リーリエロスでカントー行ったよ   作:バケットモンスター、縮めてバケモン

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アローラの似合う季節

思えばこの世界に来る前も、季節の変わり目ははっきりしていた気がする。

春が過ぎれば夏になり、朝起きたら死ぬほど暑い日の始まりだった、なんてこともザラじゃない。

どうやらそれは、この地でも同じなようで……。

 

「…………」

 

マサキは死んだコイキングのような目をして椅子に横たわっていた。

片手に持つうちわが一ミリも動いていないことから、既に相当の気力が失われていることがわかる。

 

窓から降り注ぐ灼熱の日光がフローリングで反射され、みさきのこやは山の近くということも相まってサウナのような状態になっていた。

ちなみにマサキがダレている理由はもう一つ。

 

「……エアコン修理業者……来ないっすね……」

「…………」

「博士?」

「…………」

「死んでる……」

 

まだ春が過ぎて一月も立っていないと言うのにこの蒸し暑さ。

リーリエのキャンピングカーのエアコンが壊れていないだけまだマシか。室外機代わりのファンの音がここまで聞こえるけど。

 

「……くろうくん」

「あ、生きてる」

「とけないこおりを……持ってきて……。治療に……役立つから……」

「でもルザミーネさんエアコンガンガンにきかせて寝てません? とけないこおりとか要らないんじゃ?」

「ぐぅ〜〜〜……」

 

マサキの汗が床の書類に落ち、じわりとインクがにじむ。

 

「…………というか……クロウくん」

「はい」

「なんでクロウくんは汗一つかいてないんや……」

 

明鏡止水。心頭滅却。

神経を研ぎ澄まし、ただ自らの血管に酸素を運ばせることに集中する。

そうすれば、初夏の暑さなどどうということもない。

あとリーリエに汗臭いって思われたくない。リーリエに触れた時に手汗凄いなとか思われたくない。

故に気合い。気合で汗は引く。

 

「ヨガです」

「すごいなヨガ……」

 

チャーレムも顔負けの無我のポーズ。

煩悩退散。煩悩退散。

リーリエと花火に行きたい。リーリエの水着の水着が見たい。リーリエのノースリーブが見たい。リーリエと梅雨の土砂降りに降られて雨宿りして二人だけの空間を作り出したい。

煩悩退散。煩悩退散。

 

「……集中してるとこ悪いんやけど、電話鳴ってるで」

「ふむ。もしもし」

『俺だ』

「あ、ボス」

『シオンタウンの調査はどうなっている』

「そんなんあったっけ?」

『…………』

「…………行かなきゃダメぇ?」

『ダメだ』

 

悲しい。

シオンタウンの調査ってアレだろ? シブ老人だかなんだかが今何してるのかって話でしょ? なんか連絡網に来てたよ。だからオカルト本の供養とか俺自身の不幸のお祓いもまとめてやっちゃおうと思って受けたんだけど……。

遠いんだよなぁ〜〜〜。

 

『任務ができないと言うのなら、大切な娘の安全は保証できぬな』

「うるせぇな殺すぞ。わかりましたよ、行きますよ」

『ころ……。まぁわかった。報告を楽しみにしている』

 

だいたい、おじいちゃん介護の報告したところでRR団になんの利益があるのかね?

シオンタウンってゴーストいるらしいじゃん? やっぱポケモンとはいえゴーストはきついっす。

 

「なんの電話なん……?」

「シオンタウン旅行が決まりました」

「しおんたうん……。うん? シオンタウン?」

 

と、ここでマサキが本日初めて機敏な動きを見せた。

過去数週間分の新聞をひっくり返し、その見出しの文を見て何やら呟いている。

 

「これでもない、これでもない……」

「えっと何を……?」

「シオンタウンに関する何かがあったはずやねん! なんか見た気がするんよ!」

「えーと……? 『怪奇!シオンタウンに現れた謎の洋館』……。これですか?」

「それや!!!!」

 

適当に手にとった新聞がビンゴだった。

写真にはシオンタウンの塔の上から撮ったと思われる、森の中にそびえ立つ見事な洋館の写真が。

望遠鏡付きカメラで撮ったのか、結構良い画質で撮れているけど……なんか、なんか違和感があるなこの館?

んんん〜〜〜?

 

「リーリエはどう思う?」

「ひゃっ!?!?!? 気づいていたんですか!?!?!?」

「うお!? いたんかいな!?」

 

具体的にはみさきのこやに入ろうとした時に俺が電話している声が扉越しに聞こえて邪魔にならないようにそーっと様子を伺いながら入ったところから気配と香りでわかってたよ。リーリエが来た瞬間このむさ苦しい空気が一気に華やかになったもんね。

全くもうリーリエったら気配りができる女の子♡ 良妻賢母♡

 

「で、リーリエはこの写真になんか思うところはない?」

「えっと……。……ん……あの、気のせいかも知れないのですけど、館の周りが森に囲まれ過ぎてないかと……」

「……あ、ホンマや。この館どこから入るん?」

 

確かに、館の周りが文字通り森だけしか無く、玄関に続く道も庭も何も無い。

まるで森の上から館で押し潰したみたいな配置のされ方だ。

 

「ん? なんや、ここにも変なポケモン出るらしいで」

「変なポケモン?」

「見たことありそうで見たことないポケモンが出るっちゅうことらしいで」

 

なんだそれ。新しいリージョンフォームとかそういう?

