リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
目が覚めると、俺は知らない場所に横たわっていた。
ぐおおお……。
超、背中痛え……。っていうかここどこだ……?
「ぶもぉ……」
「ううん……」
あー……。
そうか、あのままケンタロスが行き止まりにぶつかって、咄嗟にリーリエを庇って怪我することだけからは守って……。
でも衝撃は流せなかったから、二人と一匹、揃って気絶していたわけだ。
「……ごめんな、ケンタロス。戻って休んでくれ」
ケンタロスは戦闘不能。回復アイテムがあったとしても、今日のところは休ませてあげたい。
今俺たちがいるのは玄関ホールか。扉から入って玄関を抜け、その奥にある両開きの大きい扉に俺たちはぶつかった。両脇には階段があって二階に行ける吹き抜けになっている。
リーリエは……呼吸も安定してるし、身体のどこにも異常は無さそうだ。衝撃で気絶したというよりも、恐怖やショックで気絶した感じか? ジェットコースターで気絶する人がいるみたいな感じで。
とにかく、脚も大丈夫、腕も大丈夫。服にも異常はないので外出血無し。
顔も……首も異常無し。唇が切れてるとか無いか? 瞼に何か刺さって無いか? うーん……ヨシ!
「ううん…………ん……?」
目があった。
「「!?!?!?!?!?」」
咄嗟に飛び退き手を上げる。
やっべぇ、絶対嫌われた! 嫌われた嫌われた嫌われた!
あんな至近距離にいたら襲われてると思われても仕方がない! あぁもうダメだ、俺は死んだんだ! リーリエに嫌われて死ぬんだ! あああああ!
リーリエに不快な思いをさせてしまった……もうダメだ……。
「あ、あの、あの、クロウさん」
「ごめんなさいッ!!!!」
「ええっ!? あ、頭を上げてください! 何故クロウさんが謝るのですか!?」
「俺は……ッ。
「やめてください! なんとも思ってないですから! 大丈夫ですから!」
「でも……ッ」
「そんなことよりも聞きたいことがあるんです」
顔を真っ赤にしているリーリエ。気にしていないと言ってくれているが、あんなに怒って……本当にどう弁解すれば……。
「しましたか……?」*1
「……した」*2
「〜〜〜ッ!?!?!? そ、そ、その、そういうのは本人の意識が戻ってからの方が良いと思います……!」*3
「本当に申し訳ないと思っています。でも、もしリーリエの意識が戻っていたら、痛くなるかも知れなかったし……」*4
「イッ、いいい、痛くなるようなことをしたんですか!?」*5
「なるべく痛くならないようにしたんだけど……もし身体に違和感があったら教えて欲しい」
「へぇァッ!? は、はい……! はい……? ちょ、ちょっと待ってください、えと、あの、後ろ向いててください!」
言われた通りに後ろを向く。
昔の日本の侍と言われる人たちは、切腹の際に死に切れなかった時、首を切ってもらうために後ろに侍を置いてもらっていたという。
斬首か。儚くも幸せな人生であった。
「えっ……? えぇ……っ!? え、でも、え……???」
後ろから困惑の声が聞こえる。刀を抜くのに手間取っているのだろうか。
……いや、衣擦れの音からして、俺が確認し切れなかった服の内側を調べているのだろう。俺のみたいない位置に打撲痕や内出血があったら大変だ。
「あの、えっと、クロウ、さん、その」
「……はい」
「い、違和感は、特には……」
「それは何よりです」
「えっとその、えっと……。んぇ……? あの、クロウさん……」
「はい。この始末は如何様にも」
「そ、その、えっと……」
正座をしている俺の背中に、リーリエがもたれかかる。
声の位置からして、赤子が親の背中に隠れるように、顔を押し付けているのだろう。
「どう、でしたか……?」
「おかしいところは無かったと存じています」
「おっおか、おかおか、そ、そういうことでは無くてですね、その、クロウさんから見て……というか」
「血は出ていなかったです」
「血血血っ、ちっ、ちち……、血!?。あ、あの、本当にしたんですか……?」
「あの場では仕方が無かったと思っています」
「仕方が無かったって……。そんな、言ってくだされば良かったのに……」
明らかな落胆の声。
やっぱり俺なんかがリーリエの護衛をするべきじゃなかったんだ……。
もっと俺に力があれば、リーリエを完璧に庇えたはず……。
いや、もっと前から、ゴーストポケモンを蹴散らせていたはずなんだ。
俺は……弱い……。
「もしも大きな怪我があれば、リーリエの意識の回復を待つのは致命傷になりうると思ったんだ。だから、もし何かあればせめて応急処置だけでも思って……」
「でも、せめて一言………………。………………え?」
「外出血は無かったんだけど、それも服の上からしかわからなかったから……」
「ちょっ、ちょちょっ、ちょっと待ってください。あれ? え? えっと、あれ?」
「もし服の内側に傷があったりしたら、そこに置いてあるメテノの包帯を使って欲しい。ガーゼ状にしてテープで止めるだけでも、すぐに傷が治ると思う」
「ああああ待ってください、本当に待ってください、私とんでもない勘違いを……?」
リーリエが俺の背中に顔を押し付けてぐりぐりと何かを叫んでいる。
畜生、もしも俺に医療の知識があれば! 服の上からでも怪我がわかったかもしれないのに……!!!!
