リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
「……見失ってしまいました」
自慢の脚力を持つケンタロスでも、障害物のある森の中を走るんじゃあ鳥ポケモンには追いつけなかった。
リーリエが降りたのをしっかりと確認してから、労わりの思いも込めてケンタロスをボールに戻してやる。
「しかしまあ、こうも森だと手がかりの一つも見つけられないなぁ……もうヒトカゲで山火事起こすしか……」
「あ、危ないので……。この森に巣があるのだとしたら、私の帽子も燃えてしまいますし」
「なるほどたしかに」
うーん……。空を飛んでるから、匂いをたどるってのもできそうにないしな。
森のこと知ってそうな良さげなポケモン捕まえて、どうにか案内してもらうとか……いや、でも虫ポケモンが大半のこの森で、しっかり言葉のニュアンスや意味を理解してくれるかなぁ……。
「とにかく行ってみるしかありません! 善は急げ、です!」
「あ、危ないって! ここ森ぞ!?」
「大丈夫です! しまめぐりを経験していますから!」
……しまめぐり、ね。
誰と? なんて野暮なことは聞かないけれど。
やっぱその言葉を聞くとテンション下がるよな……。元カレの話されてるみたい。
まあ? リーリエが誰を好きになろうが? その幸せのお手伝いができるなら僕はそれで満足なんですけどね? でもどこの馬の骨かわからないようなヤツにリーリエを渡すわけにはいかないっていうかしっかり強くてリーリエを守れて幸せにできるヤツに任せたいっていうか、まず年収は1000万以上でだな……。
と、あれこれ考えているとリーリエが声を上げた。
「どしたの」
「クロウさん、これを見てください」
「……ヘアゴム?」
「私の帽子に隠していたものです。ということは、ここにあの鳥ポケモンさんが来ていたのは確実ということです」
「なるほど賢い。偉い」
「いえ、それほどでも……。しかし、どこに行ったかまでは分かりません。せめて、ほかにも手がかりがあれば良いのですけど……」
ふむ……難題である。
辺りをきょろきょろと愛らしく見渡すリーリエをよそに、近くの木々に目をやる。
羽とか、なにか一枚でも落ちてればまだ、あのポケモンがなんなのかを調べれるんだけどな……。
せめて、何かもうひとつ……。
──────ッ
「……っ?」
「クロウさん? どうかしましたか?」
「いや、今なんか……誰かに見られてたような……」
「ポケモンさん……でしょうか?」
「わからない。けど、とりあえずこっちに向かってみよう」
「えっ……? あっ、クロウさん! 待ってください!」
視線を感じた茂みにガサガサと入っていく。無論、木々を折ったり避けたりしてリーリエの通り道を作ることは忘れない。
茂みを抜けたとき、また視線を感じた。今度は別方向から。
こっちに来いって言ってるのか……? 意図が読めない。読めないが、なぜか惹きつけられる。
まるで、電磁石に寄せられる鋼のように……体が勝手に。
「クロウさん……?」
「リーリエ……危なくなったら逃げてくれ。ケンタロスのボールを預けておくから」
ボールホルダーからケンタロスのボールを外し、リーリエに預ける。
柔らかな手でおずおずと受け取ったリーリエは、はっとしたように首を振った。
「一人で逃げるなんてしません! クロウさんも一緒です!」
「そうもいかないかもしれないでしょ。実際、視線のヌシが呼んでるのは俺みたいだし」
ふんわりと黄金色の髪が揺れる。
不安そうに眉を寄せるリーリエに対し、俺はまたもや感じた視線に引き寄せられ、森の中を進んでいく。
「大丈夫。帽子は必ず見つかるからね」
「クロウさん……」
大丈夫。方角は覚えてる。
ケンタロスだって、帰るだけならできるはずだ。
最悪、リーリエやポケモンだけでも逃して……。
「クロウさんっ!」
背中に柔らかい感触。
自分を包む、優しく甘い高貴な香り。
「リッ!?」
「ダメです」
「リーリエ……さん……?」
「一人でいっちゃ、ダメです」
お、おおお……?
これはなんだ? 俺は今夢でも見てるのか? たぶん夢だよな?
