどうしたのですか?」
「ぷぷぷ〜」
「ぷ、ぷ、ぷ?」
そんな悪い思い出は忘れるに限る! そんなもの、知っている人だけが知っていればいい。
自分の出自や過去など、絵本にでもするのが適当だろう。
嗚呼、できればもう一度。
空を飛んで、愛するこの地を眺めたい。
「えぼぼ〜♪」
イーブイは、小さな頭でそう思った。
「笑えよ! なぁ! せっかくのデートをよお! 台無しにしてなぁ! 笑えよ!」
「すんません! すんません! あははは!」
「なにヘラヘラしてんだ殺すぞ!!」
「すんません!!! すんません!!!」
「笑えよ!!」
「はいっ!!!!」
「笑うな!!」
「はぃぃぃ!!!!」
そう、思った!!!!
おわり!!!!!!!