リーリエロスでカントー行ったよ   作:バケットモンスター、縮めてバケモン

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お ま た せ


魅惑のあのコの飴リップ

どんどんちゃかちゃか。

ハナダシティはその洋風な風貌に似合わない和風なお祭りに様相を変え、どこから出してきたのか鼓の音まで響く始末。

噴水の周りにはたくさんの屋台が立ち並び、焼きそばだのりんごあめだの()()()()なモノをダシに盛り上がっていた。

ハナダの花火大会。

理由こそ不明だが、ジムリーダーが企画したということもあり街の人は反対する人もおらず、今日この時だけの雰囲気を楽しんでいた。

もちろん俺も例外ではなく、今日この日を楽しみにしていた。

え? いやいや、祭りが楽しみなんじゃなくてさ。

 

「クロウさん、お待たせしました」

 

ハイ神に感謝。というかリーリエが神。

俺の目の前に姿を現したリーリエは、もはや神とすら表現するのも烏滸がましいまでの輝きを纏っていた。

お祭りでは祝われる対象である稲穂のような美しく垂れる金髪をがんばリーリエスタイルにまとめ、シンプルな赤い長リボンでまとめ後ろに流して洗練されたキュートさをアピール。

爽やかな空色ベースの浴衣には、美人を象徴する白百合と、そこに隠れるアローラロコンが描かれている。

帯は紺の星空。ところどころにある金色の部分がさりげなく輝き、シルエットを隠しつつも存在感を感じる。

最後に翡翠色の帯紐で星空にオーロラをかければ、華奢で蠱惑的な身体が神秘のヴェールに包まれた。

惜しげもなく晒した素足に下駄をひっかけ、カコンと涼やかな音を鳴らして俺の前に現れる。

その手に持つ小さな巾着も、それこそ彼女の存在を引き立てるためだけに作られたもののよう。

一挙手一投足が、まるごと彼女の美しさへ変わる。

つまり、

 

「とても似合ってるよ」

「……。テンプレートな言葉ですね。クロウさんはいつも同じような言葉しか言ってくれません」

「すごく褒めてるよ」

 

心の中でな。

 

「クロウさんのじんべえも似合ってますよ。……母様、こんなものまで用意していたんですね」

「他の地方からわざわざ取り寄せたんだっけ。社長ってすげえよ……」

 

独特な柄が編まれた緑色のじんべえ。

通気性がばつぐんでとても過ごしやすい。

 

「では、いきましょうか」

「リーリエは気になる屋台ある?」

「こういうところに来たことがないので全て新鮮です! ……ええと」

 

きょろきょろと辺りを見渡したリーリエの視線が、りんごあめの屋台に止まる。

そのままこちらの様子を伺ってくるので頷くと、目をキラキラさせて屋台まで駆けていった。うわ……可愛い……。

後ろにまとめた髪が揺れてるの可愛すぎない? 歩く地球かよ。母なる大地なのかもしれん。

 

「どう注文したら良いのでしょう」

「あー……おっちゃん、この子にりんごあめ1つくださいな」

「あいよ! ……お嬢ちゃんべっぴんだねえ!? でかくて旨そうなやつあげるわ!」

「よ、よろしいのですか!?」

 

あは〜! 美しいって罪だなぁ、リーリエ!

そうそう、これだよ、この反応! リーリエって可愛いんですよ!

上目遣いで太陽が登って、首を傾げれば国が傾く美女なんですよ!

わかります!? わかりますよねえ!!

 

「あの、お代はいくらほどに……」

「ん〜、500万!」

「500万円ですね、少しお待ちください」

「ばっ!? バカバカ、こういうの冗談だから! お嬢ちゃん、そのカードしまって!」

「ふふ、こちらも冗談です!」

「な、なんだ……お嬢ちゃん強いねぇ」

 

見ました!? 今のリーリエのお嬢様ジョーク!

ありがちな値段爆上げのノリに対してカードを出して真に受ける世間知らずなお嬢様を演出する高等テクニック! 並大抵のお嬢様にはできない芸当!

