リーリエロスでカントー行ったよ   作:バケットモンスター、縮めてバケモン

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雷ってめちゃくちゃ速いんだぜ。知ってた? ……知ってた。そう。

ぐわーッ!!!

梅雨だーッ!!!!

 

「博士、カントーの梅雨って真夏日の後に来るもんなんですか!?」

「今年は来ないなぁとは思ったったけど先に真夏日が来るとはな……。異常気象や……」

「ニュースでも、言っていますね」

「『アローラ地方の気象変動により、ポワルンが大量発生……』財団の皆さん、大丈夫かしら」

 

ルザミーネが差し出した新聞には、アローラのホクラニ天文台から観測された大きな台風が写真に写っていた。

詳細は不明。だが台風の成長が急激なことから、何かしらポケモンが関係しているのでは無いか、とのこと。

台風を起こすポケモン……? いや、カントーにまで影響が出ていることを考えると、雨雲を集めるポケモン……? 

いやいや、何か別の目的があってそれを遂行しようとした結果、副作用で異常気象が起きている可能性もある。

それが可能なポケモンなんて限られてる……。

 

「まー、『ひでり』ばっかで気ぃも滅入ってたとこや。ここらで少し涼ませてもらいまひょ」

「いや、梅雨って蒸し暑いじゃないですか」

「ふふふのふ! これを見よクロウくん!」

 

こっ、これは!

 

……エアコンの……リモコン?

 

「完☆全☆修☆理」

「はかせえ!!!」

 

電源ボタンに反応してエアコンが動き出す。

リーリエ産のムンムン♡湿気が無くなるのは惜しいが背に腹は変えられまい。

吸われていく湿気。ゴウンゴウンと稼働するエアコンを眺めて、ロリーリエがくすりと笑う。

梅雨の湿気はストレスだよね。わかる。

 

「ウチの子可愛すぎ……?」

「……そう言えばルザミーネさん、身体の調子は?」

「ここ最近でかなり良くなってるわ。……そうよね、ここで倒れてしまえば、雨の中向こうまで運んでもらわなきゃならないものね」

「それもそうなんスけど、主に看病をしていたリーリエがあの様子だと……」

「あれっ、もしかして私が生きてるのって奇跡……?」

 

マサキの装置がリチャージされるまで、リーリエはロリーリエのままだ。

ロリーリエはリーリエである時の記憶が曖昧な上に身長も縮んでいるし体力も少ない。

つまり、ロリーリエである間は看病できる者がいないわけだ。

 

「幸い、汗を拭いたり……身の回りのことはできるけれど、流石に料理とかは厳しいから……」

「早いとこ、装置の再装填を待ちたいですね。……ね! 博士!!

「うぐっ。も、もう少し待ってな……」

 

席を立ち、コップにジュースを注ぐ。

雨が屋根に当たる音が部屋に響く中、氷がカランと異音を奏でた。

 

「かあさま、えほんをよんでいただけませんか」

「いくらでも読んじゃう! 絵本なら確か……向こうにあるわよね」

「じゃあ俺が取ってきますよ。博士、傘借ります」

「おー」

 

3人に見送られて外に出た。

土や葉の濡れた甘い匂いが香る。

夏の暑さと湿気で汗が吹き出て、嫌でもエアコンの性能がわかる。

これは早いところ、絵本を取ってこないと。

 

「お邪魔しますよーっと」

 

明かりの消えたキャンピングカー。別に電気はつけなくていいか。

俺が来てから動いているところを一度も見ていないが、改めてまじまじと見てみるとなるほど、みさきのこやからケーブルを繋いで電力をそこから供給しているらしい。バッテリーがダメにならないわけである。

 

そのまま二階へ上がり、すぐそばにある本棚を見ようとして、窓が開いていることに気づいた。

やれやれ、雨が降り込んじゃうじゃないか。そんなことを言う前に、

 

「…………」

 

誰かがいることに気づいた。手には何かしらのファイル。

 

「……っ!」

 

瞬きの間に人影が消える。

身体が反応する前に、目線だけが動く。

目の前。いない。

右。開いた窓。

左。くしゃくしゃのベッド。

天井。いない。

なら、どこに───

 

「───ぁ!?」

 

下から襟元を掴まれる。咄嗟に受け身を取ろうと構えるも、そのまま床へ投げられる。

この力、人間じゃない! ポケモンだ!

 

それに体が動かない。何かの技で? わからない。でもこのままだと!

 

「うぐ───!?」

 

人影が、再び俺の襟元を掴む。

一瞬ぐるりと視界が回ったと思うと、浮遊感。

俺は窓から外に投げ出されていた。

 

そのまま激しく体を打ちつける。

背中が……いや、もはや全身が痛い。

窓から地上へ降りるのはやったことあるけど、自分から出るのと投げ出されるのじゃわけが違う。

かろうじて顔を上げると、目の前に無数の泡が浮いていた。

……いや、これは泡というより……シャボン玉?

