殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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第一章 殺人鬼エリリンの百合畑生活
第一話 完膚なきまでにぶっ殺された



 

 

 

 ギャハハと笑う殺人鬼は異形の関節を回し、母親の肉体を八つ裂きに轢き裂いた。鼓膜に響くモーター音は鳴りを収め、熱を持たない指からは血が滴る。

 

 クフフフと笑う殺人鬼は細身の長槍を刺し、父親の身体を蜂の巣に仕立て上げた。骨身に染みる神楽は強かに終幕し、温かみを感じぬ顔には優しげな笑みが見えた。

 

「俺はヒーローじゃねぇが悪の敵。殺すべきを殺す執行者」

 

(わらわ)は十三枚目の代替物。諸悪を殺す神の鏡」

 

 轢殺した殺人鬼は人の家の水道を勝手に使って手を洗い、刺殺した殺人鬼は人の家のティッシュを勝手に使い槍を拭った。

 

「……ありがと」

 

 恨み言の百や二百も出すべき状況だっていうのに、ボクの口から出た言葉はそんな、人道的かつ非道なものだった。

 

「ギャハハハハハハッ! ありがとうだってよこのバカ!!」

 

「クフフフッ、なるほど。親が親なら子も子というわけか」

 

 笑う二人の殺人鬼と、我が家という名の危険地帯で安堵しているボク。揃って漏れなくなんとびっくり同級生。

 

「おい、ずらかるぞ。テメェもとりあえずうちに来い」

 

「ほう? ついに(わらわ)以外の女子(おなご)を家に連れ込むか」

 

「テメェんち、神社だろうが。出前頼みにくいんだよ」

 

 その日から(正確にはもう一週間後くらいから)、僕の人生は陰ながらも明るいものに成り果てた。……ちょっとばかし、血腥いけど。

 

 

 


 

 

 

 今日は月曜日。土曜、日曜に限って忙しくなるボク達にしてみれば、社会に紛れるためだけの学生の時間は休日と言っていいくらいに、穏やかなものだった。

 

「巻解君!! 学校にピザを頼まないでって何回言えば分かるんですか!」

 

「だから一切れくれてやってるじゃねぇかよ。けちクセェこと言うなって」

 

 穏やかではあっても、全然静かってわけじゃないけど。

 学校宛にピザの出前を頼んだアホ──使駆が愛ちゃん先生に怒られてる。……いつもみたいに。

 

「しかも受け取るの毎回先生じゃないですか! 今日なんて受け取ったの校長先生だったんですよ!?」

 

「テメェだろうとアンタだろうとジジィだろうと同じ人間じゃねぇか。大して変わんねぇよ」

 

「大分違いますよ!? 主語が大きすぎます!!」

 

「ミンチになりゃ違いなんて分かんねぇって」

 

「教え子の感性が殺人鬼!? 私はどこから教育を間違えたんですか!?」

 

「ギャハハハ!! ギャハハハハハハ!!」

 

 教卓を挟んで行われる漫才を眺めながら食べるピザが今日も美味しい。……愛ちゃん、地味に見抜いちゃってるし。

 

「クフフ。相変わらず眼福よなぁ」

 

「それはどっちが? 笑うイケメンか、怒る合法ロリか。それとも漫才?」

 

「さて、どうかのぅ」

 

 学校に巫女服でやって来るバカ──卑弥呼は冗談めかしてクフフと笑った。

 

「……っていうか、仮にも天照大神がピザ食べていいの?」

 

「うぬに言われると確かに違和感だが、妾は十三枚目だからなんともなぁ」

 

 卑弥呼はピザに乗ったトマトだけを舌で拾うように口に入れ、優雅に噛み締めながら考え始めた。

 三枚目のトマトを飲み込んでから、卑弥呼は答える。

 

「お神酒あがらぬ神はなし、とも言うし、人の子と同じ物を食らおうが問題あるまいよ」

 

「お供物にピザは無しでしょ」

 

