ガールズ&パンツァー  友情と絆   作:熊さん

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『がんばれ! あひるさん! その2』

 

 茨城県インターハイのバレーボールの会場は、県都の水戸市総合体育館で行われる。

 顧問である保健の講師は「これぐらいしかできないけど」と言って、前日に近くのホテルを部費で借りて、部員全員が万全の体調で試合が臨めるようにしてくれた。

 戦車道チームは、試合当日の朝一の電車に乗り込み、バレー部を応援する為に水戸市へと向かった。

 当然だが、冷泉麻子はふらふらの状態で武部沙織、五十鈴華の肩を借り、半分寝ながら電車に乗り込んだ。

 

 

 各部屋をチェックアウトした『バレーボール部』は、ホテルのロビーに集合すると、各自が荷物を持ってタクシーに乗り込んで体育館へ向かった。

 5分ほど移動して、体育館入口の門の前でタクシーを降りた。

 いよいよである……

 他の高校のバレー部員と思われる高校生が、続々と入口から体育館を目指して歩いていた。

 

「磯辺殿……、自分は緊張のしすぎで目が回りそうであります……」

「磯辺キャプテン、私もグデーリアンと一緒だ。ここに着いて、改めて自分の役割の重大さに正直ビビッている……」

 

 磯辺典子の方を見て、秋山優花里とエルヴィンは少しこわばった顔で話しかけてきた。

 磯辺典子は、首を横に振って笑いながら2人を励ました。

 

「いいえ、私だって緊張しています。私だけじゃないはずです。きっと皆も……でしょ?」

 

 磯辺典子は、佐々木あけび、近藤妙子、河西忍、山郷あゆみの方を見ながら訊いた。

 四人も黙ったまま頷いた。

 それを見た磯辺典子は、再びエルヴィン、秋山優花里の方を見直し、まるで自分に言い聞かせるように励ましたのであった。

 

「私達はやれることは全部やってきました。負けても後悔しないように……です。それは皆分かっているはずです。西住隊長が教えてくれた『あきらめたら負け』という言葉を忘れずに『バレーボール部』の初戦に挑みたいと思います」

 

 磯辺典子の、この力強い言葉は部員全員も同じ気持ちだった。

 そうだ……。やるべきことはやったのだ。

 部員全員が黙って頷いたのである。

 

 

 

 体育館一階にある学区ごとに分けられた控室を探していると、河西忍が前方を指差し、声を上げた。

 

「キャプテン! ありました。あそこです!」

 

 『大洗女子学園高等学校』と看板が書かれたブースがあった。

 それぞれが自分の荷物をブースの中に置くと、全員が看板を見た。

 

「なんだか、プラカードみたいな看板ですね?」

「はいっ、プラカードなんですよ。これを持って試合前に参加校全部で入場行進があるんです」

「そうなんですか」

 

 秋山優花里の質問に磯辺典子が答えた。

 そして、磯辺典子は懐かしそうに、そのプラカードを眺めていた。

 一年生の時、控え選手だった磯辺典子は、当時の三年生の好意でプラカードを持ってその入場行進の先頭を歩かされたのである。

 そして、磯辺典子は山郷あゆみに向かって言った。

 

「山郷さん、入場行進の時、プラカードを持ってください!」

 

 磯辺典子の突然の要請に、メンバーのユニフォームを準備していた山郷あゆみは驚いて振り返った。

 

「えっ……、マネージャーの私は入場行進には参加できません!」

「山郷さん…… ユニフォームの数、数えてみて……」

 

 磯辺典子、佐々木あけび、河西忍、近藤妙子の四人は笑っている。

 黙って秋山優花里とエルヴィンは頷いている。

 その様子に驚いた山郷あゆみは、急いでユニフォームを取り出して、その場に並べ始めた。

 すると、その中にゼッケンが『7』と書かれた、新品のユニフォームが混じっていたのである。

 

「磯辺キャプテン……、このユニフォーム、私知らないんですが……」

 

