入場行進曲に合わせて、前年度優勝校から順に体育館へ入場してきた。
各高校の応援団は、自分の母校が呼ばれるたびに大声で声援している。
『県立大洗女子学園高等学校!!』
母校の学校名が呼ばれた!
西住みほ達、戦車道チーム全員が思わず立ち上がり拍手を始めた。
「みんなが来たぁ! あっ、あゆみちゃんが先頭だよ! あっ、ユニフォームを着てる!」
大野あやが叫ぶと、驚いた『うさぎさんチーム』は一斉に目を凝らした。
他の入場してくるチームと比べて、人数が極端に少ない。
しかし、どのチームよりも胸を張り、堂々と行進してくるように見えた。
赤と白を基調にした「バレーボール部」のユニフォームが木目の体育館の床によく映える。
山郷あゆみがプラカードを持ち、磯部典子、エルヴィン、秋山優花里の3年生が続き、佐々木あけび、河西忍、近藤妙子の順に、合計七名の小さなチームが、応援団の目の前に近づいてきた。
「磯部さーん!!」
「ゆかりん!! がんばれぇ!!」
「エルヴィン!!」
「あゆみちゃーん! あけびちゃーん! 忍ちゃーん! 妙ちゃーん! みんながんばれぇぇぇ!」
戦車道チーム全員がそれぞれに大声を張り上げ、声援を贈る。
そんな応援団席をチラリと見たバレー部員は、行進しながらニッコリと笑った。
参加校すべての入場行進が終わり、大会会長の開会宣言の後、つつがなく開会式が進んでいった。
そして開催初日の茨城県インターハイ、バレーボール大会の熱戦の火蓋が切られた。
Aコートの第一試合で、大洗女子学園高校対○○大学付属高校の試合が行われる。
「さあ、準備を始めるよ。『うさぎさんチーム』のみんな! 手伝って!」
『ハイっ!!』
武部沙織は『うさぎさんチーム』と協力して、持ってきた応援用の横断幕を二階応援席の手すりに広げ始めた。
そんなに大きくはない標準的な横断幕なのだが、他のチームと大きく違う所があった。
緑を下地にした横断幕中央上部に、大きく大洗女子学園の校章があり、その下に翼を広げた『アヒルチーム』のシンボルがある。
それを円状に囲むように戦車道各チームのシンボル「あんこう」「かば」「うさぎ」「カメ」「かも」「レオポン」「ありくい」の七種類の動物があった。
そして、その各動物から外へ向かって放射線状に「言葉」が縫いつけてあった。
『おおっ……すごいね、あの横断幕!』
『なんだか、かっこいい!!!』
対戦高校の応援団席から、驚きと称賛の声が聞こえてくる。
この奇抜な応援横断幕は、その後話題となり、他校の応援団も見学に来るほどになったのは後日談である。
しばらくして「バレーボール部」と顧問の先生が、荷物を持って体育館へ入ってきた。
体育館に入る時横一列になり、試合コートに向かって一礼した後、思わずその場で立ちすくんだ部員達である。
「磯部殿……。あの横断幕すごいですね!」
「……はいっ、びっくりしますね」
秋山優花里の驚きに、同じように返した磯辺典子だった。
また、エルヴィンも同じような気持ちだったのだろう
「磯辺キャプテン、これはまた心強い応援だ……」
「はい、皆の思いが込められていることがはっきりわかります」
この磯辺典子の思いは、バレーボール部員全員の思いであった。
戦車道チームの優しい心遣いから復活したバレー部が、ついに初戦を迎えることができた。
Aコート脇にある自チームの試合ベンチに運んできた荷物を置くと、それぞれ強い決意で準備運動を始めたのである。
『両チーム、選手集合!』
主審の号令で、ネットを挟んで一列に集合した両チーム
『ただ今より、大洗女子学園高校対○○大学付属高校の試合を始めます! 一同礼!』
『よろしくお願いします!』
両チームの挨拶が終わった後、コートの中央で円陣を組んだバレーボール部。
磯辺典子が部員全員に、激を飛ばす!
