殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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※エリリンしばらく不在です。




第十二話 死ね

 

 

 

 今は亡き国に存在した、国営の兵器開発機関。

 その国は何処よりも小さかったが故に、どんな大国よりも強大な武力を求めた。

 どれだけ子を量産し、兵士の数を増やそうと敵うはずは無い。数だけを用意できたところで、養えるだけの資材が無いのだから意味がない。

 ならば、数ではなく質で勝負しよう。

 一騎当千の兵士を千人用意しよう。

 そうすれば千人の犠牲で百万人を殺すことができる。兵士ではない民衆に限るなら、百万と言わず、一億人くらい殺せるかもしれない。

 

 しかしまた、問題が幾つも出てくる。

 国ごと核兵器で吹き飛ばされたらどうする?

 国を裏切り、大国へと寝返ったら?

 敵にも一騎当千の兵士がいたら?

 

 そんな問題の全てを解決した最強の人型殺人兵器こそ、後の巻解使駆に至る最硬最速の肉体である。

 あらゆる人間工学を無視して設計された、速さと耐久性に重きを置いて設計された、たった一人のマッドサイエンティストによって設計された、オーバーテクノロジーの結晶にしてオーパーツ。量産可能だった人造人間。

 

 しかし完成当初、最初の起動実験で、新たなる問題が見つかった。

 

 人間に似た兵器というだけで、決して人間が操縦できるようにはできていなかったのだ。

 当然である。音速以上の速度で歩く人型を、音速で歩けない人間がどうして操縦できようか。無線操縦であるが故のタイムラグの対策も難しい。

 

 マッドサイエンティストは考えた。

 そして思いつく。

 

 人間としての限界まで小さく削った人間を搭載し、我が身のように動かせるよう調整(リハビリ)してやればいい。我々はその人間をコントロールすればいいだけなのだから、音速で歩く人間を操縦する術を探す必要はない。

 

 我々はただ、人間に命令するだけでいいのだ、と。

 

 選ばれたのは、アメリカにいた日本人の子供だった。

 それらしい選定理由など無い。海外へと出かけている人間なら、誰でも良かったのだ。証拠を残さなければ、罪はその国の人間へと押し付けられるのだから。

 

 幸か不幸か、マッドサイエンティストが想定していた以上の成果が挙げられた。脳とその周辺の組織を電子データ化し、まるまる移した。ただそれだけで、彼はその肉体を我が身のように駆動させた。

 彼は生身の肉体を失った代わりに、最も危険な肉体を与えられた。

 そして与えられたのは、それだけではない。頭脳がデータとして存在しているのだから、書き込みも書き変えも自由自在。

 殺人兵器として人格を最適化された彼に、マッドサイエンティストは名を与えた。

 

 攻撃手段や加減のイメージに、ミニ四駆やそのモーターを用いていたことから、内部のコイルを元に"巻解(まきとき)"。四駆を"しく"と読み替え、更に変換し、"使駆(しく)"。

 

 巻解(まきとき)使駆(しく)。その名は(製作者)からの最後の贈り物となった。

 

 本来のプランでは、最終的に使駆の記憶の殆どを改竄し、軍の命令に疑問無く応えるような、従順な人間に教育をし直す予定だった。

 しかし、休憩時間の暇つぶしにと与えられていた、機関とは無関係のPCと頭脳を接続し、様々な創作物に登場する()()()()の結末を見てしまった。

 

 親の計画がわからずとも、いつか自分は自分でなくなってしまうのではないか。

 

 確信までは至らなかったものの、動く理由には十分だった。殺す理由には十二分だった。

 

 小さな研究所で暮らしていた使駆にとって、彼は第二の父親であった。

 味覚のテストと称して、様々な料理を振る舞ってくれた彼女は使駆にとって、第二の母親であった。

 同じ人型兵器だが全く違う用途、戦法で殺すよう設計された彼女は使駆にとって、友であり妹でもあった。

 モノを効率的、効果的に破壊する方法から、異形の身体でも人間社会に溶け込む方法まで、生きるための全てを教えた彼は使駆にとって、先生であり恩師であった。

 