「まぁ、酒か米が普通やもしれんな」

 

 そもそも、学校に巫女服を着て来てるバカに聞くのが間違いだったかもしれない。

 

「クフフッ、所詮は気持ちであろうよ。――良いものを供えられるほど、妾は上等なわけでも無いしな」

 

「それは確かに」

 

 

 


 

 

 

 日常が非日常に塗り変わるのはどんな時であろうと唐突だというのを、ボクは知っている。

 日常なんて。道徳なんて。人間なんて。――簡単に殺せることもボクは知っている。

 

 殺されたボクは、知っているはずだった。

 

 だとしてもまさか。

 

 元より非日常に片足どころか首元まで浸かってるとはいえ、こうなって驚かないわけにはいかなかった。……とは言っても、クラスメイトであるみんなに比べればボクや殺人鬼共は落ち着いてる方だと思うけれども。

 

「皆! 教室から出て!!」

 

 足下で光る魔法陣。

 咄嗟に叫ぶ愛ちゃん。

 悲鳴を上げる同級生達。

 目を丸くさせた殺人鬼二人。

 そしてただ目が眩んでいたボク。

 

 その日、非日常は非現実へと上塗りされた。

 

 

 


 

 

 

 真っ先に目に見えたのは、巨大な宗教画。縦にも横にも巨大な壁画で、後光を背負った金髪は人間、あるいは神仏の類にも見える。……これ、卑弥呼に言ったら殺されかねないなー。

 

「クフフフッ。なんだ、まるで神話のようではないか」

 

「ぶっ殺すぞこら」

 

「なにゆえ!?」

 

 狼狽るバカは放っておいて、ボクはこういう時に間違いなく暴走し始める使駆の首根っこを走り出す前に捕まえる。

 

「……おい、離せ。あいつらぶっ殺すぞ」

 

「それは同意だけど、今はやめろってば」

 

 どこで売ってるのか未だに知らない、二の腕まで伸びる白手袋に包まれた手で容易く払われるボクの手。……相手が相手とはいえ弱いなー、ボク。

 

「……てか、マジでテレポしたっぽいね」

 

「どーだかなぁ」

 

 ボク達が今いるのは、どこかの神殿の台座。仕事柄、宗教関連の施設に入ることもあったけれど、その巨大な壁画に思い当たる宗教は無い。……別に専門家ってわけでもないし、目立たないだけの宗教かもしれないけども。

 

 台座を囲む、杖のようなものを持った、偉そうな宗教家達。なるほど、確かに殺し甲斐はありそうな格好をしてる。

 その中のうちの一人、中でも偉そうな爺さんが進み出てくる。そしてその外見に見合った声音で、ボク達に話し始めた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そして御同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」」

 

 殺し甲斐のありそうな好々爺然とした笑みを浮かべて、イシュタルと名乗った爺さんは言った。

 

「さて、殺そうか」

 

「やめろってば、アホ共」

 

 殺人鬼二人は勇者だなんだと言われても、平常運転らしい。

 

 

 


 

 

 

 ボク達は場所を移され(テレポじゃなくて普通に徒歩ね)、やたらとデカい、っていうか長いテーブルが幾つも並んだ大広間に通された。

 あいっ変わらず煌びやかで偉そうで、絵画やら壁紙やらの一つをとっても生活費半年分くらいになりそうな出来をしている。

 

 上座には愛ちゃんや、スクールカースト上位にいるような面々が座る。ボク達みたいな問題児連中とか、陰キャ達は最後方。

 

 ここに案内されるまでの間に誰も叫んだりしなかったのは、カリスマとかリーダー気質とかその辺がカンストしてそうな天之川君のおかげなんだろうねぇ。

 

 全く、全く。殺し甲斐がありそうで何よりな善人気質。

 

「お、なかなかいけるじゃねぇか」

 

「うむ。しかし酒のほうがありがたいが、頼めるか?」

 

