リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
ソルガレオの放つ熱波が俺とフシギバナを襲う。
灼熱がぢりぢりと肌を焼き、意識がもうろうとする。
舞い散る虹色の光が止んだと思えば、俺を覆う大きな影。
洞窟内に唯一できた大穴を塞ぐほどの大きな翼を広げ、溢れ出る月の光が俺たちの体を切り裂いた。
……血は出ていない。おそらく筋繊維が切れたか、切られた幻覚を見せられている。
「フシギバナ! 『はなふぶき』!」
「バナァ!!」
「『ねんりき』!」
竜巻状に舞い上がる花びらが、突如としてその動きを止める。
ルナアーラの額の先が光り、その視線の先にある花びらを食い止めているようだ。
押し返される。
一瞬でもそちらに意識が向いたと思えば、
「『メタルクロー』!」
「オーナッ!!!!」「バナァ……!?」
オーラによって拡大されたツメでフシギバナが襲われる。
「『メテオドライブ』! 『シャドーレイ』!」
「バナァァァ!」「うわぁぁぁ!」「えぼぉぉぉ!」
爆風で体が浮き、軽く吹き飛ばされる。
景色がぐるぐると回転し、ようやく収まったと思って顔を上げる。
二匹のウルトラビーストから技を撃たれたその爆心地。
「バナァ……」
倒れたフシギバナが目を回していた。
流石にフシギバナでも、あれだけめった打ちにされたら耐えられないか。
ごめんね。ありがとう。
お前の想いも、背負っていくから。
「ヨウさん!! ほしぐもちゃん!! 待ってください!! やめてください……っ!!」
「……頼むぞ、イーブイ」
「えぼ、ぼ……」
ラスト一匹、俺の切り札。
「今……シンクロするから」
「えぼ……」
身体が重い。
今すぐにでも、倒れたまま眠ってしまいたい。
指先は熱を失い、ねばっこい気怠さが鉛のように俺に纏わりつく。
あーあ。喉乾いたなぁ。
なんてどうしようもない事を言って、現実逃避して。
もういいよ。飽きたよポケモンバトル。
でも結局、目の前は変わらない。
戦うしか、方法はないんだ。
「ふうー……」
迷わない。自分にそう言い聞かせる。
深呼吸を繰り返すたび、その言葉を頭の中で反復させる。
「……えぼ」
「よし。やろう!」
心に、決して沈まない太陽を。
心に、決して砕けない月を。
宿せ。
太陽が昇る時、月は沈む。
地球の表と裏がごちゃ混ぜになるとき、太陽と月が重なる。
「イーブイ……まねっこ」
「エボォ!」
「『メテオドライブ』と『シャドーレイ』!!」
「エボォォォォオオオ!!!!」
イーブイのオーラが形作る鋼爪と闇が、ソルガレオとルナアーラに直撃する。
それを放つイーブイの双眸は、白と紫の二色に輝いていた。
「一度に……二つのワザを……!?」
「イーブイ……ちゃん……!!」
日食でも月食でもどっちでもいい。
ひっくり返せば、みんなおんなじなんだ。
「『しんそく』『でんこうせっか』ッ!!」
「ソルガレオ! 『コスモパ───」
「り、ルオ…………」
言い切る前に、ソルガレオの体勢が崩れた。
その懐には、いましがた大地を蹴ったばかりのイーブイの姿。
「───エボッ」
「速ッ……」
「『つじぎり』『サイコカッター』!」
かっ飛びルナアーラに肉薄する。
オーラの刃がルナアーラに触れた瞬間、迸るオーラの奔流が一閃、夜の宵闇にヒビを入れた。
急所に 当たった!
もっとだ!!
もっと、もっと強く!! 速く!!
「『きあいだめ』『ばくれつパンチ』!」
瞬時に消えるイーブイの姿。
急所に 当たった!
ルナアーラが一閃で崩れるその数秒前、ソルガレオの足元がほんの少し爆ぜた。
それはイーブイがそこにいた証。
ルナアーラのいる場所から、ソルガレオのいる場所まで即座に飛んだことを指す。
急所に 当たった!
