リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
イワヤマトンネルにできた入り口から、だいぶ歩いた。
タウンマップで位置情報だけを確認すると、もうすでにこの上はおつきみやま。
立入禁止区域を超えて、すでにこんなところまで来ていた。
かいふくのくすりスプリンクラーのおかげで、体力は僅かながらも回復している。体調だってすこぶる良い。
だけどなんだろう。この感覚は。
あの闘いからずっと、心臓が高鳴って仕方がない。
まるで何かに導かれるように、歩く旅に強く脈打つ。
酸欠か? 洞窟の中だしな。
「……この先に……多分、ヨウがいる」
リーリエの気配がする。
それと、リーリエじゃないもう一人の気配も。
「行こう」
……。
今までのハウやグラジオと戦って来た洞窟よりも一回りも二回りも大きい、大空洞。
奥に岩でできた舞台と階段。壁面を埋めるように設置された松明や所々に生えた木々のせいか、まるで小さな祭壇のように見える。
はるか上には小さな穴が空いていて、夜へと差し掛かる曇り空が見えた。
ここはまるで、原作サンムーンの───
「やあ」
新鮮な空気が久しぶりに肺へ流れる。
二度ほど深呼吸をして、息を整えた。
リーリエは今、俺の目の前にいる。
岩肌に手枷を埋め込まれ、磔にされていた。
炊かれた松明がゆらめき、リーリエの白い肌を赫く照らす。
金色だった髪は火の影響でオレンジに輝いていて、様相の変わったそれは沈みゆく夕陽が川に溶けているようだった。
そしてその傍であぐらをかいて座っていた男がいる。
「ハウもグラジオも負けたんだ。……いや、負けるとは思っていたけど、こんなに早くとはね」
「そういうの良いから答えろよ。なんでリーリエを狙うんだ。偽物を処分するだけなら、俺だけ狙えばいいじゃん」
「んー、ずっと気になってたんだけどさ。なんで偽物を消すのに君を狙う必要があるの?」
……は?
「確かに最初は君を狙ってたよ。でもそれは君が偽物を消すのに邪魔だったからで……君は
「どういう意味だ……! だったら偽物ってなんなんだよ! 俺を呼んだわけは!」
「君を呼んだのは……目を覚ましてあげたかったからだね。偽物は……ここにいるじゃん」
そう言うとヨウは立ち上がり、磔になって気を失っているリーリエを指した。
「……リーリエが……偽物……?」
訳がわからない。
リーリエはリーリエだ。
美しい髪も、華奢な体も、気絶していると言うのに可憐さを放つ美貌も。
俺の本能が、リーリエはそこにいると告げている。
「今からこのリーリエを消す。そうすれば君も目が覚めるはずだ。このリーリエは、
「なんだ……何を言ってる? 説明不足にも程があるぞ!」
「よく言われるよ」
風が吹く。
リーリエの髪が揺れ、火の光を反射して輝く。
ヨウはこちらに苦笑したあと、銀色に鈍く輝く刃物を取り出して語り出した。
「最初はただ、
「……そうじゃ、ない。……って?」
「君は狂気だった! どれだけ狙っても狙っても、
───『耳元で、『君は俺が捕まえる』って……! わたっ、私……!』───
あれはキザなセリフじゃなかった。
捕まえる……偽物を?
……『ウルトラビーストが
だから事故を装って……?
思えば、テッカグヤを倒した後。
カミツルギは俺を殺せる状況で殺さずに、足止めで地面を切っていた。
その後に来たフードの男……ヨウは、俺が動けないのを確認して、テッカグヤ達を引っ込めた……。
「なのにいつも! いつも! いつも!!」
「……ッ」
「君が来る! 君が邪魔をする! 最初は純粋に強いんだと思ってた! けど君は……君は狂っているから! リーリエが偽物だと気づかずに、死力を尽くして戦っていた! これ以上見てられなかったんだ! だから! 直接的に
いやいやいや、ちょっと待て。
俺、お前に何回も偽物って言われてるんだ……け……ど……。
「…………!」
テッカグヤとカミツルギ。偽物は殺さなきゃって、リーリエの方を向いていた。
Rロケット団カントー支部では、偽物を消さなきゃとは言いながら俺のことを『男』と呼んでいた。
……ズガドーン。去り際のじゃあね偽物ってセリフ。あの場には……。
いる。俺の後ろに、リーリエがいた。
フェローチェに襲わせた時も。俺を偽物とは一度も呼んでなかった。それで俺が倒れた後、フェローチェは真っ先にリーリエの元に……!!
