リーリエロスでカントー行ったよ   作:バケットモンスター、縮めてバケモン

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ショッピングという名のただの買い出し

「クロウさん。あのきのみ美味しそうですよ」

「オボンだっけ。しぶくてあまくてにがくて酸っぱい」

「……やめておきましょうか?」

「いや、フルーツなんて大体そんなもんでしょ」

 

黄色い瓢箪のような実を指さすリーリエがかわいい。

時折警戒する素振りは見せるものの、それを表に出すことはしないようだ。周りへの迷惑などを考えているのだろうか。賢い。かわいい。

 

「今日買うものは、味付けに使う木の実をいくつかと、ポケモンセンターからマサキさんの注文した機材の受け取り……。それと、モンスターボールもいくつか必要だそうですので、ポケモンセンターのフレンドリィショップで買いましょう」

「わかった。重そうな荷物は俺が持つ」

「ありがとうございます、お願いします」

 

言いながらリーリエはてきぱきときのみを選んでいく。

モモンの実やチーゴの実など、よく見かける木の実は一通り食べたことがある様だ。

 

「……? あの、この木の実はなんですか? ヒメリのみに似ているようですけれど……」

「あぁ、それはふわりんごって言ってね。他の地方の名産の果実で、結構珍しいんだよ。どうだい、味見していくかい?」

 

木の実を売っていた露店のおばちゃんはふわりんごを一つ手に取ると、その場で皮を剥き始めた。

っていうか、ふわりんごってまんまりんごの見た目なのな。からいとか世知辛いステータスもあるポケモンの木の実の中ではかなり現実に近いものじゃないだろうか。

 

「い、良いのですか? で、では……」

 

カットされたふわりんごを差し出され、リーリエはおずおずと言った形で口に運ぶ。

……えーと、ふわりんごは確か……軽くて硬くないから、ポケモンに投げてその反応を見るのに使われる果実だっけ。味は……。

 

「あっ……甘くて美味しいです……♪」

 

!?!?!?!?

なんだそのあざとポーズは!?

その焼きたてのパンのようにふわふわもちもちしていそうなまっしろほっぺたに手を当て、歯ごたえを楽しんでいる!?

細められた目は聖女の微笑み! 下がった眉は男を魅了する世界最大級の秘密兵器!!

あっ今ごくんってした! ふわりんごがリーリエの喉を通っていったぞ! うっわ推しの喉の動きやっば……正直興奮する……いかん。リーリエに邪な感情を向けるなと言っただろう。だめだぞ俺。

 

「よかったねリーリエ」

「はい……♪」

「ほら、ぼっちゃんも食べな」

「……? 俺も良いんですか?」

「切っちゃったしねぇ」

「あ、じゃあ……いただきます」

 

……ほう。

これは……りんごですねぇ……。

向こうのものよりも糖度が高いけれど、風味自体はりんごそのもの。しゃくしゃくと気持ちいい音を立てるところもそのまんまだ。

ただ喉越しっていうのか、飲み込む時にすごく通りがいい。飲み物みたいにするすると喉の奥へ入っていく。なるほど、たしかにふわりんごって感じだ。

 

「うん、美味しい」

「ですよね! これ、三つほどいただけますか?」

「あいね。お嬢ちゃんかわいいから一個おまけしちゃう」

「えっ、そんないただけませんよ……!」

「いやリーリエはかわいい。これは間違いない。命にかえてでも守りたい」

「良いこと言うね!」

「く、クロウさん! からかわないでください! あっ、あぁ……」

 

あっという間にふわりんご4個はカバンに詰められ、対するリーリエは三つ分の代金を払った。

 

「うぅ……常連にならないといけませんね……」

「や、多分もう会えないんじゃないかな。あの店、他にも珍しい木の実たくさんあったし。リーリエが可愛いから本当に親切にしちゃったんだな」

「む……それは嬉しいですけど、もやもやします……」

「まぁだったら、今日のご飯に使ってちゃんと味わえばいいんじゃない?」

「そうですね……どうしましょう、このふわりんご」

 

ポケモンの世界でしっかりとした料理といえば、定番はアレだろう。

 

「「……カレー」」

 

あっ推しと息があった。マジで嬉しい。だって自分の言おうとしたことをリーリエたんが一緒に声に出したんだよ? これほどに嬉しいことがあるかい? いいや無い(反語)

 

「ふふっ、同じこと言いましたね」

 

あぁもう癒されるなぁ!!!!