多分昔のリーリエなら真に受けてたんだろうなぁ。しみじみ。

 

「とりあえず俺が払うよ。おっちゃん、500円」

「あい毎度!」

「そんな、いけませんクロウさん!」

「後ろも並んでるからね、一旦避けよう」

「あっ……」

 

言われて気づき、ぱたぱたと下駄を鳴らしながら屋台からどくリーリエ。

その手には、並べられていた物の中で一番大きいりんごあめが行燈の光を浴びて艶やかに光っていた。

 

「すみませんクロウさん」

「いいのいいの、それよりもリーリエのりんごあめ、大きいね」

「これは一口で食べる物では無いのですね……」

「前歯でこう、ガリッと」

「がりっと……はむ」

 

あっはー!!!! かわいー!!!!

スマホ! 誰かスマホ持ってねえか! 永久保存版だぞこいつぁ!

嗚呼、カメラが没収されている……! 仕方ない、脳内カメラに焼き付ける他ない! なんでだ! なんでスマホ一つも持ってないんだ現代人のこの俺が! 馬鹿野郎!!

 

「かたいです」

「ちょっとずつ噛んでいってごらん」

「あ……甘い……」

 

パキ、と崩れた飴の端を小さな口で咀嚼するリーリエ。

コツを掴んだのか、続いて飴とりんごを一緒に噛み取り、その甘味に笑顔を見せた。

 

「おいしいです! クロウさん、これおいしいですよ!」

「良かったねぇリーリエ! りんごあめ美味しいねぇ! もいっこあげようか?」

「な、何故急に保護者のような視線を向けてくるのですか!? ひ、一つで充分ですよ!?」

 

溢れ出る父性からよしよしと頭を撫でていると、リーリエがこちらにずいとりんご飴を差し出してくる。

……もう飽きちゃったかな? たしかにりんご飴って大きすぎると味が一辺倒で飽きるよなぁ。

と思ったがそうでもないらしい。

 

「く、クロウさんもどうぞ!」

「えっ」

「美味しいですから、その……どうぞ」

 

俺にはリーリエが、()()()()()()()をこちらに向けているように見えるのですが。

あの、このままだと間接……。

 

「後でいただくよ」

「……む。なんで今はダメなのですか」

「えーっとぉ……そのぉ……」

「………………」

 

リーリエの唇が目に入る。

先ほどりんごあめを咥えていた彼女の唇は、赤い飴の色をルージュ代わりにメイクアップされていた。

その色は当然、目の前のりんごあめと同じ色なわけで。

艶やかに色気を放つ彼女の唇から、目が離せない。

 

「ほら……ね? ってムグゥー!?!?!?

「はい! よく味わってください!」

「もごご……!」

 

あっ、もう間接とかじゃなくて丸ごと食えってことですか! 顎外れるわ!!

でもちゃんと美味い! 喉の上の方が圧迫されて息苦しくなってること以外はもう文句なしに美味いりんごあめだなコレ! マサキにお土産で買って帰ろう!

 

「クロウさん、次はあの屋台に行きたいです!」

「もごごごご。もごー」

「りんごあめは後でお代わりを買おうと思っていますので、今は大丈夫です!」

「もご」

「そんなこと言ってないで、早く行きましょう! タイムイズマネーという言葉があるんですよ!」

「ごー」

 

リーリエが俺の手を引きかけ出す。

手を引いている相手が頬をぱんぱんに膨らませたまぬけ面の俺で無ければさぞ絵になる光景だったことだろう。

 

そんな彼女の後ろ姿はとても楽しそうで、これだけでも連れてきてよかったと思える。ご飯3俵イケる。

しかしまぁ、楽しそうだね。なんか理由があるのかしら。

 

「もごごくん」

「上機嫌……ですか? ふふっ、そう見えますか?」

「そうだね、特別楽しそうにしてるように見えるよ」

「それはクロウさんといるからですよ!」

 

エッ。突然の告白。

 

「次はあの屋台に行きましょう! あれはなんでしょうか!」

 

なるほど!!!!

屋台のお金出してくれるから上機嫌なのか!

