リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……。
惜しいことをした……ッ!!
リリーの写真一枚だけでも撮っておけばよかった……ッ!
っていうかもっと仲良くなれればリーリエとリリーのツーショットとか撮れたんじゃ……!!
どうして俺はッ! どうして!
「イーブイちゃん、目を覚ましてください!」
「ごぼごぼえぼ……」
なおリーリエは別地方出身とはいえどアローラにいたので岸まで泳ぐことはできたらしい。ケンタロスは器用に尻尾を振り回してプロペラのようにして推進力を獲得し上陸。フシギダネはそのケンタロスの上に。リザードは死んだ。……いや、カメールに助けられてた。
それで、イーブイはこの中で唯一溺れ、現在進行形で水を吐いているわけだ。
「ごぼぉ」
「イーブイちゃん……」
「まさかイーブイが泳げないなんてなぁ」
「なんでもできる子って感じでしたから意外です」
「『まねっこ』でなみのりとかダイビングとかやらせたら泳ぎも上手くなるのかなぁ」
「無理強いはしないであげてくださいね……?」
え? 俺? 俺はどうなったかって?
まぁそりゃ、先に飛び出たリーリエの元に一直線に向かって、ばちこーんって海面に激突して全身の関節が芸術的な方向に曲がった後、リーリエをゆっくりやさしく手放しただけだけど?
関節とかリーリエの目を盗んでグキってやったらどうにかなるし。むしろそれができなくて何がリーリエ推しだってハ・ナ・シ。
「うぶぅ……えぼぉ……」
「しばらくイーブイは戦えそうに無いな。ゆっくりシオンタウンに戻ろう。結局シオンタウンのゴーストポケモンたちがどうなったのか知りたいしね」
「はい。一度休憩にしましょう。流石に疲れました……」
そう言って座り込むリーリエのスカートから水が染み出している。
うむ、舐めたい。あの滴り落ちている海水をコップに集めて飲み干したい。
いやぁ、ずぶ濡れリーリエもオツなものですなぁ……。水も滴るいい女ってわけよ。
タオル類も共に海に落っこちたので拭けるものもない。
かと言ってこのままにしてると風邪を引くだろう。
ここは一緒に温め合って温もりを感じようね♡ 煩悩退散。
ちなみに俺たちは崖の上にいます。
構図としては高さ順に、浮いた館、崖、海。
ケンタロスが頑張って助走をつけてくれたおかげでリーリエは岩などが無い深いところへ降りれたらしい。あとはその位置に俺がジャンプしてリーリエ掴んで保護よ。
で、フシギダネのつるのムチと俺の滝登りならぬ崖登りで上までやってきたわけですな。いやあ、全員びしょ濡れですげー重かったぜ!
太陽を浴びつつ海風を受けていると、リーリエがその場に寝転んだ。
じっとりと濡れた髪の毛が岩肌に広がり、つうと垂れた水滴が妙に艶かしい。荒い息とそれに合わせて上下する彼女の慎ましやかな双丘は濡れた服を纏ってしっかりと彼女の成長を感じさせる。
日差しを鬱陶しげに目を細める表情も、果てた後のピロートークのよう。
冷たくなった身体が火照るのを感じ、そんな自分を恥じた。
「リリーさんは」
「……リリー……?」
「いえ、【私】は……愛されていたのでしょうか?」
自分の手のひらを見つめる。
ついさっきまでリリーの存在を抱きしめていた手だ。
香りも、体格も、声も、そのほとんどがリーリエと同じである彼女は、最後に俺の背中を押して消えた。
「私は……愛されていたのでしょうか。【私】が欲しかった分の愛を、受けていたのでしょうか」
「…………」
「お母様の愛も、彼女の望んだ愛だったのでしょうか」
日記の内容から、リリーの母はオート財団を引退しその座をリリーに移したらしい。それが正式な引退なのか、
ただ、彼女の涙からして、そのどちらであったとしても彼女が幸せだったことは無いのだろう。
……もしくは、母なんてもの、
「リリーの世界がどうであれ、誰かの言うことを聞くのが正解なんてことは絶対に無いよ」
「クロウさん……」
それともリリーならば、ルザミーネの歪んだ愛もまた、彼女が求めた愛の一部なのだろうか。
恵まれているから、そんな愛は違うと言えたのだろうか。
リーリエの言いたいことは、なんとなくわかった。
そして、そんなリーリエにかける言葉は見つからない。
人は平等であるべきとか、恵まれてる恵まれてないは関係ないとか。
そんなものは主観に過ぎない。それはリーリエを幸せにしない。
彼女が悩んだリリーの話は、彼女の中で解決をつけるべきだ。
どう生きるのか、どう背負うのか。
そして俺も。
リリーを救えなかったことを、一生背負って生きて行く。
「……ウルトラホール」
隣に座った俺を横目に、リーリエがつぶやく。
「リリー……さんは、ウルトラホールからやってきたのでしょうか」
「多分、ね。それ以外に説明つかないし」
「ウルトラホールの向こうには、もっと他の私がいるんでしょうか」
「多分……ね」
