リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
右腕を怪我した。
フシギダネをボールに押し込める時に、やつの攻撃がしたたかに俺の腕をぶち打ったのだ。
怒ると怖いリーリエがキレて一言、『許しませんよ』と呟いたことでフシギダネはなんとかボールへ収まったが、今は俺のボールホルダーでガムテープぐるぐる巻きにされてる。そりゃ怖いもん。時折ガタガタ揺れるのがさらに怖い。
ボールと同じく包帯ぐるぐる巻きになった右腕を庇いつつリュックを背負って外に出てみたが……珍しい人が外に出ていた。
「ハンカチは持った? おこづかいは足りてる? 何かあったらジュンサーさんを頼るのよ。それから、それから……」
「恥ずかしいです母様! ハンカチは2人分ありますし現地で宿泊する事態になった場合の用意もあります! それにクロウさんとは地が割れ海が唸り空が裂けても絶対離れることはあり得ませんし大きな事件は無いと思います!」
ルザミーネだ。
たまたま覚醒するタイミングが被ったのか、リーリエのお見送りに来ているようだ。
髪のツヤも良くなったし、痩せていた頬もなんとなく血色がいいように思える。産後の母みたいなやつれた印象だったけど、今は普通の美人さんって感じだ。少しずつ良くなってきているようで安心したよ!
「ルザミーネさん、おはようございます」
「あら、噂をすればナイトが来たわよリーリエ」
「もう母様!!!!」
「お元気そうで何よりですよ」
「いえ、美味しいお茶をありがとう。この子をよろしくね」
この子をよろしくね、か。
ウツロイドの毒が残っているルザミーネなら、「親がついていけない時に外に出るなんて!」と癇癪を起こしそうなものだったけど……。
どうやら治療の様子は本当に良好らしい。よかった。
「何か欲しいお土産などはありますか?」
「そうねぇ、子供?」
「母様ッ!!!!」
子供……子供なぁ。
シオンタウン近くで出現して、何か有名なポケモンっていたか?
子供ってことはタマゴで良いんだよな? さすがに親子のポケモンから子を攫ってこいってわけじゃ無いだろうけど……。
もしかして、シオンタウンに預け屋さんとかが出来たのだろうか。もしそうなら、ルザミーネの要求である子供ってのも満たせるはず。
「わかりました」
「クロウさん!?!?!?」
「ウフフ! 楽しみにしてるわね」
え。
種族とか、どんなポケモンのタマゴがいいとか……そういう指定無いのか?
マジで子供に飢えてるのかな。リーリエも本編よりもだいぶ大きくなったし、寂しいのかもしれない。
「ふぁ〜。おはようさん3人とも。……もう行くんかいな。行ってら〜」
「わたくし達は朝食にしましょうか、博士?」
「うぃ〜」
マサキもなんとか間に合ったみたいだ。
外に出ているのも暑いだろうし、俺たちもそろそろ出発の時だろう。
「ちょっ、ちょちょ、ちょっと待ってください、心の準備が……」
「じゃあ、行ってきます。行こう、リーリエ」
「心の準備が〜!」
なにやら目をぐるぐるさせたリーリエと共に、俺たちは少し早足で旅の一歩を踏み出した。
◇
途中までは見慣れた道。
だが、新しい靴を履けば世界が変わって見えるように、リーリエと旅に出ているというだけでいつもの道路も未探索の地のように思える。
時刻にして朝の9時ちょっと前ほど。
明朝であれば頭上を鬼のように飛んでいたであろうポッポたちもどこかへ消えた。
シオンタウンへの道のりは主に二つ。
みさきのこやを出てすぐのお馴染み24番道路を通ってハナダシティへ向かい、そこから分かれ道だ。
一つ。9番道路、続いて10番道路を通ってイワヤマトンネルへ向かい、トンネルを抜けた先にシオンタウン。
一つ。5番道路の先のヤマブキシティから8番道路へ出て、その先がシオンタウン。
まずはハナダシティへ向かってそこからどちらへ歩くかはその時に決める。
まさに旅って感じだ。よきかな。
「リーリエ、荷物は重くない?」
「だ、大丈夫だと思います」
「辛くなったら休憩を取るからいつでも言ってね」
そして俺は!! 今!! 猛烈に感動している!!
リーリエの今の格好を見ろ!
純白のつば広帽子に、清楚で汚れの一つも無いプリンセスラインのノースリーブワンピース! 帽子のリボンがワンポイント! プリティー!
そしてそのお嬢様然とした姿に似合わない無骨なドラムバッグ! 荷物がパンパンに入っている! 重心傾きそうになって慌てて抑えてるのかわいいね!
もうわかるね!! わかるよね!!
そう!!!!
リーリエは今、SM本編と同じ格好をしています!
