殺人鬼エリリンの愉快な死に様。 作:不可思議可思議
第十一話 ……はじめまして。南雲ハジメだ
ついに登場、我らが主人公にして魔王様──ハジメさん!
しかしながら原作通りのシーンは丸々カット……。は、流石にアレなので。第十一話スタートの前に、原作の内容を思い出せるよう、ダイジェストで箇条書きに。原作を読んだばかりという方、完全記憶能力をお持ちという方は読み飛ばしてしまって全然オーケェ。
・オルクス大迷宮、第100層。奈落の底に見せかけた折り返し地点まで落ちてしまったハジメさん。そこにはベヒモスよりもヤバヤバで、つよつよなウサギさんにクマさん、オオカミさんとさあ大変!
・左腕を食べられてしまったハジメさんは持ち合わせていた唯一の力──錬成を活用し、壁を掘る。
・まんまと逃げきった先、作り出した穴蔵の先で見つけたのは、強力な治癒作用のある、エリクサーのような効能を持つ液体を生成する伝説の鉱石──神結晶。
・何も食べずに十日が経ち。ついにハジメさんは決意した。
──殺す。
生きるために。生存の権利を獲得するために。
鍛造を重ね、延々と研ぎ澄ました刃のように鋭い殺意。
生きるために必要だから滅殺するという、純粋無垢で単純明快な殺意。
──殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
・その空腹感にも似た欲求不満、飢餓感から逃れるためには、殺すしかない。殺して、”喰らう”しか、なかった……。
・砕けた心はすでに焼き付けられている。焼き直され、叩き直され、研ぎ直されている。
・ハジメさんは魔物を殺し、死肉を食らった。死というリスクを神結晶から滲み出る水で中和し、魔物の力をも喰らい、我が糧とした。それはさながら、大飯食らいの星の戦士──カービィのように。
・魔物を喰らいつつ探索を始めたハジメさんは、運命の石を見つける。その石の名は、燃焼石。まるで火薬のような性質を持つ鉱石である。
・錬成により生み出されたその兵器の名は、ドンナー。オオカミを喰らい得た固有魔法”纏雷”により小型レールガンと化したその銃の威力は最大で対物ライフルの十倍。
燃焼石が無ければ、たとえ神結晶があったとしても、奈落の底から這い上がることはなかっただろう……。
・ついには、かの左腕を喰らったクマの魔物すら、ドンナーは撃ち殺した。そして改めて決意する。
──生きたい。
──故郷に帰りたい。
「そうだ……帰りたいんだ……俺は。他はどうでもいい。俺は俺のやり方で帰る。望みを叶える。邪魔するものは誰であろうと、どんな存在だろうと……」
はじまり、はじまり。
クマの魔物を喰らってから、既に三日。ハジメはずっと、上階へと上がるための階段を、道を探し続けていた。
既にこの階層の殆どを探索し終えてしまっている。魔物を喰らい続け、ステータスは跳ね上がり、今やこの階層にハジメの脅威となるような存在はいない。既にここは、ハジメの縄張りであった。
「ちくしょう、なんで無いんだ……」
これまでの探索で、何も見つかっていないわけではない。ドンナーを始めとする兵器開発に有用であろう素材の鉱脈を幾つも見つけているし、
ここがまだオルクス大迷宮の領域なのかどうかすら今や不明だが、特殊な”何か”によってこの空間が保護されているのは間違いない。
床や天井を降り進めていくと、ハジメの錬成が一切通用せず、掘り進められない地層が出てくるのだ。ここがまだオルクス大迷宮であるというのなら、プロテクトやセキュリティのようなものなのかもしれない。
