リーリエロスでカントー行ったよ 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
「クロウさん、起きてください? 朝ですよ!」
「おあようリーリエ……」
朝起きて最初に見るのが推しって俺、リーリエファンの中で最も贅沢な生活してると思う。
気づかれないようにリーリエに合掌。我が桃源郷はここに在りと見た。
「今日はサンドイッチですよ」
「いただきます」
「お、クロウくん。昨日のレポート、しっかり見たで。まさかゲンガーやとはなぁ」
おろ、初めてマサキに名前呼びされた。信頼されたんだろうか。
それはそうとしてサイドで紅茶入れるリーリエ美しすぎるだろ。もはやその姿を見ているだけで水5杯は飲める。お米なら7は食える。それほどまでに眩しくそして尊いのだ。
「アリガトウゴザイマス」
「相変わらずやな。まあええわ。これ今回のお礼や。少ないけどとっとき」
「わあい」
「クロウさん、お茶です」
「ありがとうリーリエこれ受け取ってくれ」
「い、いただけません!」
「金より大事かいな!」
苦笑いしてツッコむマサキと、差し出された封筒を俺に押し返すリーリエ。
ていうかリーリエの面食らった顔かわいすぎんか? やばい鼻血出そう。
「ン゛ン゛、今日はなんか調査みたいなのはないんですか?」
「今日はそんなのあらへんな。クロウくんが倒したゲンガーも見つかっとらへんみたいやし、ゆっくりしててや」
ふうん。じゃあレベル上げでもするかな。イーブイを一撃でバトルを決めれるレベルにするか、今日中にヒトカゲを進化させたい。
高望みしすぎかなぁ?
「でしたらクロウさん、私に付き合ってくださいませんか……? 話したいことがあるのです」
「ええ喜んでマイプリンセス」
「……?」
「なんでもない」
リーリエは俺のものじゃないんだからマイプリンセスとか不敬罪だぞふざけんな首切るぞ俺。
それはそうとして、リーリエが俺に話したいことってなんだろう。
「サンドイッチを食べ終えたら、車まで来てください。待ってます」
ヒュゴッ。
「食べ終えたよ」
「え、あ、はい……じゃあ行きましょうか……」
一瞬で俺の皿に盛り付けられたサンドイッチを吸った。
リーリエを待たせるなんて言語道断。あ、でもなんか色々準備とか必要なのか……? 女の子は準備がいるとかってのはよくある話だし、今度から飯を吸うのはやめておこう。ほどほどが一番、ほどほどがね。
引き攣り笑いするマサキの見送りを背にリーリエの住むエーテル財団のキャンプカーへと向かう。
初めて会ったのもこのキャンプカー。めちゃくちゃ心臓飛び跳ねたな、あの時は。
「少し待っててください。色々準備します」
やっぱり準備必要だったのか。気をつけなければ。
いやあしかし今日のリーリエも尊くそして顔が良いなぁ……。清廉なお声は耳が欠損していても骨に響いて脳がとろける完全合法麻薬。
座る時とかさっきの紅茶入れてる時とか、一つ一つの作法に規範があるのが本当にお嬢様すぎてマジで現界化不可避。何が良い? って言われるとその存在全てとしか言い表せない推しポイントの詰まりに詰まったあの笑顔! あれば今でもガンに効くしそのうち万病に効くようになるしなんなら俺が今健康体なのはリーリエのおかげと言っても過言ではない。いやあリーリエは百合からくるその名前の通り百合のように綺麗で清楚で時に無邪気さも併せ持つ完璧な女性だと思うんだよねその点リーリエってすげえよな最後までかわいさたっぷりだもんってCMが出てきてもおかしくはないと思うんだけどその辺はどう思う?
