リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
「ほな、せっかく焼いてもろたことやし、冷めないうちにいただこうや」
「はい!」
「い、良いんですかね。お昼にお邪魔しちゃって」
「あんさん、ここの人やあらへんやろ。住むとことかあらんとちゃう?」
みさきのこや。
フォークにパンケーキを刺しながら、マサキが俺を見た。
リーリエは会話にこそ入ってこないものの耳を立て、取り分けたパンケーキを上品に切っている。かわいい。
「ま、まぁ……」
「どこから来たん」
「アローラから」
「遠かったやろぉ」
「はい……三日くらいかかりました」
「え……?」
「三日! リーリエちゃんときもそうやったん?」
「い、いえ、そんなにはかかりませんでした……」
驚愕の目で見るリーリエ。かわいい。
俺はパンケーキを一口……美味い。めちゃくちゃうまい。焼き加減が完璧でふわっふわだ。リーリエは料理もできるのか。天使すぎる。お嫁に欲しい。
「えっと、三日っていうのはアローラから直泳ぎで来たって意味なんで……船使ってません」
「船つこてない!?」
「えぇ!?」
「……え? あ、まぁ……三日間くらい泳ぎ続けて、ようやくセキチクシティのほうに」
「ほんで遠いな! ここに来るまでに何日かかったんや」
「二日くらいだと思います。ポケモンセンターのケンタロス便に乗させてもらって移動したんで」
「「…………」」
絶句するマサキとリーリエ。リーリエのお口あんぐりかわいいね。アセロラみたいに大きくは開けてないけど、それこそ「ぽかん」って表現が合いそうな可愛らしい感じ。
マサキは知らん。
ケンタロス便だが、一番時間がかかったのがセキチクからタマムシへと向かう道だったと思う。タマムシからヤマブキ、ヤマブキからハナダは意外と近かった。
「それやったら……あんさんかなり疲れてんとちゃう?」
「えぇまぁ。でもケンタロス便の中で仮眠はとりましたし、まだ動けます」
「そ、そか……せやったら……ここで住み込みバイトするんはどや? わいは珍しいポケモンに興味があんねんけど、あんま元気に動きまわれへんねん。君みたいな子がバイトしてくれたらごっつ助かるわぁ。なぁ、リーリエちゃん」
「えっ? あっ、は、はい、そうですね」
マサキはそう言うとこちらにウインクを飛ばした。
こいつ、できる!
つまりここに住み込みでポケモンゲットのバイトをすればリーリエちゃんと毎日イチャコラできる!
…………イチャコラは……できないかもしれんが……少なくとも彼女を守ることはできそうだなぁ……。
「でしたらお願いします。ここで、バイトさせてください!」
「契約成立やな。ええで、好きにし! 寝床は……あぁ、あのソファつこてくれや」
マサキが指差したのは部屋の隅のソファ。あれ多分マサキのパーソナルスペースだと思うんだけど大丈夫なのかな。
隣のタンスとかに服とか入ってるんじゃないの?
「後であっこ改造してカーテンでしきり作ったるわ。見ず知らずの男にここまでするなんてむちゃくちゃなサービスやで」
「まじすんません」
「おっ、ええで。まぁ……その分キケンな仕事行ってもらうがなぁ?」
「望むところです」
「な、なるべく安全なところにしてあげてください……」
こちらの身を案じてくれるリーリエは平和の象徴。まさに鳩、いや名前の由来からすると百合が似合う女。
いよっ、ご令嬢!
