リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
パタン。
枝が倒れ、道を示す。
「ヤマブキシティか」
「ナツメさんの街ですね」
「そういえばカフェで別れたまま連絡も何もしてなかったなぁ。ちょっと顔出す?」
「行きましょう!」
5番道路からヤマブキシティへ向かう道。
俺たちは休憩もそこそこに歩き出し、シオンタウンを目指す。
……そういえばシオンタウンの霊を見るためにシルフスコープだかなんだかが必要なんだっけ? それがヤマブキシティにあったとかなんとか。
まぁ、俺は別に塔を登ったとしてもゴーストと戦う理由は無いし、シルフスコープなんてあってもなくても変わらないけど。
何より、リーリエが危険にさらされる可能性がかなり低いというのがありがたい。
ポケモンセンターやフレンドリィショップもあるし、何か事件が起きそうならリーリエだけでもナツメに匿って貰えば良い。
どうであれ、イワヤマトンネルじゃなくて良かった。ここ集中のリソースを削るのは流石にしんどい。
「そういやナツメさんってさ」
「はい」
「勝った方が街のジムリーダーってバトルを今のジムの隣の道場としてたらしいよ」
「そうなんですか? ……あれ? でも……」
「そうそう、エスパータイプとかくとうタイプじゃ話にならないよねえ」
「ジムリーダーとはそういった手法で決まるのですね……覚えておきましょう。アローラにはジムリーダーがいないので、最初にこちらに来た時は驚きました」
「むしろアローラにジムリーダーがいないのが他からしたらびっくりなんだけどね」
アローラ地方にジムリーダーはいない。
代わりにキャプテンと呼ばれる者が各島のしまキング、しまクイーンから認定されるらしいが……。
「どうしてアローラにはジムが無いのでしょう?」
「代わりのシステムはあるんだし、民族文化を尊重して……とかはありそうだよね。あとは島同士が離れてるから、『ジムめぐり』で統一しちゃうと管理が大変とか? だからチャンピオンとかも無かったんだろうし……」
「じー……。詳しいですね……???」
「しっ、しし、調べたんだよ」
「……。まぁ、もう何も言いません。そういえば、エーテルパラダイスも前は複数の浮島であったものを繋げて作った人工島ですが……。エーテルパラダイスが作られる前の浮島にも、キャプテンやぬしポケモンはいたのでしょうか……?」
「流石に無いと思うなぁ……。そんなことあったら反感すごいよ。まぁ、ぬしポケモンくらいはいても良いのかも? それか……」
それか、カプ神くらいは居てもいい。
「それか?」
「いや、考え過ぎかも。人が住んでる島ならまだしも、ただの岩にぬしポケモンも何も棲みつかないよ」
「人が住んでいたら棲みつくのですか……? でしたら、エーテルパラダイスにもぬしポケモンが……?」
エーテルパラダイスのぬしポケモンと言ったらもちろんシルヴァディだろう。ほら、厨二病のクソガk……もとい、義兄様のポケモン。
人工島の人工ぬしポケモン。うむ、何となく哀愁があっていい感じだ。
とすると、やはりエーテルパラダイスにはカプ神もあるのだろうか。いや、でも元ネタのハワイ島には4神が有名で、5体目の神なんて居ないかもしくはマイナーだったはず……?
「頭が痛くなってきた……」
「考察の域を越えませんからね……」
深呼吸して、夏の空気を肺に入れる。
ふと茂みに目をやると、野生のポケモンたちがこちらを覗いている。
快晴の空をまばらに飛ぶポケモンもこころなしか元気がない。お、この孤独なsilhouetteはカイリュー。はかいこうせん。
「今日の晩ご飯は何にしますか?」
「せっかくだからキャンプ飯とか……? あ、でもヤマブキシティに行くんだしポケモンセンターで一泊するのも手かも。リーリエはちゃんとしたお風呂に入りたい?」
「少しの間なら、お湯があれば多少は大丈夫です」
「強かだねぇ。その点はゼニガメとリザードがいるし、お湯はなんとかなりそう」
「ではヤマブキシティを抜けて、8番道路でキャンプにしましょうか。カレーにしましょう」
「わあいカレーだ」
なるほどね? リーリエのでっかいカバンには鍋が入っているわけだ。そりゃすげえや。
いや鍋くらい俺が持つけど? なに無茶してんの、かわいいね♡
「あ、ヤマブキシティが見えてきましたよ」
「ホントだ。いつ見ても都会だよなぁ……って……ん……?」
「……? クロウさん、どうかされましたか?」
「いや……なんかロケット団いない……?」
「えっと……私にはまだ、ビルがぼんやりとしか見えておりません……」
リーリエが見えない距離のRR団を、俺が見えてる……?