「お前……最初から……!!」
「だから言っただろ。君は邪魔だって。
「目を覚ますのはお前だろ!! なんで……なんでそこにいるリーリエが偽物に見える!? 正真正銘リーリエだろうが!!」
「そう見えるだけなんだ。君はもう、彼女に毒されてしまっているから。彼女が本物のリーリエに見えるだけなんだよ」
「じゃあ……ッ、じゃあ!!! その本物はどこにいるんだよ!!! そこにいるのが偽物なら、本物のリーリエがいるんだろう!!!」
言って、俺は気づいた。
リーリエ以外の気配がする。
ヨウのものじゃない。あと1人分。
「
ヨウの後ろに隠れるように、いる。
「ここにいるじゃないか」
逆さにした金魚鉢のような頭。
不気味に蠢くガラス細工のような触手。
透明度の高い、石英の身体。
それは……お前は……。
「じぇるるっぷ」
「イカれてんのかお前えええぇぇぇ!!!」
木霊する俺の声。
「……クロウ……さん……」
「ッ!!!!」
ぐるんと、ヨウが振り返る。
手枷に気づいたリーリエがガチャガチャと暴れるも外れず、ヨウが不気味に笑った。
「間抜けな姿だな
「ヨウ……さん……! どうして……」
「見ていてよクロウ!! 今から君を、正気に戻してあげよう!!」
ナイフが、振り下ろされる。
リーリエに向かって。
そんなこと。
「イーブイ! ケンタロス! 『10まんボルト』!!」
させない。
「……クロウ……君は今の話を聞いても、
「うるせえ!!!!」
雷撃で弾き落とされたナイフが地面に突き刺さる。
よかった。リーリエは無事だ。
「リーリエ!!」
「っ……」
「君を!! 絶対助ける!!」
「クロウ……さん……!」
ボールをリーリエに向けた。
「……はぁ。結局こうなるんだね。良いよ。やろうか」
───ポケモンバトル!!!!
「ゆけっ! ミミッキュ!」
「頼むぞ! ケンタロス!」
「『ウッドハンマー』!」
「『じしん』!!」
揺るがす咆哮が大地の唸りを呼び起こし、その重圧がミミッキュを襲う。
オーラで形作られたハンマーは一度その輝きを失うも、へたりと頭が倒れた瞬間に再び輝きを取り戻してケンタロスの額を穿った。
……とくせい『ばけのかわ』……! 本当に厄介だ!
「ッ、チェンジだ! 『ワイルドボルト』!」
「ミミッキュ、『シャドークロー』!」
雷を纏って突撃したケンタロスを、ミミッキュが軽く受け流す。
黒いもやを纏った黒爪はケンタロスの勢いを乗せたまま、大きくケンタロスを切りつけた。
吹き飛ばされたケンタロスはとてつもない勢いで壁にぶつかると、ずるずると地面に落ちる。
「『ふるいたてる』! ……っ、おい! 起きろケンタロス!」
「ケンタロスはわざマシンが手元にあれば、戦闘中でも技を帰ることができる……」
「おい! 起きろって!! 立てよ!!」
「何してくるのかわかってるのなら、対策なんて打ち放題だよね」
「……ッ……!!」
ごめん、ケンタロス。
無駄にしないから……!
「ミミッキュはゴースト・フェアリーだったはず……」
ならここは……!
「頼むぞ! カメックス!」
「ガメェェェックス!!!!」
「……へえ」
「『ハイドロポンプ』!」
吹き飛ばされたミミッキュの身体。
ウッドハンマーを打たれる前に決める!
「詰めろ!」
「ミミッキュ、『ウッド───」
「『ラスターカノン』ッ!!!!」
ほぼゼロ距離で放たれたラスターカノンは、寸分の狂いもなくミミッキュに命中。
ボロ布になったミミッキュはボールへ戻ることになった。
「……じゃ、ジュナイパー。ゆけっ!」
「戻れカメックス! 頼むぞ、リザードン!!」
「ックガー!」「グオォォォォ!!」
パチン、とカメックスとリザードンがハイタッチ。
青い光に包まれて、リザードンが場に出た。
「『かげぬい』!」
「飛んで避けろ!」
放たれた矢は地面に突き刺さる。
洞窟の天井付近で素早く飛んでいるリザードンの影を的確に撃ち抜くことは難しい。
「『エアスラッシュ』!」
「飛んで避けろ!」
ッ……。
ジュナイパーも鳥ポケモン。そりゃ飛べるか……!
