リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
ロリーリエは非常に儚い存在だ。
今そこで冷蔵庫から牛乳を取ろうとしているロリーリエも、自分の目の位置より高いところへ手を伸ばしている。
当然、そこから牛乳なんて不安定なものを持ち上げたら、
「あっ」
バランスを崩すわけで、
「っぶね……大丈夫?」
「クロウさん……ありがとうございます」
「高いところのものを取るときは言ってくれれば良いのに」
「そ、そこまでおせわになるわけにはいきません……」
俺の腕で手軽に抱えられているロリーリエは少々恥ずかしそうにしていた。
ロリーリエ自身の希望で俺は四六時中ロリーリエと行動を共にする。
今こうしてキャンピングカー内で護衛をしているのも、今みたいな危険から守るためである。
決してやましい気持ちがあるわけではない。決して。
「ざぁー!」
「ひっ……ポケモンさん……?」
「ドザッ!? ……ざぁ……」
「ごめんなさい、わたし、ポケモンさんにがてで……」
怯えられたリザードがとぼとぼと帰っていく。哀れリザード。ヒトカゲの時から一緒にいるリーリエに忘れられるとは。キツいよな、忘れられるのって。
「ぶもー……」
「ひっ!」
「……ケンタロスもダメ?」
「いっ、いえ! ちょっとびっくりしてしまっただけで、ケンタロスさんでしたら、ちょっとこわいですけど、まだ……」
何の差なんだろ。
「クロウさん、あのキャビネットからハンカチを出してください。いちばん上の段です」
「ん、わかった……って、このキャビネットにハンカチがあるの、よく知ってるね?」
「……あれ? なんででしょう?」
小首をかしげるロリーリエ。やはり記憶は曖昧らしいな。
さてハンカチハンカチ…………。
…………。
女の子の箪笥を開けるの、なんか変な感じだな……。
そういえば、前にも箪笥の中を見ようとしてすげー悩んだっけ……。
さて。
ロリーリエからは箪笥の中見えないんだよ。背が低いから。
今ここで開けたら、この世でこの箪笥の中身を知るのは推定として俺だけになる。
「はぁっ……ハァッ……!」
取手を掴む手が震える。
探し求めた桃源郷。伝説のエルドラドが、そこにある。
「……? どうしたんですか?」
ハッ!!!!
正気に戻れクロウ!! それはリーリエが望むことじゃない!!
自我を出すな!! 心を強く持て!!
リーリエを好きなら!! 我慢できるはずだ!!
「うおおおおおおお!!」
引き出しを開け、レースのハンカチをそっと持つ。
極力視線を逸らしながら引き出しを閉めてハンカチをロリーリエにパス。
「ありがとうございます!」
「はぁ……はぁ……疲れた……」
「ではフルーツが足りないので買ってきますね」
「ふぁっ!? 今から!? っていうか、お店への道とかわかるの!?」
「そういえば、わからないはずなのですが……わかる気がします」
これも記憶の混濁の影響だろうか。
ハンカチがキャビネットにあるとわかっていたのと同じで、身体が覚えているんだろう。ただ知識として思い出せないだけで、記憶に封印されてるってわけか。
「それでも着いていくよ」
「いえ、クロウさんはばんごはんのしたくをしていてください。一人でも行けますから」
「そう……? そこまでいうなら……」
「では、行ってきますね」
ロリーリエがキャンピングカーから出る。
俺は安心して、夕食の仕込みを……。
「…………」
仕込みを……。
「ああ無理だ! やっぱり着いていくしかない!!」
持っていた食材を投げ捨て飛び出す。
指笛でイーブイを呼び出し、咥えてきたボールホルダーを腰に巻く。
そのまま茂みにダイブして、白昼
「クロウくん、渡してたわざマシンいくつかあったやろ? ちょっと返してくれへん───あれ、おらへん」
◇
「こちらのオレンジを三つください!」
「あらまぁおつかい? 随分とかわいい子が来たもんだね! どれ、おばちゃんがオマケしちゃう!」
「よいのですか……? ありがとうございます!」
意外にも、普段の商店の人たちはロリーリエがリーリエであることに気づいていなさそうだ。
若干の違和感を覚えて首を傾げるも、それでも一人の客として対応しているように見える。
「たっぷりと身がついたコイキングあるよー! おいしいよー!」
