殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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第二話 数を誇るうちは数の一つでしかない


 

 

 

 短い間に散々見た偉そうな演出で、魔法とか諸々の装飾過多なロープウェイ擬きで、ボク達はハイリヒ王国へと輸送されることになった。

 山を降りて雲海を抜ければ、派手な絨毯みたいに町が広がっていて、山肌からせりだすように巨大な城が見える。

 

 はっはーん。なるほど、神臭い。地上から見たら確かに、ボクみたいなのでも神の使いに見えるだろうねぇ。区別なんてつかないだろうし。

 

 

 

 ロープウェイが王宮に直接着くと、ボク達は真っ直ぐに玉座の間に案内された。早くも見飽きてきた煌びやかな廊下を先導される。

 道中、騎士とかメイドとか色んな人が期待に満ちた、あるいは畏敬の念の溢れる眼差しを向けてくる。

 やれやれ、全く。ボクみたいなのには居心地悪くって、背中が痒くなるよ。曲がりなりにも神様やってる卑弥呼は口元がにやけてるのを見るに、殺人鬼がどうこうってより人柄なんだろうねぇ。

 

 でっかい扉の前に到着すると、両サイドに立っていた兵士二人がイシュタルと勇者一行の到着を大声で告げ、返事も待たずに扉を開け放った。

 イシュタルもそれが当然って風に悠々と通る。その先に広がっていたのは……。

 

「ギャハハッ。ドラクエ実写版って感じだな」

 

 ……うわ。使駆と全くおんなじ感想でちょっと嫌になる。

 

 王様に王妃様。それから王子様にお姫様って感じの子が二人に、その他大勢がいっぱい。

 

 イシュタルはボク達を玉座の前で止め、自分だけ王様っぽい人の隣に進んだ。そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。

 

 おっと。実写版ドラゴンクエストそのままってわけでもないみたい。教皇と国王じゃ教皇の方が上下関係的に上なんだね。こわや、こわや。

 

 なんて思ってるうちにも時間は進み、長ったらしい自己紹介が終わったらしい。もちろん聞いてなかったし、聞いてても顔と名前が一致しなさそうだけども。

 カタカナの名前なんてただでさえ覚えにくいのに、異国の人の顔なんて区別もつかない。

 

 ただまぁかろうじて覚えてるのは、ボク達全員の衣食住の保障の話。あと、戦闘訓練があるとかなんとか。教育役がそれなりの数いるらしい。

 

 

 

 晩餐が終わると解散になり、一人一部屋与えられる部屋に案内された。

 天蓋付きのベッドとか相変わらず装飾過多な内装にうんざりしたのはボクだけじゃないはず。

 

 

 


 

 

 

 翌日。朝っぱらから訓練と座学が始まった。訓練用の施設に集められ、財布にもギリギリ入りそうな銀色の板が配られた。

 みんなそれを不思議そうに眺めていると、筋骨隆々で、殺し甲斐の無さそうな、騎士団長らしい巨漢が説明を始めた。

 この銀色の板の名は《ステータスプレート》というらしく、その言葉通り、ステータスを数値化して示してくれるものなのだとか。

 

「……うさんくさ」

 

 身体能力を数値化とか、そんなのゲームの話じゃんさぁ。

 

 まぁそんなこと、オタク文化を毛嫌いする天之川君がリーダーになってる時点で言うだけ無駄なんだろうけどさ。

 

 

「一緒に渡した針で指にでも傷を作って血を垂らしてくれ。それで所持者が登録される。《ステータスオープン》と言えば自分のステータスが表示されるはずだ」

 

 うえぇ、痛そう。

 指に針を刺すとか絶対嫌なんだけど。

 

 代わりに最近できたばっかりの腕の瘡蓋を引っ掻いて、滲み出てきた血を擦り付ける。

 

「……ワオ」

 


中村恵里 16歳 女 レベル1

天職:降霊術士

筋力:60

体力:30

耐性:140

敏捷:40

魔力:10

魔耐:70

技能:地獄[+修羅]・闇系魔法[+降霊術]・気配偽装・言語理解


 

 

