リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
頭上で火花が弾け、その一粒一粒が炎の雨となって降り注ぐ。
それらが重なり、束ねられ、帯のように俺たちの周りを囲んだ。
「『ほのおのうず』……!」
「ゼニガメ、『こうそくスピン』!」
「がめがー!」
高速で動き回り、拡散されたうずが晴れる。
すかさず攻撃を……待て、どこに行った?
「上です!」
「どごぉぉぉん!」
ピエロのような奇抜な格好の、その指先からドス黒い影を纏った弾がこちらを狙っていた。
狙いの先は、リーリエ。
「リーリエ、手を!」
「は、はい!」
手を掴み引っ張り、そして転がる。
俺たちのいた場所が爆発し、その跡には瓦礫しか残っていない。
同じ『シャドーボール』でも、ここまで威力が違うとは。
さすがはウルトラビースト。イーブイとは比べ物にならない、か。
その分こちらは手札の数で有利を取らせてもらうだけだけど!
「『みずでっぽう』!」
「がめー!」
「どぉごぉんっ!?」
着地した瞬間を狙い、ズガドーンに水流が命中。
のけぞってはいるが、やはり大打撃にはなっていなさそうだ。初期技って辛い。
「ずがーん!!」
「また『シャドーボール』か! 『みずのはどう』!」
「がめがめ、が!!!!」
「どぉおん!?」
だが、ほのおタイプはほのおタイプ。
避けて当てれば、こちらが有利!
テッカグヤの時はマジで死ぬかと思ったけど、ズガドーンは割と対処可能だ。元がエンターテイナー気質なこともあってか、映えるような動きをよくする。それに加えて謎の装置を守っていることも足枷になり、テッカグヤほどの火力は出ないみたいだ。
「ぐぐ……どぉん……」
「おとなしく帰ってくれれば、こっちとしては追う気もないんだけどな」
「どがぁぁん」
…………。
弱ったズガドーンに、モンスターボールを投げてみる。
カン、と硬い音だけが響き、モンスターボールは転がった。
「やっぱりか」
「……やっぱり?」
「ズガドーンも捕まえられてる。あのフードのやつ、やっぱりウルトラビーストのトレーナーだよ」
「そんな……そんなことをするなんて……」
「前からわかってたことだけどね。そんなことをするなんて、信じられないよ」
「いえ、そうではないんです……」
「…………?」
「そんなことをするなんて……いえ、
ウルトラビーストは、ポケモンと呼ぶのも許されるかわからない、ただの化け物である。
ピンチになるとボールに入ったり、食の好みや意思疎通の仕方から、何となくポケモンっぽいと思われているだけで、その本質は全く違う。
そんな、会うのもレア中のレアなポケモンを何体も所持していて、所持しうる実力を持つ人物。
確かに、そうそうお目にかかれる者ではない。
「私が知る限り、そんな人は…………」
「そんな人は……?」
「…………ぁ…………」
「リーリエ?」
振り返ると、目が虚ろなリーリエがそこにいた。
膝は震え、唇は半開きになり、目の焦点が合わない。
「わからない……わからないです……。わからない、わからない、わからない、わからない……!」
「ちょっ、リーリエ!? 落ち着いて!!」
「わからない! わからないんです! あれは誰なんですか!? どうして思い出せないんですか!! 私はアローラで何を!? 誰と!? 誰が!? 誰!! わからないです! 何も、何もわからない!」
………………これは。
「ずがどん」
「お前……!」
ズガドーンの『さいみんじゅつ』。
本来なら、ポケモンを眠らせるだけのもの。
人間にかけたらどうなるのか、なんて、わかりきってるよな?
RR団はゴーストポケモンに取り憑かれただけだと思ってだけど、それだけじゃ無かったんだ。『さいみんじゅつ』で右も左もわからなくしてから、ゴーストポケモンに身体を乗っ取らせた。
その花火で生気を吸って、ゴーストポケモンに与えて、それでこの街を乗っ取ろうとしたわけだ。
「真っ暗です……! 何も見えません……! 何もわかりません……!」
「…………ふぅ……」
「ずが……どぉぉぉん」
最後にはリーリエに手を出して、大切な記憶をぐちゃぐちゃにしようとしたわけだ。
「助けて、助けてください……! もう、もう何も……!」
「大丈夫だよリーリエ。俺たちが助ける」
「ぜにがー!!」
「ずどん」
あぁもう、キレた。
「『みずのはどう』ッ!!!!」
「がめがめがー!!!」
「どッ、ご!?!?!?」
よたよたとよろけ、逃げようとする。
「『みずでっぽう』!」
「ぜにゅがー!!」
「ずどどど!! どッ、どぉぉん!」
頭に手を置き、大技の準備。
「させるかよ!」
「ぜにがー!」
「『かみつく』!」
正義執行のお時間と行こうか、
「『みずのはどう』ッ!!!!」
「がめがーッ!!!!」
「ずどがーーーん!」
水の本流に流され、火の粉は鎮火された。
流されたズガドーンはそのままビルの外へ押し出され、外へと吹き飛ばされた。
……しまった! このまま逃げられたらまた1からやり直しだ!