「みんな! 緊張してると思うけど、それは相手も同じだよ! 先に主導権を作って行こう! 『あきらめたら負け』だよ。『根性』で相手に喰らいついていくからね! いいっ!?」
『ハイっ!!』
「大洗女子学園! ファイトーッ……」
『オーッッッ!!』
試合コートに散った磯辺典子、秋山優花里、エルヴィン、佐々木あけび、河西忍、近藤妙子の六人は、なぜか六人全員応援横断幕をもう一度チラリと見た。
特に『あひるさんチーム』は、横断幕中央にある「翼を広げたあひる」をジッと見つめた。
そして、主審のホイッスルがコートに響き、第一試合が始まった。
『ソーレッッッ!!』
対戦チームの応援団の掛け声と共に、相手チームのサーブから試合が始まった。
「ハイッ!!」
秋山優花里が声を上げてレシーブ態勢に入る。
しかし、十分に腰が落としていなかった為、手だけのレシーブになり、何とか返すことはできたが、ボールは相手コートの外側に直接飛んで行ってしまった。
「すみません!」
「ドンマイ! 次、落ち着いていこう!」
磯辺典子が手を叩きながら、秋山優花里を励まし鼓舞する。
秋山優花里は緊張の為か普段より動きが鈍い。
しかし「あひるさんチーム」の四人の奮闘や、エルヴィンの度重なる励ましから徐々に堅さが取れ、いつもの秋山優花里の動きに戻って行った。
試合は、押しつ押されつのシーソーゲームである。
もう応援団席の戦車道各チームは、狂ったように声援を続けている。
あの普段恥ずかしがり屋の西住みほも大声を張り上げるし、めったに表情を崩さない冷泉麻子も得点が入ると万歳し、点を取られると「ドンマイ! ドンマイ!」と声を出した。
そして、一対一の同セットで迎えた、第三セット。
マッチポイントを先に迎えた「大洗女子学園」の近藤妙子のスパイクが相手コート中央に叩き込まれ、バレーボール部は勝利したのであった。
近藤妙子のスパイクが決まった瞬間の応援団席は、まるでお祭りのようだった。
しかし、西住みほは騒ぐ各チームのメンバーに向かって静かに諌めた。
「みんな! ダメだよ! 大騒ぎするのは……。負けたチームの気持ちも考えてあげて!」
そう言われてハッとした各メンバー達は、ピタリと騒ぐのを止めた。
各チームは騒ぐのを止めると、両校の健闘を称える拍手へと切り替えたのであった。
「セットカウント、二対一で大洗女子学園の勝ち! 一同礼!」
『ありがとうございました!!!』
主審の宣言の後、お互いに挨拶をした両高校。
負けた相手チームは、肩を寄せ合って泣いていた。
彼女達もこの試合に賭けてきたのであろう。
しかし、これも勝負の結果である。
控室ブースに戻ってきた「大洗女子学園バレーボール部」のメンバー達は、全員が喜びを噛みしめていた。
(勝ちたいというのは本当だったけど、まさか、本当に勝てるとは思わなかった……)
メンバーは初戦を突破できたことを素直に喜んだ。
磯辺典子は、皆の前に立つと、感謝の気持ちを素直に告げた。
「みんな、大変な試合だったけど、よく頑張ってくれたよ! これでまた次の試合ができるね!」
『ハイっ、キャプテン!』
「もし、次の試合にも勝てたら、明日の決勝リーグ出場校を決める、Aパート決勝戦に進めるよ。多分相手は、Aパートシード校の『水戸商業高校』になると思う。でも、まずは次の試合も全力で勝ちに行くからね!」
『ハイっ!!!』
磯辺典子の激に、全員が声を合わせて返事をしたのだった。
試合を終えた「バレーボール部」のメンバー達は、それぞれ思い思いに休息を取った。
その中で山郷あゆみは、甲斐甲斐しくメンバーのお世話をしていた。
汗拭きタオルを皆に配り、冷たい飲み物も準備していた。
特にバレーの試合に始めて出場したエルヴィンと秋山優花里の様子を伺いながら、
精神的にも肉体的にも疲れたであろう二人の先輩に気を配ったのである。
そこへ、武部沙織と『うさぎチーム』がやってきた。
「みんなぁ! 初勝利おめでとう! やったね! 磯辺さん!」
「はい、ありがとうございます。あと、応援うれしかったです!」
磯辺典子の返事に部員全員がその場に立ち上がると、一斉にお辞儀をした。