無邪気な笑顔の中にどこか大人びた雰囲気! 深窓の令嬢でありながらも色気のある仕草! なんだこの娘かんぺきか?

もう今すぐハグしたいくらいだ。絶対いい匂いする。

 

「カレーにするのでしたら具材はどうされますか? なにか食べたいものとか……」

「ふむ。カレーの具なぁ。野菜とかは定番として……」

「おうそこの兄ちゃん姉ちゃん! ちょっとこっちよってかないかい! 良いの売ってるよ!」

 

……ハナダシティってこんなに活気溢れてたっけ? 少なくとも露店なんて原作であったかどうかって感じなんだけど。多分ない。

リーリエがおじさんの目の前に進むと、おじさんは後ろのミルタンクに白い塊を持ってこさせた。

まさかこれって……。

 

「モーモーミルクから作ったモーモーチーズだ! 酒にも合うし油で揚げればおやつにもなるぞ!」

「まあ、モーモーチーズ! クロウさん、チーズって食べられる方ですか?」

「うん。ピザトーストとかにすると美味しいよね」

「そうじゃありません。ほら、モーモーチーズを溶かしてカレーに……」

 

は? リーリエの頭の回転早すぎるんだけどどれだけの秀才なんだこの娘。

甘口のカレーにチーズとか絶対合うじゃんかリーリエってやっぱり家庭的でステキな女の子だよね。

 

「なるほど、いいんじゃない?」

「はい! マサキさんも喜ぶと思います! 今日の献立は野菜チーズカレーです。おひとつください!」

「あいよ!」

 

……ん? どうしたミルタンク。なんだ俺の服の裾を引っ張って。アローラの服がそんなに珍しいか?

いや、そんな感じじゃなさそうだな。さっきチーズを持ってきた時は自信満々だったのに、なんかあったか?

お、なんだよ指差して。あっちになんかあるのか? ……ポケモンセンター? ポケモンセンターでなんなんだ。

というか、どうしてジョウト地方───ポケモン金銀でやっと出てきたポケモンがここに? まぁ陸続きだし出て来もするか。

 

「リーリエ、ポケモンセンターでなんかあるみたいなんだけど」

「そうなのですか? ……用事もありましたし、行ってみましょうか」

「わかった。ミルタンク、行ってくる」

 

不安そうな顔をするミルタンク。

そういえば、アローラではミルタンクとケンタロスは同じページにくくられていたっけ。

何か、感じるものがあるのかなぁ、なんて。

 

「……? なんだか人が沢山います。やっぱりなにかあったのでしょうか」

 

リーリエが背伸びして人混みの向こうを見ようとす……可愛い。背伸びかわいい。少しぷるぷるしてるのかわいい。ぴょこぴょこしてるのかわいい……!

と、ようやく見えたのかリーリエが声を上げる。

 

「あれは……ケンタロスさんが暴れています!」

「はぁ!?」

 

俺も俺も、と背伸びして見てみると、たしかにケンタロスが暴れている。周りを威嚇する様に走り回り、近づくに近づけない様だ。

まぁそこまで近くないし、リーリエに危害は加わんないだろう。

 

「……あれ、今のフラグか?」

「ふらぐ?」

「あぁ、いや、なんていうか……」

 

言いかけた瞬間。

人混みの向こうのケンタロスは、いきなり走り出した!

囲んでいた人たちはたまらずケンタロスから離れ、人混みはさっと道を開けた。ということはつまり、こちらに来るわけで。

 

「おいおいおいおいおい」

「えっ? えっえっえっ?」

「避けろリーリエぇ!!!!」

 

逃げようとしないリーリエを突き飛ばし、俺は向かって来るケンタロスに真正面からぶつかった。

 

───っっっっっっ。

 

いっっっっっっってえ!!!!

体を小さくしてなるべく転がるんだ! 衝撃を受け流せ!

