殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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第十三話 血を分けてくれると、もっと許す

 

 

 

「ギャハハハハ!!」

 

「…………!」

 

 不死と不死の殺し合い。

 どれだけ壊れても元通りに再生する再生の不死と、何をされても決して傷つかない最硬の不死の不毛な殺し合い。

 使駆を凍て付かせた瞬間こそ、金髪の幼女はハジメを狙ったものの、使駆が全身を覆う氷を破砕した途端から、照準は使駆へと集中し続けている。

 ハジメには彼女が使駆のことを、まるで親の仇のように恨んでいるように見えた。

 

 天職は魔法職なのだろう。ハジメには理解できないほど高度な魔法が、まるで弾幕のように、使駆を殺すためだけに放たれる。

 

「ノーマルモータ──キックアクセル! ──パンチアクセル! ──エルボーアクセル!」

 

 青い炎の弾丸も、圧縮された圧縮された水のレーザーも、不可視な斬撃も。そのどれもが常人であれば即死級である高位な魔法の弾幕が、使駆に蹴り伏せられ、轢き殺され、距離を詰められる。

 

「ギャハハッ──アトミックチューンモータ──ダッシュアクセル!」

 

 巻解使駆の代名詞ともいえるその攻撃は、音速を越えた超高速、超威力の体当たり。

 銃弾のように走る使駆は、金髪の幼女の肉体を木っ端微塵に粉砕する。

 

「ギャハハハハッ、ギャハハハ。ギャハハァ……」

 

 都度都度、飛び交う魔法や使駆の軌道は異なるものの、既に似たような()り取りを三度繰り返しており、これで四度目の死亡だった。……厳密には死んでいないのだが。

 

 血と肉の区別もつかないほどバラバラになったはずの幼女の肉体が、磁石にまとわりつく砂鉄のように一点へと集まり、元の姿へと戻ろうとする。

 使駆はその様子を邪魔するでもなく退屈そうに眺め、元に戻るのを待つ。

 

 過去三度にわたって、四回目になろうとも使駆がやろうとしていることは、殺しではなく対話である。何故それほどまでに、殺人鬼でも無いのに、何度殺されようとも殺しに来るのか。

 魔力を感知できない使駆は知らないが、体育の授業を見学するかのように部屋の隅へと離れていたハジメには、再生するのもギリギリなくらいに、幼女の魔力がもう殆ど残っていないことがわかった。

 

「……またっ……まだ!」

 

「ギャハハ。その根性は買うが、いい加減こっちにも飽きってもんがある。そうでなくても俺は少食でな。腹休め、休憩も兼ねて、教えてくれよ。──なんで俺を恨んでやがる?」

 

 頭と胴、二の腕、腿あたりまで治ったところで、再生が止まってしまった。魔力切れである。

 立つことも座ることもままならない彼女に対面するように、使駆は球体関節の足を折りたたんで正座する。

 

 幼女は悔やむ顔で泣きながら、ようやっと人らしい言葉を口にした。

 

「……私は、裏切られただけ。……国の皆のために頑張ったのに、もう必要ないって。……殺せないから、封印するって……」

 

 一時休戦と見ていいだろうと判断したハジメが二人の元に近寄り、尋ねる。

 

「あんた、どっかの国の王族だったのか?」

 

 幼女は眼球だけハジメに向けて、首を小さく頷かせ、肯定した。

 そしてやはり、その恨みしそうな目はすぐに使駆の方へと向く。

 

「……何百年、ずっと待ってた。……助けてもらいたかった。……いっそ殺してほしかった…………」

 

 殺してほしい。殺してくれ。

 殺人鬼であり、裏社会、裏世界の住人であった使駆には、嫌になるほど聞かされてきた言葉だった。だが、使駆にその言葉を、意思を口にしてきた自殺願望と、目の前の彼女は違った。

 

「……まさか、粉々に砕かれた挙句に、ずっと放置されるなんて思わなかった!!」

 

「ギャハハ、……あー」

 

 ハジメには何のことかわからなかったが、使駆には思い当たる節があるらしい。

 

「……死なないからって、……すごい力があって危険だからって…………、人とは違う化け物、吸血鬼だからって……、それでも誰も、粉々に砕いたりはしなかった」

 

「あー、その……、なんだ……」

 

 彼女の言葉を信じるなら、数百年何も口にしていないのだろう。聞いてる側が痛ましく思うほどに枯れた喉で、喋るのも辛いだろうに。彼女はそれでも使駆を睨み、せめてもと恨み言を続ける。