いや、俺の視力が特別良いなんてことは無いはず。じゃあなんで?
……まさかリーリエ?
「……え、なんですかクロウさん? 何か着いていますか?」
リーリエに危険が及ぶから、俺の『視野』が反応した?
リーリエを危険に晒す芽を潰せと?
「リーリエ、ヤマブキシティは今ちょっと危険かもしれない。ここまできてなんだけど、一旦引き返……」
「えっ!? は、早く行かなければなりません!」
「なんで!? わざわざ危険に飛び込むのはやめとこうよ!」
「ナツメさんが困っているかもしれません!」
「…………!」
「私に何ができるかはわかりませんが、それでも……!」
そう言って、地面を蹴って走り出すリーリエ。
リーリエを止めようと伸ばした手は彼女の手を掴むことは無く、俺は1人残された。
……自分に何ができるかはわからないけど、それでも、か。
なんとなく、今の俺に似てるなって思うよ、リーリエ。
あんまり無茶はしてほしく無いんだけど(ブーメラン)
「……しょうがねえ! ケンタロス!」
「ぶもう!」
「荷物頼む!」
荷物を載せたケンタロスと共に走り出し、リーリエの背中を追う。
お? リーリエがさっきまでいた場所に俺がいるということは時間を無視すれば合体なのでは? 実質、俺とリーリエのタマゴが生まれる行為なのでは? 何言ってんだ殺すぞ。反省します。俺の子供産んで♡ 死にます。
「リーリエ、荷物こっちに!」
「えっ! あっ、はい!」
「重いよケンタロス、いける!?」
「ぶもー!」
「よし!」
2人と1匹、全力でヤマブキシティまで走る。
……側から見たらすげー間抜けな光景なんだろうな。
◇
「はぁ……っ、はぁ……っ……!」
「なんだこりゃ! もはやテロじゃん」
「え、エスパー、ジムが、煙をあげてます……!」
どこからともなくやってきたRR団が目の前を過ぎ去り、エスパージムへと流れ込んで行く。
しばらくした後ピンクの波的なものがジムから溢れ出たと思うと、入った奴らがそっくりそのまま吹き飛ばされてきた。
だがジムは半壊状態。窓ガラスは割れ、ところどころから煙がもくもくとあがっている。
やがて扉から1人の女性が出てきた。
「ナツメ! ……さん!」
「ナツメさん、ご無事ですか!?」
「あなた達……どうしてここに?」
「ただの通りすがりなんすけど、ヤマブキシティが襲われてるっぽかったから走ってきました」
「…………ケンタロスには乗らずに? 荷物だけ載せて?」
「「まぁ……」」
「……。ま、まぁ良いわ。こちらは見ての通り、こんな感じになってるわ」
ナツメが指差した先から、RR団が走ってくるのが見える。
それぞれポケモンを従わせ、血走った目でナツメに一直線。
「一人一人はそこまで強く無いから苦戦はしてないのだけど……!」
ヤドランを出し、サイコキネシスで一掃するナツメ。さっきのピンクのもにょもにょウェーブはこれか。
「理由もわからないし、数も多いし、体力より先にメンタルがやられそう! 『サイコキネシス』!」
「「ぐわああああ!」」
「不憫だなぁ!!」
「どっちが!!」
「どっちも!!!!」
今ここで俺がRR団であることを下っ端共に言ってもあんまり効果は無いだろう。だって俺、別に幹部でもなんでも無いし。つーかリーリエの安全が確保されたら早めに退職する予定だし。悪の組織の幹部とか嫌。
だったら無名のトレーナーとしてナツメに加勢した方が良いのかなぁ……? いやいや、その前にRR団の目的は一体なんなんだ!?