武部沙織の明るい声は、本当に嬉しそうであり、改めて部員全員が勝利を噛みしめた。
「それでね、みんなに差し入れだよ! ジャジャーン!!!」
前を開けて横に身をずらした武部沙織の後ろから、澤梓ら『うさぎさんチーム』のそれぞれが大きなお弁当箱を持っていた。
それをブースの中にそれぞれ置いて行った。
「差し入れの中身は開けてからのお楽しみだよ! 二回戦も頑張ってね! 応援しているから」
そう言うと武部沙織は部員の前でピースサインを出した。
磯部典子もピースサインを出すと『うさぎさんチーム』のメンバーもバレーボール部員も全員がピースサインを出し合った。
「二回戦はお昼を回ってからだから、今のうちに腹ごしらえしておこうね」
「武部殿のお弁当ですか……」
磯辺典子の指示を聞いて、秋山優花里は、並べられたお弁当箱を見て呟いた。
隣に立っていたエルヴィンは、その呟きに気付いて秋山優花里に訊ねてきた。
「グデーリアン、武部さんは確か、家庭科が得意だったんだよな」
「はい、しかし、武部殿の一番得意なのは料理ですよ!」
「えっ……。そうなのか?」
秋山優花里の答えに聞き返したエルヴィンだったが、他の部員達もこの会話を聞いている。
「はいっ! お世辞ではなく、レストランのシェフ並みの実力ですよ!」
「……(ゴクリ)……」
笑顔で答える秋山優花里の顔を見た部員達は、思わず唾をのみ込み、今度は中身が隠されているお弁当箱を見た。
「よし! それじゃあ食べようか!?」
『ハイっ!!!』
そう言うと、部員全員でお弁当を中心に円を作って座り、お弁当の蓋を次々に開いていった。
もう、この先の説明はいらないだろう。
それこそ、あっという間にお弁当箱の料理が、部員の胃袋の中に消えていった。
「私がお弁当箱を返しに行ってきます!」
そう告げた山郷あゆみは、きれいになったお弁当箱をひとまとめにして、応援団席へと向かった。
「おいしかったなあ。お弁当……。私も武部先輩に料理を習おうかなぁ……」
山郷あゆみがそう呟きながら、一般通路から2階への階段を上ろうとした時、背後から声を掛けられた。
「あゆみちゃん! あゆみちゃんだよね!」
呼びかけられた山郷あゆみは「はい!?」と言って振り向いた。
そこには、水戸商業高校の制服をきた中学時代の同級生がいた。
「やっぱり、あゆみちゃんだ! 久しぶりだね」
「うん! ほんと、久しぶりだね。元気だった?」
「うん、あゆみちゃんこそ元気?」
「うん、元気だよ!」
お互いに再会を喜び合っていたが、同級生はいろいろと訊ねてきた。
「あゆみちゃん、バレー部に入ってたんだ。全然知らなかったよ! 去年はインハイ参加してなかったよね。新しくあゆみちゃんが作ったの?」
「……ううん。違うよ。前からバレー部はあったんだけど、いろいろあってね。でも今年は参加できるようになったんだ」
「そっかぁ……。ところであゆみちゃんは、試合には出ないの?」
「……ううん、出ないよ、私、マネージャーだから」
山郷あゆみの説明に、驚いた表情になった同級生は、さらに質問してきた。
「えっ……マネージャー? でも、あゆみちゃん、ユニフォーム来ているじゃない」
「これはね、先輩の好意で着せてもらったんだ」
この返事を聞いた同級生は、視線を落とし、さも残念そうに呟いた。
「そうなの……、残念だなぁ……『千手観音』がまた見られるのかと思ったのに……」
この言葉にピクリと体を震わせた山郷あゆみは、俯いて同級生に懇願したのである。
「……ごめん。その呼び方は止めて。もう忘れたいんだ……その『あだ名」」
「……ごめんなさい。あゆみちゃん、……わざと言ったわけじゃないから」
同級生は事情を知っているのだろう。
即座に同級生は、山郷あゆみに謝った。
山郷あゆみは、顔を上げると笑顔で同級生を許した。
「ううん、分かっているから気にしないで、それじゃ用事があるから、私行くね……」
そう言った山郷あゆみは、クルリと身を回すと、階段を上って行った。
各パートの試合が、順々に消化されていく。
参加校も段々と絞られていく。
無事に初戦を突破した「大洗女子学園」チームは、二回戦をも突破して、ついにパート別決勝戦に駒を進めた。