 説明に嘘は無かったらしい。数値への信憑性とか信頼度は度外視するにしても、見えるものの尽くがここを異世界だと実感させてくる。

 

「原理とか聞くなよ? 神代のアーティファクトの類だ」

 

 地獄に修羅って。ボクは鬼か何かにでもなったの? ……いや、端くれながらも殺人鬼だけどもさ。

 どういう意味だっけ、修羅って。前にどっかで聞いた気がするんだけど、なんだったかなー。

 

「修羅道。怒りと苦しみが絶えず、終始争い、戦う世界。仏教において最後に生まれた地獄、だったか」

 

「……バカが頭いいこと言ってる」

 

 まあ、歴史の教科書に出る名前を名乗ってるだけのことはあるのかな。

 

「おぬし最近、妾達を嘗めすぎてはおらぬか?」

 

「いや、めっちゃ尊敬してるけども。卑弥呼ちゃんったら、かっこいー」

 

 棒読み。棒読み。

 

 それでも満足いくだけの称賛だったのか、卑弥呼は「ほれ」と気軽に言いながら、ステータスプレートをボクのと入れ替える。

 


天神(あまがみ)(ほとけ)

天職:巫女/大神

筋力:20

体力:600

耐性:20

敏捷:40

魔力:100

魔耐:40

技能:鏡面[+合わせ鏡][+太陽神]・神楽・槍術・言語理解


 

 

「……卑弥呼っぽいね」

 

「妾が太陽神というのも、事実であれ違和感なのだがのぉ」

 

「いや、天職が殺人鬼とかじゃない方がよっぽどでしょ」

 

 ボクもだけどさ。

 言うと、卑弥呼は軽薄に笑いながらボクのステータスプレートを返してきた。ボクも卑弥呼に返して、もう一人の殺人鬼の方に視線を向ける。

 

「そういや俺、血ぃ流れて無かったわっ。ギャハハハッ」

 

「クフフ。血も涙もないのはお互い様、ということかのぅ」

 

 そういえばだけど、使駆の体に血は流れていない。

 どころか、人間と比較したら血も涙も、肉も骨も無い。頭脳はデータで、肉体は歯車箱(ギアボックス)

 

 SFチックな肉体とファンタジーな世界観はどうしようもなくミスマッチらしく、ステータスプレートはただ銀色を保っている。

 

 

 現代社会最高の社会不適合者、殺人鬼。

 ちょっと見方を変えれば勇者だろうと英雄だろうと大差ないはずなのだけれども、そういう現実はファンタジーな世界でもそう変わらないらしい。

 


天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解


 

 例えばマジで勇者だった天之川君なんて、居合わせている騎士団の人たちが歓声をあげるほど歓迎と応援をしているというのに。

 

「まさか勇者御一行の中に異教徒と魔物が紛れ込んでいるとはな! 許せん!!」

 

 卑弥呼のステータスプレート、使駆の手首から先の素肌を見た騎士団の一人が、二人に向かって剣を抜いた。

 

「ギャハハッ。人を見るなり化け物扱いとか、何様のつもりだぁ?」

 

 相手が己よりも強いことなんて想像だにしていなかったのか、あるいはヤバくても神様が助けてくれるとでも思っているのかな。

 

「それはこっちのセリフだ! 何様のつもりで勇者様方に紛れ込んだのだ!!」

 

 騎士は魔物と称した使駆に向かって、両手剣を振り下ろした。

 

「御気の毒様だよこの野郎!!」

 

 バラバラ。

 ガッシャーン。

 きっと沢山の生き血を啜ってきたであろう騎士の剣は、数多の血肉を轢き潰す手刀で轢き砕かれる。

 

「ギャハハハハハハッ!! お前はなんだ? 御客様か? 御苦労様か? 御生憎様か?」

 

 騎士は痛みに悶え、答えられずに蹲る。

 剣の粉砕が勢い余り、両手共に肘辺りまで鎧が砕け、骨までも砕けたのか、腕は赤黒く腫れていた。

 

「クフフ、安心しろ。うぬが何様であろうとも、妾がしゃんと殺してやる」

 

 卑弥呼の右手には、細く長い、針と言った方が適切にも思えるような異形の槍。

 

