リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
俺の中にあるシンカの力。
いや、もっと厳密に言えば……全てのポケモンの祖であるミュウの力か。それらを、ウルトラホールを通ってやってきたリリーが……けつばんと融合しポケモンになることのできたリリーが分け与えてくれた力。
そのエネルギーはイーブイの中にある進化しないための石に流れ込み、それは物質としての進化を果たす。
即ち、かわらずの石からキーストーンへ。
「イーブイ」
「えぼ」
「俺たち、もっと次のフェーズに行けるよな」
イーブイは、進化しない。
例え、かわらずの石がキーストーンになったところで、その本質は変わらない。
『所持している者は進化できない、他者をさらなるシンカへ導くだけのただの石』なのだ。
お前の夢はもう叶わない。それは変わらない。
俺たちおんなじだ。
「えぼ!」
メガシンカだって出来やしない。俺にイーブイナイトなんてものは作り出せない。
だから、お互いに弁えて。譲歩しあって、進んでいく。
「……! シルヴァディ、『ブレイククロー』! ルカリオ、『はどうだん』!」
「イーブイ! まねっこだ!!」
「えぼ!」
「今更何を……!」
───滾れ、闘争本能───
「『まもる』ッ!!!!」
「エッボォーイッ!!!!」
イーブイのオーラが鏡面のように光り輝き、球体状のバリアが貼られる。
ブレイククローもはどうだんも、イーブイには届かない。
届かせない。
「イーブイ! まねっこ!」
「エボッ!!!!」
雷速。
シルヴァディとルカリオの前から姿を消したイーブイが、雷を浴びながら洞窟内を走り回る。
「えぼえぼえぼえぼえぼ……ッ!!」
「『ボルテッカー』ッ!!!!」
「エボエッボォォォ!!!!」
轟く雷鳴。
放たれた超エネルギーが、強く、強く大地を抉る。
イナズマの大蛇が地を這い穿つ。
全てを燃やし、全てを貫いて。
「バカなッ……まもるを覚えているポケモンはオレの手持ちには……! それにボルテッカーは!」
「ピカチュウ専用技、だろ?」
「そんな……ッ! ヨウからは、相手の技をコピーするポケモンだと!」
「俺たちは日々シンカし続ける! 『シャドーダイブ』!!」
「えぼっ……!」
闇に溶け込んだイーブイが、ルカリオの足元から飛び出て吹き飛ばす。
そのまま空中にいるルカリオ目掛けて、
「『いじげんラッシュ』!!!!!!」
オーラで形作られた空間の狭間を通り、イーブイが無数の打撃を打ち込んだ。
「ルカリオ!!」
「姿が変わらなくたって、シンカはできる……!」
「えぼ!!」
「イーブイにもう、出せない技はない!!」
イーブイのオーラが蜂の形になり、イーブイを守るように取り囲んだあとイーブイの中に染み込んだ。
『いじげんラッシュ』で下がった防御を『ぼうぎょしれい』で元に戻したんだ。
そうだイーブイ。こんなの、いけるか。
───イーブイの心が流れ込んでくる……。
……へえ。そうすればできるんだ?
「えぼ!」
「よし! 『つるぎのまい』!」
「クッ……! 来い、クロバット! 『はがねのつばさ』!」
「『みきり』!!」
鋼鉄化した翼がイーブイへ直撃するその時には、もうそこにイーブイはいない。
見切って背後をとったイーブイは、
「『グロウパンチ』!!」
天から地へと、たたき落とした。
「起き上がれ、クロバット! あれはまねっこだ! PPはもう、底を尽きるはず!」
「イーブイ! 『みがわり』! ……に、『さいみんじゅつ』!」
イーブイがオーラで形成した身代わり。
緑色で糸目でどう頑張ってもイーブイと似てるなんて言えないけれど、それでも場には出る。
『さいみんじゅつ』は眠らせる方ではなく、ズガドーンがリーリエに施したような操るタイプのもの。
「イーブイ! みがわりで『みかづきのまい』!」
「そんな……ばかな……!!」
浮かび上がる月の紋様がみがわりを消し去り、残った光をイーブイが吸収。
「悪いな! イーブイが『できる』って言ったもんだからよ!」
「そんなことができるなんて聞いたことがないぞ! そんなこと、あるわけが……!」
「『しんそく』!!」
「しまっ……!」
「『Vジェネレート』ッ!!」
「クロバット! ……クソッ!!」
超至近距離、背後からの爆熱。
クロバットはそこまで熱に強いわけでもないらしい。
これでマニューラもルカリオも、クロバットも倒した。
あとは最初に出てきて引っ込めたポリゴンZだけだ。
「ポリゴンZ!」
「『かえんだん』!」
「あ、『あくのはどう』! シルヴァディ、『かみくだく』!」
「『ドわすれ』! 『とける』! 『ブレイブチャージ』で守れ!」
どんな技も、今のイーブイには効かない。
最高で最強の、俺の相棒。
一緒なら、どこまでだって───
「……つぅッ……」
頭が割れるように痛い。
負荷が重すぎたんだ。
生暖かい感触に唇の上を触ると、俺の指が赤くなっていた。
鼻血出てる。めんどくさ。
「えぼ!?」
「まだまだこんなもの、イケるイケる!」
「え、えぼぼ……」
「大丈夫だ!!」
これ以上の技の使用は危険なんじゃ。そう躊躇うイーブイに笑ってみせる。
ここで倒れたら、俺は二度とリーリエに……ちゃんと会えない気がする。
無茶してるんじゃない。俺がこうしたいんだ。
だから大丈夫。
「俺を信じてくれ……大丈夫なんだって。俺もお前を、信じてるからさ」
「───……ッ、エボッ!!」
「『ロックカット』!」
イーブイの力が増すたび、俺の体が軋んでいく。
エネルギーを飛ばし合う度に、それを通じてイーブイの心が伝わって来た。
楽しい。苦しい。嬉しい。痛い。
俺もイーブイも、そろそろ限界が来ている。
わかってる。これで最後だ。
───きめる!!