だって夢にまで見たリーリエが俺に後ろから抱きつくなんて夢みたいなことがあるわけないからこれは夢。そう、夢。
「そんなこと、言わないでください……」
頬をつねろうとしたが、その前にこれが夢ではないことを実感した。
だってこんなにも、胸が痛い。
いつのまにか、最も優先すべきリーリエのことを忘れていたようだ。自分を許せない。
リーリエだけ逃すって、そのあとはどうするつもりだ。ロケット団もやってくるし、リーリエの身に降りかかる厄災は計り知れない。
俺が守る。そう決めたんだろう?
「……目が覚めたよ」
「クロウさん……」
「行こう。一緒に」
「はいっ!」
目を閉じ、集中する。
リーリエの手の感触。リーリエの匂い。リーリエの息遣い。鋭く尖った好戦的な視線。
……これだ。
俺はリーリエの手を引き歩き出す。
この手は絶対洗わない。
それにしても夢みたいだったなぁ今の。もう少しおかしくなったフリしとけばよかった。その方がもっと長い間ハグしてもらえる……ハッ!? 今俺はリーリエを己の欲望のために騙そうとしたな!? 万死に値するぞ俺! ばかばかばか!
しゃっきりしろ。集中するんだ。
視線のヌシは常に移動している。いつまでも視線を投げ続けてくるから、それを拾って……。
──────ッ
あれ?
急に視線が……消えた? いつのまにか霧が立ち込めている、
木が避けられている小さな空間が先に見える。
どれだけ待っても視線を感じとれない。この先になにかがあるってことなのか?
「……リーリエ」
「……?」
「いや、なんでもない。行ってみよう」
茂みをかき分け、その小さな空間へ一歩踏み出す。
霧の中に見えたのは、紫色の巨軀だった。
「きゃ……」
「リーリエ」
叫びそうになったリーリエを静止する。
悲鳴をぐっと飲み込んだリーリエは俺の後ろに隠れる。
頼ってくれてる! リーリエが、俺を!!!!
ポケットからポケモン図鑑を取り出し、まだこちらに気づいていないポケモンに向ける。
『ゲンガー』
そう。やつはゲンガー。ゴーストタイプの中でもとりわけ人気な高いやつである。
ゲンガーは霧の中で何かを様々な角度から見上げている。
目を凝らして見てみると……。
「あっ……」
「リーリエの帽子だ。他にも何かある。あれは……カツラ……?」
「向こうにあるのは、メリープさんの毛……でしょうか?」
木の上に置いたリーリエの帽子をもとに、ふわふわもこもこ、もさもさしたものを周りに配置していくゲンガー。
そしてそこに、小さなタマゴを置いた。
「……たまご」
「もしかして、鳥ポケモンさんのタマゴでしょうか? ……でも」
「なんでゲンガーが別ポケモンのタマゴを?」
「そうですね。それがわかりません」
あの感じからすれば、ゲンガーは鳥ポケモンのタマゴを置くための巣を作ろうとしていたのだろう。
だけど、リーリエの帽子を奪ったポケモンが見つからない。ゲンガーならゲンガーってわかるはずなんだけどな。……いや、初代の「おばけ」の件もあるし、無いとは言い切れないんだけども。
「クロウさん。帽子はあきらめましょう。ポケモンさんたちの巣になっているのなら、それをお邪魔することはできませんよ」
「えっ、でも……」
「帽子はまた、買い換えればいいんです。大丈夫ですよぅ」
なんだその「ですよぅ」の発音。可愛いな天使か? 天使だわ。
「まあ、リーリエがそういうなら……。出てこい、ケンタロ───
──────ッ
「ッ、来る、リーリエッ!」
「きゃっ!?」
咄嗟にリーリエを抱きとめ茂みから抜け出す。
首筋にピリリと走った悪寒に沿ってそれを回避。振り返って見てみれば、俺たちが隠れていた茂みは何か雷のようなもので焦げていた。
「なんだ!? ロケット団か!?」
「く、クロウさん……」
「リーリエは後ろに下がってて」
「いえ、違うんです、クロウさん、その後ろに」
……?
