リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
シオンタウンは大きな塔の目立つ街だ。
死んでしまったポケモン達を弔うため、友を失ったトレーナー達が集まる。
また、怨念となって出てきたポケモン達を鎮めるために、祈祷師のトレーナーなども集まる街である。
幸いなことに俺たちの手持ちで死んでしまったポケモンはいないため、不謹慎ながらも見物の気分でポケモンタワーにやってきたのだが……。
「なんだ……こりゃ……?」
「ラジオ局……ですか?」
ポケモンタワーはラジオ塔になっていた。
なんだかみんなの雰囲気も和やかだ。あれー? 俺の知ってるシオンタウンと違うぞ?
ま、まぁ、リーリエが怖がるようなことがないなら良いんだ。ホラー展開なんてないほうが良いんだから。
ちなみに今日のリーリエはみんな大好き、がんばリーリエスタイル。
昨晩見たポニーテールはそのままにパーカー&ミニプリーツスカート。
帽子についていたリボンと同じような空色のフードが実にGOOD。
全てが完成されたパーフェクトでファンタスティックなこの姿にもはや言葉は不要。
朝見た時はマジで昇天したと思ったね。
え? 昨晩はどうしたのかって? もちろん別々のテントで寝たよ。同じ寝床で寝るなんて俺が耐えれるわけないだろう。
「しかし、どうしたもんか……オカルト本のお祓いをしてもらおうと思ってたんだけどな」
「……あなたは、前の
本を取り出して悩んでいたところ、男性の老人に話しかけられる。
曲がった腰と色素の抜けた髪の毛が、彼の生きた歳を物語っていた。
ただ、その目には正気が宿っている。一見すると優しいおじちゃんって感じ。
「そういうあなたは?」
「……フジという者です。もしもポケモンを弔いに来たのでしたら、この塔はもう……」
「いえ、俺たちはこの本をお祓いしてもらおうと思って……」
それに謎の館の調査はマサキから。
あんた自身の調査は……RR団から。フジ老人。前はシブ老人って勘違いしてごめんね。
「おぉ……そうでしたか。知り合いに祈祷師の方がいます。ついてきてくだされ」
「……クロウさん……」
「なんか不思議な人だけど……ついて行ってみようか」
貫禄があるといえば良いのだろうか。
リーリエが少し怯えているような気がする。
絶対守るから大丈夫だよ!!!!
フジ老人はゆっくりだがしっかりした足取りでどこかへ向かっている。
慌てて2人で着いていくが、気まずくて仕方がない。
「フジ……さん?」
「なんですかな」
「……あの、ポケモンタワーにあったお墓はどこに?」
「それを今から見にゆくのです」
「…………」
「…………」
いや怖えええええええ!!
別の場所にお墓を移したってことでしょ!? わかるよ!! わかるけど怖いよ!?
街全体は和やかな雰囲気なのにフジ老人の周りだけすげーホラーなんだよ! 静かで怖いよ!
「……ここが、『たましいのいえ』です」
「たましいのいえ……」
一見すると普通の家だ。
だがどこか異様な雰囲気を感じる
入ったら魂まで吸い込まれそうで、入りたくない……。
「……クロウさん? どうかされたんですか?」
「えっ」
「フジ老人さん、入っていってしまわれましたよ」
「あ、ごめん……。なんかこの家から嫌な予感して。異様な雰囲気あるよね」
「…………。そうですか? あの方からは不思議な感じがしますが、この家からは特に……」
マジ? こんなオーラあるのに?
……オカルト本を近くに置いてたから狂っちゃったのかな俺……。
とにかく追いかけないと。
「……行こう」
扉の先には、綺麗に磨かれた墓が並べられていた。
お花を備える人や、隅でお経のようなものを唱えている人がちらほら見える。
「ポケモンタワーは怨念が溜まりすぎてゴーストが発生していてね。ここに移してからは祝詞などを定期的に上げてもらっていますから、怖いことはないですよ。ポケモン達とそのご遺族の安息の地だ」
フジ老人は喜びも悲しみもない、ただ何かを願うような目で墓の群れを見つめた。
小さな部屋に祝詞が行き渡り、荘厳な雰囲気を醸し出す。
ふと見ると、リーリエは目を瞑り、何かを呟いていた。
「…………」
「心優しいお嬢さんじゃないか。ポケモンを思う気持ちが伝わってくる」
「まぁ、リーリエはそういう人ですから。良い子なんですよ」
こちらの会話は聞こえていないらしい。
手を合わせ、たくさんある墓に手を合わせるリーリエを見て目を細めた後、フジ老人はこちらに向き直った。
「さ、除霊したいという物をこちらに」
「はい」
本とシルフスコープを渡すと、フジ老人はゆっくりとどこかの部屋に入っていった。彼が直接お祓いをしてくれるのだろうか。
この部屋にいるのに何もしていないというのも不謹慎なので、手を合わせて祈っておく。
……今まで直視こそしてこなかったけど、やっぱりポケモンの世界にも死ぬって概念あるんだよな。
俺が怪我や事故で死にそうになったことも勿論あったし、病気もあれば老衰もあるんだ。
ゴーストタイプがあるんだから、死があることはわかりきっていたことだけど……。認めたくなくて、なんとなく「そういうものなんだろう」と考えないようにしていたのかもしれない。
そりゃそうだ。ゴーストタイプは、ポケモンが初代の頃からあったんだから。だからシオンタウンがあって、弔うという概念が存在する。
ポケモンの世界にも、前の世界にも、死は存在する。
───キィィィン───
……っ……?