ビルの際に駆け寄り、ズガドーンを探す。
高さもあってか、ズガドーンはまだ落下中。
引き上げてまたフルボッコにするか? いや、もう手が届かない。
ロープで……? いやいや、敵が差し伸べたロープを都合よく掴むわけもない。
「ぉぉん……」
「ッ!? ……っと、『ビックリヘッド』かよ」
俺の横を通り過ぎ、遥か空にズガドーンの頭が舞う。
せめて一矢報いるつもりだったのか、自傷技を打ちやがった。
『ビックリヘッド』って体力の半分を使う大技じゃなかったか? あれじゃあ、もし体力が残っていたとしても瀕死寸前だろう。
小さくなっていくズガドーンを見て冷や汗を拭いていると、背後の空を飛んでいた頭が花火となって爆発した。
vsズガドーン、終了。
あとは、リーリエを正気に戻して、ズガドーンが本当にくたばっているかどうかを確認して、人休みしたらシオンタウン。
まずはリーリエを……っとと?
…………お?
足に力が入らない。
振り返りたいのに、頭が重い。
腕が、脱力していく。
体が、浮いていく。
……しくじった。
ズガドーンの花火は、驚かせている間に人の生気を吸い取るためのもの。
最後に打ったビックリヘッドに驚いた俺は、もうその時には生気を取られていたんだ。
体全体が鉛のように重く動かない。これが壁越しでも床越しでもなく、直に生気を吸われた反動。
ズガドーンめ。
あのまま落ちていれば良いものを、最後に俺を道連れに選びやがった。
このまま体がビルの外へ投げ出されれば、ぺしゃんこになって終わりだ。
現実的すぎて非現実な妄想が頭の中をぐるぐると駆け回り、そのどれもが俺の死によって完結する。
風に煽られたのがダメ押しとなり、俺の体は前周りでもするようにビルの外へ投げ出され───。
───パシッ
「クロウさん!!」
「リーリエ……!?」
「絶対離しません! 約束守ってください!」
「いや、リーリエまで落ちるって! 俺は大丈夫だから、リーリエは安全な場所に……」
「そうやって! いつも、いつも、クロウさんは約束を忘れて、大丈夫って言って無茶をするんですから……!」
「でも……!」
「もっと私を頼ってください! 何ができるかは分かりませんが、きっと助けになります! これは紛れもない、私の本心です!」
「…………!」
「絶対に諦めません! 絶対に……!」
「私が……あなたを助けます!」
「がめがー! がめ、かめ、カメーッ……!!」
蒼い閃光。
光に照らされ陰がさしても、リーリエの瞳は輝きを宿したままだった。
「『アクアテール』!」
「メルァー!」
飛び出してきたゼニガメが、いや、カメールが、リーリエの指示でビルの壁にアクアテールを放つ。
高層ビルであるために少しの傷しかつかなかったが、その反動でカメールは俺にしがみつくことができた。
「『こうそくスピン』!」
そのまま、回転する勢いで俺を投げ飛ばす。
「クロウさん!」
「っ……!」
気づけば、俺はビルの屋上へ戻り、リーリエに抱きしめられていた。
確かな温もりが、力の抜けた身体に染み入っていくのがわかる。
彼女の心臓の音が俺の血となって全身へ巡り、触れている場所から活力がどんどん湧いて出て、気だるさも消えた。
リーリエの荒い息遣いが福音のようだ。
こうして抱きしめられていると、俺が存在していることを確かに感じる。
「気づいたら……くすん。クロウさんが落ちていくのが、見えて……うぅ……。もう、ダメです……」
「アレは俺もびっくりしたなぁ」
「かめーるぅ?」
「お前も、ありがとな。進化の瞬間を見届けられなかったのが残念だよ」
リザードの時もこんなんだった気がする。
おぉおぉ、こんなに大きくなって。また一段と強くなったな、カメール。
……ポケモンに助けられることも増えた。リーリエに心配されることも増えた。俺もそろそろ、強くならないといけないな。
「良かったです……生きてて、よかった……」
「心配かけてごめんね」
もう一度だけ、と恐る恐るビルの下を覗くも、もう花火は上がらなかった。
不可解なのは、花火が上がらないどころか、倒れたズガドーンの姿が見えないことだ。
どこかへ逃げたのだろうか。となれば、またどこかの街が乗っ取られる可能性も高い。
フードの男がリザードンに乗って逃げた方角は……あっちか。
もしあの男がカントーに拠点を築いているとしたら、あの方角にはあそこしか無い。
「おつきみやま……」
「……? おつきみやま、ですか?」
「うん。ピッピとかもいるらしいよ」
「ピッピ……ですか」
「今度行ってみる?