───マサキはすぐに俺の部屋を作ると言い、パンケーキを食べ終え次第すぐに引っ込んで行った。
リーリエはと言えば、皿洗いを済ませた後に一度ハナダシティへと買い出しに行くと言う。
「じゃあ荷物持ちとして付いて行きますよ」
「ありがとうございます。……それと、敬語も要りませんよ。わたしのものは習慣ですが……歳もそう離れてないようですし」
「……何歳に見える?」
転生する前の年齢は……ゴニョゴニョ。
「12、3歳くらい……合っていますか?」
「あぁ……」
窓ガラスに写った顔を見る。
子どもらしいというか、中性的な見た目に少し男らしさが出て来たような見た目をしている。
XYのカルムやBWのトウヤみたいなイケメンらしさはないが、どちらかと言うとクールというか……。
「多分そのくらい。誕生日忘れたから詳しい年齢はわからない……です」
「敬語!」
「そのくらい、かなぁ」
「そうですか。わかりました」
俺リーリエと会話してる……ヤッベェ……。
リーリエが立ち上がり、皿を片付けようとする。
俺も手伝おうとしたが、「お皿を洗うのと一緒に着替えて来ます」とだけ言い残してキャンピングカーに皿を持っていってしまった。
着替えてくると言われれば、俺に介入する術はない。え? 覗き? バカかお前、リーリエの着替えを覗くとか恐れ多くてできるわけないだろ。
「なぁイーブイなぁ」
「……ぇぼ」
小屋の外に出てモンボからイーブイを出すと、イーブイは眠そうに目を開ける。寝てたか、ごめん。
一緒にヒトカゲも出す。モンボから彼を出したのは初めてだ。
「イーブイ、ヒトカゲ。仲良くするんだぞ」
「ぶい」「カゲ」
カゲっていった。明らかに今口でカゲって言った。やはりポケモンの生態は謎である。
そんな事を思いながら二匹をポケリフレしていると、イーブイが何かに気づいたように振り返った。
釣られてそちらへ視線をやると、さっきも見た黒い衣装が二人。
そいつらはこちらへまっすぐ進んでくると、俺をうろんげな目で見た。
「なんか知らない奴がいるっすよ」
「……ロケット団? なにしにここに」
「何よ、あんた。わたしたちはね、この博士が持ってるポケモンのデータに興味があんのよ。あんたなんかに構ってる暇はないわけ。わかったらさっさと行きなさい。見せ物じゃないわよ」
そういうとモンスターボールを投げ、ゴルバットを繰り出した。
……ポケモンで襲撃するつもりか?
中にリーリエがいたらどうするつもりなんだ? ……そんな事考えないのがロケット団か。
今はケンタロスがいないから轢けない。だったら見逃すと言うわけにもいかないな。だいたいロケット団のすることって普通に悪い事だし。
「この家に何かしたいんだったら俺を倒してから行け」
「……あんたねぇ。子供はケガする前に帰りなさい」
「こっちのセリフだ。行け、イーブイ」
「えぼい!」
「……はぁ〜。めんどくさいことはしたくないんだけど。ゴルバット、早めにかたづけるわよ」
───ロケット団の下っ端が勝負を仕掛けて来た!───
「イーブイ。俺はお前が使える技を知らない。『攻撃』『かわす』しか言えないから、どの技を使うかはお前の判断に任せる」
「えぼい!!」
「何よあんた新人? よくロケット団に喧嘩売ろうと思ったわね。ゴルバット、『エアカッター』!」
指示を受けたゴルバットが羽に風を纏わせ、それを刃にして飛ばしてくる。
アニメ準拠の戦い方で良いなら、多少は無茶な指示でも聞いてくれる筈だ。
「ゴルバットの下にダッシュ!」
「えぼ!」
「そのままジャンプして攻撃だ」
「ぶぶい!」
エアカッターを掻い潜り射的範囲外へ詰める。
イーブイはそのままゴルバットへと『でんこうせっか』をお見舞いした。
大きくのけぞるゴルバット。
「もう一度狙え!」
「『ちょうおんぱ』!」
ジャンプするための
「右に飛べ!」
「ぶぶぃ!」
「もう一度攻撃だ!」
イーブイは右に『でんこうせっか』で移動し、再度狙いをつけた
そのまま大きくジャンプし、『でんこうせっか』で頭突き。
「隙を与えるな! 攻撃し続けろ!」
「えぼい!!」
そこから、連続突き。
「ゴルバット……!」
「ナイス、イーブイ」
「えぼ!」
そしてゴルバットは地面へ落ちることになった。
赤い光とともにモンスターボールへと帰っていくゴルバットを見ながら、俺とイーブイはロケット団を睨みつける。
「俺がいる限り、リーリエには絶対に危害を加えさせない」
「ぶぶい!」
ゴルバットを出した女、それとその隣にいた男は少し焦ったような顔を見せると、ふん、と胸を張った。
「リーリエってのが誰かは知らないけど、まさかこんな用心棒を雇っていたとはね。今日のところは撤退してやるわ!」
「首を洗って待ってるがいいっす!」
おぉ、見事な捨て台詞。
すたこら逃げてくロケット団を追おうとするイーブイを宥めると、イーブイは不服そうに戻ってきた。
どうやらイーブイは、今の戦い方で良かったのかあまり掴めていないらしい。
大丈夫、これから練習すればいいさ。お粗末なバトルでも、いずれはきっともっと強くなれる。
「な、イーブイ」
「えぶぶいぶぃ」
「お待たせしました……何かあったのですか?」
後ろからリーリエのチャームボイス!