こりゃクロウさんの財布の紐も緩んじゃうなぁ!? むしろもう紐ないかも! 目につく物全部買っていこう!

 

「ヤドン……焼き……?」

「ヤドン焼きだね。……え? ヤドン?」

「あの、店主さん、これはその、どう言った料理でしょう……」

「いわゆるグロテスクな奴なの……???」

「いやいや二人とも、そんなわけないじゃないのよさ! ヤドンの尻尾を串焼きにしてるだけよ!」

「なぁんだ、そうなんですか!」

 

本気かお嬢様。

食卓に出るたび思ってたけど充分グロテスクだと思う。

そんで一本5000円!? たっけえ!! りんごあめの10倍の値段マ!? 競市じゃねえんだぞここ!!

 

「ではこちらを一つ!」

 

本気かお嬢様!!!!

 

「それはいいけど、あなたのお腹に全部収まるかしらん? ヤドン焼き、大きいわよ?」

「そうなんですか? ではお土産などで買う方が良さそうですね」

「(リーリエリーリエ。お土産で買うなら普通に食材買ったほうが安い)」

「(私もそう思っていました)」

「じゃあ一旦別のお店行くかあ」

「申し訳ありません、また来ますので」

 

ぺこりと屋台に頭を下げ、ついてくるリーリエ。

次はどこにいこうか、と辺りを見渡していると、こちらに向く視線に気がついた。

俺たちと同じように祭りにきたクチであろう、男性の二人組である。

 

「おい、あの子可愛くね?」

「ここら辺にあんな子いたっけ。純粋そうだしワンチャンあるかも」

「そしたら二人で囲っちゃわね?」

 

おっけーい! 殺そーう!

 

「クロウさん? どうかしたんですか?」

「大丈夫、狙いが定まっただけだから」

「狙いと言えば、あちらに射的がありますよ! 私、やってみたいです!」

 

命拾いしたな……。

 

その後もリーリエは祭りに大はしゃぎで、あそこにボール掬いが、あちらにわたあめ屋さんが、と目につく屋台全てに突っ込んで行った。

目を輝かせる彼女は迸る好奇心が全身から溢れ出ており、祭りの中でも一際存在感を放っていた。

リーリエだもん、そりゃそうだ! アイドルとかやっててもおかしくないくらい可愛いもんな。

 

食べる物全てにおいしいおいしいと笑ってくれるのでこちらとしても奢りがいがある。

本人が財布を出す前にお会計を神速で済ませると、律儀に「後でちゃんと返しますので」と頭を下げてくる。ふふふ、かわちい。絶対受け取らない♡

 

「来年も、また来ましょうね!」

「うん、またこよう」

 

来年もあるのかなぁ。

でもあったら嬉しいな。

少なくとも、リーリエは来年の夏までは俺と一緒にいてくれるらしいから。嫌われては無いってのは、流石の俺でもわかる。

 

『皆様、これより花火を打ち上げます。足元に注意しながら、上をご覧ください! 協力はアローラ地方の『運び屋』営業より───』

「……はこびや?」

「ん? どしたの、リーリエ」

「いえ、聞いたことがなかったので、おそらく私がアローラを去ったあたりから始まった会社なのだな、と……」

「アローラに帰りたい?」

「帰りたいと言うほどでもないですが、気にはなります。お友達も気になりますし……」

 

言い切る前に、夜空に大輪の花が咲いた。

 

「わぁ……!」

「おおでっけー! ズガドーンの時とは大違いの綺麗さだな!」

「ですね……! あっ、消えちゃいました」

「儚いねぇ……」

 

真っ黒なキャンパスに、絵の具を散らせたような色とりどりの花の数々。

煌々と輝く花火を目の前に、誰もが空に夢中になった。

 

「…………」

 

いやぁ。

リーリエかわいいな……マジで……。

このさ、上を向いてる時の顎から喉にかけてのラインとか女の子らしさの塊でホント素晴らしいよね……。

 

あ、やべ、視線に気づかれる。

 

「……? クロウさん?」

 

空見とけ空。ハナビキレイダナー

 

……?

