リーリエロスでカントー行ったよ   作:バケットモンスター、縮めてバケモン

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前回のあらすじ
憔悴したクロウくん、リーリエにキレるプレミ。自己嫌悪の自問自答で自身を追い詰めた結果ぬかるみで滑って転んでさあ大変。
ドジョッチが出てきて(出てこない)こんにちは。
激☆大ピンチで命の危険マシマシ意志ヤワめケガ多めアブラニンニク少なめな彼を救ったのは、他でもないリーリエ(の知り合いのバーネット博士)から呼び出されたアローラ地方の救世主、ヨウその人だった。


濡れた俺を、陽が照らす。

血が足りていないのか、気だるい。

でも頭が軽い。悪い血を出せたのか、すっきりしている。

頭に巻かれた包帯。これもリーリエが巻いてくれたのだろうか。

……いや、リーリエにひどいことを言った。包帯なんて巻いてくれるはずがない。

 

「───空を飛んでいたら人の声が聞こえて、降りた瞬間に声が聞こえなくなって……ムーランドを出したら血相を変えて飛び出して行ったのでついていったら、頭が血だらけの彼がいて……」

「ははー……。急に尋ねてきた時はびっくりしたわ。とにかく、クロウくんを助けてくれてありがとうな」

 

そっとカーテンの向こうを伺うと、お茶を飲んでいたルザミーネと目があった。

 

「あらクロウくん起きたのね。具合はどう?」

「クロウさ……! ……ん……」

 

こちらを向き飛び上がるリーリエ。

そのままこちらへ走ろうとして、歩みを止めた。

……やっぱり、あの一件で嫌われてしまったみたいだ。

 

「全然痛くないです。ありがとうございます」

「頭から血ぃ流したって、何があってん? まさかまたウルトラビースト……?」

「っ、そうなのですか? またウルトラビーストがクロウさんを狙って!?」

「あ……いや、そうじゃないんだ。ただ転んで頭を打って……」

「本当、なんですか? 嘘じゃないですよね……?」

 

……そんな目で見ないでも嘘なんかつかないよ。

いや、この言い方もダメだ。煽ってるような口調じゃないか。

慎重に、慎重に。

 

「嘘なんかついて何になるのさ」

「ぁ……はい……。そうですね」

 

ダメだったっぽい。

 

「……あのっ! 紹介します。こちら、アローラでお世話になりました、ヨウさんです」

「クロウ……くん? さん? とにかくよろしく」

「ヨウさん、こちらはクロウさんです。とっても頼れる方なんですよ!」

「どちらでも良いよ。呼び捨ての人が近くにいないから呼び捨てでも全然大丈夫」

「じゃ、クロウで!」

 

差し出された手を握る。

幼い見た目なのに、手の皮膚が分厚い。

それにボールを投げ続けていたからか、指の皮が他より異様に厚かった。ボールが擦れたことによってできたタコが重なって、厚く治ったのだろう。

対して俺の手は、まだタコなんてできていない。

当たり前だ。ボールを投げずにウルトラビーストの前に身体を差し出しているんだから、トレーナーより少なくて当然だ。

まだまだ未熟。

 

「ちょっとリーリエ? 俺は頼もしくないの?」

「い、いえ! ヨウさんも勿論頼もしいですけど、この頼もしいはアローラとカントーの頼もしいであって私の中ではなくてその」

「ふぅーん? ねえクロウ。俺と勝負してみようよ」

「……勝負?」

 

不敵な笑みを浮かべるヨウ。

ポケットからボールを取り出し、俺に見せつけるように構える。

 

「目と目が合ったらポケモン勝負! リーリエから頼られるくらいなんだしさぞ強いんでしょ?」

「ポケモン勝負ねぇ……」

 

リーリエの前でボロクソに負けるとわかっている勝負をわざわざ受ける理由は全くない。

相手はチャンピオンだぞ。

負けるのが怖いんだろって?

それもある。でも一番は、

 

「もう戦うなって言われてるから……」

「クロウさん……」

 

この子をこれ以上悲しませたくないから。

 

「ふーん……? そんなんで本当にリーリエを守れるのかなぁ……?」

「…………」

「情けないよなぁ」

 

ニコニコの笑顔でなんてこと言いやがるこのクソガキ。

生粋のバトルジャンキーなのか?

 

……いや違うんだ。

ヨウは、(プレイヤー)だ。

戦えないNPCがいたら『えー!』と言って不貞腐れる、俺なんだ。

 

「クロウくん、ヨウくんがこう言っとることやし、一回くらいはええんやない?」

「……えっ?」

「いいじゃない。ちょっと見てみたいわ」

「いや、ちょっと待ってください……」

 

なんで急に、そんな肯定的なんだよ。

だってもう、戦うなって言ったじゃん。

 

「リーリエ……」

「ヨウさんなら、クロウさんが怪我することの無いよう加減をすることもできるでしょうし……大丈夫だと思いますよ?」

「リーリエまで……」

 

なんでだよ。

これが主人公の力なのか?