「みんな、辛い思いをしているのでしょうか……」
リーリエの頬を水滴が伝う。
それは海の水ではなかった。
「みんなで幸せになりたいです……。どうしてこうも、上手くいかないのでしょう……」
しゃくりあげるリーリエの口元が震える。
日光を遮るように目元に押しつけた腕で泣き顔を隠し、静かに呼吸を荒げていた。
「大丈夫だよ」
「何が……大丈夫なんですか……」
「幸せにするために、ここに来たんだ」
「…………」
「帰ろっか」
「……はい」
どちらともなく立ち上がり、どちらともなく歩き出す。
家に戻って、ふかふかのベッドで寝るために。
幸せな夢を見るために。
◇
「待て待てーっ!」
「きゃははは!」
歩き疲れた足を引きずりシオンタウンに戻ってくる頃には、服もすでに乾いていた。
たっぷりと海水を含んでいたため二人とも少々潮臭くなったがそれもご愛嬌だろう。
流石に服に染みついた磯の香りだけはどうにもできず、素直に戻って洗濯するのが1番だと考えたわけだ。匂いに関するポケモンも捕まえた方がリーリエ的には嬉しいだろうか。
「戻ってますね」
「何事も無かったみたいな感じだ」
不穏な空気なんてかけらもなく、子供が走り、大人がそれを眺める、平和な風景が広がっていた。
毒々しくも禍々しかった……ように思えた紫色の街も、今となれば紫陽花や藤の花のような鮮やかで貴賓のある色味のように感じる。
人とその雰囲気って大事なんだなぁ……としみじみしつつも、俺たちはたましいの家にいるであろうフジ老人のところへ向かった。
「……お二人とも……!!」
「無事です!」「何かあったかは聞かないでくれると助かる」
「ご無事で何よりです。1日経ってもお帰りがないので何かあったのかと」
「1日!? そんなに経ってたんですか!?」
館に向かうのに十数分。気絶して……時間経過不明。探索に数時間。
一日も経ってたのか。驚きだ。
「お二人のおかげで、街に活気が戻りましたな」
「クロウさんのおかげです。私は何も……」
「そんなことは」
「いえ。そうです。そうなのです」
俯きがちにリーリエが俺の言葉を遮る。
気まずそうにしていたフジ老人だが、ふと何かを思い出したように奥の方へ引っ込んでいった。
やがて彼が奥から持ち出して来たのは、最初に俺が預けた呪具セット。
「お祓いは済んでおります」
「本もスコープもどっちも綺麗になってる……?」
「中に取り憑いていたゴーストポケモンたちを説得し、物の修理などを頼んだのです」
「いやいや、説得って。かなりガンコなタイプの霊だったと思うんですけど」
「徳を積めれば、彷徨う者になった後でも天へ昇れると言います。彼らもまた、彷徨う者になった後も誰かの役に立つことを願っていたのてやすよ。ほほほ」
力が欲しいか?と聞いて来た本のポケモン。
見えないものを見せようと実体化させたスコープのポケモン。
結果として害になったり悪い方向へ進んでしまったものの、そもそもの動機は誰かのためになろうとして……か。
案外ゴーストポケモンも悪い奴らばかりではないのかもしれない。
「……行きましょう、クロウさん」
「そうだね。……じゃあフジ老人。何かあればマサキという人を尋ねてください。そこに俺も、リーリエもいます」
「ありがとうございました。お気をつけて」
リュックに詰めた本は以前のような不気味な雰囲気は感じられない。
シルフスコープの方も、通常通りの感じだ。……ん? これゴーストみるのってどうやんの? えーと……。
「……? どうかしましたか?」
おっほ♡ 美少女発見! これは使える道具を手に入れたな。
「なんでもない! 行こっか」
「はい!」
リーリエが歩みを止め、俺がつくのを待つ。方向はイワヤマトンネル方向。
いつのまにか自然になってしまっていた、尊くて愛おしくて大好きな人の隣。
ここは俺の席じゃないんだけどなぁ……とは思いつつも、推しの隣に立てる喜びを狂喜乱舞して享受せずにはいられない。
「家に戻ったらしばらくお休みしたいですね」
「その前にレポート書かなきゃ。あとRR団の報告と、カビゴンの様子を見るのと、ウルトラビーストの被害がどこかに出てないか確認して、それから……」
「やることたくさんありますね……。休めるんですか?」
「わかんないや。治療薬も結局見つかってないし。ふぁ、あ……」
「クロウさんは何かと背負い込みすぎです。色々助けてくださるのはありがたいのですが、もう少し肩の力を抜いてもいいと思いますよ」
肩の力……ねえ。
まぁ確かに最近シリアスじみてたかも。というよりはシリアスが向こうからやってくるって感じだけど、とにかく帰ったらのんびり色々やっていこう。
「クロウさんの趣味って何かあるんですか?」
「……ゲーセン……」
「ゲームセンターはダメです! のめり込んで散財しそうになったのを忘れたんですか!?」
「うーん……」
趣味……趣味ねえ。
いや、割とガチで無いかも?