どうもリーリエの様子がおかしい。
ぷるぷる震えるバイブレーションリーリエを愛おしく感じながら、なんとはなしに振り返ってみる。
「ゲン」
「…………」
「ゲンッ!」
「きゃああああああ!!!!」
「おわああああああヒトカゲええええ!」
臨戦体制のゲンガーから繰り出される闇色の球体。恐らくシャドーボールであろうそれを、リーリエの手を引いて全力で回避する。
ヒトカゲは出てきたけど、ここで『ひのこ』なんて使ったら森林大炎上まったなしの現行犯。リーリエを生きて家に帰すため、そんなことはさせられない。
「ゲンガーに当たるように『えんまく』!」
「かげ!」
「ンゲッ!? ゲンガァ!」
うっわめっちゃ痛そう。使うのはやめておこう。
「クロウさん!?」
「リーリエ、逃げれる!?」
「ええっ!?」
「ケンタロスを貸すからリーリエだけでも逃げて!」
「だっ、ダメです! クロウさんも一緒に……!」
「ゲンガア!!」
「行けるかケンタロス! 受けた上で『しっぺがえし』!」
俺たちを庇うように出てきたケンタロスの横にシャドーボールが突き刺さる。
激昂したケンタロスがゲンガーに向かって走り出していく隙に、リーリエの肩を掴んだ。
「大人を呼んできて。謎のポケモンの正体って言えるし、ポケモンに理解がある人が良い」
「でもっ!」
「リーリエはポケモン勝負ができないんでしょう!? 頼む!」
「……!!」
戻ってきたケンタロスにリーリエが乗る。
方角だけならわかってるはずだ。
「イーブイ!」
「えぼい!」
「お前の攻撃じゃあゲンガーにダメージが入らない! ヒトカゲのサポートだ!」
「えぼ!」
「『なきごえ』! その次、『ひのこ』!」
イーブイがなきごえを上げる。一瞬顔をしかめたゲンガーにすかさずヒトカゲがひのこをぶつける。
「ゲン!」
「かわせ!」
「えぼい!」「かげ!」
シャドーボール。
横跳びして避けた二匹の後ろにいる俺の足元をシャドーボールが直撃し、とんでもない土煙を上げた。
あっぶない、死ぬとこだった。
「ヒトカゲ、『ひのこ』」
「カゲ……!」
「イーブイ、なにか攻撃があればヒトカゲを庇え!」
「えぼ!」
まずいぞ。ここまで苦戦するとは思わなかった。
ケンタロスのしっぺがえしなら悪タイプだし押し切れたかもしれんが、リーリエを逃すためにはケンタロスが必要だ。
「ぴゃあ!!」
「イーブイ! 大丈夫か!」
「え……ぼぼぃぶ……」
「休んでろ。よくヒトカゲを守ってくれた」
都合よくヒトカゲが進化するなんてことはない。
リーリエも、まだ森の中だろう。
「ヒトカゲ、今度は俺が盾になる。攻撃は頼んだ」
「カゲ!? ゲッ、カゲ……!!」
「できるのかって? ……やらなきゃ」
やらなきゃ、このまま野垂れ死ぬ。
それよりは、一矢報いて……!
「かげ!」
「しまっ……!?」
はっとした瞬間、ヒトカゲが回避したシャドーボールが俺の目に入る。
禍々しく回転するエネルギー球は、俺に向かってまっすぐ飛来。
「…………ッ!」
「『しっぺがえし』、です!」
その瞬間、それを腹で受けたケンタロスがシャドーボールをそのまま跳ね返した!