 ボクの両隣に座ったバカとアホは、メイドさん達から出されたジュースに誰よりも早く舌鼓を打ち、卑弥呼なんて偉そうにお酒を注文してメイドさんを困らせている。

 

「……何やってんの」

 

「人の子が神に酒を出す。そこに如何な矛盾があろうよ?」

 

「未成年飲酒」

 

「ならば仕方あるまい。我慢しよう」

 

 法は時に最強の盾になるらしい。

 

 卑弥呼がおかわりのジュースで我慢しているうちに、イシュタルは話し出した。

 

 

 


 

 

 

 この世界にはなんと名前があり、『トータス』というらしい。

 トータスは三つの種族がいて、それぞれ『人間族』『魔人族』『亜人族』となるのだとか。

 そのうち人間族と魔人族は何百年も戦争を続けている。ワオ、百年戦争もびっくりだ。

 

 魔人族は数こそ人間に及ばないものの、個人の持つ力が大きいらしくって、その力の差に人間族は数で対抗していたそうな。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいけれど、最近、異常事態が多発しているという。

 

 それは、魔人族による魔物の使役。

 

 ……まぁ諸々割愛すると、化物を大量に使役して、数の暴力の人間をさらに上回る数の暴力でぶっ殺しまくってるらしい。

 

 故に、現在進行形で人間族は滅びの危機を迎えている。……っていうのが、イシュタルの語った話。

 

「あなた方を召喚したのは《エヒト様》です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神」

 

 長々と語ったのに、イシュタルはまだ続けた。

 

 ボク達を呼び出したのは、人類救済を掲げた神、エヒト。ボク達一般人に化物の相手なんて荷が重いどころか圧殺されそうなものだけれど、これまたなんとファンタジーなことか。

 ボク達の世界はここより上位で、誰も彼もが強大な力をもっているんだってさ。……なんて、狂言だよね。

 

 要はボク達に戦争の駒になれってわけだ。

 

 そんなこと糞食らえって思うことすら皆できていないなか、立ち上がり猛然と抗議する人もいた。

 

 殺人鬼を前にも説教できる狂人、愛ちゃんだー。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 キャンキャンと怒る愛ちゃん。……を、エロい目で見てる卑弥呼の足をボクは踏む。

 

 とは言いつつも(言ってないけども)、ボクとて喚く愛ちゃんを可愛いと思っていることに大した違いはない。

 

 けども。

 

 イシュタルの言葉に。

 

 ボクの非日常的な日常は。

 

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 

 完膚なきまでにぶっ殺された。

 

 ぶつ切りに。八つ裂きに。つま先から脳天まで例外なく、あえて言うのなら心臓だけを残して殺し尽くされた。

 

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 愛ちゃんが悲痛に叫ぶ。けれども、対照的にイシュタルの表情は変わらない。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

「そ、そんな……」

 

 愛ちゃんが脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

 ボクとて冷静沈着なんて状況でなく(そしてそんなキャラでもなく)、諸々を込めに込めたため息を吐き出す。

 

 身の危険はさほど感じていない。それこそ敵が核兵器みたいなものを使ってくるなら話は別だけども、そうでないからこそ戦争は何百年も続いているわけで。

 機械や動物と比べて非力と称される人力だけでなんとかできる程度の戦争、あるいは喧嘩や殺し合いだと言うのなら、不満はあれども不安は不要だった。

 どうなろうと確実に頼ることになる使駆と卑弥呼の手を握り締めて動きを封じていると。

 

 クラスのリーダー、天之川君が急に立ち上がり、テーブルを叩いた。その音に肩をびくつかせながら、みんなが注目する。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ」

 

「それが真実である確証は皆無だがの」

 

 卑弥呼が口を挟むけれど、それに誰も耳を傾けないあたり、天之川君も十分に存在がイカれてる。

 

「俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ」

 

「人間族とやらを救うってことは、同時に魔人族を皆殺しにするってことだけどなぁ」

 