1人くらいは生け取りにして情報を聞き出した方が良さそうだ!
「ウオオオアアア!!」「おおおああー!」
「あぁもうまた来た! フーディン!」
「ナツメさん、俺も加勢する! 目的が知りたいから1人気絶で1人捕獲!」
「……助かるわ!」
「ゼニガメ、頼んだ!」「ぜにー!」
鼻息荒いRR団2人が俺たちの前に立つ。
モンスターボールを投げ、中から出てきたのは……ゴースト2体!?
マ!?
「エスパーばつぐんじゃん! ゼニガメ、戻れ! 頼むぞイーブイ!」
「その点は助かっているのだけど……いつも、どくタイプを使っている印象があったから最初は混乱したわ」
「え、こいつらだけでは無く?」
「今日来る人達は全員ゴーストタイプね。他の地方のポケモンもいたわ」
マジでなんなんだよゴーストタイプ……!!
これも全部シオンタウンってヤツの仕業なんだ()
「フーディン!」
「イーブイ、『まねっこ』!」
「「『サイコキネシス』!!!!」」
「「ゴゴーッ!?!?!?」」
よっしゃ一発! 完全勝利! オラッ、お小遣いよこせ! ……じゃなかった、情報よこせ!
「ウウ……ああ……」
「おーい? しっかりしろ? お前はどうしてエスパージムを襲ったんだ?」
「ああー……おー……」
「……イかれてる……」
ナツメと目配せをし、そいつの意識も落とす。恐ろしく早いサイコキネシス首締め。俺以外見逃しちゃうね。
「……なんだか息ぴったりですね、クロウさん」
「うおっ。リーリエ、ここは危ないよ!?」
「大丈夫ですから隣に居させてください。なんだかもやもやします」
お゛♡ やきもちですか♡
かわいいでしゅねぇ〜〜〜???
よしよしよしよし! よぉしよしよし! 永久保存版か? カメラ、カメラはどこだ。
「わかった。リーリエは俺が守る」
「……っ!」
あらぁ〜〜〜!!!! 赤面顔かわヨ。そのEの反対みたいなのどうやるん? 【よ】の変換やで。
「イーブイ、戻れ。もう一回頼む、ゼニガメ! 今度こそ!」
「ぜにがー! ぜに、ゼニー!」
「いやマジごめんって。次は入れ替えないからさ。頼むよ」
「ぜに……」
「良い子良い子、ですよ」
あ、リーリエが亀の頭を撫でてる! きt……悪霊退散! 煩悩退散! なんつー邪な考えだ! チクショウやられたぜ、らちがあかねえな!
「しかし、どうしましょう?」
「どうするって……元凶を探すしか無いね」
「元凶……レインボーロケット団の方々の気がおかしくなってしまっている理由……ですか」
「だいたい見当はついてるわよ」
「え。何が原因なんですか!? 私に何かできることは!?」
もうもうと上がる煙の中、リーリエが必死になって叫ぶ。
対してナツメの表情は変わらず冷静なまま。そしてその視線はゆっくりと俺たちの頭上に登って行った。
振り返った俺の目の前には、煤けた看板と大きなビルが一つ。
「シルフカンパニー……」
「あの屋上から、得体の知れない気配がするの。何かを放出している様で、でも……なにかしら」
「何かを……吸い取られているような気もします……」
「それよ。不気味で近寄りたく無いわ」
「私が行きます! ポケモンさんの仕業だったら、モンスターボールで捕まえます! 古来、人はその身一つで捕獲をしていたと文献にもありました!」
「……危険すぎる。俺も行く」「ぜにー!」
「しかしそれではナツメさんが!」
「なに焦ってるんだリーリエ!!」
肩を掴んでしっかりと見つめる。
その瞳は細かく揺れて光が無く、俺のことをうまく見つけられていないようだった。
「落ちついて。深呼吸して。大丈夫だ。俺はここにいるし、ナツメさんもついてる」
「う……クロ、ウ、さん……?」
「これは『さいみんじゅつ』? 一体誰が……」
「……理由はわかんないけど、リーリエ一点狙いってのは引っかかる。カントー地方でリーリエを襲おうとするやつなんて指の数ほどしかいないんだ」
「レインボーロケット団?」
「それはない。そう言う契約だ。だから……」
あのフードの男か……?
