殺人鬼エリリンの愉快な死に様。 作:不可思議可思議
ユエが使駆を許したことでひとまずの和解となり、互いの状況を説明することとなった。
ハジメがここにここに来る事になった経緯。
使駆がやって来た理由と手段。
ユエが封印されるまでの歴史。
ハジメと使駆の目的は、迷宮の最奥まで行き、地上へと帰ること。
それを聞いてユエは疑問に思い、そのまま口にした。
「……使駆がまた掘り抜くのはダメなの?」
当然の疑問であり、ハジメも会ってすぐのタイミングで同じことを聞いている。その時と同じように、使駆は首を横に振って答えた。
「あんときやったのは禁じ手──
「……そういやお前、ここまでなんも食ってなかったな」
使駆の人外な見た目からハジメは忘れていたが、使駆の燃料は普通の人間と変わらない。地球にいた頃も、見ているこっちが胸焼けしそうなくらいにはカロリーに重点を置かれた食事をしていたのを、昼休みに目撃している。
「大気中からも少量だが補給できるからな。お前と会ってからはずっとセーフモードなんだよ」
「……使駆の体、どうなってるの?」
「血も涙も流れていねぇのさ」
使駆はそう宣いながら、右手の手首を回転させてみせる。一周、二周と回しても決して千切れない。
「作られた人工の身体に、脳を移し替えてるんだったか?」
ハジメは確かめるように問えば、使駆は補足を加えて肯定する。
「正確には、脳とその周りをデータ化したものをコピーペーストしたんだ。だから生物学的には死人が死体を動かしてるようなもんだな。ユエ風に言うなら、田中太郎はもう死んだってとこか」
「そんな地味な名前だったのか?」
「ギャハハ。テキトーな思いつきに決まってんだろ。……覚えてねーんだよ。人間の時の名前なんて、世界最高の殺戮兵器にはノイズでしかねーだろ」
ギャハハと笑う使駆とは対照的に──
「ぐす……」
ユエは、悲しげに涙を流す。
「……泣く要素あったか?」
使駆は不可思議そうに首を傾げるが、この場合異常なのは使駆の方だ。オタク知識というフィルターのあるハジメには作り物めいた話に聞こえてしまい、捻くれた返ししか出来ないが、ユエは違う。
クラスメイト達の誰と比べたとて、ユエほど純真無垢な心の持ち主もいないだろう。
「だって……使駆、辛いはず……なのに……」
使駆は嬉しいような困ったような、微妙な表情を浮かべながら、その硬い指先でユエ目元を撫で、涙を拭う。
ユエにはその指先が、屍蝋のように悲しく思えた。
「ギャハハ。吸血鬼が泣き虫なんて格好つかねーぞ。鬼の目にも涙たぁ言うが、鬼なら笑うべきだろう? ざまぁ見やがれって、ムカつくくらいに笑って見せろ」
「……笑えるわけ、ない」
ユエは恥ずかしそうに顔を背け、鼻をスンスン鳴らしながら返す。
すると使駆は見せつけるように、生身の人間には出来ないほど大きく、半月のような笑みを浮かべて言う。
「俺ら鬼は人様を喰いもんにして生きてるんだ。テメェの不幸も他人の不幸も、全てを嘲笑って、喰い散らかして、吐き捨てて、汚らしく穢れながらに生きていく。不幸そうな面して泣いてんじゃねーよ。俺みたいな人でなしに笑われちまうぜ?」
ギャハハ、と。使駆はユエの涙を嘲笑うように笑った。
ムッ、と。ユエは使駆の笑みを悔しげに睨みつける。赤くなり潤んだ目が可愛らしい。
殺し合って、許し合った。そんな妙な距離感で触れ合う二人の間に入り込めないハジメは、居心地悪そうに、口を挟んだ。というか、露骨に話題を逸らした。
「ユエは、ここがどのあたりとか知らないのか? 地上への脱出の道とか……」
使駆が通ってきたという状況証拠から、迷宮の最奥部には地上とを行き来できる何かがあるのは間違いない。いまハジメが訊いたのは、ユエをここまで連れてきた者たちが、どのようにしてこんな危険地帯までやってきたのか。その道のりである。
残念ながら、ユエもそれは知らなかった。けれど代わりに、迷宮にまつわる歴史について、ユエは二人に聞かせた。
「この迷宮は、反逆者の一人が作った。……と、言われている」
反逆者。不穏な響きの呼び名に、使駆もハジメも首を傾げる。
例えば、神が作っただとか、魔王が作ったとかなら、ゲームみたいだという以上の感想は出なかっただろう。
「反逆者──神代に神に逆らい挑んだ、神の眷属が七人。世界を滅ぼそうとしたと伝わっている彼らは、失敗し、世界の果てまで逃げた」
その果てというのが、今では七大迷宮と呼ばれるようになっているらしい、ここ。オルクス大迷宮もその一つで、最深部には反逆者の住まう場所があるのだと、ユエの時代では言われていたという。