「お待たせしました」
「ん、大丈夫そう?」
「はい。入ってください」
お邪魔します。
ふむ、前回とあんま変わってないな。
洗い物のフライパンが水に浸かっている。コップには使ったあとがあり、小さなテーブルにはしまめぐりの証が依然として飾ってある。
「こちらです」
「2階?」
「どうぞ」
リーリエが後ろに一歩引き、階段を先に登るように促す。
そういえば、社交辞令講座みたいなので聞いたことがある。先に階段を登ってもらい、後から自分が進む。降りる場合は自分が先。目線だったかを探させて、地位を相手の方が上であると考えさせるとか……うんたらかんたら。
こんな何気ない動き一つにもリーリエの気遣いや育ちの良さが滲み出ててマジで限界化しそう。なんなら俺が下から登りたいくらい。いえ、決してスカートの絶対領域を覗きたいという意志は無く。誓っても良い。見たら目を抉ると。
「じゃ、失礼して……」
「登ったら奥の方へ」
「奥?」
奥の方にはベッドが一つ……って。
「これは……」
「母様です」
ベッドに横たわるのは、すやすやと寝息を立てているルザミーネであった。
超絶清楚完璧最高リーリエの面影のある、二児の母とは思えないただの美貌でそこに横たわっている。
「クロウさんは、何故か知っていますが……お母様は、現在は深く眠っています。少し前、事故があって……」
「ウツロイドとの融合により神経毒中毒みたいな状況になり、その後ウツロイドの毒が抜けない。知ってるから取り繕わなくても大丈夫」
「……そうでしたね」
リーリエは暗い表情を浮かべたまま、俺に笑みを見せた。
いつもの魅力的で思わず惚けてしまいそうな笑みでは無く、力の入り切った堅苦しい笑み。
「母様の容体は、最初こそ回復の余地があったのですが……1日の中で、たまに起きてご飯を食べ、また泥のように眠ってしまいます。起きている間も、時折幻覚を見るようで……とても苦しそうにしています」
幻覚……。ウツロイドってそんなに脅威だったのか。
衰弱したままだからマサキの家にってのはわかってたけど……。
「マサキ博士も手を尽くしてくれています。ですが……不安でならないのです」
「……」
「もしかして、いずれは……」
リーリエが言ってはいけないことを言おうとしている。
だが俺には、止める術が思い当たらなかった。
「大丈夫よ」
「……ッ」
「大丈夫」
「母様……おはようございます……」
「今日の朝ごはんはなあに? リーリエ」
「サンドイッチ……です……」
「あら、美味しそうね」
くすんだ金髪が揺れ動く。
疲れた目をしたルザミーネが、傍に置かれたサンドイッチに手を伸ばした。
「あなたは?」
「クロウと言います。事は大体知ってます」
「そう……。ねえ、クロウくん。わたくしになにかあったら、このこをお願い」
「母様……?」
「この命に変えてでも」
「ウフフ! リーリエ、良い
「母様! さっきのは、どういう……?」
「大丈夫よ、ただの保険だから」
上品に笑うルザミーネ。対してリーリエの表情は晴れない。
「ねえ、窓を開けてくださる?」
「はい」
「良い風ね……心地いいわ」
「カントーの風は爽やかですね」
「ねえリーリエ。グラジオは何をしているかしら?」
「…………」
リーリエが言葉に詰まる。
「ルザミーネさん」
「……?」
「神経毒を治すの、僕も協力します」
「え……?」
「いつまでもリーリエにこんな顔をさせられませんから」
「……あなた……」
「どんな素材でもとってきます。ですから、自分が何かあったらなんて言わないでください」
「……ウフフ。そうね」
───ドォォォン───
……あ?
「また来やがったかロケット団! ルザミーネさんすみません、ちょっと離席します!」
「くっ、クロウさん!? そっちは窓……」
2階から目薬ならぬ俺。
スーパーヒーロー着地成功。
「こんどは負けないわよ……こんどこそアンタをぎゃふんと言わせてやるんだから!」
「目的違ってます」
「いいのよ! 行けェいゴルバット!」「やるぞ、アーボ!」
「頼んだ、イーブイ!」
───ドォォォン───
「あの子面白いわね」
「クロウさん……」
「なんだかあの子、どこかで見たような気がするのだけど。似た雰囲気の子が、あなたのお友達にもいたわよね」
「クロウさんはクロウさんです。もう、ヨウさんの力は借りないって決めましたから」
「我が娘ながら罪作りな子ね」
……?
母様は一体何を言っているのでしょう……?
「なんだか眠くなってきたわ」
「また、眠られるんですか……?」
「お昼には起きるわ。もしくは晩に」
「……母様……」
「行ってあげなさい」
……え……?
「あの子、必死に頑張ってる。今も」
───『シャドーボール』で吹っ飛ばせ!───
───ボゴォォォン!───
「応援してあげなさい」
───戻れイーブイ! 頼んだ、ヒトカゲ!───
───アーボ、『まきつく』!───
「あの子の鋼のような意志は、きっと誰かの応援を糧に強くなるのよ」
「誰かの応援を……?」
「そんな人を、知っているでしょう?」
「…………はい」
「おやすみ、リーリエ。またお昼か晩に」
そう言うと、母様は私の頭から手を離して眠ってしまいました。
窓の外では、ヒトカゲさんに指示を出すクロウさんが未だ優勢を保っています。
「……よし」
私は覚悟を決め、壁にかけてあったリュックを手に取るのでした。