 

「とりあえず、オカルト本のお祓いとかもしなきゃだし一緒に調査してきますよ。珍しいポケモンだったらゲットしてきます」

「わ、私もお供します! クロウさん無茶しますから」

「お、ならわいも……と思ったけど、そうすると看病する人がおらんくなるな。病人一人残して旅行ってわけにもいかんし」

「あ……」

 

リーリエの視線が、俺と窓の外……キャンピングカーの方向を何度も行ったり来たりする。

ここまで心配されてると嬉しいけど、ここは俺一人でシオンタウンに行った方が良いだろう。

リーリエ、と口を開こうとしたときマサキの手が俺の前に突き出された。

 

「まーまー、みなまで言うなや。ここはワイが留守番するから二人で行って来(き)ぃ」

「えっ……ですが、それでは……」

「ええねんええねん、若い内は旅するべきなんよ。リーリエちゃんその歳で真面目やねんから、たまには色々見て周り」

「す、すみません……ありがとうございます」

 

大人〜〜〜!!!!

エッ!? 待って!? リーリエとのシオンタウン旅行!? 二人きりで? やったぜ(感無量感謝感激天上天下唯我独尊)

新婚旅行だね♡ は? リーリエは誰の嫁でもなくただそこにいるだけで尊い存在だろうが殺すぞ。同担拒否レベルMAX。

 

「ほなお留守番のためにはよクーラー直さなアカンな」

「自分でやるんですか。手伝います」

「おおきにな。工具とってくるわ」

 

肩を回しながら家の奥へ向かうマサキを横目に、リーリエがちょいちょいとこちらへ手招きする。白くて柔らかいおててが可愛いね。

 

「シオンタウンへはどう行くんですか? やはりワープ装置で?」

「の、つもりだったけど……どしたの?」

「いえその、ええと……ワープ装置は使わずに、歩いて行きませんか?」

「良いけど……遠いよ? なんでわざわざ」

「そ、それはそのぅ……」

 

そう言って赤面するリーリエ。誠に可愛らしい。

 

「あー……0.6キロくらい気にしないでもすぐに落ちると思うよ?」

「!?!?!?!?!?」

「むしろご飯を食べたらしばらくはそれくらい増えるし、リーリエはいつも家事やってるから運動もしてるし、もともと痩せてるし……。なにより見た目に出てないから気にしないでいいと思う」

「クロウさんのばか!!!!」

「ありがとうございますッ!」

 

ほっぺた叩かれちゃった☆

というかなぜ……。褒めたじゃん……。

リーリエ、スレンダーでとっても可愛いのに……。

 

「とにかく行く時は歩きで行きます!! クロウさんはワープ装置でもなんでも使って先に行ってください!! 準備がありますので、それでは!!」

「えっちょっ、行くよ! 俺も歩きで行くよ! ごめんって!」

 

あぁ〜……。帰っちゃった……。

何がリーリエの逆鱗に触れたんだろう……マジでわかんねえよ……。

 

「今のはクロウくんが悪い」

「博士ぇ……俺どうしたら……」

「旅の道中で『ケンタロス乗るぅ?』とか言わへん方がええで」

「えぇ……どうして……」

 

とにかく、リーリエが明日にでも出るつもりだとしたら俺も準備をしておかねば。しておいて損はないし。

ときたま郵送で送られてくるRR団の支給品やレポートに使う文房具などをリュックに詰め込み、カメラ……は没収されたんだった。

 

「それと……オカルト本」

 

リーリエとのデパートデートの際に引き取った、ゴーストポケモンが棲みついていた本。

人間がポケモンになる方法、だっけ?

内容はそこそこ気になるけど、この情報がルザミーネの治療に使えるとは思えん。そういえばボクレーの葉の茶はどうなったんだろう。まぁこちらになんの情報も無いということは、もし効いたとしてもそこまで劇的な力じゃ無さそうだ。

 

とにもかくにもこの胡散臭い本はお祓いして焚書とかしてもらったほうが良さそうだ。

なんとなく……嫌な気配を感じる。力が欲しいか?とか聞いてきたし。ロクなもんじゃねえよきっと。

……あーあ! やることが山積みだ! この鎖で縛られたモンスターボールも早く出さないとストレスやばいだろうし! でもどこで出せば良いんだよ!