当てつけみたいに同じ指示出しやがって……!
「もう一度『エアスラッシュ』だ!」
「『リーフブレード』で撃ち落とせ!!」
ガキン、と硬質的な音。
無数に襲いかかる空気の刃を、足で掴んだリーフブレードで一つ一つ相殺している。
そして、リザードンが驚いたり疲弊したところを狙って、
「『かげぬい』!」
リザードンの影に、矢が刺さった。
固まったリザードンの翼は動かず、浮力を失った身体がゆっくりと落ちていく。
動け! 動けリザードン!
「まだ! まだ戦えるだろ!!」
「グオ……!!」
「飛べ!! 落ちるぞ!!!!」
「───ッ!!!!」
スレスレ。
すんでのところで翼を広げたリザードンは地面を滑りながらジュナイパーに狙いを定める。
「グオォォォォ!!!!」
「ジュナッ……!!」
ジュナイパー側も地を這う竜に狙いを定めたのか、急降下して来た。
「リザードン!!」
「ジュナイパー!!」
「『フレアドライブ』!!」
「『ブレイブバード』!!」
弾け、舞う、炎と木の葉。
吹き荒んだ風は熱を纏って、噴き上がる白煙が視界を奪った。
ボシュウ、と白煙から翼を開げて出て来たのは。
「……よし! よくやったリザードン!」
「グオォォォォ!!」
「チッ……。ジュナイパー、おつかれ。……ゆけっ、アシレーヌ!」
「だったらこっちも……」
「ぐ、グオ、グオ……!!」
「無駄だね。『かげぬい』の力で交代はできないよ」
モンスターボールから放たれた閃光はリザードンに当たる端から弾かれてしまう。
ここでアシレーヌか。少しまずい。
交代ができない以上、ここで相性不利の相手は……!
「クロウさん……!」
……ッ!!
違う! 勝つことを考えるな!
リーリエを救え!
「やるぞ!! 来い、イーブイ!!」
「グオォォォォ!!」「へぽぉい!!」
体に見なぎるエネルギーを、一つの結晶に……!!
力は流れ。俺たち二匹と一人を渦巻くように、繋がるように!!
リザードンの手の中に、メガストーンが出現する。
イーブイのメガチョーカーに、キーストーンが出現する!!
「ここで切るぞ! リザードン!」
「グオ!」「へぽ!」
「メ ガ シ ン カ !!!!」
揺らめく生命の灯火が、リザードンをさらなるステップへ導く!
貫くためのツメは大きく!
羽ばたくための翼は猛々しく!
その炎は温度を上げ、青く、蒼く燃え盛る!!
「GYAOOOOッ!!!!!!!」
メガリザードンX!
タイプはほのお・ドラゴン!
「……明らかに相性不利なんだけど?」
「どうせリザードンはここでやられる! そんなのは俺もリザードンもわかってる! だから……!」
せめて、少しでも削る!
「リザードン! 『かえんほうしゃ』!」
「グウゥオオオオアアアア!!!!!」
「『こごえるかぜ』で反射させろ!」
「シュレェェェアッ!!」
炎はダメだ!
エアスラッシュで……!