バッと振り返るとびくっとしたリーリエ。かわいい。可愛すぎる。
キャンピングカーから出てきたリーリエは7部丈の薄桃色パーカーに生地の薄い紺ジャケット。白いパンツという装いで出てきた。どんなファッションも似合いすぎて俺の推しがやばい。
薄桃色っていう淡い色がまずリーリエに似合ってるし、それを紺ジャケットで派手すぎないように整えてるのも細やかなリーリエの気遣いがあって良い。ブロンドの髪が紺に映えていて素敵。白いパンツもすらっとしててスタイルをよく見せる要因だし、普段のリーリエやがんばリーリエスタイルのような可愛らしいスタイルではなく、スポーティな印象を受ける。ただ素材が良すぎて全部kawaiiになってしまっているのがミスマッチ。リーリエが可愛すぎて犯罪になりそう。ポケカのプレイマット買うわ。
「……って言えたら良いんだけどなぁ〜……」
「ぶぶいぶい」
「?」
「いや、なんでもないです……んん、なんでもないよ。行こうか」
「はい! 今日はよろしくお願いしますね」
リーリエは鞄を肩から下げ、俺の隣に立って歩き始めた。
これは実質デートなのでは? お買い物デート。
「えっと……あれ? お名前ってお聞きしましたっけ」
「あれ? そういえば。マサキさんが『あんさん』って呼ぶから会話が成り立ってたな」
「ふふっ、そうですね」
笑顔柔らかすぎてヨ○ボーよりも人をダメにしそう。
上品な笑顔ほんともう好き。大好き。ちゅーしたい。その唇ぺろぺろしたいお。おっおっおっ。
……いかん。変態になってた。静まれ俺のアローラナッシー。え? そのコクーンしまえって? 殺すぞ。こう見えても自信があって……待って、この体って転生前と同じアローラナッシーなの? それともコクーン? ディグダ? 不安になってきた。
でなんだっけ。そうだ、自己紹介。
思いっきり和名だけどダイゴさんいるし、なんならアローラにはカキとかマオとかスイレンとか、和名に似た名前が多い。大丈夫でしょう。
俺のフルネームは『明石 九郎』なので……。
「九郎。 俺はクロウって言うんだ」
ポケモンの世界って苗字なかったよね? 名前だけで大丈夫だよね?
