殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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第三話 精々、殺させるなよ


 

 

 

 いつからかなぁ……。

 

 いい人っぽいな、とか。

 優しそうだな、とか。

 格好いいな、とか。

 

 そういうことよりも先に、その人を殺せるかどうかを考えてしまうようになったのは。

 

 

 


 

 

 

 この世界に来てから、だいたい二週間が経った。

 今は昼食後の休憩時間、かな。ボクは訓練をよくサボってるし、正確な時計も手元にはないから微妙なところだけど(この世界に時計があるのかも怪しいものだけども)。

 

 この世界には欠陥と言っていいほどに娯楽が少ないことは痛いほど痛感した。

 日本でも大人向けの娯楽が酒と女くらいしかない時代には仕事が趣味のワーカーホリックがほとんどだった、なんて話は聞くけれど、今のクラスメイト達は大概そんな感じ。

 

 というかまぁ、ゲーム感覚なんだろうけどさ。

 精度は置いておくにしても、身体能力が数値で表されるこの世界。きっと体を鍛えるのが、RPGのレベル上げみたいに楽しいんだろうね。

 天之川君みたいなゲームアンチ、リバースオタク趣味みたいなやつなんて、レベル上げだけでも中毒のレベルだろうさ。

 

 そして逆に、レベル上げなんてただの作業だと冷め切っちまったオタク君だって面子の中には当然いる。

 

「やぁ。…………えっと、なに君だっけ。白雲君?」

 

「えっ、……南雲です、はい」

 

 ボクは読み終えた小説をそばに置いて、デカくて分厚い図鑑か何かを広げていたオタク君、――そっか、南雲君に声をかけてみる。

 

「ごめんごめん。白崎ちゃんと一緒にいるのをよく見てたから混ざってたよ」

 

「いや、別にそんな……、気にしてないよ」

 

 暗いなー。

 

 まるで曇り空みたいな苦笑いを浮かべながら、その目はボクから本へと降りていく。

 オイオイ、ボクみたいな美人に声かけられておいてその反応は、ちょっとばかし傷つくよ?

 

「なになに、彼女と喧嘩中? 白崎ちゃんって怒ると怖いの?」

 

「つっ、付き合ってないよ!? そもそも!」

 

「ありゃ、そうなの?」

 

 じゃああれか。白崎ちゃんが片思い中って感じなのか。

 

「じゃあボクが貰っちゃおっかな」

 

「……え?」

 

 なんて。ボクが冗談めかしながら言うと、南雲君は目をまん丸くさせて、ぎこちない動きで顔をあげた。

 

「白崎ちゃんって可愛いもんねー。誰とも付き合ってないのが不思議なくらい。……いや、逆に自然なのかな。高嶺の花的な」

 

 白崎ちゃん。白崎香織ちゃん。

 学園のマドンナだか、女神だかって言われてる美少女。スクールカースト最上位、天之川グループに属する子。ギャルっぽいわけでもなく、ストレートに美少女な彼女は、多分、南雲君に惚れている。ベタ惚れしている。

 朝、遅刻スレスレで来た彼にはほぼ毎日、話しかけに行ってるし。昼休みや放課後にも、付き合いの悪い彼へとめげずにアタックしまくってる。……それで落ちない南雲君もすごいけどね。

 

 ヘタレ的な意味で。

 

「高嶺の花って、でもいざ考えてみれば酷い扱いだよねぇ。周りが底辺なだけなのに一人だけ天高くに置かれてるって。いじめかよ」

 

「いじめって、白崎さんが?」

 

「んや、むしろ差別かな。人間なのに神様扱いなんて、差別以外のなんでもない。――殺意の一つも湧くってもんだよ」

 

 アッハッハァ。

 

 差別はこの世界から決して無くならない。 

 解消はされない。

 

 ただ唯一、全員が差別しあった時にだけ、あらゆる格差問題は解決する。

 

 なんて、冗談だけどさ。

 

「殺しは最大の悪かもしれないけど、だからってそれ以外の悪行が最悪じゃないとは限らない。無自覚な行動が人を殺すことだってあるんだから、南雲君も気をつけなぁね」

 

 あるいは、自覚的な行動で殺す奴がすぐ近くにいるかもしれないしさぁ。

 

「精々、殺させるなよ」

 

 ボクに。

 

 んや、『ボク達に』、かな。

 

 

 


 

 

 

 この世界に来るまで知らなかったって時点で嫌な話だけど、ボクのクラスには割とマジなイジメがある。本当に嫌な話だけどね。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

 

 虐められてるのは、愛ちゃんを除けば唯一の生産職を天職とする南雲君。ステータスは常人程度。数値だけ見れば、勇者である天之川君の十分の一も無く、付いた呼び名が無能。

 

 ……まぁそりゃ、生産職に戦わせたらゲームでもそうなるでしょ。

 

 そして訓練と称して虐めていたのは、…………えっと、誰だったかな。四人の小悪党。殺すまでもない、殺す価値もない程度にしか思ってなかったからなぁ。四人も、南雲君も。

 

「……へぇ? 吐くまで魔法で的当てして、それが特訓なんだ?」

 

「いや、それは……」

 

 慌てて駆けつけた南雲君に恋する女の子、白崎ちゃんが言うと、虐めの主犯格は南雲君のことなんて忘れたように弁明を始めた。……わっかりやすぅ。

 

「恵里、あなた黙って見てたわね?」

 

「ウベッ」

 

 隅っこで見てたのがバレたのか、白崎ちゃんの幼馴染みだか、親友だかの八重樫ちゃんにボクまで捕まった。ボクの頭を鷲掴みである。女子にすることじゃないし、女子がすることじゃないよ。

 

「箸か剣しか持たないような手でボクの頭に触らないでくれる?」

 