 使駆も口を挟み、ギャハハと笑うも、やっぱりそれが聞こえているように見えるのはごく僅か。

 

「異世界だとしても、人々の危機を放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない」

 

 天之川君の言葉を聞き、イシュタルは静かに頷いて見せ、そして答えた。

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

 

 

 それからはもう、ボクなんて口を挟む間もないくらいトントン拍子に話が進んでいって。

 

 そして愛ちゃんの「ダメ」という静止の命令を裏切って。

 

 僕達全員、戦争に参加することになっちゃった。





キャラ紹介。


 中村恵里

 今作主人公。
 原作キャラであり、限りなくオリキャラ。

 両親をクラスメイトの殺人鬼二人に殺され、結果的に(と言うか本人的に)救済された形になる。

 殺人鬼二人の待ったを振り切り、自ら進んで殺人鬼の世界へと踏み込んだ。
 主な凶器は美貌とナイフ。短い刃物であればそれとなく使えるが、我流であるため基本的に不意打ち、騙し討ちが基本戦略。

 元々住んでいた家と、殺人鬼二人の部屋を転々としながら暮らしている。






 巻解(まきとき)使駆(しく)

 アメリカ生まれの日本人。

 『轢殺(れきさつ)専門の殺人鬼』

 『殺人鬼の世界』と呼ばれる界隈が地球全土に存在していて、その頂点の一角。六人いる専門殺人鬼の一人。

 詳しい事情を知るものが一人として生存しておらず、詳細なデータも残されていないが、生物兵器として製造された改造人間。……と言うか、比率的には人造人間と言った方が近い。
 速さと強度、申し訳程度のカモフラージュ性に重点を置かれて肉体が作られていて、脳とその周辺だけが移植されている。
 内臓も特殊樹脂製の、人とは全く異なる形状、構造のものが収められており、飲食での燃料補給が可能。
 全身の関節が球体関節になっていて、筋肉も全く別の構造をしており、力も可動域も常人を遥かに超える。

 趣味、戦闘スタイル共に、ミニ四駆。






 天神(あまがみ)卑弥呼(ひみこ)

 本名『天神(あまがみ)(ほとけ)

 『刺殺専門の殺人鬼』

 巻解使駆と同じく、『殺人鬼の世界』の頂点の一角。六人いる専門殺人鬼の一人。

 古くから天照大神を祀る神社の娘。
 邪馬台国の女王、卑弥呼を初代とするなら、彼女は十三代目となる。
 とは言っても明確に血縁があるわけではなく、卑弥呼というのももう一つの名であり、職業や立場の名称でしかない。

 歴代卑弥呼達は漏れなく、天照大神の写し鏡にして現人神である。

 ……が、十三代目に限っては事情が異なる。

 写し鏡であると同時に、合わせ鏡の属性を生まれ持ってしまっている。卑弥呼であって、天照大神でもあるのだけれど、どうしようもなく歪んでおり、荒御魂的な側面が強い。

 十三代目にして、十三枚目。

 特注の『ボールペン型携帯長槍』なるものを愛用しており、筆箱や巫女服の中には必ず複数本収納されている。
 伸縮する警棒に似た構造の槍で、恵里は爪楊枝と呼ぶ。
 巻解使駆の肉体と同じ素材で作られていて、下手な使い方をしなければ手入れせずに百人は蜂の巣にできる。
 恵里も一本持ってはいるものの、伸ばして使うと簡単に折れるため、ボールペン型のままで使うしかない。

 神通力の類はほとんど持っておらず、せいぜい占いが得意な程度。天照大神と同等なことなんて皆無と言っていい。ただ、神々しいレベルでめっちゃ偉そうな人格をしている。

 趣味は他所の宗教施設への冷やかし。キリスト教の教会に巫女服で侵入して「南無阿弥陀仏」とか言って遊んでる。





 細かい上にあんまり絡まない設定(殺人鬼の世界とか、殺人鬼達の過去とか)は、後書きとかで適当に出していきます。

 続いたらね!
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