主人公とモブが戦うのは当たり前って空間を作り出して……俺側に拒否する権利はないんだ。

思えば主人公はいつもそうだった。誰も、戦うことを否定していなかった。

 

「……わかったよ」

 

そんなに戦いたいならお望み通り、サンドバッグになってやる。

 

「じゃあ外に出よう!」

 

正式に、試合としてポケモンバトルをするのはいつぶりだっけか。

確か一緒にカフェに行った時以来……じゃないか?

それからはずっと、意志のぶつかり合いみたいなバトルばかりしていた気がする。

 

「さて距離はこの辺で……ゆけっ! ミミッキュ!」

「ガチ勢じゃん……。イーブイ、頼んだ」

「キュシャァ!」「えぼっ!」

「ミミッキュ、『ウッドハンマー』!」

「まねっこで打ち返せ! 『ウッドハンマー』!」

 

激しく、重い物量がぶつかり合う。

お互いに跳ね除けられた小さな影たち。

体勢を立て直すのが早かったのは、イーブイの方だった。

 

「『でんこうせっか』!」

「受け止めろ!」

 

即座にイーブイがミミッキュに飛び掛かる。

突撃は確かにミミッキュの体に一撃入れた。

 

「ミミッキュには効いてないぞ!」

「……そんなことわかってるよ……!」

 

そのとくせいが一度きりだってことも!

 

「まねっこ! 『シャドークロー』!」

「ッ!? 出してない技を『まねっこ』!?」

「エボォい!」「キシャー!?」

「ミミッキュ!」

「よ、ヨウさんのミミッキュが負けました!! こ、これはすごい勝負です!!」

 

 

遠くでリーリエが歓声を上げる。

どうやらこの主人公は、ミミッキュを相棒ポケモンにしていたらしい。

ルザミーネも目を見開いていることから、アローラではこのミミッキュにしてやられていたんだろう。

早めに畳み掛けて正解だった。

 

「ゆけっ! ガオガエン! そのまま『DDラリアット』!」

「かわせるか、イーブイ!」

「えぼっ! ……ぼぉ!? えぼっ、ぼっ、ぽへぇい!」

「よく掴んだ! 叩き落とせ、ガオガエン!」

「えぶうっっっ!?!?!?」

「イーブイ!!!!」

 

……ダメだ。気絶してる。

ボールにイーブイを戻し、一度深呼吸。

相手はガオガエン。だったらこいつで!

 

「カメール! 頼んだぞ!」

「メェーッル!」

「ガオガエン、『クロスチョップ』! 続けて『DDラリアット』!」

「一撃目は耐えろ! ラリアットは『こうそくスピン』で受け流せ!」

「メァァ!」

「『アクアテール』!」

 

回転した勢いをそのままに、カメールが水流の尾を叩き込む。

じゅう、と蒸発するような音が響き、辺りに水蒸気が立ち込めた。

よく見えず目を凝らしていると、急に水蒸気が止まった。

煙の中から出てきた影は大きく、そしてメラメラと燃え盛っている。

ダメだったか。

 

「そんなちゃちな水をかけられて、ガオガエンの火が消えるわけないでしょ?」

「メッ、ルァ……!」

「『フレアドライブ』」

「メェアアアアアア!!!!」

「カメール! ……くそっ、戻れ! 頼むぞリザード!」

「グァザァー!」

 

流れる水すら霧散させる火力に押し負けたカメール。カメールの真価は体力や耐久力じゃない。これでいいんだ。

だが、これでガオガエンに特効を持てるポケモンがいなくなってしまった。

ケンタロスで技のチェンジをし、みずワザを打つことも考えたが、持っているわざマシンにみずタイプの物がない。

である以上、火力に耐性を持つリザードでなければ、状況は打破できない。

だが効果はいまひとつのはずの、みずタイプであるカメールですらやられる威力だ。リザードにどうにかできるか?

 

「『りゅうのいぶき』!」

「そのまま突っ込んで『DDラリアット』!」

「『えんまく』!」

「ザァッ!」

「!? ……けほっ、けほっ。めんどくさいことを……!」

「『ひっかく』!」

「回りながら『DDラリアット』!」

「ガオアー!」「ザァッ!?!?!?」

「えんまくが!!」

「煙の中で攻撃ができるなんて……見かけによらずってところだね」

 

分が悪い。

ここは一度リザードを戻した方が得策だ。

効果ばつぐんは取れないが、ここはケンタロスで初見殺しを……。

あ、いや待て。なにもみずタイプだけが効果ばつぐんじゃ無い。

わざマシンは……ある!