パチンk……もとい、ゲームセンターの景品は断られちゃったからなぁ。
あのフード野郎がいるかどうかを確認するためにも、どうせなら一度は行っておいた方がいいだろう。
本格的に、決着をつけた方が良さそうだ。
カメールが機械を拾ってきてくれた。
黒いもやが溢れ出る機械の正体は細工されたシルフスコープのようで、レンズが歪み、壊され、ゴーストポケモンに利益を与えるような効果を出し続けているようだ。
レンズから放たれるもやが……黒い光が空中を投影したと思うと、そこに今までは見えなかったゴーストポケモンが現れた。
「ズガドーンが吸い込みきれずに彷徨っている生気を吸い取りにきたんだ……」
「な、直せそうですか?」
「博士ならできそうだけど……俺の手に負えるかなぁ」
ネジ止めとか簡単な修理ならできるけど……これ、どういう原理で動いてるんだ……?
全くわからん。おてあげです。
餅は餅屋と言うし、俺たちがいるこのビルこそシルフカンパニーなんだからどうにかしてもらえるんじゃないか?
「あの……シオンタウンでお祓いしてもらうのはいかがでしょう? 本と一緒に……」
「なるほど、それアリ」
リーリエが言うなら間違いない。
心霊系の厄介ごとはシオンタウンに任せるに限るよな!
とりあえずこのシルフスコープは……布で何重にも巻いてもやを遮っておこう。
また荷物が増えた……。不幸続きだな。俺もお祓いしてもらおうかしら。
「とりあえず、脅威は去ったわけだし……」
「はい。帰りましょう、クロウさん。二人で!」
◇
「きゅう……」
「やぁん。やぁぁぁん」
「それで、次はシオンタウンに行くのね?」
「なんかもう早く行かないとまた変なこと起きそうで怖いんですわ。さっさとこの荷物捨てたいんすわ」
「なので、来て早々ですがもう出発しようと思います」
ポケモンセンターで一休みした後、俺たちはナツメに出発を告げていた。
日も落ち始めたころ、ヤドンに齧られている山積みロケット団の上で足を組みながら、ナツメは夕空を見上げる。
「あなたに一つ、助言をしてあげる」
「俺ですか」
「これはエスパーというより占いみたいなものなんだけど……ポケモンの使う『みらいよち』と似たものだと思ってちょうだい」
そう言うナツメの表情はどこか苦しげで、苦手なものを食べようとしない子供のような、まさしく「微妙」を映したような顔だった。
「あなたは何か……重要なことを、忘れている。……いや、勘違いしているのかしら? 誰かから何かを言われて、それに気づけない。気づいていない。それを知る頃にはもう遅いところまでコトが進んでしまっている……」
「対処法は?」
「そうね……彼女を守ることかしら?」
「え!? 私ですか!? そ、それって、その気づけないコトって……」
「言っておくけど
「…………ッ〜〜!!」
真っ赤になったリーリエがナツメの足をゆさゆさと揺らす。可愛い。
……つーか【ソレ】って何だ。ナツメとリーリエはほんとに仲が良いな。
しかし、リーリエを守る、か。いつもとやることは変わらないな。
その頬に傷一つも付けないし、火の粉はこの手で払ってみせる。
それがリーリエを幸せにする大切な積み重ねなのだ!
「リーリエ、行こっか」
「うぅ〜……、はい……。失礼します」
「頑張ってね」
「それはどっちの意味ですか!?」
「どっちもよ」
「ジュンサー、ただいま到着しました。……うわ、何この壁? まんまるにくり抜かれたみたいな穴空いてる……」
遠くで聞こえる声を聞き流しながら、俺たちはヤマブキシティを出た。
目指すはシオンタウン。
お化けどもを供養する、ちょっとホラーな街である。