……っつう。めっちゃいてえ。多分骨折こそしてないけど、手はすりむいたしぶつかった肩がジンジンする。

 

「こい、ヒトカゲ」

「カゲ」

「お前、『ひのこ』とかの遠距離技は撃てる?」

「カゲ!」

「よし、合図したらあのケンタロスの顔面にぶっ放してくれ。どんな威力でも良い。あいつが怯んだらすぐにリーリエのとこに向かうんだ。あの金髪ブロンドのめちゃくちゃかわいい常世に舞い降りたひとりの天使。見えるな?  見えないとは言わせないぞ。よし、ケンタロスが突っ込んできたら作戦開始だ」

「カゲ!」

 

帽子を取りケンタロスに見えるように大きく掲げ振り回す。

よく見る闘牛は赤い布に反応してるけど、あれは戦士が赤いマントを使っていただけで、揺れるものなら牛はなんでもいいらしい。

現にケンタロスの視線は帽子に釘付け。挑発と受け取ったのか、苛立っているようだ。

充分に激おこぷんぷんゲージが溜まったところで、俺は大きく踏み鳴らした。

それを合図に突っ込んでくるケンタロス。

 

「今だヒトカゲ!」

「ッカゲカァ!」

 

ヒトカゲから繰り出された『ひのこ』。

ケンタロスの顔面に直撃するが……。

 

「ぶもう!」

「カゲ!!」

「ヒトカゲ!」

 

その勢いは収まらなかった。

慌ててヒトカゲを抱き、真横に転がる。

ふう、なんとかタックルは受けずにすんだ。

 

「ヒトカゲ、次はケンタロスの前の地面に当てるんだ。土煙を起こそう。いけるか?」

「……カゲ!」

「よし、来るぞ!」

 

ケンタロスがUターンし、ヒトカゲを抱いている俺へ突進してくる。

気を見計らい、ケンタロスを充分に惹きつけ……。

 

「やれっ!!」

「カゲェ!」

 

土が爆ぜる。

前方で起きた小爆発にケンタロスは驚き、一瞬足を止める。

俺はその隙を見計らい───ケンタロスの上に飛び乗った!

 

「どうどう、どうどう……!」

 

正直この方法が正解かはわからない。

今も俺を落とそうと暴れるケンタロスだが、俺は足に力を込め、ケンタロスを撫で続けた。

転生前はロデオゲーとかやったことあるんだ。そう簡単には振り落とされないぞ……!

 

「クロウさん!」

 

リーリエの悲鳴。

そちらを向くと、ヒトカゲを抱いたリーリエが心配そうにこちらを見ていた。おいずるいぞヒトカゲそこ代われ。あっ、お前気持ちよさそうに抱かれてんじゃないぞ。そこは俺のポジション……ちくしょう、ポケモンめが!!!!

 

「ケンタロス、大丈夫だぞ。何があったか教えてく……れぇっ!?」

「クロウさん……!」

「大丈っ……夫!! たぶん、なんとか!」

 

ケンタロスをにしがみついていると、ケンタロスの口に何かがついていることが見えた。結構大きい、何かの欠片。

木の実っぽかったか、今の?

……あっぶねぇ、背中から落ちるとこだった。

 

「誰か、このケンタロスが木の実食べてるとこ見てませんでした!?」

「き、きのみならさっき俺が食わせて……そしたら急に……」

「それだぁっ、わっ、あぶなっ」

 

ポケモンにも、味の好みがある。

木の実の中には、「味が嫌いなポケモンに食べさせると混乱する」という副効果を持つものが存在していて、多分ケンタロスッわぁ!?

……多分ケンタロスは、それを食べてしまったんだ。だから誰の言葉も聞かずに突進を繰り返している。

 

「……賭けだけどしょうがない……!」

 

リュックをずらしてなけなしのモンスターボールを取り出す。

正面のボタンを押して膨らませ、捕獲準備OKとなったモンスターボールを、俺はケンタロスに投げつけた。

光となって吸収されるケンタロス。当然俺は落ちる。

 

「ごふっ」

「かげ!」

「大丈夫だ! それより、まだ終わってない!」

 

モンスターボールは振動する。

一回目。

 

「…………」

 

二回目。

 

「頼む……!」

 

三回ッ───

 

「ぶもお!」

「ぐッッッ!?」

「クロウさん!!!!」

 

真っ二つに壊れたモンスターボールからケンタロスが突進してきた。

転生前みたいにフィジカル面を鍛えていない体は先ほどの様に衝撃を押し殺せず、俺は吹き飛ぶことになった。

運び途中だったのか置いてあった木箱の山へとぶつかり、ようやく俺は静止した。

 

「……っあ゛……?」

 