なにこれ。なんで見られてんの俺? なんか顔についてる?

えっなんかリーリエの視線が俺の頭から足まで注がれてる気がする! むず痒い! エッッッッッッ!

 

「……ん……」

 

あれ……今なんか……右手にするっと何かが……。

アなんかにぎにぎされてる……手だこれ……リーリエの手……。

 

ハァ!? リーリエの手!!!!!!!!!

エッッッッッッ!!!!!!!!!

いやいやこれ恋人繋ぎじゃないですかリーリエさん!? これはちょっと問題ですよみんなのアイドルがそんなことしていいんですか!? 入籍しよ♡

 

まさかリーリエが花火に夢中になっている人にバレずに手を繋ぐのが趣味だったとは! 見損ないました! 見直しました! もっと好きになってく! これが恋のジレンマ! うっひょお! 女の子の手してるう!

 

「…………」

 

で、いつ離すのかだけ教えてもらって良い?

このままだと俺死ぬんだけど、どうする?

 

「……えいっ」

 

アレェ!? 俺の肩にリーリエの頭乗っかってませんか???

ほのかな温もりと確かな体重を感じるんですが!?

ホワッ、良いかほり……推しの供給過多……。

 

「えっと、リーリエ?」

「あの、下駄が、その、疲れてしまって」

「ああ……」

 

なんだぁ! 慣れない靴に疲れただけか!

片手に持ったロトムジュース*1をリーリエに近づけると、ストロー咥えてこくこくと飲み始める。

花火を見上げたまま脱力している姿がなんとも愛らしい。ラフだ。そしてそんな姿にラブだ。

 

「クロウさん」

「んー?」

「こちらに手を」

 

これは……リーリエが最初から持ってた巾着?

中に手を入れろってことかな。

じゃあ一旦繋いでいる手を離して……

 

「んっ」

「…………」

 

固い。めっちゃ握られてる。不便だよぉ。

じゃあ荷物いっぱい持ってる方の手で……。

ん? 丸い? 球体場の何かに装飾がついてる……。

 

「これは……ウルトラボール……?」

「私からのプレゼントです」

「えっ、ちょっ、なんで???」

「クロウさん、以前コレクターをやりたいと仰っていましたよね? 調べたのですが、ボールをコレクションする方もいらっしゃるそうですよ? きのみですと腐ったりしてしまうので、こういったものもアリかな……と」

「いやいやいや、嬉しいんだけどさ、このボール貴重なんじゃないの……?」

「もし、ボールはコレクションに向かない、と思われましたらウルトラビーストに対するお守りとして持っていてください。本来それは、ウルトラビーストの捕獲のためだけに開発されたボールですので」

「いや、それはすごく! すごくありがたいんだけど、確かこれ、開発費が……」

 

SMだと一つ数百万……★

 

ひ、ひぇ〜〜〜〜〜〜!!!!

とんだゴージャス★ボールやでぇ!!

 

「母様には内緒ですよ」

「リーリエ!? 今なんて!? 内緒!? 内緒でコレ俺に渡したの!?」

「もう! 受け取ってください! いつもありがとうございます! 感謝の印です!」

「オッ……おぉ……。そう言われたら受け取るしかないけど……」

 

ぽ、ポケットが重い……怖い……。

 

『以上で、今回の花火は終了になります。引き続き、楽しんでください』

「あ……花火、終わってしまいましたね」

「話に夢中になりすぎたね」

「……帰りましょうか?」

「そうだね、帰ろっか。一刻も早くボールを安全な場所に置きたいし

「うふふ! そうですね、帰りましょう! 一緒に!」

 

花火が終わってもまだ賑わうお祭り。

お土産を両手いっぱいに、俺たちは帰路に着く。

 

慣れない靴を鳴らしながら石畳を歩き、二人揃って。

うん。良い思い出ができた。

 

 

 

 

 

「ところでリーリエ、手はこのままなの……?」

「足が疲れてふらついてしまいそうなので、このままです!」

 

 

 

 

 

*1
ロトムの顔がプリントされた電球が容器のオレンジジュース

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