殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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 久しぶりにアニメ見たら面白かったので投稿。


第十六話 先に進みたければ、私を倒してみせることだ

 

 メイド喫茶のメイド長。神刺刹那。

 裏の社会、裏の世界を暴力で生き抜く人間で、その名を知らない人間は奇跡的なレベルの幸せ者か、取るに足らない雑魚のどちらかである。使駆は当然のように殺し合った過去があり、ハジメとユエはそもそも、裏ではなく表の住人だった為に面識はなく名も知らなかった。ここに、ユエが生まれたのはもう何百年も前のことだとか、そういう論理的な理屈は通用しない。

 

 神刺刹那は、そういう人間だ。

 

「世界を救いに来たって、……どういう意味だ?」

 

 刹那の言葉の意味を理解できなかったハジメは問う。

 

「質問に質問で返させてもらうよ、南雲ハジメ君。君はどうして戦うのかな?」

 

 何故、名前を知っている。ハジメはそんな疑問を口にしようとして、口を閉ざされていることに気が付いた。

 穢れを知らぬ綺麗な女の手が、ハジメの両頬を握るように掴んでいる。

 

「な──

 

「不合格」

 

 ハジメは、投げられた。浮かぶ疑問を放棄して、刹那の問いへの返答を考えた次の瞬間には、顔を掴まれ、壁へと投げられていた。

 全く反応できなかった。無能だった時ならともかく。この世界に来る前ならともかく。

 ずっと強くなった状態で、万全の準備を整えた状態で、ハジメは負けた。

 硬い岩石の壁に打ち付けられ、身体のあちこちの骨が砕けているのを体感しながらも意識を保ち、刹那を睨むことしかできずにいる。

 

「ハジメっ!」

 

「次は君の番だ、ユエちゃん。君はどうして、ここにいるのかな?」

 

 仲間を傷つけられたというのに、警戒してばかりで戦意を見せない使駆に違和感を覚えつつ、治療するためにハジメの元へと駆けつけながら吐き捨てるように答えた。

 

「使駆と、ハジメと一緒にいたい。だから私は……二人のいる場所にいるの」

 

 道中に何度も飲んできた神水。その効能は肉体の崩壊すら癒すほど強力な治癒。ハジメから渡されたボトルの中身を、ハジメが咽るほどに飲ませる。

 その様子を見て刹那は、笑って頷いた。

 

「合格。轢殺専門の殺人鬼、人を殺すために生まれた私の対極存在の隣に立って、よくぞそれを言ってみせた。そして使駆君。昔、君に寄越した不合格も撤回しよう。合格だ」

 

「……はぁ?」

 

 使駆の元より無機質な顔から表情が抜け落ちる。

 

 刹那の合格、不合格の判断基準を知っているからこそ、使駆はある種、拍子抜けした。

 合格とは刹那直々の無害認定であり、一方的な味方認定。

 

「私は神を殺すために生まれてきた。そして今は、世界を救うために生きている。ただ世界ってやつは、人間一人でどうこうできるってものでもないからね。一人でも多く、世界のために戦える人がいてほしいんだ」

 

「……使駆みたいな、殺人鬼でも?」

 

 治りつつあるハジメを介抱しつつ、ユエは刹那に尋ねる。

 しかし刹那は答えず、その視線はハジメの方に向く。

 

「さあ立て少年。君は不合格以前に弱すぎる」

 

「いきなりぶん投げやがって、何言ってやがる」

 

「それはわるかったよ。ごめんごめん」

 

 刹那は嘲笑うように謝るが、その表情はハジメの精神を逆撫でしたようで、ハジメはリボルバー型レールガン──ドンナーを抜き構えた。

 しかし刹那は銃口を前にして怯む様子を見せず、どころか発砲を促すように笑みを深める。

 

「使駆君。ユエちゃん。というわけだから、君たちは先に進みなさい。どうせこの先はゴールしかないからね。久方ぶりの安全地帯じっくりと堪能しているといい」

 

「……ハジメを置いてはいけない」

 

「おっと。君は怖い子だね、ユエちゃん。でも何も、殺そうとか犯そうってわけじゃないんだ。鍛えなおすだけだよ。そう時間もかからないし、命と貞操は保証するよ」

 

「そんなの……、信用できるわけ──

 

「行くぞ、ユエ」

 

 渋るユエを、使駆は抱き上げた。

 

「む……、使駆?」

 

「おい使駆、どういうつもりだ?」

 

「ギャハハッ。すぐにわかるぜ。メイド長に逆らうだけ無駄だってな」

 