 困惑する山郷あゆみに、磯辺典子は真剣な表情で言った。

 

「山郷さんが居なければ、ここまで自信を持った練習ができませんでした。山郷さんは七人目のメンバーなんです。当然ユニフォームが在って当たり前なんですから」

 

 磯辺典子は、茨城県バレーボール協会へのメンバー表提出の時、本人には内緒で山郷あゆみも選手として登録していたのである。

 そして昨日他のメンバーにその趣旨を説明し皆の賛同を得て、山郷あゆみ用のユニフォームを鞄に入れたのであった。

 

「磯辺キャプテン……。私……」

「いいのよ、あゆみちゃん。私達からもお願いします。ぜひプラカードを持ってください」

「……忍ちゃん」

  

 真新しい自分のユニフォームを抱きしめた山郷あゆみだったが、少し複雑な表情を見せた。

 しかし、それも一瞬で仲間の思いやりに感謝をして、ニッコリと笑顔を返したのであった。

 

 

『参加校の皆さんに連絡いたします。間もなく、開会式が始まります! 参加高校の選手の方は、体育館北口に集合してください!』

 

 場内アナウンスが控室に流れた。

 それを聞いた磯辺典子は、部員に向かって言った。

 

「さあ、急いで着替えをしよう! 各自着替えが済んだら全員揃うまで待ってて。全員揃って移動しよう!」

『ハイっ』

 

 メンバーはそれぞれ自分のユニフォームを取ると、急いで更衣室へと向かった。

 

 

 

「もう……麻子! いいかげん起きなさいよ! 体育館まで私達に運ばせるつもりなの!?」

「……眠い……眠い。 ……いや、起きねば、起きねばならぬ……」

 

 武部沙織のヒステリックの呼びかけに、冷泉麻子もようやく動き出した。

 電車の中でも爆睡していた冷泉麻子であった。

 そんな2人の会話を聞きながら、戦車道の各チームは苦笑していた。

 

 

 水戸駅で電車を降りたメンバーは、水戸市総合体育館に向かって歩きだした。

 場所はあらかじめ調べておいたのだが、そんなことは杞憂だった。

 あきらかにバレーの応援に行くのであろう高校生達が同じ方角へぞろぞろと歩いていた。

 

「みぽりん! すごいね。この人たち全員応援にいくのかな?」

「うん、すごい数だね。びっくりしちゃった!」

「もしかして、イケメンもいるかもしれないね!? どうしよう……ナンパされちゃうかも!?」

 

 武部沙織が、一人でなんだかワクワクしている様子がわかる。

 すっかり目が覚めた冷泉麻子と隣を歩いていた五十鈴華が、大きなため息をつきながら、そんな様子の武部沙織を二人そろって諌めた。

 

「……沙織、お前はいったい何しに行くつもりなんだ?」

「そうですよ、……もう、沙織さんには、行動制限をさせてもらいましょうね」

 

 西住みほは2人の言葉に苦笑いで、武部沙織は頭を掻きながら「ごめん、ごめん」と2人に謝った。

 

 

 

 体育館に着いた戦車道チームの面々は、その熱気に圧倒されつつ、体育館入口で販売されていた試合プログラムを見た。

 そしてAコートの第一試合に行われる母校の試合が間近で見られる席を確保した。

 ちょうど正面に、入場行進の一番手になる学校が並んでいた。

 前年度優勝校の「県立水戸商業高校」である。

 応援団席に座った武部沙織はトーナメント表を指でなぞりながら、母校が、もし勝ち上がっていったらどうなるのか確かめていた。

 

「みぽりん! 『あひるさん』達が勝っていったら、今日、最後に水戸商業と戦うことになっちゃうよ」

「えーっ! そうなの?」

 

 西住みほは、武部沙織からプログラムを借りると、自分も確かめてみた。

 

「……これは『あひるさん』達には強敵だな」

 

 冷泉麻子がぼそりと言うと、戦車道チームの全員が頷いた。

 

「しかし、まずは一回戦です。皆さん力の限り『バレー部』を応援しましょう!」

 