 

バチン!

 

と言う音と共に、俺の目の前で炸裂するシャボン玉。

たかだか水が弾けただけのはずなのに、こんなにも重く、痛い。

これが、ポケモンの技。

 

「……まだ死んでないんだ……。驚きだね」

「やっぱりあんたかぁ……」

 

あー。

なんとなく読めてきた。

 

「戻れ、三匹とも」

 

キャンピングカーから一つ、近くの森から一つ、そして俺のすぐそばから一つ、三匹のポケモンが光となってフードの男のモンスターボールに収まる。

 

「邪魔なんだよね、君」

「マジで言ってることわかんないからやめた方がいいよそのミステリアスキャラ……」

「……ハァ。そんな肩じゃもうボール投げられないでしょ? そろそろ諦めたら?」

 

諦める。

何を?

 

「クロウくん、なんか大きい音したけど大丈───おわっ、なんやオマエ!?」

「……タイミング悪いな。今日はコイツでいいや」

 

男が懐から何かを取り出し、放り投げる。

それは空中に大きな穴を作った。空間にヒビが入ったみたいに、もしくは空間を吸い取るように、湾曲し、歪む大きな穴。

ウルトラホール。

見覚えしかないそれに、鳥肌が立つ。

 

「っ、ダメ! 博士、みんなを守って逃げて!」

「……ウルトラホールか!!」

 

さすが博士、察しが良すぎて助かる。

 

「じゃ、俺はここらで失礼するよ」

「ま゛……てぇ゛……!」

 

立て。

立たなきゃ。

みんなを守らなきゃ。

痛みとか、苦しさとか、関係ない。

 

「っぐぁ……!」

 

守れ。

 

「う゛う゛う゛う゛……!」

 

耐えろ。

 

「お前、異常だよ」

「うるっさいな! そんなこと俺が一番わかってんだよ!」

 

俺は主人公じゃないから。

ここで二度とバトルできなくなっても、問題ない。

……でも。

 

「ゆけっ───」

 

大切な人を守れないまま。

最後の力も振り絞らないまま死ぬなんて。

 

「───イーブイ!!」

 

そんなの、モブにもなれやしない。

 

「えぼっ!!」

「ケンタロス、頼んだ! イーブイ、ケンタロスをまねっこ!」

「ぶもう!」「えぼ!」

「ふたりで放て!! 『10まんボルト』ッ!!」

 

雨の中、放たれた二つの電撃が男を追う。

当たった。そう思う直前に、()()がそれを振り払った。

 

木々が揺れる。森がざわめく。

雨の一粒一粒が、振り払われる。

 

「もうお前の技は当たらないよ! じゃあな! リザードン、『そらをとぶ』!」

「『10まんボルト』をチェンジ! イーブイ、ケンタロスをまねっこ!」

「ぶもう!」「えぼぼっ!」

「ふたりで放て! 『れいとうビーム』!!」

 

風が吹いた。

凪のように、何事もなかったかのように、依然として奴はリザードンに乗っている。

 

「だから当たらないって言ったろ? ……じゃ、あとは任せるぜ」

 

()()がその速度を落とす。

雨の一粒ですらも当たらないソイツの姿が、かろうじて一瞬みえる。

それが重なり、目の錯覚で姿が見えるようになった。

 

男と俺の声が重なった。

 

「「……フェローチェ!」」

 

 

 

 

「ケンタロス! 『ふるいたてる』!」

「ぶももー!」

「イーブイ、できるだけ広範囲に『スピードスター』!」

「ぇぼっ!」

 

俺たちの周りを、フェローチェが高速で移動する。

落雷すら回避する瞬足とそのスピードに耐えられる反射神経の前では、スピードスターなんて止まって見えるのだろう。

風圧で跳ね除けられた雨が大粒になって俺たちに降り注ぐ。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

体温が奪われ、思考が鈍る。

どうする? どうすればフェローチェに攻撃を当てられる?

イーブイのシャドーボールを撃ちまくることも考えたが、フェローチェはかくとうタイプが入っていたはず。

なら、イーブイを引っ込めたほうが……?

 

「イーブイ、戻れ! フシギソウ、頼んだ!」

「えぼっ!?」「フシャー!」

 

雨が降っている。

本来ならむしタイプに特効を持つリザードを出したいところだが、ほのおタイプの技は雨で威力が削がれてしまう。

加えてカメールだと決定力が無い。

ここはフシギソウ……レベル差で押し切る!