 

「戻れリザード! 頼むぞケンタロス!」

「ぶもうっ!!!」

「『れいとうビーム』をチェンジ!」

「……! チェンジ……?」

「『じしん』ッ!!!!」

「グオアアアア!?」

「おお! クロウくんのケンタロスが、ガオガエンをやったで!」

「でもカメールはやられて、リザードは手負い。どうするのかしら」

 

砕け、弾ける土流が這い寄る大蛇となってガオガエンを地に倒す。

次は何が出る。

身構えるも、ヨウは次のポケモンを出そうとしない。

 

「驚いたよ。ガオガエンがやられるなんて」

「こっちも主力のイーブイ削られてるから、恨みっこなしってことで」

「別に恨んだりしないよ。ただちょっと、嬉しかっただけで」

「……嬉しい?」

 

きっと俺にだけしか聞こえない、小さく呟かれた言葉。

 

「うん! 俺はね……」

 

 

 

 

 

「君が弱くて、とっても嬉しい!」

 

 

 

 

 

「……は?」

「ゆけっ! アシレーヌ!」

「……ッ! ケンタロス! 『じしん』をチェンジ! 『10まん───」

「『うたかたのアリア』」

 

ゴボッ。

声が出ない。息ができない。

泡……じゃない。地面から湧き出た水が、球状を保ってアシレーヌに集まる。

それらが集まり、波を作り、だがエネルギーは逃さず、ゆっくりとケンタロスに近づいていく。

 

凪のように、静かに、水の球がケンタロスに当たる。

 

途端、爆ぜる。

 

「ゴバァッ……!?」

「ぶぐもぼごぼご」

 

突然口に水を流し込まれて咽せ返る俺と時を同じくしてケンタロスが膝を折る。

気絶している。戦闘不能。

酸欠で眩んだ視界でボールを構える。

それを振りかぶり、投げる前に、

 

「クロウさんっ!!!!」

 

俺の体が抱えられ、戦闘は中断された。

 

「ヨウさんっ! クロウさんは先ほど目覚めたばかりなんですよ! それに、ポケモンさんの技を使って口を塞ぐだなんて、危険です!」

「いやー、ちょっと焦っちゃってさ。クロウ強いから」

「う……そつ……け……ごぼっ、げほっごほっ!」

「クロウさん! 背中さすります!」

 

水が傷に染みて痛い。

満身創痍の俺を介抱してくれているリーリエが、キッとヨウの方を睨んだ。その目には涙が溜まっている。

ほろほろとこぼれ落ちる涙は突っ伏す俺に当たり、それだけは他の水とは違い、俺を慰めるように包帯に染み込んで行った。

 

「ひどいです」

「クロウは諦めてなかったと思うんだけどな」

「……ヨウさんの手持ちにはまだジュナイパーさんがいます。それに、ほしぐもちゃんだって……! このまま戦えば()()()()()()()()()()()()分かっていたはずです!」

 

…………。

俺は弱い。

こうして女の子に守られなければ、自分の命すら維持できない。

 

「ヨ……う……」

「クロウさん、まだ身体が」

「良い」

 

リーリエを振り解き、ヨウの肩を掴む。

びしゃり、と服が濡れて嫌そうな顔をするヨウに、俺は息も絶え絶えなまま、ヨウだけに聞こえるように言葉を紡いだ。

 

「ヨウは……強い……から。……まも、って、あげて……」

「…………」

「俺、じゃ……無理っ、だった……!」

「無理だったって、誰を守るの?」

「リーリ、ぇを……頼む……」

「…………わかったよ」

 

ヨウは、俺だ。

アローラを旅した、俺の身体なんだ。

だから頼む。

俺にできなかったことを、主人公のお前が成し遂げてくれ。

イーブイの力や、ケンタロスの力。リザード、カメール、フシギソウの力を借りても、俺は弱い。

 

「できる、こと……する、からッ、げほっ、ごほ」

「……ずぶ濡れにして、悪かったね」

 

俺が倒れ込むのと、ヨウが歩き出すのはほぼ同時だった。

 

「リーリエ、一緒に来て」

「えっ、えっと、クロウさ……。……っ、すぐ来ますから」

 

一瞬の葛藤の後、リーリエはヨウに付いていく。

あーあ。振られちゃった。なんつって。

 

ずぶ濡れになって、風に吹かれて、地面に倒れ込む。

ここだけ見たら、アローラからカントーに渡った直後の俺とほとんど変わらないんじゃないか。

……いや、でも、もう。

 

「テントを張るから、マサキさんはそっちを持ってください」

「まかせとき!」

「私はこっちを持つわね」

「待ってください母様、先にクロウさんを……!」

 

───『クロウ……くん? さん? とにかくよろしく』───

椅子に座りながら、差し出された手。

みさきのこや(あの家)には四つしか椅子がない。

 

リーリエに調味料を取ってあげられるあの椅子。

リーリエがたまに踏み台にするあの椅子。

たまにリーリエが隣に座って、一緒にコーヒーを飲んで苦いねって言ったあの椅子。

 

もう、取られちゃった。

 

土の味が甘いや。

 

 

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