俺は!!!! 弱い!!!!
「あああ、あうあうあう……」
「……本当にごめんなさい」
「もう良いです!!!! クロウさんは謝るようなことはしていませんから!!!! でも謝ってください!!!!」
「……はい……すみません……」
「ぅぅぅ……少し引きずってしまいそうです……。もうこちらを向いて良いので、状況を整理しませんか……?」
へたり込んだリーリエのほうへ振り返る。
なんだか疲れた顔をしているようだが、よほど心にキてしまったのだろうか。帰ったら何かお詫びをしなければ。
……俺たちが今いるのは、先ほど確認した通り玄関を抜けた先の吹き抜けのあるホール。
どうやら二階建てのようで、天井からシャンデリアがぶら下がっているが、灯りは付いていないどころかイトマルやアリアドスなどの蜘蛛ポケモンの巣が張られている。唐突に森に出現した割には、『昔は綺麗だった』みたいな雰囲気だ。
床も、古くなった板材がギシギシと鳴っている。律儀に玄関で靴を脱いでいたら絶対怪我するタイプ。
「……こう言うのってさ、大体物語では玄関が閉められてるよね。……ほらやっぱり!」
「鍵がかかっているみたいですね……」
「鍵を探せば良いのか、何かの問題を解決すれば良いのか……」
「ポケモンさんの仕業なのでしょうか?」
「よくわかんないけど、一旦は脱出のために鍵を探す方針で行こう」
いつまでも待っているだけでは何も起こらずに終わってしまう。
行動に移すことにした俺たちは謎の館の部屋を一つずつ調べてみることにした。
まずは俺たちのいたホールから続く両サイドの廊下。
玄関から入って右側だ。
扉は見つけたが一旦入らず奥まで進む。突き当たりを左に曲がれば、また廊下が続いていた。
「どうする? 奥に行ってみる?」
「……いえ、もし先ほど通り過ぎた部屋に攻撃的なポケモンさんがいた場合、奥で何かがあって逃げてきたとしたら挟み撃ちに合ってしまいます。先にこちらからにしましょう」
「わかった。じゃあ開けるよ」
こちらの扉は開くようで、中には縦長で狭い部屋が広がっていた。横幅は寝転がったリーリエ2人分。縦幅はリーリエ3人分とイーブイ1匹分くらいか。
そこにベッドや机が並べられているので、ただでさえ狭い部屋が更に狭く感じる。
うーん埃っぽい。リーリエが吸い込んだら大変だし、なるべく早めに探索を終わらせよう。
「本や文献などは……もうボロボロで読めませんね」
「というか、そもそも文字が読めないな……リーリエ、わかる?」
「古文書や古代の文字にしてはところどころに私たちの使っている言語の面影を感じます。ですが読むのは難しそうですね」
「持っていくのもやめておこう。また呪われたら困る」
英文にルーン文字が挟まっていたら、本場の英語圏の人でも流石に読めない。俺たちのよく見る文字に、見たことのない文字がところどころに挟まっていた。
というよりこれは、どちらかというと文字化けでは……?
「この部屋からは情報なし……かなぁ?」
「次にいきましょうか」
次の部屋も同じ間取りの小さな部屋だった。
ベッドは無く、木箱や棚が所狭しと並べられている。
生活感が無いことから察するに倉庫や押し入れか何かだろうか?
「……悪臭がします」
「木箱からだね……」
恐る恐る開けてみると、悪臭の正体は腐った木の実だった。
クロウは たべのこし を 手に入れた!
……こんな経路の食べ残しイヤッ!! ポイ!! 捨てる!!