オタクくん見ってる〜? 俺は見てる。リーリエのこの尊すぎる御神体のような姿をまじまじと見て涙している。いや、御神体ではない。リーリエが神だ。神の身体とかそんなしらけた物のような存在ではなく、リーリエが、リーリエそのものが神なのだ。
今この時をレポートできていたのなら、きっと俺は後世にこの姿を伝え続けるだろう。
リーリエの姿を映し出した絵や写真は美術館に飾られ、歴史書に載り、国旗になる。
吟遊詩人が彼女の可憐さを歌い世界を練り歩く。
これこそがアルセウスが最も最初に生み出した究極の美しさを備えた人間。いや、アルセウスがどれだけ力を出しても作り出すことができないだろう! 世界はリーリエのためにある!
世界があってリーリエがいるのでは無く! リーリエがそこに在り、後からアルセウスが彼女の美しさ可憐さ淑やかさを引き立たせる世界を作りあげたのだ!
嗚呼、きっとその全てを前にしては、海も大地も時間も空間も、理想と真実ですらひれ伏してしまう。
キャー! こっち見てー! ファンサしてー! 肩にちっちゃいセレビィ乗ってんのかい! いよっ! 精霊王ー!
「……クロウさん? どうしたんですか? 私の顔に何か?」
「あぁいや、ぼーっとしてたというか。そのカッコも懐かしいなと」
「そういえば、初めてお会いした時もこの服でしたね」
ひらり、とその場で一回転するリーリエ。は? 至福だが? 今ので視力が5万は上がったよね。
カコッ、という石畳を鳴らす音に気づいて足元を見るが……そう言えば靴も本編と同じものだ。
白いローファー……と言えば良いのだろうか。
「その靴歩きづらくない? 大丈夫?」
「大丈夫です! こう見えても、アローラの島をこの格好で旅していましたから」
「ならいっか」
数ある靴の中からわざわざ歩きづらいこの靴にした意味はなんだろう?
リーリエの旅装束と言えば、俺からすればがんばリーリエのスタイルなんだけど……リーリエ的にはこちらのほうがしっくりくるのだろうか。鞄もがんばリーリエの時のリュックではなく、ドラムバッグだしなぁ。
……いや? もしかして……今回の旅はがんばリーリエになるほど覚悟がいらないということか……? がんばら無くても良いと……?
不覚……ッ! 一生の不覚……ッ! この旅、絶対楽しいものにしてみせる……!!
「ハナダシティが見えてきたな……。リーリエ、体力は大丈夫?」
「はい。……と言いたいのですが、ハナダについたら一度どこかに立ち寄ってお昼ご飯を食べましょう」
え、うそだぁ。ハナダに着く頃もうそんな時間?
ポケモンの世界ってその辺がかなり複雑というか、不可解だよな。
ゲームの道と今の世界の道。明らかに長さに差がある。
ゲームでは数十秒ほどで付きそうな道でも、実際歩いてみると結構長いんだ。まぁ、「人を数十人詰めたらパンパンになる街があるわけないだろう」と言われればそれまでなんだけど……。
なんて言えば良いんだろう? この世界における、物理的におかしい!って現象に対して……明確に調整が入っているような……。
「んん〜……なんだか道が長く感じます! 誇らしいです!」
「道が長く?」
「はい! 大人の証です!」
お???????(クソバカ)
「道が長く感じると大人って……どういうこと?」
「子供から大人へ成長する過程で、急に世界が広くなったかのように感じる現象があるようです。『視野が広まった』とも言うらしいですね」
「お〜??????」(ボケ)
「例えば……母様と私では、同じ道を歩いても感じる長さに差があるということです。母様の方が大人ですから、視野が広くて……ええと……」
「お〜……」(アホ)
つまり道を長く感じたら大人に近づいてるよってこと?
「じゃあおじいちゃんとかだとすげー長く感じるわけだ?」
「そうなりますね。ここから先は本で見たことになるのですが、子供と大人の体力の違いや、精神の成熟も影響しているらしい、と……」
「へ〜」
「子供の頃はこの地方にはいないと思っていたポケモンが、大人になって草むらに入ると急に目の前に出てきた。しかしそれは視野が狭いからいないと思い込んでいただけで、実はずっとそこにいた……というような具合です」
「ほぉ〜……」
……つまり、アレだ。
ゲームの殿堂入り後に他の地方のポケモンがゲットできるようになるのはそういう理屈だったんだ!!!!
なるほどなるほど、視野の広まり、ね。
軽い気持ちでシオンタウンに行くとか行っちゃったけど、もしかしたらすごく時間がかかるのかもしれない。俺の視野すげーから。もはや千里眼よ。道はめっちゃ長いし、野生のポケモンも他の地方どころか伝説とか幻が出ちゃうもんね。
あっ! 野生のレジギガスが飛び出してきた!