「シルヴァディ!!」
「イーブイ!!」
「「『ブレイククロー』ッッッ!!」」
「ヴォンッ!!」「エヴォォォイ!!」
技と技がぶつかり合って火花が散る。
今まで聞いたことのない、強く、魂を震わせるような咆哮。
鍔迫り合いのように見合ったまま、イーブイが吠えた。
◇
また、負けた。
天井を眺めながら、オレは同じく隣に倒れているシルヴァディを見た。
天に棲む竜でも敵わない頑丈な鱗や鉤爪はボロボロになり、それこそが今の戦いが命を賭した決闘であることを示していた。
「あ゛あ゛っ……、う゛あ゛あ゛……」
立膝をついたまま荒い息を立てる
頭を抑えて呻いていることから、激しい頭痛に襲われているのだろうと分かる。
ちょうどいい。今ここでコイツが倒れようが、俺には関係ない。
ヨウの頼みも聞き届けられて一石二鳥だ。
「ッう゛……! はぁっ、はあっ……。ぐう゛ッ……!!」
苦しそうな声が洞窟内に響く。
土を噛み、拳を血だらけにし、それでもなんとか身体を押さえつけて起きあがろうとしていた。
何故、そこまでして立ち上がる?
代償に見合わない小さな戦果を提げて、どうしてここまで必死になれるんだ。
「……ぃ……りぇ……」
「───」
「ぃま……たすけに……!」
──────。
「おい」
「ぐら、ぢお……? ッ、ぁ……」
「キズぐすりはどこにある」
「……ッ、……!」
声を出すのも難しいなどの痛みなのか、震える指で自身のリュックを指差す男。
見るとごちゃごちゃと入り混じる小袋や道具の上に、緑色のポーチが一つ載っていた。
かいふくのくすりを取り出し男に手渡そうとするも、額に地面を擦り付ける形で首を振った。
その指は、岩でできた瓦礫の山を指さしていた。
「……あいつを?」
「俺のポケモンじゃ、ないっ、から……。はぁっ、はぁっ……。ぁぃつも、リーリエ、助けに……」
「……オレに回復をしろと?」
そうしてゆっくりと微笑み、男は目を瞑った。
意識があるのか無いのかも、もうわからん。
傍らで同じく反動に耐えるイーブイと手を繋ぎ、その身体は幾度となく痙攣している。
立ち上がった拍子にリュックを蹴飛ばしてしまい、中身の一つが飛び出る。
大きな瓶のようなもので、蓋の部分に機械が付いていた。落下した衝撃か機械が起動し、中にある薄緑色の液体を撒き散らす。
「……ヴォン」
「これは……かいふくのくすり?」
ミスト状のかいふくのくすりはオレやシルヴァディに浸透していき、その数を癒していく。
見ると男は、持っているポケモン全てをボールから出して癒しの霧の中で休ませていた。
「…………」
土や泥に塗れて気絶している、真っ白なウルトラビースト。
その身体に、かいふくのくすりを散布していく。
……なにやってんだ、オレ。
ウルトラビーストにかいふくのくすりを使うだなんて、自分がコイツらに何をされたか覚えていないんじゃないか。
…………。
目が似ていたんだ。
あの時の、誰かのために戦う時のヨウの目に。
洗脳でもされていたと言われた方が説明の付くくらい畏れ知らずで、いつも不敵に笑みを浮かべていた。
「ロチェ」
「治ったのなら立ち去れ。オレはお前が嫌いだ」
「……ロチェ」
一陣の風が吹いたと思えば、目の前のウルトラビーストは消えていた。
薬では癒しきれない傷を治すため一時離脱したのか、それとも。
「グラジオ……」
「……なんだ。アイツならもう行ったぞ」
「ポケモン、休ませて行きなよ」
言われて、オレのボールを見る。
「勝ったのは変わらないんだから、先には行かせてもらうけど」
ゆっくりと立ち上がった男は、気だるげに頭を2、3回振り、深呼吸をした。
見ればそのポケモンたちも、まるで休憩は十分に取ったといわんばかりに立ち上がっていた。
「まだこのスプリンクラーの薬、残ってるからさ。休憩して行きなよ」
馬鹿な。
あれほどの大技の反動。
たかだか数分で癒えるものとは思えない。
現に立ち姿には力がなく、頬にできた傷も止血されただけだ。
「っ、いってェ……」
「やっぱり……まだ傷が癒えていないのだろう。大人しく寝ていろ」
そうすれば、全て丸く収まる。
ヨウの計画を信じれば、うまくいくはずだ。
「いや、大丈夫」
「……大丈夫じゃないだろう。立つのだってやっとのはずだ」
「大丈夫だよ、リーリ……」
そう言いかけて、
「じゃなかった、グラジオ。髪の色似てるから間違えちゃった」
申し訳ないと言うように笑った。
その笑顔すらも、ヨウの面影を感じる。
「じゃあ俺はいくよ」
「……ああ」
「もしどこか痛むのなら、その包帯使ってよ。お揃いだからさ」
そうして袖をまくり、包帯だらけの腕を見せつけてくる。
これは同情。……違う。
恐れている。
あの時のオレが求めていた強さを、コイツは持っている。
だが。
だがその強さは、軟く危うい諸刃の剣。
「楽しかったよ、グラジオ。じゃあね」
それは間違った強さだ。
とは、言えなかった。
他でもないオレ自身が、それを望んでいたのだから。