そう気づいた瞬間、俺の中で沸々と何かが煮えたぎるのを感じた。
これは怒り。純度100%の、怒り。
もしあいつなら、何者だろうと容赦しない。
あいつじゃなくても、犯人は禁忌を犯したんだ。
リーリエだけは、狙っちゃいけないだろうがよ。
「リーリエ」
「ぁ……」
「捕まって」
「ん……はい……」
ゆっくりと背中に乗るリーリエ。
手が俺の首に回されるのを確認して脚を優しく包みあげ、リーリエがなるべく楽な体勢になる様に姿勢を低くする。
「くろうしゃん……。いいにおいがします」
「催眠が解けた反動で意識が混濁してる……?」
「……そうかしら?」
「ナツメさん」
「こっちは大丈夫よ。もともと1人で対処してたから」
「ありがとうございます」
「守りなさいよ」
「もちろん。死んでも」
「……いきなさい!」
ショップと民家の路地へと走る。
こちらはリーリエを背負っている。戦闘は避けたい。
なんとか体を滑り込ませて後ろを見ると、襲ってきたRR団員を変わらず返り討ちにしているナツメが見えた。
あちらは大丈夫そうだ……。
「ゼニガメ、敵がいないか見てくれ」
「ぜに!」
ちょこちょこと走るゼニガメ。
左右を確認し、こちらにOKのサインを送る。
再度確認してもトレーナーがいなさそうなのでゼニガメの元へ走り、民家沿いにシルフカンパニーの側面へと辿り着いた。
「くろうさん……?」
「もう少しだから待っててね」
「はぁい……」
できることならもう少しこのへにょへにょリーリエを堪能していたかったが、今はちょっと事態が深刻だ。
帰ったらリーリエの許可を取った上でイーブイのまねっこでさいみんじゅつをしてもらおう。
そのためにはまず、この元凶を叩く!
「シルフカンパニーの正面には見張りがいる……。サカキの指示で? 何やってんだマジで……」
RR団員が焦点の合わない惚けた表情で門番をしていた。
下っ端のクソ雑魚とはいえ、真正面から突っ込んだら今のナツメみたいに永遠に戦闘のループを繰り返すこと間違いなしだ。
ここはひとまず、横から行くしか無い。
え? 横からってどう言う意味かって?
「フンッ」
綺麗な丸を描いてぽっかりと粉になった壁は、もちろん音を立てるなんて事はなく、絶妙な力加減を要したため俺の右手がバカみたいに腫れただけで侵入に成功させてくれた。
壁の補修は……キャンプ用具に入ってた割り箸でいいか。
ぽとっ(割り箸を残った壁に立てかける音)
さて、これから先もスニークミッションが必要なわけだけど、どうするか?
侵入した場所は部屋になっているみたいだ。見た感じ給湯室? 仮眠室? だろうか。部屋に誰かが頻繁に出入りしている様子も無い。荷物はここに置いて良さそうだ。
一応ソファがあるし、リーリエをここに寝させても良いんだけど……。
ダメだ。こんな粉だらけの部屋に寝かせられるわけがない。誰だよ壁に穴開けたの。ここの社員は終わってんな。
「……ゼニガメ、この粉を水で泥にして壁の補修を頼む」
「……ぜに。ぜーに、ぜに」
「なんだよその目は」
わっせわっせと泥を割り箸に塗りたくるゼニガメを横目に、俺はドアをそっと開ける。
さすがは大企業のロビーと言ったところか。
大理石なのかよくわかんないけどとにかく綺麗な石の床と、でっかいシャンデリア。
受付も豪奢で……っと、1人見張り発見。
ここからじゃ角度的に見えないが、俺から見て後ろ……玄関の方には先ほど見つけた見張りが2人いるんだろう。
……目と目が合ったらポケモン勝負。
しかし目が合わなければそうならない。
ポケモンらしからぬスニークミッションの開始である。
「ゼニガメ、行くぞ。こっちこい」「がめ……!」
「ふぇ」
「少し揺れる」
リーリエを背負い直して深呼吸。
エレベーターまでは遮蔽物が何もないんだ。受付に座っている見張りが隙を見せた瞬間に……あッ、今!