「『うたかたのアリア』……!」
舞を踊りながら、泡を操るアシレーヌ。
バルーンはメガリザードンの身体よりも大きくなり、その中に渦巻く飛沫が、そこに詰まっているのは圧縮された海であることに気づいた。
「リザードン、避け───ッ」
「グオ」
メガリザードンの心が、イーブイを通して伝わってくる。
「───るな! そのまま突っ込め!」
「グオォォォォ!」
「『フレアドライブ』ッ!!!!」
うたかたのアリアに突っ込んだメガリザードンが、己の中の火を絶やすまいと、消えた端から燃やし尽くす。
水中の空気を全て燃やし気泡が弾け、うたかたのアリアの形が歪んだ。
「なっ、コントロールが……!?」
「もっとだ! もっと燃やせ、リザードン!!」
「アシュィ……!?」
「もう一度『フレアドライブ』!!」
泡の中にいるメガリザードンに、俺の声は届いてないだろう。
だが、メガリザードンは何を言われたか理解できる。
俺とイーブイと、繋がっているから。
翼を広げ、拳を握り、煮えたぎる灼熱の闘志を炎にして体に纏う。
体を覆う水は蒸発し、弾け唸り、水すらも燃やしていく。
俺はリザードンを覆う水に……いや、リザードン自身に広げた拳をかさねる。
そうして、
「爆ぜろッ!!!!」
グッ、と拳を握った瞬間。
「グオオオアアアアアア!!」
弾けた水を撒き散らし、メガリザードンが爆発した。
「シュレッ、ウイ……!?」
「ッ、熱……ッ! 『うたかたのアリア』を『フレアドライブ』で『ねっとう』に……!」
アシレーヌがところどころに火傷を負う。
これで、メガリザードンにできることは終わった。
『フレアドライブ』の反動で生命力を使い切ったメガリザードンは、強制的にリザードンに戻され墜落した。
急激なエネルギーの放出に衝撃波が生まれ風が吹く。
……ありがとう、リザードン。
「リザードンさん! リザードンさんっ!!!!」
ひゅるひゅるとリーリエのそばに墜落したリザードンは、力なくその首を上げる。
「ダメッ、だめです! これ以上戦わないで!」
「ぐぉ」
「リザードンさん……っ!!」
リザードンはもう戦えない。
その滾る闘志を受け継いで、禁忌の魔物が前に出る。
「頼んだ! フシギバナ!」
「バナァ!!」
「『パワーウィップ』!」
「アシレーヌ、『こごえるかぜ』!」
「耐えろフシギバナ! 『ソーラービーム』!」
「『チャームボイス』ッ!」
アシレーヌから放たれた音波が耳をつんざく。
何がチャームだ。下手くそなバイオリンみたいな音しやがって。
あいにく俺は、芸術の学はないんでね。
「放て!!!!」
「バナアアア!!!!」
「フュイッ……!?」
「アシレーヌもダメか。ゆけっ、ガオガエン!」
「戻れフシギバナ! 頼んだぞ、カメックス!!」
ガオガエンとカメックス。
かつては焼け石に水だと侮辱されたが……!!
「『アクアテール』!」
「『DDラリアット』!」
「ガメェェェ!!」
「グオッ……!?」
こいつはもう弱くないんだ!
「『ハイドロポンプ』!!」
放たれた水流が、ガオガエンに直撃する。
大きくのけぞったガオガエンだがまだ削り切るには足りないのか、腕を盾にして水に立ち向かっていた。
嘘だろ。まだ立つのかよお前。
「君のやったことのお返しをするよ! 『フレアドライブ』だ!」
「……ッ、カメックス! まだだ! 技を止めるな! 『ハイドロポンプ』を維持しろ!」
カメックスは、俺の手持ちの中で1番、技に対する持続力が高いんだ。
それこそ、『まもる』なんて覚えてしまえば一日中発動できるんじゃないかってくらい。
人命救助や火災鎮火で鍛えた持続力!
今、見せつけろ!!
「ガメェェェ……ッ!!!!」
「グオ、が、ガオ……!?」
「まだ! まだ出せ! 技を止めたらやられるぞ!」
「ガメェェェ!!!!!!」
大量の水を放射し続けるカメックスに対し、ガオガエンが水を受けながら進んでくる。
炎は消えているというのに、消えた端から『フレアドライブ』で復活してくる。
「ガメッ、ガメガメ……!?」
「ガオ……ッ!」
そしてガオガエンはカメックスの目の前までやってきて、
「『DDラリアット』!」
そのままカメックスを掴み、回転の要領で投げ飛ばした。
宙を舞うカメックスがリーリエ側の壁に激突し、落下する。
ずしん、と重たい音が響き、カメックスはその場に倒れた。
「カメックスさん……!」
「これでカメックスも倒れたね。さあ、ガオガエン」
「…………」
「ガオガエン?」
「ぐ、グォア……」
投げ飛ばした姿勢のまま、ガオガエンが倒れる。
「これで……ガオガエンも倒れたな」
「……ふう。戻れ、ガオガエン」
残りの手持ちはフシギバナとイーブイ!
ヨウの手持ちの4体……ミミッキュ、ジュナイパー、アシレーヌ、ガオガエンは倒した。
残りは2体。
「来い。ソルガレオ。ルナアーラ」
「ラリオーナッ!!」「マヒナペーアッ!!」
俺を二人縦に伸ばしても届かないほどの巨躯を持つ、二匹の星。
片方は剣のような硬質の身体を持ち、全身から放つ光を凝縮させたタテガミを揺らしている。
片方は斧のような鋭利な身体を持ち、夜の帳を闇に溶かした翼を羽ばたかせている。
そして、二匹の額に無限に広がる星空。
ポケモンの歴史の中で、唯一
ウルトラビースト───ソルガレオとルナアーラが、そこにいた。