「……嗚呼、跳ねたコイキングの水飛沫を浴びたら風邪をひいちゃう……! いやいや、それより先に財布を落としたりでもしたらリーリエは責任を感じて探しに行きそうだし……あわ、あわあわわ」
「……コイキングのおさしみ……クロウさんもよろこぶでしょうか」
「コイキングなんて買ったら重さでリーリエが潰れちゃうんじゃ……?あと俺はコイキングは苦手だ……! おいしくないもん……!」
買わないでリーリエ……! という願いが届いたのか一旦キープでその場を離れたロリーリエ。フルーツはもう買ったじゃん!帰ってきなよ! とも思ったが買い物って本来買うべきものの他にも色々目移りしちゃうよね。わかる。
「そこのお嬢ちゃんおつかいかい? どれ、おじちゃんの野菜見ていきなよ!」
「ゴーヤ……ですか……」
「まあお嬢ちゃんにはちょっと早いかもな! ピーマン……も苦いか。トマト! これはどうだい! 甘いぞ!」
「サンドイッチにつかえそうですね! 2つください!」
「ほい! これとこれと……あとこいつとかデカいな!」
「……あの、2つしか買えないのですが……」
「1つはおまけだ! また来てな!」
「あっ、ありがとうございます!」
やっぱロリーリエは神なのかもしれん。
貢物がたくさんだ。ちょっと重そうにしてるし、帰り始めたら姿を現して持ってあげよう。
お小遣いの切れたロリーリエは後ろ髪引かれてはいるものの、これ以上買うこともできないので帰るつもりのようだ。荷物も重いだろうしな。
「あ……オレンの実が」
帰路に着くロリーリエを守るか、あるいは祝福でもしているのか、ちょうどロリーリエの目線の高さに艶やかに実ったオレンの実が首を垂れている。
収穫してくださいと言わんばかりの実の数々。
あっ、なんか勝手に千切れた。そのままロリーリエの持ってる袋の中に入ったぞ。自然に愛されすぎてる。
「ええと……では、すこしだけいただきます……」
オレンの実を収穫するなら、また荷物が重くなる。
そろそろ姿を現すか……と茂みから立ち上がった時、同じくして隣からガサっと男が。
「……ん?」
「ウォッ!? 誰だオメェ!?」
「いやいやそっちこそ! いたいけな少女を茂みから覗くとか……さてはリーリエのストーカーだな!?」
「オメェに言われたかねェな!!」
たしかに!!!!
「あの嬢ちゃんの家が金持ちなのは歩き方見ればわかンだろうがよォ……。あんたも
ここで初めて俺のリーリエ危険察知センサーが発動する。
リーリエ以外に興味がなかったから全然気づかなかったけど、改めて見ればコイツ、かなり汚い。
靴の汚れはまあ良いとして、体から異臭を放っているし目つきももうかなりヤバめ。
「俺はバックパッカーだからよ、金がねえんだワ」
「全地方のバックパッカーに謝れ」
「ンなことどうでも良いんだよ! それとも何か? おめェ、あのチビを独り占めする気か? んだヨ、いじきたねぇな!」
独り占めも何も……。
「リーリエは最初から誰のものでもないでしょ」
クロウ の ローキック!!
こうかは抜群だ!!
「へぐぅっ!?」
バックパッカー は こらえた!!
「ち、ち、ちくしょうオメェ同業者じゃなくて保護者かよ! だったらよぉ!」
「あっ待てコラ!」
茂みから飛び出したバックパッカーにロリーリエが捕まる。
ぼとぼと、と袋に詰められたきのみが転がり、俺の足元まで転がってきた。
「クロウ……さん……?」
「いま助ける! やい貴様! くっさいくっさいその口臭でリーリエ襲ってんじゃねえぞ! ただでさえ金ないお前から賞金根こそぎ奪い取ってやるから覚悟しろ!」
「やる気カヨ!! 来いよベトベター!」
「ケンタロス! 頼んだ!」
「べったぁん」「ぶもう!!」
ぐぬぅ……。
ロリーリエが人質に取られている以上、派手に暴れ回って瓦礫や砂埃がロリーリエの目に入ったら大変だ。
どうにか穏便に……。
「とりあえず『ふるいたてる』!」
「『どくどく』ゥ!」
「ぶも……っ!!」
猛毒!?
短期決戦で行くしかないな!
「『ヘドロばくだん』!」
「迎え打って『つのでつく』だ!」
「ぶっ、もも……」
「ひるんでる!? とくせいの【あくしゅう】か……!?」
「こっちの攻撃受けちまったらそうなるよなァ!」
「うわキッショ!! どくどくとひるみのコンボキッショ! コイツ友達いないわ!」
「なんとでも言えよ! 『ヘドロ爆弾』!」
「かわして『しっぺがえし』!」
「べたぁぁぁん!?」
よしよし効いてる!
このまま押し込むぞ!