耳鳴りに近い音がしたような? なんだいまの。
辺りを見渡すも、特に何かおかしな点は無い。リーリエも、他の人たちにも聞こえていないみたいだ。
疲れてるのかな……。
───キィィィン───
…………。
───キィィィン───
眩暈がする気がする。
吐き気がする気がする。
───キィィィン───
生きてる意味なんて無いんじゃないか?
「クロウさんっ!!」
はっ。
「……リーリエ? どうしたの」
「それはこちらの台詞ですよ! クロウさんが急に外に出るものですから追いかけたのですが……」
「……外に?」
俺はたましいのいえを出て、森へ向かって歩いていた。
注意深く森の奥を見ると、木の幹のようなポケモンが陰からこちらを覗いている。
……見たことがある。カフェのメニューに載っていた見た目だ。
あれは……。
「ボクレーですな」
「フジ老人!」
「人間を森に引き摺り込み、新たなゴーストポケモンにしてしまうポケモンです」
「クロウさん、あっちにも……!」
「アレはシャンデラです。人の生気を吸い取り炎に変えるポケモンです」
なんで他の地方のポケモンがここに!?
というか、あちこちから視線を感じる! もしかしてこれ全部ゴーストタイプのポケモンなのか!?
「あの本に住み着いていたゴースト達が、館の方へ向かったようです」
「はぁ!? 館って、あのいきなり現れたっていう!?」
「新聞に載っていたあの館のことでしょうか……」
「まさに。あの館が現れてから、シオンタウンはゴーストポケモンが多く出現する街になってしまいました」
「いやいやいや、こんなホラー満載なことになったら街の人が阿鼻叫喚になるって……」
「見なさい」
フジ老人が通行人を指差す。
小さな女の子だ。元気そうに笑っている、普通の女の子。
……笑っているその目に光がないこと以外は、普通の女の子だ。
たとえ連れているのがゴース6体だとしても、まだギリギリ許容範囲なんだ。
「あの子と生涯を共にしたポケモンの魂がゴーストになってしまっている……」
「なんで!? なんでみんな平然としてんの!? やべぇじゃん明らかに!」
「それこそがゴースト達の呪いですな。ときおり、シオンタウン全体に降りかかるのです」
「呪い……」
「シオンタウンの隣に現れた洋館に何か鍵があるのではないかと踏んでおります。……ご安心ください、お二人は待っていただいて構いませんから」
「フジ老人が、行くんですか」
「ええ。トシノコウ、というやつですな」
そう言って、フジ老人は歩き出した。
「だったらリーリエ、俺たちはゴーストポケモンをなるべく退治しよう」
「はい! 被害が出てからでは遅いですから」
「ひぃ……ふう……」
「イーブイ! リーリエを頼む!」「えぼ!」
「はぁ……はぁ……」
「俺たちは……ケンタロス! 行くぞ!」「ぶもう!」
「ぜぇ……一休み……」
「え遅くない? フジ老人遅くない?」
よちよちよちよち遅いんだよご老人ァ!
このままじゃ日が暮れるァ!