 使駆は笑いながら、ユエは心配するようにハジメを見つめながら、先へと進む。

 

「おい待て! そもそも、このメイドがお前の知ってるやつと同一人物だと、なんで確信してるんだ!? 地面から湧いて出てきたんだぞ!?」

 

 ハジメの思わず叫んだ疑問は当然のものである。

 使駆の記憶を迷宮が読み取り、記憶の中で最も強力な敵を再現しただとか。そういう幻覚を見せられているだとか。

 それこそ現れたのが刹那でなかったら、使駆も本人だとは思わなかっただろう。

 

「メイド長は湧いて出るもんだぞ」

 

「あっはっは。人をゴキブリみたいに言うんじゃねーよ、ぶっ殺すぞ」

 

「やべ。逃げるぞユエ! 全力でしがみ付け!」

 

「え?」

 

 ユエを抱きかかえた使駆が走り出すと同時に、使駆が直前まで立っていた地面が崩落した。まるで事前に落とし穴が仕掛けられていたかのように。

 穴は指向性を持った地割れのように使駆を追う。

 

地操術(ちそうじゅつ)。まあいわゆる、土使いの技だ。地中で戦うならこれより便利な技もない。……流石にスピードじゃあ、轢殺の専門家には負けるけどね」

 

 使駆とユエの姿は消え、先への道も崩壊して閉ざされた。

 錬成を得意とするハジメなら難なく掘り進めるだろうが、そのためには刹那を倒さねばならない。

 

「……殺す」

 

「いいね。ここから先に進みたければ、私を倒してみせることだ」

 

「躊躇いなく死亡フラグ立ててんじゃねえ!」

 

 相手が人間であるにもかかわらず、ハジメは撃った。

 音速を超える弾丸の二連撃。

 ドンナーはこれまで多くの魔物を屠ってきた。当然、人間が食らって平気な弾ではない。

 

 刹那の選択は、回避ではなく防御。

 ポケットから取り出したボールペンのようなもので、弾丸を叩き落した。

 

「……おまえ、それでも人間か?」

 

「人間程度に負けてる場合じゃないだろう? ほら、殺す気でかかってきなさい」

 

 片や拳銃。片やボールペン。けれど優勢なのは、圧倒的なほどにボールペン装備のメイドだった。

 

 

 


 

 

 

 ハジメが刹那にしごかれている頃。

 無事に逃げ切り、ユエが言うところの反逆者の住処へとたどり着き、あちこち探検していた。

 どんな大層な設定があったか使駆の記憶には曖昧だが、確かにここには人が住んでいたらしい。

 東京ドーム単位で広大な空間の中には、人工的に太陽を再現したかのような照明機構が頭上高くに浮かんでおり、壁面の一部は滝になっている。川や清涼な風が流れ、洞窟特有の淀んだ空気を感じない。川には魚が泳ぎ、少し離れたところには何も植えられていないが畑のようなスペースがあり、さらにその隣には家畜小屋まである。都会派殺人鬼である使駆に使いこなせる自信は全くないが、それなりの技術と知識があれば人が暮らすには十分すぎる環境だ。

 

 その反対側の方向には、岩壁を削って造ったような建築物が並んでいる。

 そして二人は見つけてしまう。

 

「ん、使駆」

 

「……ああ、そうだな」

 

 大きな円状の穴。淵にはライオンのような生物をモチーフにしたような彫刻が、口を開いたような状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣があり、試しにユエが魔力を注いでみれば、彫刻の口から勢いよく温水が飛び出てきた。

 

「入るか、風呂!」

 

「うん……!」

 

 一応、念のため、先に明言しておこう。

 巻解使駆は男である。

 そしてユエは女である。

 二人は親しい中であれど恋仲というわけではなく、互いの認識は戦友にして親友だ。

 

 だがそんなこと、たかが性別の差なんて、二人の前では些細な問題であった。

 年月に差異あれど、久方ぶりの風呂なのだ。それが目の前にあって、我慢できるほど、ふたりとも忍耐強くはなかった。

 

 というかまあ、互いの全裸なんて既に見慣れていた。

 

 半身浴が出来る程度まで湯が溜まると、待ちきれんとばかりに使駆が飛び込んだ。

 続くようにユエも、裸体を隠す程度の役目はしていた布切れを放り投げ、湯に飛び込んだ。

 まだ溜まり切っていないが、それでも寝そべるように浸かれば全身を湯に浸けることができる。

 

「はぁ~~」

 