ポケモンやって、リーリエ可愛いー!ってやってるだけの人生だったし。
そのポケモンの世界に来てるんだから、そりゃあポケモンなんてゲームは無いわけで。
元いた世界でも「ニンゲン」なんてゲームがあってもやろうとは思わないし、ポケモンの世界ではポケモンがいることは当たり前なわけで。
うーん、趣味、趣味。
「コレクターとかやってみるかな?」
「何をコレクションするんですか?」
そりゃもちろんリーリエブロマイド……っと、そうじゃない。
「別な地方には石を集めるコレクターもいるみたいだし、そんな感じで珍しいものを集めてみるとか?」
「例えば!」
「ええっ……。うーんと、えーっと、あ、木の実! きのみなら食べられるし趣味にもなるし一石二鳥じゃない?」
「きのみコレクターですか? ……ふふ、面白いですね。身を挺して雨風から木を守るクロウさんの姿が目に浮かぶようです。『うおー!!』と。ふふふ……!」
リーリエのなる木があったらこの命に変えても守るが???
8重にしたビニールハウスの中にソルガレオとルナアーラを配置して昼と夜をしっかり過ごさせ、水と肥料をふんだんに献上して温室育ちぬくぬくほんわかリーリエを生み出すが???
は? 手のひらサイズのリーリエってこと? 夢???
「きのみを栽培すれば食費も抑えられるし、毒の治療薬も見つかるかもだし、状態の良いものは売ればお小遣いにもなるし……」
「ちょっ、ちょちょちょ、ちょっとクロウさん! 頭の中がお仕事モードになってますよ!」
「はっ。すまんつい」
「もう。……しかし、良いかもしれませんね。そうやって過ごすのも楽しそうです。畑を作ってきのみを植えて、毎日お水をあげて……帰ったらやってみましょうか! まずはオレンの実です!」
「えぇ〜、オレンの実〜? 俺オボンの実のほうが好きなんだけど」
「オボンは初心者には難しいですからまずはオレンの実ですよ?」
気づけば太陽も傾き始めた。
まだ夕日というには早いが、すぐに月が顔を出しに来るだろう。
少々駆け足でイワヤマトンネルへ突入する。
明かりはリザードがあるので安心安全。わざの『フラッシュ』を使わなくてもなんとかなるもんだな。
「そういえば、ここではアクジキングが出てきたのでしたっけ」
「ズガドーンといいアクジキングといいテッカグヤといいカミツルギといい、どうしてこうもウルトラビーストばっかり出てくるんだ……」
「カミツルギ……? カミツルギもいたのですか!?」
え、あ、しまった!
やべえ!!!!!!!!!!!!!!!!
「まぁすぐにどっか行ったよ。なんもされてない」
「そういうことはちゃんと言ってください!!」
怒られちゃった。てへ。
……しかし、まぁ本当に、ここ最近のウルトラビースト率やばい。
もしも違う世界線だったらここにもツンデツンデがいそうだな! その場合はツンデツンデで出来上がった超☆立体迷路を俺とリーリエとたまたまその場に居合わせたエリカで攻略しそうだな!!!!
そんでリーリエはずらっとたくさん並んだツンデツンデの目にすげー怯えるんだ! かわいいね!
とかそんなこと起きそうだよねって話。
「まあ今はなんともないし……お、出口が見えてきたね」
「家まであと少しです! ……と、もう夕方ですね」
イワヤマトンネルを抜ける頃にはもうすっかり夕方になっていた。
9番道路に行く前にこの辺りでキャンプを挟まないと体力的にも少し厳しいかもしれない。
ということで急遽、北側10番道路にテントを張ることになった。
確かここからなみのりを使うと無人発電所に行けるんだっけか? 記憶が朧げだけど。
テントの設営はリーリエがしてくれるらしいから、俺はキッチンの準備しとこうか。テント作るよりも石とか運ぶキッチン作成の方が力仕事だもんね。
ぱぱっとかまどを作り、拳で岩をいい感じに割ってまな板を作る。上半分だけ粉砕するのとか、綺麗に割るのとか疲れたわ。次からは道具が欲しい。
献立はなんなのかわからないけどまぁお米は使うだろ。先に炊いてしまうか。水を入れて火にかけて……と。
あとはむしよけスプレーを辺りに散布すればOK。2回目だけど慣れたもんですわ。
さて、リーリエの方は……。
「……あ……クロウさん……」
「ん、どうしたのリーリエ。テント作るの疲れちゃった?」
振り返った先に設営されたテントは一つだった。
荷物を前に座り込み、何かの布を広げている。
「クロウさんのテント…… 壊れてます……」
あらまぁ詰み???
って言ってもまぁマサキのおさがりだし、そういうこともあるだろ。
幸い寝袋は無事らしいし、俺は野宿かなぁ。
「あ、あの、クロウさん、提案なんですけど」
「ん……? うん、何?」
交代でテントで眠ろうとかそういうのだろうか。
リーリエは優しいなぁ。でもそれだとリーリエが大変だしやっぱり俺は野宿で……。
「一緒に……寝ませんか……?」
……え?