掘り進めることも通り抜けることもできない不可視の壁というのは、ゲームであれば定番の存在だ。
そしてこれがゲームであるのなら、バグやチートというイレギュラーの存在だって、定番といえば定番だ。
人外レベルまで発達し強化されたハジメの聴覚が、それを捉えた。
──ガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
硬いものを砕いて掘り進んでいるような連続する破砕音。
それは地中から、こちらへと向かって垂直に昇ってきている。
「なんなんだ……っ!」
聞こえるだけでまだ遠かったはずのそれは、気がつけば振動が足腰に響くほど大きく、近くなっている。
地震というには破壊的だ。
爆発というには長すぎる。
ハジメはそれを、魔物であると予感した。
少しでも高い位置へ。いつかのクマの時のように、壁を掘って逃げ場を失っては不味い。全方位に躱せる高台へ、高台よりも大きく高い岩へと飛び移り、地面を警戒する。
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
音が変質し、勢いが増した。
しかし警戒すべきは地中だけではない。いくらハジメより格下であろうとも、急所を狙われれば即死もありうるこの世界。背後からウサギが蹴りかかってきたら。岩陰からオオカミが喰いかかってきたら。クマが剛腕で薙ぎ払いにきたら。地中から現れた魔物がハジメをも掘り抜いたら。
全てを想定し、そして──
その全てを裏切られた。
「見ぃぃいいつけたぁ!!!」
「なっ!?」
肌色。背丈はハジメと同程度で体格もそう変わりはない。
一見すると、それは人間であった。
飛び散らされた石や岩、砂煙のおかげで詳細には見えないが、その声に、ハジメは覚えがあった。
メルド団長たちより、ステータスプレートを渡されたあの日。名も知らぬ騎士に化け物と断じられ、逆に殺してしまった殺人犯。もう一人の殺人犯であった、細い槍の使い手、
クラスメイトというだけで交流は殆どなく、初対面に近い間柄ではあったが、その野蛮がすぎる笑い声を聞き違えるほど、地球での日々を忘れてはいなかった。
「よう、よう、よう、よう。なんつったけ、お前の名前は。ギャハハッ! 忘れちまったが会いにきてやったぜ」
「……巻解……なのか?」
砂煙が晴れて尚も、半信半疑は晴れない。
何故か一糸も纏わぬ全裸な格好をしている使駆の肉体は、まるで人形のようだった。
人形のよう、というのは、作り物のように美しいという比喩的な意味だけではない。
指の一つ一つから、肘に肩、首に腰、爪先までどこもかしこも、その関節は人工的な球体関節になっていて、股間部には何も無い。唯一、球体関節とは異なる構造の関節を持つ顔も、普通の人間ともまた作りが違うことが、ハジメの強化された今の視力なら分かる。
「俺はヒーローじゃねえが悪の敵。殺すべきを殺す執行車。轢殺専門の殺人鬼にして殺人機たぁ、俺様こと、巻解使駆様のことだぜ。はじめまして」
「……はじめまして。南雲ハジメだ」
右手に握るドンナーを向けたハジメを、まるで脅威とも危険とも思っていないような素振りで、使駆は笑った。
「ほんっとうは、俺らしくもなく助けにきたつもりだったんだがな。らしくないことはするもんじゃないらしいな、ギャハハ」
助けにきた。その言葉に、ハジメは首をかしげる。
何故だ?