最深部の住まいについては、使駆がハジメと出会う前に目撃している。そこに使駆が通ったという地底と地上をつなぐルートもあるのだろう。
結局、情報の信憑性、解像度こそ増したものの、あまり有用な手がかりは手に入らなかった。
使駆は退屈そうに、ハジメは考え込むように黙りこくる。
ユエは居心地悪そうに、迷子の子供のように不安そうに尋ねた。
「二人とも、いつか帰るの?」
「……それは、元の世界に、ってことか?」
ハジメは思考を中断し、ユエの言葉に返す。
「帰るよ。帰りたい。腕も無くなったし、髪も白くなっちまったが、それでも故郷に……家に、帰りたい」
「……そう。使駆は……?」
ユエの表情が翳る。対照的に、けれど珍しく、使駆は苦笑いを浮かべてぼやく。
「興味ねえ……って、言いたいとこなんだがな。事情が変わっちまった。事情っつーか、感情っつーか……」
使駆特有の、レンズのような不自然な瞳に、殺人鬼の無機質であるべき瞳に、人間味という熱が滲み出る。
「いや、あえて言おう。同情だ。この轢殺専門の殺人鬼、殺人鬼の頂点が断言してやるよ──俺もお前も、向こう百万年は死ぬことはない。うち九十九万と九千九百九十九年を孤独に生きることになる。百年二百年の封印がマシに見える地獄が、お前を待ってるぜ──! ……この世界にいるならな」
「……脅迫?」
「おい待て! 一年保たず人類滅ぶのか!?」
「ギャハハハハハ! ったりめぇだろ。轢殺専門の殺人鬼と、刺殺専門の殺人鬼が地球から解放されて放し飼いなんだぜ? ぶっ殺しまくってもメイド長が邪魔しに来ることもない。そしたらもう、ぶっ殺しまくるに決まってんじゃねーか。一年持ったら奇跡だな。ギャハハハハハハ!」
ちょっとでも自分を助けてくれた英雄的存在だと思っていた自分が間違っていた、と。ハジメとユエは心を一つにした。
「ここと比べて、地球はいいぞ。殺しさえ我慢すりゃ、大抵のものは手に入る。美味い飯も、綺麗な寝床も、家族も出来る。家族も友達も帰る場所もないんだろ? ならちょうどいいじゃねーか。地球で百億年殺し合おうぜ、ユエ」
「…………殺人鬼流の、愛の告白?」
「いや、違うだろ。……多分」
顔色が変わるということのない使駆の表情は読みづらい。だがそれでも、ユエは使駆の感情を正確に読み取っていた。
後書き。というか、今後しばらく語られないであろう設定。
巻解使駆という殺戮兵器にとって、不死の生物とは珍獣であると同時に、ずっと追い求めてきた存在でもあった。
生涯の目標の一つと言っていい。
人体という百年程度しか持たない消耗品を捨てた、不老の存在である使駆にとって恐れる事態とは、人類絶滅に他ならない。人としても、殺人鬼としても。
人類絶滅を恐れ、しかし殺人鬼としての本能が絶滅を求める。
滅亡や絶滅のアンチテーゼたるメイド喫茶のメイド長がいたものの、方向音痴である彼女は割と頻繁に地球から姿を消す。そもそも使駆を遥かに上回る実力者。使駆をして恐怖の存在であった。
故に、真に使駆が求めていたのは己に釣り合い、釣り合い続けられる存在。
ユエという不死の吸血鬼は、使駆が密かに求めてきた
生殖機能も恋愛感情も失った使駆に、ユエはその実力と能力と魅力を持って、枯れ果てた筈の”愛”を蘇らせた。
おまけ。というか、枯渇した恵里ちゃん成分補給所。
──鈴視点。
「え、えりりん……」
「いっひひひ。鈴は何時だって可愛いなぁ」
「うぅぅ、お酒臭い……」
未成年飲酒がなぜいけないのか。そんなことを考えたことも無かったけれど、愛ちゃん先生の置き土産であるエリリンを見て、考えるまでもないことを鈴は知った。
素面の時でも他の子よりボディタッチ多めで過激めなエリリンだけど、お酒パワーでただでさえ緩かった
「ほらほらー。今なら美少女を愛でたい放題だぞー」
「エリリンが鈴を愛でまくりだよぉ〜!」
「いいじゃんさいいじゃんさー。役得だろう? JKのおっぱい触り放題なんて、億万長者でもタダじゃできないぜー?」
……しょーじきなとこ。
こっちに来てからエリリンのおっぱいには結構頻繁にお世話になってるし、大好きだけどレアリティ的なのはちょっとなぁ。
スーパーマリオでいうとこのキノコ的な?
超重要アイテムではあるし生命線ではあっても、なんていうの? リゾートホテルには無い実家特有の安心感というか、三つ星レストランには無いお袋の味というか……。
「ほらほらどうしたー? 鈴らしくないなぁ。吸っても舐めてもいいんだよ? 出ないけど」
「……えりりん。覚悟はいいね?」
「もちろん。殺す気でおいで」
……今夜は眠れないね。