「すみませんの……歳をとるとどうしても体力が……」
「クソッ、ここに来て視野が広くなった弊害が!!!!」
「すみません……」
「ああもう! 俺が行く! 俺が解決してくる! どうせマサキ博士にも頼まれてたし! リーリエ、フジ老人お願い」
「私も行きます! 1人にはさせません!」
「えっでも」
「クロウ……くん。と言ったかな。こちらは大丈夫だから、お嬢さんを守ってあげなさい」
…………。
「こんなご老体に大切なお嬢さんを任せて良いのですかな?」
「……だぁ、もうわかったよ! 行くよリーリエ! 早急に全部片付ける!」
「……! はい!」
「ケンタロス、毎回すまんが足になってくれ!」
「ぶもう!」
「よっ……と。リーリエ、イーブイ、乗れ!」
俺の前にリーリエが座り、そのリーリエの膝にイーブイが乗る。は? なんだそれ羨ましいなソコ変われ。
「方角はご存じですか。新聞の写真の通り、あちらにまっすぐです」
「リーリエ、捕まって。……よし行けケンタロス!」
俺が足で合図をするとケンタロスが走り出し、一直線に森を突き進む。
なにぶん、館へ続く道が無いのだ。木を避け根を飛び枝を避けながら進まなければならない。
特に枝。枝はダメだ。転落や衝突は俺が庇えばリーリエを守れるが、今リーリエは俺の前に座っている。ちくしょう、こんなことなら俺が前に座っておけば良かった。
「……ゲンッ!」「ぶるんる」「オルォトァーッ!!」
「クロウさん、後ろにポケモンさんが!」
「『シャドーボール』!!」
「えぼぼ……ぃぼ!!」
前言撤回。リーリエが後ろに座ってたらきっと攫われてた。
だったら枝は……。
「イーブイ! 最後のオーロットのワザ、『まねっこ』できるか!?」
「えぼ! ……えぼぉうぶぉ、うぶぉぼーい!」
「よし、それで行こう! 前の枝にシャドークロー!」
「エボァ!」
薙ぎ払われるオーラのツメが前方の枝を切り落とす。
バキン、と一際大きな枝をケンタロスが踏み割り、大きく揺れた。
なんで俺こんなに急いでるの!? ポケモンに追われてるからだよこんちくしょう!!
あのな、気配でわかるの! いや、ポケモンの気配なんじゃなくて、リーリエに危険を及ぼすポケモンの気配がなんとなくわかる!
電車で隣に乗ってきたスーツの人が真面目そうなら良いけど、ちょっと目つき鋭かったら怖いでしょ! そういうこと!
「クロウさん、右にいます!」
「ウッドホーン!」
「エボボーッ!」
「次は左に!」
「なんだよ次から次へと……!」
「えぼっ、えぼぼっ!?」
「あぁ、えっと、えっとそうだな……どうする!? どうすればいい!!」
頭回んねーよこんなの!!!!
「あ……」
「え、何!? リーリエなんで今『あ』って言ったの!?」
「く、く、クロウさん、後ろに……」
「後ろ……?」
ちらりと振り返ってみる。
えーとどれどれ? ゴースにゴースト、ゲンガーもいる。さっきのオーロットと……あぁ、アレはブルンゲルだったんだ。青色だから雄だ。
あとは? ……えーっとニダンギル? だっけ? それにミミッキュもいる。おお、あいつはアローラガラガラ。それにサマヨールと、デス……デスバーンだ。デスバーンとデスカーンの二台巨塔が揃ってる。
なにこれ百鬼夜行?
「うおおおおおおおケンタロス頼むケンタロスマジで!」
「ぶもっ、ぶもももも……!!」
「ひっ、きてます! クロウさん、すごく来てます! クロウさん!」
「『シャドーボール』! 『シャドーボール』! 『シャドーボール』!」
「ダダン!」
「ダダリンじゃねえかお呼びじゃねえんだよ! 『まねっこ』ゴーストダイブ!」
「えぼっ」
……。
「ハァ!! イーブイがゴーストダイブして消えたらその間の攻撃どうすんだよ!」
「うゆっ、うゆゆっ、クロウしゃん、顔舐められました!」
「誰だウチの子の顔舐めたンわァーッ!! ぶっ◯してやりゃァーッ!」
「…………えぼっ、エボボッ!! エボ!」
陰から飛び出たイーブイがとなりにくっついていたダダリンを振り払う。
軽く吹っ飛んだダダリンがポケモンの群れに追突するが、追ってきているポケモンはさすがゴースト。
依代や実態のないポケモン達はダダリンをすり抜けて追ってきていた。
それに、移動を続けているので枝だって邪魔になってきた。さっきのシャドークローが及んだ範囲外まで出てきてしまったか。
クソッ、俺がポケモンの技でも出せればこんなことには……!
「あ、そうじゃん俺がワザ使えば良いんだ」
「!?!?!?」
「『はかいこうせん』! カァーッ!」
「ええええええ!?」
「アッ、そうだった! ノーマルタイプの技だからゴーストには効かねえんだ! やっちまった!」
「ちょっ、ちょちょ、そんなことよりも今クロウさん口から破壊光線を出しませんでしたか!? なんでですか!?」
「あ、館が見えてきた!」
「クロウさん!?」
ケンタロスに減速の合図を出し、コントロールに向けて備える。
「ぶもっ!? ぶも、ぶもももも!?」
……減速の合図。
「ぶもう」
「……もしかして」
「ぶも。ぶもぅ」
「「止まれない!?!?!?」」
もうそこまで迫っている館の玄関が、あんぐりと口を開ける化け物のように開く。
このままの勢いでケンタロスが突進すれば、そのまま扉の中へ一直線、ホールインワンといった具合だ。
うん!!!! これ事故る!!!! やべえ!!!!
「ぶもももももももも!!」
「えぼぼぼぼぼぼぼぼ!!」
「「わああああああああ!?」」
俺たちは、館に飲み込まれた。