 そして聞かされるたびに使駆は、気まずそうに言葉を探す。

 

「……悪かったよ。急いでたから、硬くて邪魔だったんだ。多分、途中にぶつかった硬いのがお前を封印してた牢か何かなんだろ」

 

「あの時か!」

 

 ハジメが思い出したのは、使駆と出会ったあの日のこと。地中から這い上がってくる道中に、使駆は床や天井諸共、彼女すらも破壊してきたのだ。

 彼女はその破壊の主を、万物を砕く破壊の音を覚えていた。そしてそれが、ついに手の届く距離までやってきた。

 殺されて当然だと、普段は殺す側にいる使駆ですら思ってしまった。

 

「……あやまって」

 

「ごめんなさい」

 

「……ん、許す」

 

 それでいいのか、お前ら。ハジメは二人のやり取りを見てツッコミを入れそうになるが、余計なことを言って殺し合いを再開されても困る。何百年と封印されていた彼女と、何百人と殺してきた使駆。二人の精神はとうの昔に、人間ではなくなっているのだろうと、一人強引に納得する。

 

「血を分けてくれると、もっと許す」

 

「ギャハハ。残念ながら、俺は見ての通り、血も涙もない殺人機でな。強請るならハジメにしとけ」

 

「は? なんで俺が」

 

「女の裸に、泣き顔まで見たんだぜ? 献血で許されるなら儲けもんだろうが」

 

 暫く使駆と共にいたおかげで感覚は麻痺していたが、全裸は人前に立っていい格好ではない。不死性故か彼女の体は未発達で大人とは言えない体格だが、改めて見てみればそれなりに胸がある。性器を省略され、生存よりも殺戮を優先して作られた使駆とは違って、どれだけ彼女が化け物だろうとも、それは人肌の肉体である。

 

 ハジメの脳内では、血を与えた後の展開。そうしなかった展開。見捨てた後の展開。助けてから別れた後の展開。想定しうる未来全てを演算し、最善の選択肢を導こうとしている。

 

「……たすけて」

 

 ポツリと。幼女は眼球を転がし、ハジメをジッと見つめて呟く。

 やがて観念したように、ハジメは右手を差し出した。人差し指を伸ばし、彼女の口元へと近づける。

 

「言っておくが、俺は魔物を食いまくって化け物になってる。死んでも知らねえぞ」

 

「……ありがとう」

 

 ハジメは注射を嫌がる子供のように顔を背けながら、口内に指を挿れた。

 鋭い犬歯が、指先に傷をつける。噛む力も残っていないのか、深くはないものの、血を吸われる感触に妙な感覚を覚えた。まるで子供に乳を与える母のような気持ちで、ハジメは彼女に指先を委ねる。

 血に濡れた舌先が傷口を擦り、爪の付け根をチロチロと撫でる。

 ひんやりと冷たいながらも柔らかな唇が、一滴も無駄にすまいとしゃぶりつき離さない。

 

 口内で唾液と混ぜながら血を飲み込むたびに、彼女の腕や足は再生を始める。

 

「……エロいな」

 

「うるせえ、見てんじゃねーよ」

 

「いや見るだろ。同級生の男子が全裸のロリに授乳ならぬ授血してるんだぜ? 見るだろ」

 

「……♪」

 

「クソ……。おい、あとどんだけいるんだ?」

 

「♪……。んく、……。大丈夫。ちゃんと美味しい」

 

「ギャハハ。懐かれたんじゃねーの? 気をつけろよ、お前。こいつは童貞だからな。勘違いされても俺には殺す以外できねーぞ」

 

「どっどどどドウテイちゃうわい! 何言ってやがるテメェ!」

 

「ギャハハハハッ! これでもクラスメイトだったんだぜ、陰キャチェリーボーイ」

 

「名前すら覚えてなかったろうがお前! なんだその酷すぎるあだ名!」

 

「”無能”よかマシだろ?」

 

「百歩百一歩だわクソが!」

 

「これから”未使用”って呼んでやろーか?」

 

「うるせえよ”初期不良(ジャンク)”が」

 

「いいなそれ。これから名乗るかな」

 

「気に入ってんじゃねーよ」

 

 

 

──閑話休題──

 

 

 

 手足から髪先まで一片も欠かすことなく再生しきった幼女に、ハジメは上着のコートを着せてやった。随分前に使駆にも同じように貸したことがあったが、使駆の速度に耐えられる筈がなかった。使駆は地球にいた時でも、暴れる際には基本全裸なのだ。