一拍遅れて、ソルガレオは自身が攻撃されたことを自覚したらしい。
ぐらり、と大きな体が爆ぜ、瞳が点滅したあと、意識を取り戻して体勢を立て直した。
「ぐッ……! ソルガレオ! ルナアーラ! 『テレポート』!」
「ラリオーナ!」「マヒナペーア!」
ヨウの隣へ瞬時に飛び、鼓舞するようにお互いを見つめる二匹。
直後大きく羽ばたいたルナアーラが再び天井を覆う。
ソルガレオが吠え、ルナアーラが鳴いた。
焦るな。
まだリーリエを救う手立てはあるんだ。
チャンスを見逃すな。
「ソルガレオ、『メテオドライブ』! ルナアーラ、『シャドーレイ』!」
───今だ!
「『フラッシュ』『ミラーショット』!!」
「まぶしっ!?」「リオ!?」「ナア!?」
カッ、と光り輝くイーブイの閃光に顔を歪ませる一人と二匹。
やがてそれが洞窟の暗さに戻った時、イーブイの姿はなかった。
そりゃ見えないはずだ。
今のイーブイは、神すら追いつけない速度で走ってるんだから。
───ザッ
「そっちか! 『メタルクロー』!」
───ザッ
「っ、今度はそっち! 『ねんりき』!」
───ザッ
「ッ……!!」
「おいおい、当てずっぽうじゃ当たんないぞ」
「……お前っ!! 逃げ回ってるだけじゃ勝てないんだよ!! さっきみたいに打ち込んでくれば!?」
そこまで言うなら、お望み通りに姿を見せてやるよ!
「イーブイ!」
「───エボッ」
「『スポットライト』! 『このゆびとまれ』!」
壁を蹴り、空中に姿を現すイーブイ。
その無防備な姿に、ヨウの顔が歪んだ。
そこか、とでも言うように、気持ち悪く、ニタリと笑う。
逃げ場のない空中。
ヘイト技を使っている今、新しく技は出せない。
そう思っているのだろう。正解だ。
だけど。
「リザードンッ!!!!」
「ッ!?」
リザードンが少しずつ、そのツメをボロボロにしながら枷を外した。
落下する少女の身体が、ふわりと受け止められる。
その体を、
「カメックスッ!!!!」
リザードンの隣にいたカメックスが受け取り、思い切りぶん投げた。
恐怖できゅっと目を瞑る彼女。
それでも声は上げなかった。
「フシギバナッ!!!!」
放物線を描く彼女を、幾重にも張り巡らせたツルのネットで受け止めるフシギバナ。
クッションとして網目状に織られたツルがぶちぶちと千切れ、その体が落下したのを、
「ケンタロスッ!!!!」
しっかりと、その背中に受け止めた。
「そんな……! バカな……!」
「……ッ……クロウさん……!!」
「……ありがとう、みんな」
最後に残ったHPを使い果たしてリーリエを救い、地に伏せる彼らをボールの光で包む。
全員『ひんし』になってしまった。死力を尽くして戦ったんだ。
「リーリエさえこっちに来れれば……わざわざ戦う意味はないよな」
「まだわからないのか! その女はウツロイドなんだぞ! そこまでして戦う理由がどこにある!?」
「……ヨウと一緒だよ」
「は……?」
あっけに取られるヨウ。
困惑と、苛立ちの入り混じった表情。
お前はその隣にいるウツロイドをリーリエと思い込んで戦ってきたんだろう。
アローラを襲ったウツロイドが、リーリエの姿をしてなおもルザミーネを狙っている。そう言われたんだろ。そのウツロイドに。
だから、根本は一緒なんだよ。
お前が……君が、ウツロイドに侵されていなければ。
俺の役目なんて無かったんだ。
少しのすれ違いとミスで、戦うことになってしまったんだ。
「リーリエのために、戦うんだ」
「…………」
だから。
だから……。
「もうやめてくれ、ヨウ」
目を覚ましてくれ。
そう言って、手を伸ばした。
「ぁ……」
「ほら」
ヨウが、ゆっくりとこちらに手を伸ばした。
その手が、俺の手と重なろうとして……。
「じぇるるっぷ……」
背後から、抱きつくように。
「…………ッ……!」
半透明の触手が、ヨウの身体にまとわりついた。
紫色の血管が浮かび上がる。
目は焦点が合わず、ただ浅い呼吸を繰り返す。
「……ちがう」
ぼそりと掠れた呟きが、いやに洞窟内に響いた。
「ちがう違うチガウちがう違うチガウちがう違うチガウちがう違うチガウちがう違うチガウちがう違うチガウちがう違うチガウちがう違うチガウちがう違うチガウ」
呪詛のようにぶつぶつと、自身に言い聞かせるヨウ。
その間も、ばくん、ばくんとヨウの身体が跳ね、毒が送り込まれているのが目に見えてわかった。
そうしてゆっくりと深く息を吸い、項垂れたヨウが顔を上げる。
……きっと今のそれが、ヨウがかぶっていたフードの中なんだろう。
「にせものはけさなきゃ」
「ヨウ……!!」
満足げに離れて姿を透明にするウツロイド。
どこにいるのかもうわからない。
いや、それよりも警戒すべきは……。
「クロウ。そこまで言うのなら、偽物を守ってみてよ」
「目を覚ませ!! 負けんな!! 主人公だろ!!」
「俺も
「お前が負けたらリーリエが悲しむだろうが!!」
「行くよ。俺たちのゼンリョクのZワザ……!!」
慣れた動きでZを形作るヨウ。
やるしかないのか!!