それにウルトラビーストは!? フードの男は!? あぁもうどうしたら!?

 

「クロウくんが百面相してはる。そんなことより、冷房直すで」

「うぅ……はい……」

 

夏休みの宿題かよと嘆きたくなる気分を抑え、俺はマサキの持ってきた工具を握った。

 

「クロウくん、それ持ったまま脚立抑えてくれへん?」

「はーい」

「このネジ外したら……はい、クロウくんパス」

 

割とでかいネジを渡される。

ちょいちょい、と空いた手で何かを訴えていたので先ほど持った工具を渡すと、マサキは満足げに修理を進めた。

 

「クロウくんって気が利くなぁ」

「そうですかね」

「ホンマよ。周りに気を配ってばっかな気がするわ」

「それはリーリエでは? 料理も洗濯も掃除も、大体リーリエがやってくれるじゃないですか」

 

俺が今着ているこの服も、リーリエがせっせと庭先に干してくれているから太陽の匂いがするのだ。

 

「俺、家事できないですもん」

「そうなん? リーリエちゃんの手伝いとかしてるイメージあるんやけど?」

「ここにやってきてから初めて家事をしましたよ? 頑張って覚えました」

「へぇー……。やったことない人は一生やらへんもんやと思っとったわ。わいが最もたる例やな。最初は家事もしてたけどめんどくさくなってもうたわ」

「まぁ……リーリエの隣に立つなら、それくらいはできないといけないなって思って」

「またか! ホンマにリーリエちゃんが好きなんやなぁ」

「はい。……あの子は俺の生きる希望です」

 

ポケモンに……リーリエに出会わなかったら、俺は最初にこの世界に来た時点で生きるのを諦めているんだろうな。

泳いでカントーに行くなんて、とてもとても。

 

「クロウくんのそういうシリアスでロマンチストなとこ好きやで」

「いやいやいや! 本当のことですよー」

「嘘つけwww カッコつけてリーリエちゃんに取り入ろうとしてるくせにwww バレバレやでwww」

「生意気なんですけど! こうしてやるわ! 落ちろ!」

「うわっ、揺らすなッ、落ちるぅ!?」

 

ガタガタゆれるマサキとケタケタ笑う俺。

なんとなく、歳が近いような気がして気が許せる!

 

そういえば博士の夢ってなんなんだろう。

今でこそルザミーネの治療研究に没頭しているようだが、リーリエが来る前はもっとやりたかったこともあっただろう。

俺がしっかりしなきゃ。ルザミーネを早く元に戻さなきゃ。

そうすれば、みんなそれぞれの道に戻れる。ハッピーエンドになる。

マサキはポケモンの研究を再開できるし、リーリエとルザミーネはアローラへ戻ることができる。

それで、俺は……。

 

……俺は…………。

 

どこに帰ろう…………?

 

「…………」

「……クロウくん?」

「………………」

「ふーむ?」

 

何を思ったか、マサキは俺の頭に手を乗せた。

そのままぐりぐりと撫で回す。

存在するべきじゃない俺の頭を、撫でやがった。

 

「リーリエちゃんのこと頼んだで」

「…………はい」

「無茶すんなよ」

 

今は、どうでもいいか。

守ろう。この家を。

扉が開いたらリーリエがひょこっと顔を出すようなこの家を。

 

「……くろうさん……怒ってないですか……?」

「全然怒ってないよ」

「ほんとですか……?」

 

護ろう。この空間を。

リーリエの声を聞いて腹を空かせ、イーブイが飛び出してくるようなこの空間を。

 

「えぼ!」

「飯の時間はまだやのに、リーリエちゃんが来ただけで出てきよったでコイツ」

「食いしん坊さんですね!」

「犬になればリーリエにあーんしてもらえる……? わんっ」

「えぇ……???」

 

そしたらきっと、明日もいい日になる気がする。

 

「……」

「あ……。鎖のボールですね」

「コイツを出してみようと思う」

 

そのために、力が欲しい。

 

「え……」

「クロウくん……?」

「大丈夫っすよ、みんなのことは絶対守るので」

「ちょちょちょ、いま無茶はせんって言うたやん!」

 

2人の静止を聞かずに外に出て、ボールを構える。

 

「クロウさん!」

「……出てこい」

 

投げたボールが弾けて……。

 

 

 

 

 

「ダネ」

 

 

 

 

 

「「「フシギダネ!?」」」

 

「……? ……。 ……? ダネダネ!!」

 

にっこり。

こんなポケモンが凶悪なんて、ふしぎだね。

 

「ダネェェェアアアアア!!!!」

「うわいってぇ、やっぱコイツ凶暴だ!」

「クロウくんボール! 捕まえてはよう!」

「オラァ!」

「弾かれてます! リザードさん、お願いします!」

 

 

 

 

そんな感じで、鎖のポケモンはフシギダネでした。

俺の覚悟返せ。

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