「ッ」
「わぁ、はやいです」
「しー! リーリエ、しー!」
エレベーターのボタンを押し、柱の影に隠れる。
玄関の見張りが後ろを向いたらすぐ見える角度だ! 絶対こっち見るな!
懇願しながらエレベーターを待つ。
見張りがあくびをした時、ピンポン、と到着を知らせるベルが鳴った。
「エレベーター? なんで?」
あ、まずい!
「ぼっ、ボクはエレベーターに住むロトムロト! うっかりエレベーターを動かしちゃったロト!」
「なぁんだそっかぁ」
バカで良かった!!!!
えっと、最上階のボタンを押して……、と。扉が閉まる。これで一安心。
上の階へ登るGを感じながら、リーリエの意識を戻す作業に再度取り掛かる。
目はとろんとしていて、こっくりこっくり船を漕いでいる。どちらかというと眠そうだ。
「リーリエ、起きて。リーリエ」
「あとごふんだけねかせてください……」
「いや寝てたわけじゃ無いからね。さっきまで目ぇバキバキで催眠に掛かってたからね」
「うみゅう……」
「チクショウかわいいな」
しかし、このままにしておくと本当に眠ってしまいそうだ。
ゼニガメに水を出してもらって起こすのも考えたけど、それはリーリエの心臓に悪い。普通に起こした方が無難なんだよな。
「リーリエ、ねぇリーリエ」
「クロウしゃん……」
「はいはい、クロウさんですよ」
全くこの子は、そんな呑気な顔して。
「むちゃだけはしちゃだめでしゅ……」
「肝に銘じとく」
「いつもそういっておおけがするじゃないですかぁ」
「ぐ……」
「わたし、クロウさんがいないとかなしいです」
「…………」
「おかあさまと、はかせと、クロウさんと、私で、一緒に過ごすんです」
「俺は……」
一緒にいる資格なんかないよ。
ただのファンだもん。
命に変えても君を守りたい、ただの厄介オタク。
君には、強くて優しい
ゲームでも、アニメでも、漫画でも、君は誰かのヒロインだった。
俺だけが君を好きなわけじゃ無い。
俺よりも強くて、俺よりも優しくて、俺よりも君を安全に守れる人がいるんだ。
だから、俺は君の幸せを守れればそれでいい。
結ばれたいだなんて、考えちゃいけないんだ。
「泣かないで、クロウさん」
…………。
俺が、泣いてる?
「クロウさんが泣いてると、私も悲しいです」
「…………」
「またみんなで、ご飯を食べましょう?」
「リーリエ……」
「もっと命を大切にしてください」
「命を……」
リーリエが、俺の頬を伝う何かを拭う。
優しい目で、俺を見つめる。
柔らかな手で頬に触れ、清らかな声で語りかける。
魂が喜び、全身が震える。
まるで母の愛を初めて受けた日の様に、天使から生を授かった日の様に、俺という存在全てが湧き立つ。
ここに来るまでの怒りとは違う、暖かくて、柔らかくて、不確かで完全なもの。
「私、クロウさんの笑顔が好きですよ」
ファッ!?