 完全防水で呼吸できずとも問題ない使駆はつま先から頭頂まで満遍なく沈み、ユエは使駆の腹を枕に、顔だけ水面に浮かべる。行儀の良い浸かり方とはお世辞にも言えないが、ここまでの戦いの疲労を癒すのに行儀や風情なんてものも、やはり些細なものだった。

 

「あー……。やっぱ風呂はいいな。流石は世界共通文化。異世界でも歪みねえぜ」

 

 ある程度湯が溜まると、使駆は身を起こして湯船の淵に寄り掛かるようにして腰を下ろし、ユエは甘えるように使駆の両脚の間、股座へと収まった。

 

「……使駆の身体でも、気持ちいいの? 錆びない?」

 

「ギャハハ。人を鉄の塊みたいに言ってんじゃねーよ。まあ俺が風呂を極楽だと思うのは……」

 

 使駆の球体関節には汚れが溜まりやすい。肌から汗や老廃物が出るようなことは無いが、その代わりに砂や埃が溜まりやすいのだ。関節を緩めることで大まかなメンテナンスは出来るが、綺麗にしようと思うと、人間同様に湯に浸かるしかない。

 

「……思うのは?」

 

「……説明がめんでぇ。生身と大して変わんねーってことにしとけ」

 

「うん、……わかった」

 

 ユエの知る使駆の手は、いつだって自分よりも冷えていた。動力という熱源があるとはいえ、平常時での発熱は無に等しく、時にその身体は死体のように冷たい。

 それが今だけでも、人肌のように温かいというのが、ユエには喜ばしい。

 

「……刹那って人」

 

「あ?」

 

「あのメイドの人って、どんな人なの?」

 

「はあー?」

 

 別に興味があるわけではなかったが、何か話題が欲しくて、ユエは何となく訊いてみた。

 

「あー……。俺もあんま知らねーんだけど、知ってる限りでも、滅茶苦茶にバケモンだぜ」

 

「使駆よりも?」

 

「ギャハ。言ってくれんじゃねーか。……まあ、その通りなんだわな、これが」

 

「どんなふうに?」

 

「聞いて驚け。あのメイド長、前職は宇宙飛行士でな。月まで飛んでって、歩きで月面一周して帰ってきやがったんだ」

 

「月まで……飛ぶ? 飛んでいける場所なの?」

 

「おう。ロケットっつってな。……あー。原理は知らねぇが、まあ火炎魔法みたいなのを真下に撃って、その反動で真上に飛ぶ乗り物があるんだ。それに乗って宇宙まで、月まで飛んでくんだよ」

 

「へえ……。使駆も、行ったことあるの?」

 

「俺はメイド長にぶん投げられて月まで飛んでった。地上まで帰るのマジで大変だったんだぜ? 重力が地上の六分の一とはいえ、重力圏を飛び越えなきゃいけないし、それが出来てもその次は無重力空間を泳がなきゃならねぇんだ」

 

「無重力。……泳げるの?」

 

「メイド長は泳げるらしいが、俺は無理だ」

 

「……じゃあ、どうしたの?」

 

「そん時に編み出したのが、お前を最初にぶっ飛ばした禁じ手、禁断殺法(サードパーティ)だ」

 

「…………」

 

「黙んなよ。あんときゃ悪かったって、謝ったろうが」

 

「……他にはあの人、どんなことしたの?」

 

「そうだな……。ああ、海賊やってたな」

 

「……メイド服で?」

 

「流石にそんな馬鹿なことは……、多分してねえよ」

 

「多分」

 

「海賊が世界中のあっちこっちで暴れまわってた時代があったらしくってな。ほっといたら海産物が誰も食べられなくなるってんで、海賊を絶滅させなきゃいけなくなったんだ」

 

「世紀末?」

 

「さあ、俺が生まれるより前の頃だしな。……んでまぁ、その海賊を絶滅させようってんで、メイド長は自分から海賊になって海に出て、海賊を片っ端からぶっ殺して回ったんだ」

 

「……それ、使駆よりも殺してない?」

 

「まあ、世界で七転び八起きしてるような奴だしな。人どころか神だって殺してるんだぜ? メイド長がいなきゃ人類は滅んでいたが、同時に最も多くの人間を殺した個人でもある」

 

「……そんな人にハジメを任せて大丈夫?」

 

「命は保証するっつってたし、大丈夫だろ」

 

 ハジメがどんな地獄を見ているのか想像もせず、使駆とユエは暫くの休息を存分に楽しんだ。

 

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