 西住みほが全員に告げると、全員が「はいっ」と返事をした。

 間もなく始まる開会式に向けて、続々と各高校の応援団が席に着いている

 

「もうすぐ始まるんですね。磯辺さんの最初で最後のインターハイが……」

「……絶対悔いを残してもらいたくないな。磯辺さんには……」

 

 並んで座る五十鈴華と冷泉麻子の会話に、西住みほ達は黙って頷いたのである。

 しばらくは全員無言だったのだが『かばさんチーム』のカエサルとおりょう、左衛門佐が独特の緊張感に耐え切れなくなったのか「プハ―」と息を吐き出した。

 

「……まったく、この緊張感はどうにかならないものだろうか?」

「本当ぜよ! まるで自分が試合するみたいぜよ!」

 

 カエサルが言うと、おりょうが返した。

 それを聞いた左衛門佐が腕を組んで真顔で呟いた。

 

「これは『赤穂浪士の討ち入り直前』のようだ」

『それだ!!!!』

 

 「うさぎさんチーム」をはじめ、他の各チームも息を呑んで時間が来るのを待っていた。

 

 

 

 この間「バレーボール部」でちょっとした事件が起こっていた。

 更衣室で着替えをしたバレー部員達だったが、一番最初に着替えた磯辺典子が「プログラムを貰ってくるから」と言って、更衣室を出たきり戻ってこないのである。

 

「キャプテン、遅いね」

 

 佐々木あけびが心配そうに言った。

 少し時間が掛かりすぎているので、部員全員で大会本部席に行くと「学校配布用のプログラムはもう取りに来た」と言われたのである。

 不思議に思い、控室ブースに行ってみたが、磯部典子の姿はなかった。

 

 心配になったメンバーは、話し合って手分けして探そうという事になった。

 エルヴィンが母校のブース近くにあった屋外への出入り口の方へなんとなく近づいてみると、誰かが外で泣いている気配がした。

 そっと、メンバーを呼んでドアを開けてみると、磯辺典子がしゃがみこんでプログラムを広げて泣いていたのである。

 

「ある……、ちゃんとあるよ……。学校の名前が……、皆の名前が……、私の名前が……。ちゃんと書いてある……」

 

 出場選手として登録できる最大人数は十四名。

 ほぼ全部の高校は十四名枠一杯使ってある。

 その中で、たった七名だけのチーム……。

 それが『県立大洗女子学園高等学校』であった。

 

 廃部を告知され、それでもあきらめなかった「あひるさんチーム」リーダー、磯辺典子。

 バレー部員として過ごした3年間の高校生活の中で、まだ一度も高校バレーの試合コートに立ったことのない磯辺典子。

 「バレー部復活」の為に全てを注ぎ、自分が試合に出る事をあきらめて、後輩の為に自分を押し殺そうとした磯辺典子。

 そんな彼女の辛かった思いがわかる人間は、決して誰もいないであろう。

 そんなキャプテンの小さな背中を見たバレーボール部員は、それぞれが心の中に熱い決意を秘めたのであった

 

 

 そっとドアを閉めたメンバー達は、控えブースを出ると更衣室へ移動した。

 しばらくして、磯辺典子が更衣室に戻ってきた。

 

「ごめん! ごめん! トイレが混んでて遅くなっちゃった!」

 

 メンバー達は、あきらかに涙を拭いた後で顔を洗ってきたのであろう磯辺典子の真っ赤な目の廻りに気付いたが、誰も口に出さなかった。

 

「じゃあ、移動しよう!」

『ハイっ!!』

 

 入場行進の為に、部員達は急いで、体育館北口へ向かった。

 

 

『ただ今より、茨城県インターハイ、バレーボール大会の開会式を執り行います。選手入場!!』

 

 場内アナウンスの後、ファンファーレが体育館に響き渡り、行進曲が流れ始めた。

 いよいよ『大洗女子学園バレーボール部』の挑戦がはじまる……。

 

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