 家族同然と思っていた全員が、日付が変わると同時に轢殺された。就寝中であろうとも、家もろとも、アパートもマンションも研究所も工房も無差別に轢き殺した。

 最終的には人も獣も区別なく、農具も兵器も差別なく、町も村も国すらも、一晩のうちに破壊し尽くした。轢殺し尽くした。

 

 轢殺専門の殺人鬼、巻解使駆が全二十万文字の短編小説だったなら、第一ページ、一行目、一文字目の殺意である。

 

 

 

 

 立ちはだかる魔物をドンナーで撃ち殺し、逃げ惑う魔物を轢き殺す。まるで作業のように探索する道すがら、ハジメは使駆に、その異形の肉体の所以を尋ねた。使駆はまるで武勇伝のように、あるいはちょっとした思い出話のように語ったが、それは同じ世界の出身とは思えない領域の話だった。

 

「今となっちゃ、なんでもない過去でしかねーよ。人を殺した、殺された。殺人鬼の人生なんてその程度。そんくらいつまらない方が、世のため人のためってもんだろ?」

 

「……くっそ重たい話を滅茶苦茶に短く纏めるなよ」

 

「ギャハハッ! まあ言ってみたものの、ここ暫くは存外そうでもなくってな。俺らしくもなく人らしく、思い出って奴を残すのが最近のマイブームだったりするんだぜ」

 

 使駆の笑みの色が変わった。人を食ったような凶暴な笑いではなく、それはまるで盆栽を愛でる老夫のような、優しくも儚い笑みだ。

 

「今思えば、後にして思い返せば、運命ってやつなんだろうさ。あの日、刺殺専門の殺人鬼、卑弥呼と偶然バッティングしたのも、親だけ殺して子供は残そうと殺人鬼が二人して思いついたのも。ある意味じゃ、あの日こそが俺たちの始まりだったのかもな」

 

「……中村、か?」

 

 使駆の話を聞いていて、ハジメは一人の同級生の名を思い出した。

 ここ数日が壮絶すぎて、完全に忘れてしまっていたクラスメイトの一人。天之川光輝や白崎香織と比べてしまったらどうしても地味に見えてしまう、図書館で謎の忠告を残した美少女の名。

 

「ギャッハハ。恵里は人間としちゃアレだが、俺らにしてみりゃいい女だ。アイツといるだけで、俺たち殺人鬼は人間に戻れたような気がしちまう」

 

「…………」

 

 自分はどうなのだろうと、ハジメは疑問に思えた。

 髪は色を失い、肉体は魔物の肉という劇薬で豹変され、人格も自覚できるくらいに変わっている。そんな自分は、元に戻りたいと思えるのだろうか。元に戻れたことを、喜べるのだろうか。

 この疑問に意味はないだろう。

 ハジメと使駆では人外としての年季が違うし、生きた世界も違うのだから。

 

「使駆。お前はどうして、人を殺すんだ?」

 

「知らねえな。逆に聞くがハジメ、お前はなんで、魔物を食ってまで生き延びたんだ?」

 

「……さあな」

 

 答えを語り合う日は、未だ来ず。

 

 

 


 

 

 

 時は濁流の如く流れ、使駆とハジメが合流してから既に五十階層は降りている。

 戦力的にはハジメ一人でも問題なく来れただろうが、それでも使駆の存在は進行速度を驚異的なほど速めていた。

 

 道中に出会った魔物の殆どは殺し、ハジメの腹に収まっている。中にはカエルや蛾、ムカデなんかもいた為、ハジメが食事している最中の使駆は苦悶し続けていた。殺人鬼の最高峰に君臨する癖に、虫や爬虫類、両生類は苦手であり、昆虫食には否定的らしい。

 

 気がつけばもう五十層。階下へと続く階段は既に使駆が見つけているが、それとは別に異質な場所があった。

 

 脇道の突き当たりにある、開けた空間。そこには高さ三メートルはある、豪奢な装飾の施された両開きの扉があり、その両脇には一つ目の巨人──サイクロプスのような彫像が壁に埋め込まれるように鎮座している。

 

「下に降りる階段は別にあるわけだし、なんなんだろうな」

 

 ハジメは期待半分、嫌な予感半分に周囲を観察する。

 対照的に使駆は、他には一切目もくれず、扉の先を見通すように正面へと立った。

 