 

「……ハジメ、…………しく?」

 

「名前としてレアなのは自覚してるが、人様の名前に”?”つけてんじゃねーよ。巻解使駆様だ、覚えろ」

 

 血を飲みながら、二人の話を聞いていたのだろう。名前を確かめるように口にしてみたら、使駆に怒られた。

 

「あんたは、なんつーんだ?」

 

 ハジメが尋ねた。が、幼女は使駆の方を向いて言う。

 

「名前、付けて」

 

「は? んだよ、まだ頭とか治り切ってねえのか? 殺りすぎちまったか? いや三回どころか三百回は殺り過ぎたつもりなんだから、そうなんだが……」

 

「前の名前は、いらない。……アレーティアは、もう死んだ。殺された。……から。呼びたいなら、殺したあなたが付けて」

 

「…………ギャハハ。責任とってよね、ってやつか。殺してばっかだったから初めてだな。生憎と親譲りなのか、俺はネーミングセンスってやつが残念なんだが……」

 

「いい。……嫌なら、今度こそちゃんと殺して」

 

 名前を付けてくれと強請る幼女と、センスが無いからと渋る使駆。先に折れたのは、使駆の方だった。

 

「じゃあ、花子で」

 

「う……」

 

 そして幼女もまた折れた。世界が違うという根本的な言語体系の違いよりもさらに深い部分、使駆が言うところのネーミングセンスが、トータスで数百年前の価値観を持つユエには刺さらなかった。……日本でも最低数十年前のセンスだが。

 

「……ハジメ」

 

「こっちに飛び火した!? いや、いいんだが……」

 

「この際、花子よりマシなら我慢する」

 

「我慢て。自分をぶっ殺しまくった相手をどう見てるんだよ」

 

 もういっそ、当人曰く殺されたらしい、アレーティアじゃだめなのかと思いつつ、ハジメは考える。

 使駆は持ち得ない、オタクとしての知識と経験、本能が久方ぶりに稼働しているのを実感しながら。

 

 世界観は合わせた方がいいだろう。となると西洋風、カタカナか。ハジメは脳内で適当に、ラノベやアニメ、ゲームでみたような名前を挙げて候補とする。

 

 クロエ。エリナ。エレノア。シャーロット。アリア。エリザベス。アリス。アリシア。ルーナ。

 

 ルーナ。ローマ神話に登場する月の女神であり、月を意味するラテン語に由来する。日本語ではルナだが、そこではなく。

 月。夜空に輝く無二の天体。それが、ハジメの琴線に触れた。

 吸血鬼に月を由来とする名前なんてベタにも程があるが、花子よりはマシだろう。目の前にいる、金髪の美幼女に、深夜の女子トイレは似合わない。

 ここまで決まってしまえばあとはそう時間もかからない。

 選ばれたのは、中国語。月亮(ユエリャン)。そのままだと呼びにくいし、人名っぽく無い気がしたため──

 

「……ユエ、なんてどうだ?」

 

 この間、僅か三秒である。使駆が渋っていた時間に比べれば、あっという間もいいところだ。

 

「ユエ? ……ユエ、うん。花子よりずっといい。ありがとう、ハジメ」

 

「あ、ああ、うん」

 

「ギャハハ、いいセンスしてんじゃねーか」

 

 これからどうするのか、この先ついてくるつもりなのか、また殺し合いを再開するつもりなのではなかろうか──ハジメは思考を放棄した。





 後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。

 使駆によって封印が破壊され、自由の身になったユエは何をしていた?

 全身を粉々に破壊された仕返しをしようと、全快するまでは部屋で待ち受けることに決める。そしていつか外に出て、我が身を粉砕してくれた恩人にお礼参りを──

 いつの間にか部屋が修復されると同時に、巨大なサソリのような魔物が現れる。肉体を回復させたおかげで残り少ない魔力をフルで使い切る大技を放ち討伐するも、魔力体力共に使い果たし、暫く行動不能に。
 魔力の自然回復の為に休んでいる間にサソリがリスポーンし、また倒す為に使い果たし──

 そんな生活を送っているうちにユエの魔力量、回復速度、魔法威力が跳ね上がり、いつしかサソリは現れなくなった。
 そしてちょうど、飢餓感はともかく魔力だけは回復したため、大迷宮からの脱出を図ろうとしていたところで、使駆が現れ……。

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