「木の実には手をつけていますが、棚にある薬草などのビンは無事です。野生のポケモンさんが住み着いたのでしょうか?」
「もしくは使い方がわからない、とか?」
「私も薬草類の知識はあまりありませんから、どうしようもないですけれど……」
棚にある本も字が読めない。
……ただ、ビンなどに描かれた薬草の絵やフラスコのイラストなどから、キズぐすりなどを自作する方法を研究していたらしいことはわかった。傷ついたポケモンに散布するようなイメージも描かれているし、間違い無いだろう。
「ここにも出口の鍵らしきものはありませんね」
「次か」
次の部屋は先ほどよりも少し大きい。
机や棚が並び、紙類も多くある。
……が、そのどれもが文字化けしていて読めない。こんなにたくさん文字があるのに何も読めないのは悔しいと、リーリエがしょんぼりしていた。かわいい。 次。
一際綺麗にされた部屋。
綺麗というよりは人の出入りがないから埃もたまらなかったというような古さ。
他の部屋よりも家具が少なく、統一性があることから客が泊まるための部屋だったと思われる。ワインセラーのワインには年数らしきものが刻まれていたが、これも文字化けしていて読めない。開封済みと思われるワインを手に取り、試しに開けてみると強いアルコールの香りがした。
開封済みなのにすっげー発酵してるらしい。もはや腐ってるだろこれ。
リーリエに「ワインを開けたんですか!? 未開封のものではないですよね!?!?!?」と真剣な顔で詰め寄られた。 次。
「ここは……」
「埃こそ被っていますが、部屋は広いですし家具が豪華です。主人の部屋のようですね……?」
「ここにも本がある……」
「本というより、日記……でしょうか。鍵は開いていますね」
ふと横を見ると、リーリエと目と目が合う。
お互い頷いてから、日記のページをめくった。
『───月───日。───を……して、───にすることになった。』
「読める……!?」
「文字が掠れていて読めないところもありますが、他の本のように読めない字があるわけではありません……!」
「じゃあ、文字が掠れてないページ探して読めれば……?」
「何かがわかるかもしれませんね!」
慌ててページをめくる。
『───月3日。メイド志望の女の子が館を尋ねてきた。───……が無くて、食べるものにも困っているらしい。ポケ───を保護する者として名を馳せてきたオー……だが、人間だけは保護しない、などというのはご都合にもほどがある。私は少女を迎え入れ、メイドとして雇うことにした。部屋は倉庫の隣の空いている部屋で良いだろう』
「あの部屋はメイドの部屋だったんだ……」
「狭いのに家具があったのは人がいたからなんですね」
字が丸い。主人は女性のようだ。
まるでリーリエが書く文字みたいに、綺麗でバランスの取れている教養のある字だ。
『───月……。メイドが死んだ』
「えっ」「えっ」
『ポケモンに生気を取られて死んだらしい。一緒にいた私には何も害がなかったので寿命と割り切ることにした。どうにか生き返らせられないか手を尽くしたが、彼女はゲンガーとなってどこかへ旅立ってしまった。追うものではないだろう。退社金ということで彼女に高く売れそうなZクリスタルを託し見送った。彼女は私に似てポケモンを保護するのが好きだし、どこかでポケモンを助ける生活をしているのかもしれない』
「Zクリスタル……!?」
「館の主人はアローラ出身なのでしょうか……?」
「でもZクリスタルって神聖なものなんじゃ……そうそう人に渡していいのか……? しかも高く売れそうなって書いてる」
「どちらにせよ、アローラとのつながりは深そうですね」
…………ポケモンを保護していて、Zクリスタルを所有していたゲンガー?
どこかで……どこかで見たような……。
『2月27日。私にも終わりが来たのかも知れない。いや、終わりは来ている。私の存在が消えようとしている。』
『11月18日。私ではない私がいる。私は誰だ。私はどこにいる。私はなんのために生まれた。』
『11月17日。丸一年も眠っていた。ひどく気分が悪い。ここはどこだ。アローラではない。財団のものとも連絡が取れない。そもそもどうして館が森の中にある。近くにある街はなんだ。どうしてこんなに近くにいるのに人が来ない。』
「「………………」」
このタイミングで、主人はカントーに……?
『誰も私と館を認識しない』
『腹が減らない』
『眠くならない』
『私は死んでいるのか』
書き殴ったような文字。紙がよれている。水をこぼしたのか、泣きながら書いたのかのどちらか。おそらく後者。
『今は何月で何日かわからないが、ポケモンが訪ねてきた。というより生まれてきた。いつものように保護しようとしたが、私には身体が無い。とっくに人の身では無かったようだ。私は母のような偉大な人物にはなれなかった』
『 が をくれた。』
『来訪者よ。鍵を渡そう。食堂に来るといい』
『私 と た た か え』
がしゃん!!
背後でガラスが割れるような音がした。
吊られていた電球が落ちたらしい。破片の中に、鍵がある。
「……見られていたんでしょうか」
「流れからしたら、出口の鍵じゃ無さそうだね」
「行くしか……無いんでしょうか」
食堂はおそらく、ホールから続く扉……最初に俺たちが激突した扉だろう。
主人に何があったのかは知らないけど、ここから出してもらうためには接触せねばならない。
「行こうか」
◇
「こんにちは。こんばんは? どちらでもいいですが、ようこそ」
「……ッ…………」
「な、なんで……? どういうことですか……?」
川の流れに流される砂金のように煌びやかな髪。
木々の魂を閉じ込めたのかと見間違うほど深く美しい翠の瞳。
白く、シミ一つない、全ての女性の理想と思えるような肌。
「わたくしの名前は」
俺が渇望した声。
俺が渇望した眼差し。
一目惚れしそうなほどの美貌に、魂が震える。
違うと、わかっているのに。
「リリー。オート財団の社長、リリーと申します」
「なんで……私がいるんですか……!?」
目の前にいるもう一人のリーリエから、目が離せない。