「……ンフッ」
「……? なに笑ってんの」
「おうチビ……良いもん持ってんじゃねえか……」
「やっ、やめ! かえしてください!」
「うるせえ! さっさとよこせ!」
足元に転がったロリーリエの袋。
その中身を見てほくそ笑んだ男と青ざめるロリーリエ。
「それはっ、クロウさんにあげようって……」
「知るかよ! ベトベター、オレンの実だ! 食え!」
「あっ……」
「べたぁん」
ベトベターが嬉々としてオレンの実を貪る。
対するケンタロスは膝をつき、息も絶え絶え。どくが効いている。かなり危ない状況だ。
「ぶも」
「……リザードに交代しろって?」
「ぶも……んむぶ」
「どうかなぁ……。リザードじゃ怖がられるよ。お前が良いんだってさ」
荒い息のケンタロスに近づく。
いや……近づいているような感覚になる。
魂が体を抜け出して、寄り添うように。または溶け合うように。
曰くゾーン。曰くシンクロ。
「ここ最近ずっと活躍なかったもんな。焦る気持ちも、劣等感も、十分わかる」
「…………」
「でもお前はいつも、俺たちを乗せて走ってくれる。それだけでも本当に助かってるんだよ」
「……ぶむ……」
「……うん。お前ならできるよ。俺の手持ちの中で一番リーリエを……そして俺たちを見てきたお前なら。
無限の可能性。
超次元のポテンシャル。
それが、ノーマルタイプ。
「不安なんて吹き飛ばせ。いつも俺たちを乗せて、やってるように!」
「ぶもうッ!!!!」
そして、世界は再び色を取り戻す。
「なんだァ? 瞑想か? 言っとくけどナぁ、俺はベトベター以外にも二匹ポケモン持ってんだよ!」
「まぁ見てなよ。交代縛りで3タテしてやるから」
「『しっぺがえし』……ならぬ、『からげんき』!!」
「はぁ!?」
「ぶもう!」
「もう一度『からげんき』ッ!!!!」
「べたぁん!?」
「かっ、からげんきを覚えてたのか!」
「いーや! 今覚えた!」
「ウソつけ! からげんきはわざマシンでしか覚えらレねぇ!」
「いーや! ケンタロスならできる!」
「なんでだ!?」
ポケットから機械を出す。
ポケモンに強制的にわざを覚えさせることができる、円盤状の不思議な機械。
マサキから預かってたものは……ほう。これとか良いじゃん。
「……っ、チクショウ! パラセクト! 出てこい!」
「ミュウツー!」
「『からげんき』をチェンジ! 『だいもんじ』!」
「ミュウツー!!!」
「パラセクトが! ミュウツーと鳴き声が似てるともっぱらの噂のパラセクトがやられた! だったら、ゴローン! やっちまえ! あのケンタロスの体力はもう少ないはずだ!」
「『だいもんじ』をチェンジ……」
「なっ!?」「ぶもう!!」
「『きしかいせい』ッ!!!!!」
「ンなことがあるかよおおおおお!!!!」
───その日で一番、ケンタロスの雄々しい嗎が響いた。
◇
「ご協力ありがとうございました。……って、もしかして君、結構前にロケット団轢いた子?」
「ひいた!? クロウさん、なにか、じこを!?」
「してない。してないと言ったら嘘になるけど罪には問われてないからセーフ」
「まあとにかく、この男は私がちゃんと捕まえておくから。子供の誘拐だなんて、良くてガーディで市中引き摺り回しね」
「あ、ホントにあるんだその刑……」
「じゃあ私たちはいくから。気をつけて帰るのよ」
バイクに乗って去っていくジュンサーさん。
その背中を見送り、俺たちは踵を返した。
「災難だったねリーリエ。怪我はない?」
「だいじょーぶです。……クロウさんが、たすけてくれましたから」
「そんな大層なことはしてないよ。な、ケンタロス」
「ぶも!」
横を歩くケンタロスは背中に荷物を載せている。
器用に乗せるもので、全然落ちかけたりする気配がない。さすが長い間俺たちを乗せているだけはある……。
「それはそうとして……クロウさん。どうしてしげみにかくれていたのでしょう?」
「…………」
「一人で行けると、いったはずですよね? まさかもう、ばんごはんのしたくがおわったのですか?」
「いやあのほら、結局一人だと危険だったわけだし、ここは救助ボーナスで許してもらえないかなって」
「もんどうむようです! せいさいです!」
「いたっ、いたたっ、ちょっ、逃げるぞケンタロス!」
振り返るとケンタロスは隣にはおらず、代わりに俺の背後に立っていた。
そしてヒョイ、とロリーリエを背中に乗せると。
「ぶもう」
「うわああああ追ってくんなお前!」
「ケンタロスさんはやいです!」
「なんでお前ら定期的にトレーナーの言うこと聞かないんだよ! ステイ! ステイだって!」
全速力でダッシュする俺と駆け足で追ってくるケンタロスとリーリエ。
やがて追いつかれた。並走されてる。なにこれ?
「ケンタロスさん、ちょっとおみみを」
なにやらごにょごにょとケンタロスに耳打ちするロリーリエ。いいなあ! 俺もロリーリエASMRやってほしいなぁ!!
「ケンタロスさん! 『きしかいせい』をチェンジ! 『10まんボルト』!」
「あばらびれびればらばらびりびり」
って殺す気か!!!!!!!!!!
「まだまだ行きます! 『10まんボルト』をチェンジ! 『かえんほうしゃ』!」
「アッチィー!? もうケンタロスは……」
こ〜りご〜りだぁ〜〜〜!!