背中が痛い。息も荒い。

「ポケモンは弱らせてからボールを投げる」。トレーナーの鉄則だが、まさかそんなに大切だとは思わなかった。

連続で『とっしん』を繰り返すケンタロス相手に、ライトファイターなイーブイは武が悪いだろう。

やばい、命の危機かもしれない。

 

上がる土煙の中、俺はケンタロスを睨む。

バチくそに痛え思いさせやがって。車に撥ねられたのかと思ったわ。

この前ロケット団轢いたけどこんな思いしてたんだな。機会があればこれからもしよう。

 

「く、クロウさん! もうやめてください!」

 

遠くから(あせ)リーリエの声がする。

耳がキーンとするなぁ……。

モンボを取り出しリュックを投げ捨てる。

これで最後のモンボ。初期モンボ三つのうち一つがイーブイで、ヒトカゲはモンボごと貰った。さっき壊れたのを引けばあと一個。

俺の手の中にあるこれだけだ。

 

「ふぅ……」

 

膨らませたモンスターボールを構える俺に、地面を軽く蹴るケンタロス。

両者、大勢に囲まれながら睨み合う。

 

「ぶむう……」

「正気に戻れやクソ牛野郎」

「ぶもう!!!!」

 

ケンタロスが来る。

俺は大きく振りかぶり、ケンタロスに向かって……。

 

「ヒトカゲさん、『ひのこ』をお願いします!」

「カゲ!」

「ぶもう!?」

 

行けっ、モンスターボォォォル!!

 

「ぶも───」

 

光になって吸い込まれたケンタロス。

 

「…………」

 

一回目。

 

「兄ちゃん、逃げとけ!」

「もしもまた出てきたら、誰かモンスターボールを投げてください」

 

二回目。

 

「クロウさん、血が……!」

 

三回目。

 

───カチッ。

 

「…………!」

「やったのか?」

「やったぞ!」

「トレーナーの兄ちゃんがやった!!!!」

「おいやったぞ!!」

 

ぽつぽつと喜ぶ声が聞こえ、それが広まり歓喜の渦が出来上がる。

俺は力の入らない腕でモンスターボールを拾い、注目の視線の中、空へと掲げた。

 

「暴れケンタロス、ゲットだぜ!」

「「「「おおおおおおおおおおっ!!!!」」」」

 

マジ疲れた……。

ケンタロス1匹に俺死にかけてるし、ポケモントレーナーって大変なんだな。

ゲームでは描写されなかったそれをひどく実感し、俺はリーリエの元へ向かおうと……。

向かおうと……あれ。脚が動かん。めちゃくちゃガクガクする。

隣にいた男性に肩を貸してもらうと、リーリエが慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「クロウさん……!」

「リーリエ、ナイスアシスト。ヒトカゲも、いい判断だぜ」

「かげ……」

「そんなこと言ってる場合じゃありません! 早く治療しないと、血が出てます!」

 

血……?

おかしいな、手の擦り傷とか肩の打撲以外に傷はないはずなんだけど。

 

「兄ちゃん、腹だよ腹。真っ赤だぜ」

 

言われて腹をみる。

 

「───……。うっわなにこれ赤ッ!? えっ、血!? これ血!? 俺死ぬのこれ!? やばくない!?」

「逆になんで気づいてねえんだ。ポケモンセンターで手当てしてもらうぞ。ほら、はやく!」

「ポケセンって人間の治療してくれるんです……?」

「バカか、ポケモン回復するだけがポケモンセンターじゃないんだ! トレーナーが泊まるベッドだってあるんだぞ!」

 

あ、それは知ってる。なるほど、じゃあ普通にその辺にある病院って感じか。

トレーナーのサポートをするって、怪我とかも治療してもらえんのな。やったぜ。

 

「ジョーイさんや、こいつどうにかしてくれ!」

「お話は聞いてます! こちらへ!」

 

あー……。

なんか眠いかも。

 

「リーリエ……キズぐすりプリーズ……」

「クロウさん? ……クロウさん! クロウさん! クロウさんっ!!

 

───…………。

 

 

 

 

知らない天井である。

いや、一度泊まったことあるから微妙に知ってる天井である。

 

「クロウ……さん?」

「リーリエ」

「よっ、呼んできます!!」

 

起きた瞬間に聞こえたのはリーリエ声だった。相変わらずチャーミングなボイスをしている……。

っていうか俺が起きるまで待っててくれたの? リーリエが? は? マジ天使なんですけど?