「クロウさんですか。はい、覚えました! ふふ、クロウさんっ!」
ほあああああああああああああああ^q^
推しに名前呼ばれるってこんな感覚なん? マジ細く幸せすぎて胸の奥がフレアドライブ。反動でダメ食らっとるやんけ。
あぁもうマジでリーリエたんなんなん天使なん天使でしたわもうこれは信仰の対象と言っても過言じゃないのでリーリエスリーブ買います。
「俺のハートがニトロチャージ……」
「?」
「なんでもないよ!」
「そうですか……?」
不思議そうな顔をしてリーリエは鞄を掛け直す。
シンプルなカラーリングの赤いカバンで、木の実やらなにやらを買うらしい。
他にも、マサキが注文している機材などがポケモンセンターに配達で届いているだとかなんとか……なるほど、ケンタロス便か。誰かがまたケンタロスに揺られてやってきたのだろう。どっちにせよ、リーリエ1人で運ぶのには少し厄介な気がする。三往復くらいしないと無理そう。
「…………」
「……? どうかされましたか?」
「あっいや。ドラムバッグじゃないんだなぁと」
「え?」
「いや、アローラだとさ、ドラムバッグだったじゃん。ほしぐもちゃんを……」
と言いかけたところで自分の失態に気づく。
「どうして……クロウさんがほしぐもちゃんのことを?」
「え」
「それを知っているのは一部の人だけのはずです。どなたから聞いたんですか?」
「あ……」
俺はリーリエに会ったことがない。
だけど、リーリエのことはよく知っている。
「そもそも、私と友達になりたいからアローラからカントーまでやってきたなど……三日間泳ぎ続けられるとも思えませんし。クロウさんは何者なんですか?」
「お、俺は……その」
「やっぱりエーテル財団の人ですか? ククイ博士の新しい助手? 何のために、私に近づいたんですか」
言った方が良いのだろうか。
ウルトラホールに飲み込まれ、別の世界からやってきたことを。
だけど、画面の向こうからやってきたなんて、誰が信用するだろう。
そもそもウルトラホール自体が、「ポケモンの世界のもの」なのに。
大体、画面の向こうから君をずっと見ていた、なんて気持ち悪いにもほどがあるだろう。向こうもこちらを認識していたならまだしも、リーリエは主人公であるヨウと一緒に過ごしていた筈であって、知り合っているのは俺じゃないのだから。
どうやって説明する? どうやって弁明する? 頭の中を駆け巡る。
「もしも母様に何かあれば……私は絶対にゆるしません」
「あ……う……」
「答えてください」
どうするって言うんだ。
マサキはリーリエと俺が既知の仲だと思っている。
とするとマサキの助手になりたくて云々は通用しない。
一目惚れで、マサキの家に入ったところを見た? だったらカントーに三日かけてやってきた理由はなんだ?
リーリエはほわほわしているが意外と芯があり、目的のためなら主人公でも戦力として使うリアリストな一面もある。
今俺にかかっている怪しい点を、全て納得のいく形で説明しないとリーリエは二度と俺を信用してくれないだろう。
「…………今は……説明できない……」
「……そうですか」
「でもこれだけは信じてほしい。俺は君を守りたい。君の母……ルザミーネさんも救いたい。俺にはその知識がある。君を……。いや、君の……」
「私を、なんですか」
「いや、その、君……君の。君の母は、その、今は毒に……」
「どこまで知っているんですか」
転んだ。これは絶対に転んだ。
言いたいことが多すぎて頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「えっと、えっとその、ウルトラビーストが……それで、ウツロイドの毒を……」
「…………」
「知っているのは、ウツロイドの毒が抜けきってないってことと、それをどうにかするために、過去にポケモンと融合したことのあるマサキを訪ねたこと……」
「…………」
「俺は、俺は絶対に君に牙を向けない。むしろ、君の牙に、槍になる。俺が怪しいのは承知の上。だから、その、俺を信じてください……」
リーリエに嫌われたら、俺は何をしたら良いのかわからない。
ゲームをしていても、リーリエのいないアローラに魅力はなかった。
リーリエこそが俺の全てなんだ。
俺は……どうすれば……。
「……ひとまずは荷物持ちをしてください。話はそれからです」
そう言ってリーリエは、頭を下げた俺の横を通った。
柔らかい髪の香りがひろまり、たまらず
「……ありがとう!」
「まだ保留です。……まぁ、先程の言葉は信用します」
リーリエは俺から距離を取ると、ボソッと何かを呟いた。
「リーリエには絶対に危害を加えさせない、だそうですし」
「……なんて?」
「なんでもありません。ほら行きますよ、クロウさん」
「っあ、わかった」
なんて言っていたのかは気になるが、下手に詮索してリーリエに嫌われるのだけは勘弁だ。
少々駆け足なリーリエの背中を、俺は慌てて追った。