「妾は刺殺専門の殺人鬼。人のように舞い、神のように殺す」

 

 蜂の巣。あるいは蓮根かな。

 騎士の鎧も、筋骨隆々の肉体も無差別に、腹も顔も区別無く、全身に穴が空けて血を撒き散らす。

 一秒足らずの神業。文字通り神の偉業。

 

「さぁ、選ぶがいい。エヒトと言ったか? この世界の神につくか。それとも曲がりなりにも日ノ本の神、天照大神につくか」

 

 肉塊となったものには目もくれずに、卑弥呼はクフフと笑う。使駆も隣でギャハハと笑う。

 誰も彼もが状況に追いつけず、立ちすくむ。そりゃそうだよね。現代日本の社会と殺人鬼は対義語と言っていいくらいに相容れないものだから。

 

「こっ、……殺したのか!! 人を!!」

 

 それでも中には、拒絶反応以上の反応を見せる人もいる。一人、クラスのリーダー、天之川君。憤怒の顔で使駆の方に拳を握って走り出した。

 

「殺してないっつったら、嘘になるな」

 

 ギャハハ。

 

 使駆は天之川君に殴られても、タコ殴りにされても、笑みを微塵も歪めない。

 顔を殴られようと、腹を殴られようと、胸ぐらを掴まれて頭を地面に叩きつけられようと。

 

「ギャハッ。ギャハハッ」

 

 使駆は笑い、笑みを向け続ける。狂気のように。凶器のように。

 

「なっ、何がおかしい!!」

 

 使駆の笑みは変わらない。

 

 天之川君の顔は嫌悪に歪む。

 

「ギャッハハ! お前も同類だろうが!」

 

「ふざけるな! 俺とお前を一緒にするな! 俺は誰も殺さない!!」

 

 天之川君がまた殴ろうとすれば、今度は卑弥呼が槍を手放した手で、拳を掴み止める。細くて綺麗な手とは裏腹に力強い手は天之川君の拳だけでなく、脳天から爪先、思考に言動までも止めた。

 

「……使駆は悪を無くすために殺す。うぬとて、使駆や妾という悪を懲らしめようとした。無くそうとした。殺そうとした。……妾からも問おう。うぬと妾達にどれだけの差がある?」

 

 卑弥呼は言い終えるとすぐに手を離した。土でも触ったようにパンパンと払い、槍を拾う。

 天之川君はまるで死人のように、重力にも無抵抗に崩れ落ちた。

 

「答えはうぬの業に聞こう」

 

「またな、お前ら。長生きしろよ」

 

 クラスメイト達が動けぬうちに去ろうとする二人。……を、ボク以外で動けるようになった一人が呼び止めた。

 

「まっ、待ってください! 巻解くん! 天神さん!!」

 

 卑弥呼曰く、メンタル最強。ボク達の担任、愛ちゃん。

 使駆が「待ってられるか」とでも言おうとして、卑弥呼がその口にボールペンを捻じ込んで足も止めさせた。

 

「待とう。なんだ、愛子よ」

 

「二人はいつから……、どれだけ……」

 

 卑弥呼は答える。

 

「最初から。数を誇るうちは数の一つでしかない、とでも言っておこうか」

 

 使駆は答える。

 

「この身は殺しのために作られた。人が人を産むのが自然の摂理なら、俺が人を殺すのだって自然だろうぜ」

 

 

 


 

 

 

 使駆も卑弥呼も、もう一週間も帰ってきていない。

 帰ってくる理由もないんだろうし、どうせ今頃どっかで殺して美味しいご飯でも食べてるんじゃないかな。

 

 クラスメイト達は、あの日のことを忘れたように。あるいは忘れるために、脳死で訓練しているように見える。

 そんなみんなの頼みの綱とも言える愛ちゃんはと言えば、農地開拓だかなんだかで外に連れ出されたしで。

 

 なんて言うか、雰囲気最悪。

 

 

 

「エリリン、今日もサボりー?」

 

「それは人聞きが悪いってもんだよ、鈴」

 

 朝食の時間の後、ボクは図書館に来ていた。それもただの図書館じゃない、王立図書館。この世界でも三本指に入る規模の巨大な図書館。ここには魔法の使い方なんかも書かれた本がある。