「クロウさんの匂いも好きです。側にいると安心します。あと、レポートを書いてる時の横顔とか真面目で素敵です。お母様と話している時の……なんというんでしょうか? 自信に満ちた表情というか……もしかして大人っぽく見せようとしているのかなと思うと、微笑ましいです。あとそれから……」
「まっ、待ってリーリエ、それくらいにして」
「……え……? ぁあッ!? エッ!? 私、今何を話してましたか!? なんだかとっても大変なことを言っていた気がします!」
「さ、催眠が完全に解けたんだ。良かった……」
「待ってください! 今話したことは忘れてください! いえ、何を話したのかも覚えていませんが、途中からちょっとずつ目が覚めて来て……!」
「大丈夫! 大丈夫だから! 忘れるから!」
「ぜにぜに」
何が『やれやれ』だよこの亀野郎! 無限1UPの土台にするぞ!
俺から飛び退き頬を必死に叩くリーリエはひとまず置いておくとして、えっと、もうすぐ最上階か!
き、きあい! 気合い入れないとなー! あー大変だ!
……あ。
「……リーリエ」
「ひゃっ!? ひゃい、なんですか!!」
「俺さ。ずっと『明日のために死のう』と思ってた」
「え……」
「リーリエの明日のために、俺が死力を尽くして出来る範囲はぜんぶやる。それで死んでも、リーリエが守れるならそれでいいかなって」
「……はい」
「でもなんか……。なんて言うんだろうな。リーリエは言ったこと覚えてないと思うけど」
最上階に着いた。
扉が開く。
廊下の先に、屋上へ上がる階段があるようだ。
「リーリエのおかげで、『明日のために生きよう』って思えた」
「……はい!」
屋上より一階層下だと言うのに、ここまで感じる異様な気配。
火花が弾ける様な音と、その度に何かが吸われる感覚がする。
まぁ、もうなんでも来いよ。
俺、死なねえから。
明日になればすぐに『明日のために死のう』に戻るかもしれないけど、それもまた愛嬌!
今日の俺は、ポジティブに戦える!
「この扉の先に、敵がいると思う」
「はい!」
「準備はいい? リーリエ、ゼニガメ」
「はい!」「ぜに!」
「行くぞ!」
バン、と扉を開ける。
屋上の強い風が俺たちの身体を打ちつけ、帽子を抑えるリーリエの髪がばさばさと音を立てた。
そして、奇怪な姿をしたポケモンと、その横にいるフードの男。足元に転がる、黒い霧を噴き出す謎の機械。
明らかにアイツの仕業だね。うん。
「よくここまで来たね」
「大したことはしてないぞ。ビル崩壊の可能性を10%上げただけだ」
「「えっ」」
……ゼニガメが補強したし大丈夫だろ! たぶん!
「……ごほん。この機械はシルフカンパニーのシルフスコばさばさばさ!……の、ゆうれいを見破ぼすぼすぼす!……ために、ゆうれいに干渉する装置だ。な、ぜ、か、壊れてしまっているみたばふばふばふ!……けど、そのせいでゴーストポケモン達がレインボーロケット団に取り憑いゴワァー! バッサァー!……ようだね。そいつらの正気を利用させてもらってるわけさ」
「なにー!? 風でなんにも聞こえーん!! もっとハッキリ喋れやド腐れ嘔吐キザ野郎ー!!」
「悪口はハッキリ聞こえるぞ君!!!! ……フン! もういい! とにかく、この騒動を止めるためには機械をコイツから取り返すんだな!」
「シオンタウンのなぞのやかたもお前の仕業かこのゲスタコクズ鳥頭ー! さっさとくたばれー!」
「なんで悪口のレパートリーだけそんな豊富なんだよ! あとシオンタウンのやつは知らない! 無関係だ!」
「まぁいいや! めんどくさくなったからぶっ飛ばす! お前はここから突き落とす!」
「怖いよ!! それに僕はもう帰る!! リザードン、『そらをとぶ』!!」
男はリザードンをどこからともなく呼び出すと、その背中に乗ってビルから飛び立つ。
「ソイツに勝って機械を修理することだね! じゃあね、偽物!」
……今『うちおとす』使ったらアイツ死なねえかな。
まぁいいや。結局ポケモンをシメることには変わりないんだ。
「気をつけてください、クロウさん! あのポケモンは、ウルトラビースト……!」
「わかってるよ。アイツはほのお・ゴーストタイプの……」
「ずどぉぉぉん!」
「ズガドーン……!」