「…………ギャハ」

 

「なんか見つけたのか?」

 

 ハジメは使駆の薄ら笑いに鳥肌をたたせながら、隣に立つ。

 近くで扉を見てみれば、中央に二つのくぼみがある特殊な魔法陣が描かれていることがわかる。

 

「……よくわからねえな。勉強してきたつもりなんだが、……お前は見たことあるのか?」

 

 ハジメは自らの能力の低さを補うために、座学に力を入れていた。もちろん全ての書物を読破したわけではないが、魔法陣の式を全く、一つも読むことができないというのは初めてのことだった。

 

 文字が異なるほど昔のものなのか、別の言語によって構成された別の体系のものなのか。

 

「ハジメ、少し離れてろ」

 

「……了解」

 

 ここに来るまでの道中、同じ忠告を受けた回数は一度や二度ではない。そしてその経験から、使駆の言う”少し離れてろ”は、最低でも五十メートルは離れていろという意味であることを、ハジメは身をもって知っていた。

 ここがそこまで広い空間では無い以上、ハジメは通路の方に戻り、背後を警戒しつつ使駆を見守れる位置まで離れた。

 

「鬼が出るか、蛇が出るか。……ま、俺がまず鬼なんだがな。──トルクチューンモータ──ウェストアクセル!」

 

 まるでヘリコプターのプロペラのように、使駆の腰から上が高速回転する。

 まるで爆発。まるで災害。巻き起こされた暴風はハジメを背後から狙っていた魔物を吹き飛ばした。

 そして至近距離にあった扉や彫像は使駆の両腕に弾かれ、原型を失うほどに破壊し尽くされる。

 瓦礫や破片が悉く壁に衝突し、全て粉砕した頃に、使駆の腰は停止した。

 

 ハジメの知識をして解けなかった謎の魔法陣は、使駆の破壊力によって轢殺されてしまった。

 相変わらず馬鹿力にも程があると、ハジメは重いため息を吐き出した。

 

「行くぞ、ハジメ」

 

「……お前っ、中に何が居るのかとか考えてるんだろうな!?」

 

「知らねえなぁ! ギャハh──

 

 扉があった筈の場所を踏み越えた直後、余裕綽々に歩いていた使駆の躯体は氷漬けに凍てついた。

 

「使駆!!」

 

 ハジメは扉の先の部屋の主を見て、固まった。

 

 金色の鬼。そう見紛うほど殺気立っている、金髪の幼女がそこにいた。

 そして彼女は奇しくも使駆と同じ、全裸であった。

 

「お、お邪魔しました……」

 

 人間性を捨てて尚も男であったハジメは気まずくなり、その場を離れようとする。

 幼女はハジメも同じ目に合わせようとしているのか、使駆に向けていた右腕が砲身であるかのように、逃げ腰なハジメに照準を定める。

 

「死ね」

 






 後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。

 巻解使駆の攻撃技(一部抜粋)

・パンチアクセル
 全身の関節を高速で動かすことで、超高速のパンチを繰り出す。コンクリート造の建物であれば一発で破壊可能。当たると死ぬ。

・キックアクセル
 全身の関節を高速で動かすことで、超高速のキックを繰り出す。破壊規模はパンチと同程度。当たると死ぬ。

・ヘッドバッドアクセル
 パンチ、キックと同様。超高速の頭突き。当たると死ぬ。

・ソードアクセル
 手刀の二刀流。素早く腕を振るうことで起きる風、空力を利用し、擬似的な刃を生み出し、切断する。細かい工作には使えないが、林業なら大活躍。当たると死ぬ。

・ウェストアクセル
 腰を高速回転させることで、広げた腕や足での連続攻撃を放つ。超高速で超連続のビンタ。空は飛べない。当たると死ぬ。

・ジャンプアクセル
 下半身の関節を高速で動かすことで、長距離、超高度の跳躍を実現する。当たると死ぬ。

・ダッシュアクセル
 速く走る。全速力なら水上や水中、空中、宇宙だろうと走行可能。当たると死ぬ。

 普通の人間の動きを高速でやっているだけなので、増やそうと思えば技のバリエーションは無限に増やすことができる。
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