 

「ノイズキャンセリングの魔法とかないかなーって」

 

「それ鈴をノイズって言ってるよね!? 鈴をキャンセリングしようとしてない!?」

 

「鈴。図書館は静かにしなきゃだよ」

 

「使えてる! エリリンもうノイキャン魔法使えてるって!」

 

「…………」

 

「ねぇーえー! ほんとに黙らないでー! 無視しないでー! 鈴キャラ的にそれされると死んじゃうからぁ!!」

 

 ボクがこの世界の娯楽小説を斜め読みしている周りで騒いでる、愉快でロリ可愛いクラスメイト、谷口鈴。この子は一応ボクの表での親友ってことになるのかな。友達とかあんまいないし、親友と友達の違いとかよくわかんないけど。

 

「エーリーリーンー!!」

 

「はいはい、何?」

 

 こうも騒がれちゃ読書のしようがないし(そもそもしてないけども)、本を閉じて身も意識も鈴に向ける。

 

「……えっと、……なんだっけ」

 

 殺してやろうか、この小娘。

 

「エリリン目ぇ怖いよ!?」

 

「アッハァ、気のせいだって」

 

 おっと。

 危ない。危ない。

 

「で、何しに来たの?」

 

「だから忘れちゃったんだってばぁ!!」

 

 おさげがピョンピョコ跳ねて鬱陶しい。ボクの肩を揺さぶるのも鬱陶しいし、背が低いおかげで視界から出たり消えたりするのも鬱陶しい。

 

「まったく、まったく。美少女って可愛いだけで何しても許されるの、ズルいよねぇ」

 

「それエリリンが言うんだ……」

 

「だって美人と美少女は別物じゃんさ?」

 

「それエリリンが言うんだ!?」

 

 ボクが言わなきゃ誰も言ってくれないからね。

 

「ズルついでにもう一つ。このボクがハグしたげるよ」

 

「わーい」

 

 首元に腕を回して抱きついてくる鈴を、ボクも腰に腕を回して抱き返す。

 

 ボクも嬉しいよ。サボる時は共犯者がいてくれた方が楽で楽しいからねぇ。

 

「ねえ、鈴」

 

「ん、なぁに?」

 

「超愛してる」

 

「うわっ、超嘘っぽい」

 

 人肌って温いよねぇ。

 

「嫌いじゃないさ」

 

「それはホントっぽくて嬉しいかも」

 

 愛しや。愛しや。

 

 なんて、虚言じゃないだけで狂言だけどもさ。




 後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。



 専門殺人鬼

 巻解使駆と天神卑弥呼を含めて、六人の殺人鬼の呼び名。

『惨殺専門の殺人鬼』
 両親兄弟姉妹を二本のナイフで殺し、血肉を食らった殺人鬼にして食人鬼の小学生。
 
『自殺専門の殺人鬼』
 自分の手を一切汚さずに殺す殺人鬼。最高の殺し屋でもあり、唯一無二の殺人鬼組織を率いている。

『不殺専門の殺人鬼』
 正体不明。名前だけが広まる、都市伝説の中で流行った都市伝説。元ネタは多分るろ剣。

『轢殺専門の殺人鬼』
 全身機械の殺人鬼、巻解使駆。最高速度が秒速表記になるくらいには速く、最初に犯した罪はスピード違反。ポケモン風に言うのなら、たいあたりの威力が一撃必殺。

『鏖殺専門の殺人鬼』
 無機物、有機物、問わずに殺す。目撃情報もないため、不殺と同様に半ば都市伝説。

『刺殺専門の殺人鬼』
 現人神の殺人鬼。瞬く間に蜂の巣にする神業で殺す様から、最短で専門殺人鬼となった。




 殺人鬼

 殺人犯とは別枠に括られる存在。

 捕縛より放置が安全と世界に判断されてしまった危険物。それでも捕まる殺人鬼は少なくないが、その大概は殺人鬼同士の喧嘩の末の後処理。

 社会に紛れる努力をしない殺人鬼は人間扱いをあまりされず、山から降りてきた熊に近い扱いを受ける。



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