うっわ嬉しい。俺が死んでしまわないかどうかリーリエはそわそわしながらそこの椅子に座ってたってことだろ? なんだそれ優しすぎか?

 

「クロウさん、大丈夫ですか!?」

「まぁ、うん。肩がめちゃくちゃ痛い割には」

「クロウくん、ね。ケンタロスにぶつかって肩を痛めたのと、擦り傷がひどいわね」

「お腹のキズは!? クロウさんは大丈夫なんですか!?」

「まぁまぁ、落ち着いてちょうだい。あの赤いのなんだけれど、血じゃなかったわ。匂いからしてマトマの実の汁かなにかでしょうね。それが、服にべったりと」

 

ジョーイさんが告げると、リーリエはほっと胸を撫で下ろした。なんだその仕草。俺の身を案じていたのか? リーリエが? これ夢?

……で、マトマの実、ね。多分、モンボ脱出タックルを受けた時に木箱にぶつかった。多分アレだ。あの中にマトマの実が入ってたんだ。

 

「後は背中が結構ひどいわね……。まぁそれも打撲だから、湿布を貼って一日か二日安静にしていれば治ると思うわ」

「ありがとうございます」

「それと、あなた体に疲れが溜まりすぎよ。なにをしているのかは聞かないけれど、ちゃんと栄養のある食事と良質な睡眠を心がけること」

 

……はい。それ全部やってませんでした。

三日三晩泳いだあとに食べたのは、きのみしか食べてない胃でも受け付けられるようなお粥だった。

そのあとはまたきのみ。それでその次がパンケーキ。野生児みたいな食生活してんな。

睡眠に至ってはケンタロス車の中で仮眠をとったレベル。現代に例えれば、トラックの荷台で寝る様なもんか。そりゃ体も休まらんわ。

 

「夜に……と言ってももう夕方だけど。これを背中と肩に貼って寝なさい。もう帰っても大丈夫よ」

「はい。ありがとうございました」

「クロウさん……もう無茶をしないでください。私、どうしたらいいか……」

 

リーリエが目の端に涙をためて訴えかけてくる。

 

「私、前にもいろんな人に助けてもらったんです。そのたびに、私じゃない誰かが危険な目にあって……。私が無力だから、こうなってしまうんじゃないかって……」

「リーリエ……」

「クロウさんの姿が、似てるんです……! 私を助けてくれた人に、すっごく……!」

「…………」

「無茶を、しないでください……」

 

ついには、ベッドに顔を埋めて肩を震わせてしまった。

小さな嗚咽が、他に誰もいない部屋に響く。

窓からさす夕焼けがリーリエの綺麗な髪を照らし、輝いていた。

 

俺は、なにも言うことができなかった。

リーリエ、と言おうとした口からは声は出ず、伸ばした手がリーリエに触れることもなかった。

無茶をしない、と約束もできない。リーリエを守るためなら、命だって差し出す。

かと言って、それを面と向かって言えるわけがない。リーリエが悲しむだけだ。

俺はどうすれば良かったんだろう。

 

それはそれとして。

 

このシーツって買取できないのかな。

リーリエの涙付きシーツなんてもんがあったらゼンリョク買取で財布ごとくれてやる。後でジョーイさんに掛け合ってみよう。

っていうか夕焼けの中でなく少女がこんなに尊く美しいものだとは思わなかった。俺のこの手にカメラがあったなら、あらゆる角度からこの景色を撮りまくるというのに。なぜウルトラホールは俺にスマホを与えてくれなかったのか。

 

「……リーリエ」

「……はい」

「行こう。お腹が空いた」

「カレー……腕によりをかけて作りますね」

「手伝うよ」

 

同じキッチンで料理を一緒に作りってなんか夫婦っぽいし。そんな経験なかなかできない。

 

「いえ、クロウさんは安静にしていてください。包丁なんて触らせませんっ!」

「えっ」

 

き、嫌われた……(・ω・`)

 

「どうしてだよ……俺が何かしたのか?」

「何かしたからこうなってるんじゃないですか! もう! 行きますよ!」

「ええええ……! ちょっリーリエッ、待って……腹は大丈夫だったけど肩が痛い……リーリエ? リーリエ……!? ほんとに俺を置いていくのか!? この状況で!? リーリエ!? ぉーぃ!?」

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