レレジジwwwwww ガガガガガガwwwwwww
「ふぅん。大人になれば視野が広まっていろんなモノを見ることができるけど、大人になると道が長く感じちゃう、か。大人になりたいような、なりたくないような」
「少し分かります。ですが、抵抗しても時間は過ぎるものです。どうせなら、今を楽しんで未来に期待するのも、悪いことじゃないと思いませんか?」
「良いこと言うね」
「やがて大人になるのに、今から大人になった際のデメリットを考えてもどうしようもありませんし。……ということで」
リーリエは駆け出すと、俺から少し距離を取る。
獅子の毛で作られた旗が誇らしげにはためくように、シルクより美しい御髪が翻る。
「今を満喫して、お昼ご飯を食べましょう! ハナダシティが見えてきましたよ!」
うーん、リーリエあざとすぎ案件キタコレ。
◇
ハナダシティはやっぱりというかなんと言うか、『視野が広まった』おかげで広い街に見えた。
前に来た限りでは数軒しか無かった家屋の数が増えていて……いや、
もちろん店だって、前まではフレンドリィショップ以外に無かったはずなのだが……こうして俺たちがサンドウィッチをテイクアウトしていることが視野の広まりを物語っている。フレンドリィショップ以外に……ポケモン以外に興味が出てきた、みたいなことだろうか。
まぁ俺の興味は最初から ポケモン<リーリエ だったんだけど。リーリエショップとかあったら逆にそれ以外が見えなくなってそうだ。視野が狭まってやがる。
「あっ、クロウさん、噴水がありますよ!」
「ハナダ名物だね。ベンチもあるしあそこで食べようか」
「はい!」
ベンチの上にハンドタオルを乗せ、リーリエを招く。
いやまぁ、手で埃を払っても良かったんだけどサンドウィッチ食べるしね。
「ありがとうございます」
リーリエは俺の隣に座ってきた。おほ〜こりゃたまりませんな。
待って? リーリエと噴水の煌めき、相性良すぎんか?
ベンチの背に噴水がある形だけど……時たま跳ねる水がリーリエと似合いすぎてる。
は??? 水色のリボンと水の輝きってそういうこと???
うっわぁ〜、今のリーリエにソーダとか飲んで欲し〜!! 瓶のソーダとか売って欲し〜!!
「ちょっと飲み物買ってくる」
俺の視野が広がったっていうことは、ハナダシティにないはずだったものがあるかもしれないんだ。
例えば建物。例えば店。例えば……人。
あからさまに人口が増えている。いや、いるのに気づかなかった。
そうだ。今は夏。夏の噴水の広場の周りに、ドリンクが買えない場所が無いはずがない。
唸れ俺の視野ああああああ!
なんとかなれええええええ!
「え〜、ドリンク、ドリンクいかがっすか〜。ミックスオレにおいしいみず、サイコソーダも売ってます〜」
ふ。
ふはっ。
ふはっはははははははは!!
これが俺の……広まった【視野】!!!!
「お兄さーん! サイコソーダ! 二つ!」
「お〜、毎度ありっす」
これは……大人にはいち早くなるべきかもしれない……ッ!
「リーリエ、ソーダ買ってきt…………」
……バカな……ッ!?
いつの間に俺は、リーリエとこんなに離れていたんだ……!?
目を離した隙に誘拐されたら? ポケモンに襲われたら? 地割れが起きて離れ離れになったら?
早く駆けつけねば。だが、なぜか距離が縮まらない。
こんな距離、すぐにでもひとっ飛びで…………まさか。
これが……視野が広まった代償……ッ!?
こんな顕著に出るもの!? 視野が広がっただけでしょ!?
なんだこれ!? 全然距離が縮まらん!! はよ狭まれ視野! リーリエしか見ないぞ俺は!
唸れ俺の視野ああああああ!
…………。
「おかえりなさいクロウさっ、えっ、なんですか!? なんでそんなに息を切らせているのですか!?」
「ハァッ……ハァーッ……。リーリエ……」
「は、はい」
「俺、一生子供でいい……」
「えぇ……」
「とにかく、飲み物……買ってきたから、飲んで……」
差し出したサイコソーダの瓶を困惑しながらも受け取るリーリエ。
まぁ形状は完全にラムネ。開け方もラムネだ。
ポン、と小気味良く蓋を開ければ、シュワシュワ弾ける音がする。
おぉ……噴水とソーダのASMR……。
「いただきます」
……おぉ……。
「んく……」
リーリエのごくごくASMRってマジ!?!?!?