「イーブイ! 耐えるぞ!」
「えぼ!!」
「『まもる』『みきり』!」
薄く虹色に輝くバリアの内側に、もう一枚橙色のバリアが貼られる。
腕を盾にしてリーリエを庇うように立ち、衝撃に備える。
大丈夫。
Zワザ一回くらいなら、耐えられる!!
───……。
「俺のゼンリョク……耐えられるかな?」
ヨウの声。
リーリエの震えが伝わってくる。
「今の俺ならできると思うんだ」
作られたZの字の裏側で、ヨウが笑った気がした。
そのオーラは、一つの方向を向いていない。
「
……やっぱりあるか、主人公補正。
「ッッッ───!!!!」
あまりにも重すぎる。
一つの光線を凌いだと思えば、別の角度から質量を伴った光が飛んでくる。
盾代わりにした腕がみしみしと悲鳴をあげ、足を踏ん張っているのにも関わらず身体が浮きそうになる。
「えぼ……ぼ……ッ!!」
「リーリエ……逃げて……!!」
「なんでですか!? 一緒に逃げましょう!!」
「たぶん……もうすぐ
「……そんな……!!」
目に見える範囲にも、すでにバリアにヒビが入っている。
技を維持するイーブイの負担を半分背負っているからこそわかる。
二匹分の……しかも、伝説のポケモンのZワザを受け止めるのは、無理だ。
だから、せめて俺とイーブイが盾になれれば。
リーリエもろとも滅ぼし尽くさんと光り輝く閃光を、どうにかこの身に集めることができれば。
リーリエは生き残れるかもしれない。
無茶なんかじゃないよ。
だって、こうする他に何ができたって言うんだよ。
「───ッ、ヒビが……!」
『まもる』のバリアが割れた。
既にヒビが入っていた『みきり』のバリアも、ガラスが割れるような音を立てて砕け散った。
遮るものが無くなった光の数々は、俺の体を撃ち抜き、膨張し、炸裂し、焼く。
「がああああああああっ!!!!」
ああ、ダメだ。
「だめ、だめです! いやです!!」
やっぱり、主人公には勝てなかった。
「私っ……これからもずっと一緒にっ!! だからっ、だから……っ!!」
意識が、遠のく───……
「負けないで!!」
……───ッ!!!!!!
「……クロウはすごいよ。そんなにボロボロになってまで……」
「クロウさん……!!」
「まだ、立ってるなんて」
クロウとイーブイは リーリエを
かなしませまいと もちこたえた!
呼吸が浅い。
立つことだって難しい。
考えろ。
今の俺に何ができる。
今のイーブイに何ができる。
どうすれば勝てる?
どう動く?
どう───
イーブイは どうする?
「……俺たちにできること」
「……えぼ……」
「もう……わかってるよな」
ずっと頭の片隅にあった。
イーブイがそれを読み取って、ずっと使えって叫んでいた。
「……! その構えは……!」
「Zワザ……?」
こんなもの使ったらお前だって無事で済むかわかんないんだぞ。
だから使わないようにしてたのに。
……うん。
そうだね。
使うしかない。
「俺たちで放つ最大の……」
リーリエ。
「俺たちで穿つ最強の……!」
全てを捨てても、君を守るよ。
「全身全霊、魂込めた! ゼンリョクのZワザ……!!」
全てを貫け。
「イーブイ!!!!」