 

「フシギソウ! 『つるのムチ』!」

「ふ、ふしゃあ!?」

「見えないけど大丈夫だ! 攻撃することに意味がある!」

 

なんの疑問も抱かずスピードスターを散らしてくれたイーブイは、かなり俺のことを買ってくれていたらしい。

 

困惑しつつもつるのムチをあたり構わず振り回すフシギソウ。

長いリーチで少しでも反応があれば捕まえられるはずだ。

そこをケンタロスの最大火力で叩く。

いける。俺も成長しているはずだ。

 

 

 

 

 

そう思ったのがいけなかった。

 

 

 

 

 

「フシャッ!?!?!?」

「フシギソウ!」

「ぶもっ、もっ、ごぉーっ!?」

「ケンタロスまで!」

 

見えない何かにフシギソウが吹き飛ばされる。

続けて、フシギソウに注意を取られたケンタロスが大きくのけぞった。

 

それでもなお、攻撃の瞬間が見えない。

 

「カメール! イーブイ!」

「ガメガメガー!」「エボッ!」

「カメールは『こうそくスピン』! イーブイは『でんこうせっか』!」

「…………ロチェ」

「ガッ!?」「えっ、ぼぉッッ……!」

「そんな……!」

 

なんの技でやられているのかすらも、わからない。

 

「……油断した……ッ!」

 

俺はモブだと、そう言っておきながら、油断した。

少しは戦えるのでは無いかと。

 

体が浮く。

風圧で体が()の字になったことを自覚して初めて、痛みが後から押し寄せる。

 

「お、えっ……」

 

呼吸ができない。

咳が止まらない。

 

そうして、白い残像が俺の命を刈り取ろうと迫ってくる時。

 

緑色の閃光が視界を埋めた。

 

「クロウさんっ!!」

「リーリエっ……?」

 

扉を開けたのは、愛しい人。

 

「装置のチャージができたみたいです!」

「ダッ……今はダメだ! 逃げて! ウルトラビーストが……!」

 

ハッと目をやるともうそこにはフェローチェはいない。

代わりに、風が。

リーリエの元に、風が。

 

「ダメだ! やめろフェローチェ! リーリエだけは……!」

「えっ……」

 

リーリエの目の前に立つフェローチェ。

急速に静止した風圧で、みさきのこやの窓が揺れる。

呆気に取られるリーリエ。

振りかぶるフェローチェ。

 

誰か……動けるポケモンはいないのか!

 

「イーブイ!」

「…………」

「ケンタロス!」

「…………」

「カメール! フシギソウ!」

「…………」「…………」

 

クソ……ッ!

動け俺……ッ! 頼むよ……お願いだから……!

嫌だ……!!

嫌だよ……!!

 

「リーリエぇぇぇえええ!!!!」

 

雨が降っていた。

口の中の血と泥が、いやに甘かった。

迫る湿気を払うように。

また、たかる虫を払うように。

軽やかに、フェローチェの手が振り上げられ。

 

 

「……ラッチェ」

「………………え?」

 

 

リーリエの頬に触れた。

 

「ロチェ……! ロウッチェ……!!」

「えっ。えっ、えっ? なん、なんですか? えぇ……?」

「リーリエ……? 無事なの……?」

「い、今のところは! えっと、フェローチェ……さん? ですよね? ウルトラビーストの」

「ラチェ!!」

「どうして私は今、あなたに撫でられているのでしょう……?」

 

今までの猛攻が嘘だったかのように、フェローチェはリーリエを愛でまくっていた。

繊細なガラス細工を触るみたいに、優しくゆっくりと。

どこからともなく、そっと白い花を取り出しリーリエに渡すフェローチェ。

完全に、危害を加える意思はないようだ。

 

「………………」

 

フェローチェ。

確か、地上を穢れた世界だと思っている、THE・潔癖なウルトラビースト。

確か美しいものが好きで、アニメだとZクリスタルとかをぶんどってたりしてたな……。

 

「ロチェ」

「あの、お花、ありがとうございます」

「ロチェ〜♪」

 

つまり、フェローチェはリーリエを気に入った……ってこと……?

 

「ロチェ……!!」

「……はい! またお会いしましょう!」

「ロチェ〜!」

「行ってしまいました。……って、クロウさん!」

 

そっか……。

そっか……!

良かった!! リーリエが無事で……!!

本当に良かった……!!

 

「あはっ……はははは!」

「く、クロウさん? ぁ、ひどい怪我……」

「良かった……!! 良かった……!!」

 

俺は弱かった。

強くならなきゃいけないのに。

リーリエを守らなきゃいけないのに。

 

仰向けになって深呼吸する。

あーあ。

 

「リーリエが無事で良かった」

「…………。 そんなことより、早く手当しますよ」

 

雲の間から、陽の光が差し込む。

まだまだ梅雨は続くだろうけど、それでも。

たった一瞬のこの晴れ間が、こんなにも嬉しい。

 

強くなろう。

今まで以上に。

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