あぁもう本当にリーリエしか見えない。
世界から、俺とリーリエ以外がいなくなったみたいだ。
水の音と、炭酸の音と、そして……。
「ぷはっ……」
その息遣いが……。
唇が艶かしく震えて……。
口周りのソーダを舌べろでなめとって……。
いやエロすぎんか!?!?!?
なんだこの女やば過ぎるだろ! 一挙手一投足が全部俺の性癖に刺さる!
うっわ夏やべー! 夏最高! ノースリーブの天使! ミニスカワンピの悪魔! いやぁ夏様様ですねぇ!!!!
「? どうしたんですかクロウさん。食べないんですか?」
「あぁいや、食べる、食べるよ」
長く短い瞬間だった……尊い……。
推しが俺の差し出した飲み物飲んでる……。
「いただきます」
「サンドウィッチは普段なかなか食べませんから新鮮です。はむ……」
うっひょぉかわええ!
サンドウィッチになりてぇ!!!!
推しの食事シーンを見ながら食う飯は美味い。まるで一緒に食べているみたいだ。
あっ、実際一緒に食べてるんだった! オタクくん見てる? リーリエは今俺の隣でご飯食べてます。尊いでしょ。
は? 今お前リーリエは俺の嫁とか言ったか? リーリエは誰の嫁でもねぇだろうが!!!! みんなの推しでしょ!!!!
「あ、クロウさんほっぺにケチャップが」
ほほほ! 口元拭われちゃった!
俺明日死ぬわ(予告)
なんだ!? めちゃくちゃツいてる! 死ぬほどキてる!
「ごちそうさまでした……。クロウさん、ハンドタオルありがとうございます」
「う、うん」
リリリィ、リーリエの、リーリエの下に敷かれたハンドタオルGET!?
永久保存版では!? い、いや、ここは勝手に洗濯される前にご賞味したほうが良いのか!? いや、待てよ、確かに変態な思考だけどさ、お前ら好きな子が尻に敷いた布あったらどうするよ!! 普通はちょっとドキドキするでしょ!!
うん!!!!
俺が変態だね! ごめん!
もう黙るわ! はい! サンドウィッチも全部詰め込みます!
「ところでクロウさん、知っていましたか? この噴水にコインを投げ込むと良いことがあるみたいですよ」
「コインを? 泉の女神みたいな話?」
もしもこの噴水に女神がいるのならきっとそれはリーリエに似た人なんだろうな。リーリエには及ばんけど。
……じゃあもうリーリエにコインをあげれば良いのでは? 俺はそれだけで幸せですけど?
「ポケモンと投げると良いことが起こる、というのが噂みたいです」
「ポケモン関連かぁ。……イーブイ?」
「えぼっ!!」
俺の肩に召喚されたイーブイ。重いよ。
何やらキラキラした目でこちらを見ているが……。何よ。投げろって言うの?
「じゃあまあ、500円で良いか……」
「えぼ」
イーブイの頭の上にコインを乗せる。
「はい、せーの、ぽーい」
「えぼーい!」
……ぽちゃん。
コインは天高く舞った後、普通に噴水の底に落ちました。
「……これであってる?」
「はい!」
「えぼぼ〜♪」
イーブイが楽しそうなら良いか。
「クロウさんとイーブイちゃんの信頼がより深まったような気がします!」
「……えぼ?」
「俺ら、また仲良しになったんだってよ、相棒」
「えぼ!」
……じゃあポケモン関連じゃないけど、俺もなんか願掛けしとくか。
「(この旅で、リーリエが怪我せずでもそこそこスリルある感じで日記帳がにぎやかになるようなイベントが起きますように。あ、でもリーリエがトラウマになるようなことはNG。あとポケモンに襲われるとか絶対ダメ。なんだろう、あれだな、追いかけられる系ならいざとなったら俺が抱えて走れるしその辺がいいかな。落ちる系はちょっと対処が難しいからダメで、あとは滑る系とかもダメで……。できることなら一緒にルザミーネさんの治療薬探しも進められるといいかな。あとフードの男が来た時にリーリエに触れようとしたら手が焼ける魔法をかけてくれ。それから、リーリエがさっきから足をほぐしているようだからすぐにその痛みを解消するように。あとドラムバッグの肩も食い込んじゃうと後になるからそのへんをふんわりさせること。それからそれから……)」
「……クロウさん? なにを願ってるんですか? 長くないですか? ……あれ? クロウさん? ぉーぃ?」
それからそれから、あとはリーリエの麗しい声が枯れてしまわないように喉に保護を……
「もう!!!!」
「えぼ!!!!」
みちが ふたてに わかれている……。 (この選択肢は、多少出てくるポケモンや風景が違うだけで、ストーリの展開には関係ありません。)
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▶︎ イワヤマトンネル
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▶︎ヤマブキシティ