百歩譲って、交流のあった白崎香織や、八重樫雫なら、何年か後に力をつけて自分の前に現れるというのと、あり得る話だ。もし自分が生きてこの場に留まっていたなら、自分を助けようとすることに疑問はなかっただろう。
百億歩譲って、天之川光輝がスーパーサイヤ人に覚醒して助けにきたとしても、なんというご都合展開だ、としか思えないだろう。
何兆歩譲れば、関わりもなければ殺人という取り返しのつかない罪を犯したような危険な男が、自分を助けにきたのだと納得できよう。
「……あんた、下から上がって来たよな。まずどうやって行って、どうやってここまで来たんだ?」
もし本当に助けに来てくれたのなら、有難い話であるのに変わりはない。それはそれで都合が良すぎるかもしれないが、自分以上に此処に関する情報を持っているかもしれないし、今は何よりも、確証が欲しかった。
使駆は説明するという行為に慣れていないのか、答えに悩みながら答える。
「えーっとだな、俺はまずライセン大峡谷っつー場所に行ってだ。そこにはここ、オルクス大迷宮の最奥へと続く直通ルート、MMOで言うところの、ワープゾーンとかポータルみたいなのがあるんだ」
「……それ、多分だがゴールから逆走してるだろ」
「ギャハハ、まあ実際、そうなんだろーぜ。……んでまぁ、最初は丁寧に探してたんだが、面倒になってな。一回全部ぶっ壊しちまって、瓦礫の中から探し出すつもりだったんだ」
「……お前、もしかしなくても馬鹿だろ。そんなことされたらそれこそ死ぬわ」
「ギャハハハハッ! そうなっちまったらしかたねーよ。人は死ぬもんだし、殺人鬼は殺すから殺人鬼だ」
……マジで危なかった。うっかり見つからないところまで隠れてたら、大迷宮の大崩落に巻き込まれて死んでいた。
ついさっき、使駆は助けに来たと言ったが、それはきっと、使駆にとっては暇つぶし、それこそゲームのようなものだったのだろう。失敗したらやり直せばいいし、そうできないなら諦めればいい。
そう結論したからこそ、ハジメは使駆を、敵(仮)から味方(仮)へと認識を改めた。信用も信頼も出来ない。だが手伝ってくれるなら有難いし、敵対されたら勝てる気がしない。
使駆は、ハジメがどう頑張っても突破できなかった、どういった原理なのか既に修復され始めてる階層の壁を、物理的に突き破って来たのだから。
一つの疑問が正されると、次の疑問が湧いてきた。無理に急いで動く理由もないため、ハジメは素直に尋ねた。
「そもそもの話なんだが、どうして知ってたんだよ、俺がここに落ちたことを」
「知らなかったし、信じてもいなかったぜ。卑弥呼の占いだからな。ただ、賭けてたんだよ。死の予言以外の占いが当たるか外れるか。俺は外れる方に賭けて、卑弥呼は当たる方に賭けた。勝った方が次の町を独り占め出来るってわけだ」
「……一つも意味がわからん」
「ギャハハ。会えばわかるさ。──殺されなければな」
「天神、……天神卑弥呼も、お前みたいな殺人鬼なのか?」
「ギャハハハハッ! だったらいいが、ちげぇよ。俺みたいな殺人鬼は俺しかいねぇ。俺は轢殺専門で、あいつは刺殺専門。俺は機械で、あいつは神。俺は少食で、あいつは大喰らい。共通点なんて寧ろ少ないだろ」
「轢殺、刺殺、な……」
まるで、ゲームかアニメの設定でも聞かされてる気分だと思ったが、そもそもここが
いいわけなかった。この世界がどういった世界観であろうとも、元々いたのは日本だ。殺人鬼がいていい世界観ではない。
「ギャハハ。まぁ、長い付き合いになることを祈って、仲良くやろーじゃねーか。黒一点よか、男二人に女二人の方がヤリ易いだろうしよ」
……そういえば、殺人鬼だったらしい二人の他に、もう一人加えた三人組だったような。
ハジメは彼女の忠告を思い出した。
──殺しは最大の悪かもしれないけど、だからってそれ以外の悪行が最悪じゃないとは限らない。
──無自覚な行動が人を殺すことだってあるんだから、南雲君も気をつけなぁね。
──精々、殺させるなよ。
きっと彼女も殺人鬼だったのだろう。
南雲ハジメは、覚悟を決めた。
後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。
日本
最も多くの殺人鬼が暮らす、表向きは世界一安全で、裏向きには世界一危険な国。
第三次世界大戦で最も悲惨な惨敗を収めた日本は、世界中の殺人鬼の避暑地(あるいは観光地、避難所)に選ばれた。世界で唯一、殺人鬼の捕縛が禁止されている国である。
以来、捕縛よりも放置を選ばれてしまった、選ばれし殺人鬼達の多くは、日本で暮らすようになった。
第三次世界大戦は裏社会の闇深くで起きた、広くて小さな戦争だったという。その詳細を知るものの殆どは既に戦死しており、生き延びたのはそれこそ、住処を求めた力ある殺人鬼くらいのものである。
それは国と国の戦いではなく、人と鬼の戦いだった。