ひらりと俺の頭上を超えたケンタロスには、ついさっき街へ向かったはずのリーリエが乗っている。
「ンガァ……ッ!」
「ヒトカゲさん、『ひのこ』をお願いします!」
「かげ!? か、かげ……っ!!」
「ケンタロスさんは『ふるいたてる』を!」
「ぶもお!」
的確な指示を出しながらケンタロスから降りたリーリエ。
まるで一流のポケモントレーナーのように凛とした姿で地上に降り立った女神は、俺に向かって手を差し伸べる。
「来ちゃいました!」
「りー、りえ、なんで」
「えっと……道に迷って?」
「は……???」
「その辺りはどうだっていいじゃないですか。ポケモントレーナー、1人増えましたよ?」
「……ああ」
その柔らかい手を握る。
勇気が、その手から伝わってきた。
「ヒトカゲ、頼むぞ!」「かげ!」
「ケンタロスさん、もう一踏ん張りです!」「ぶもう!」
「「ダブルバトル!!」」
ケンタロスが走り出す。しっぺがえしのダメージから復帰したゲンガーは再度攻撃の準備をしている。
「ゲンゲン……ガッ!」
「ぶも!?」
「『おどろかす』、か……! ヒトカゲ、『なきごえ』! からの『えんまく』!」
「一旦撤退です、一度『ふるいたてる』、攻撃のタイミングをみて『しっぺがえし』です!」
ダブルバトルは、1人ではしづらい。
例えば、ゲームでコントローラーを二つ同時に操作するようなものだ。
そこに、もう1人プレイヤーが現れたら?
「最初からこうすべきだったんだ」
「……?」
「いや、なんでもない! 『ひのこ!』」
「……? 『しっぺがえし』!」
2体の攻撃は見事ゲンガーへと直撃した。
とくに攻撃バフガン積みの効果抜群しっぺがえしが痛かったようで、ゲンガーは地面に倒れたまま気絶してしまった。
「おわった……のか?」
「キズぐすりを持っています。ポケモンさんを回復させますね」
「……それで、結局これはなんのタマゴなんだ?」
「わかりません……ですが、このゲンガーさんはいろんなものを盗んでいたみたいですね。巣づくりに必要そうなもの以外にも、きんのたまやおおきなしんじゅ……これは、わざマシンでしょうか? アローラにあったものとよく似ています」
「わざマシンに地方での違いってあるんだ……?」
受け取ったわざマシンを起動する。
ディスクのようなものには、シャドーボールと表示されていた。
「シャドーボールのものみたいだ。No.30って書いてある」
「えぼい!」
「うわっ、なんだお前急に」
ボールから出てきたイーブイが俺の肩に乗る。重い。
「……覚えたいのか? シャドーボール」
「えぼい!」
「じゃあ……やるけど……いいか?」
「えぼぼえぼ!」
どうやら今回の戦いで役に立たなかったことを悔やんでいるらしい。
たしかに、今のイーブイはノーマルタイプのわざしか覚えていない。シャドーボールを覚えたら、唯一攻撃ができないゴーストタイプにも有利が取れる。
「よし、イーブイ。行くぞ」
イーブイの頭をわざマシンで軽く小突く。
イーブイは四つ目のわざに『シャドーボール』を覚えた!
「あっ」
「わざマシンがボロボロに……」
「使い捨てタイプじゃねえだろ、なんでだ」
「本体にダメージが入っていたんでしょうか……」
塵となって風に舞うわざマシンだったものを見送り、俺はイーブイを肩に乗せたまま、なんとはなしに森を見る。
「帽子の代わりになるもの、あるでしょうか……」
「うーん……そもそも鳥ポケモンの巣って枝とかで作るもんだろ。どうして帽子なんかを使ったのかが気になるな」
「ゲンガーさんのタマゴという線はどうでしょうか」
「わざわざ鳥ポケモンの巣っぽく作るか? 体で温めるのがセオリーじゃないかな」
まあ悩んでいても仕方がない。
「ここは一旦帰ろう。ケンタロスにはもう少しだけ頑張ってもらって……」
「お願いしますね、ケンタロスさん」「ふも……」
「……えぼ?」
ん、どうしたイーブイ。
俺の肩から飛び降りたイーブイは、地面に落ちていた何かを拾い、こちらに差し出してきた。
これは……Zクリスタル? なんだこの模様。
……というか、アローラ産わざマシンだのZクリスタルだの、ここ本当にカントーなんだよな……?
「クロウさーん! 日が暮れてきました! 早く帰りましょう!」
「ああ、わかった! 戻れ、イーブイ」
俺はポケットにそれを詰め、リーリエの元へと走った。