「人を歴戦の武人みたいに言わないでもらえるかしら?」

 

 ……悪い子じゃないんだけどなぁ、八重樫ちゃん。

 男前というか、姉御肌というか。

 

「お金とるよ」

 

「引っ叩くわよ」

 

 なんかもうひたすらに、女々しいボクとじゃ相性が悪い。仲が悪いとか、八重樫ちゃんが嫌いとか、そんなつもりはないんだけどねぇ。

 

「せめて背が鈴くらいちっちゃければ、まだ可愛げもあるんだけどねぇ」

 

「悪かったわね、可愛げがなくて」

 

 前言撤回。拗ねてる分には超可愛い。

 

「あ、終わったっぽい」

 

 喋ってるうちに、南雲君と白崎ちゃんのもとに天之川君達まで集まってきて、イジメもなにも、グッチャグッチャになって終わった。

 虐めた四人も悪いけど、強くなる努力を怠っている南雲君も悪いとか、なんとか。そんな破茶滅茶な理屈を天之川君は力任せに押し通してしまった。

 

「終わったって、それは彼らの恋愛が?」

 

 八重樫ちゃんは居座る気なのかボクの隣に腰を下ろし、似合わないしたり顔でそんなことを言い出す。

 

「恋なんてしてないって。あんなの、可愛い可愛い白崎ちゃんに欲情してるだーけ」

 

「……じゃあそんな香織に欲情しない南雲君って、まさか」

 

「八重樫ちゃん、その先は身を滅ぼすよ」

 

「貴女にだけは言われたくないわ、レズビアン」

 

「バイセクシャルと言ってほしいね。ボクはイケメンにだって――おっと」

 

 危ない。危ない。

 危うくボクの口に年齢制限がかけられるところだったよ。

 

「イケメンが、なによ?」

 

「八重樫ちゃんはイケメンだって話だよ。結婚して?」

 

「光輝の方がまだマシよ、冗談じゃない」

 

「ボクは冗談のつもりだけどね」

 

 それはそれとして、天之川君の方がマシってのはちょっと傷つく。

 

「サボってたら怒られるよー」

 

「どうせもう訓練の空気じゃないわ」

 

「それは同感」

 

 八重樫ちゃんは重苦しいため息を吐く。それに釣られて、ボクも軽く吐いた。

 

「……それで、どうして助けずに見てたのよ」

 

 ギロリ、とでも鳴りそうな勢いで八重樫ちゃんの目はボクを見つめ、鋭く睨む。

 

「んー、まぁ、……趣味?」

 

「最っ悪ね」

 

 ボクもそう思うさ。

 なんせ、曲がりなりにも殺人鬼だからね。

 

「ボクは勇者じゃないからねぇ」

 

 

 結局ウダウダに終わった訓練の後。いつもならその後は少しの自由時間と夕食なのだけど。

 騎士団長、メルドに伝えたいことがあるとかで引き止められた。

 

「明日から、実戦訓練の一環として『オルクス大迷宮』へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 言うだけ言って、騎士団達はさっさと行ってしまう。

 

「……足痺れた」

 

「前途多難ね……」

 

 流石に半日も座りっぱなしはまずったなー。

 

 

 


 

 

 

 オルクス大迷宮。聞いた話じゃ、全百層からなる大迷宮であり、七大迷宮の一つ。

 要するに、ラノベとかでよくあるダンジョンってわけだ。そこに出会いがあるのかは知らないけど。

 

 深くまで潜れば潜るほど出てくる魔物は強くなるし、地上に出てくる魔物と比べて遥かに上質な魔石を体内に抱えている。

 訓練になるし、お金まで手に入る。一石二鳥どころの話じゃないね。

 

 魔石がなんの役に立つのか知らないけど。五個集めればガチャでも回せるのかな? 死んだらコンティニューできるとか?

 

「……エリリンが何考えてるのか当てたげるよ」

 

「鈴たそ可愛い、愛してる」

 

「嘘……だよね?」

 

 ボク達は騎士団長、他騎士団員何人かと一緒に、オルクス大迷宮に挑戦する冒険者のためにあるような宿場の町、ホルアドに来ている。

 ここは王国直営の宿屋で、二人部屋。相部屋は鈴。

 

「ほらほら、当ててみそ? ボクはいま何考えてるでしょー?」

 

「え? えーっと……。お腹空いた、とか?」

 

「確かに欲求不満ではあるけどね」

 

 時間的には微妙に遅い時間。深夜って言うにはまだ早いけど、喋るかイチャつくくらいしかすることもない。

 

「エリリンッ! 変態度で鈴を上回るのやめてってばぁ!」

 

「アッハッハ! 悔しくばボクを超えるがいいさ!」

 

「何様!?」

 

「そりゃ、まぁ、……お生憎様?」

 

「本当に何様のつもりなのか分からない! エリリンが何考えてるのか鈴分かんないよ!?」

 

「ボクを愛してくれればそれで十分だよ。鈴に理解なんて求めてないから」

 

「それ鈴をバカって言ってない!?」

 

「そんなことより、夜通しイチャイチャしよーぜ?」

 

「エリリンが馬鹿だよバーカ!」

 

 ……うん、まぁ、朝早いのに夜を楽しむのはボクも馬鹿だと思うよ。

 

「アッハハ! 馬鹿ついでに、ボクが添い寝をしてあげようじゃないか」

 

「えー? まあ、いいかな、うん」

 

 鈴は部屋の明かりを消して、ボクの添い寝を平然と受け入れる。ボクの腕を枕に眠る鈴の頭を、こっちからも腕を回して抱き締めれば、冷め切ったボクにも鈴の温かみが伝わる。愛しの愛しの、可愛い親友。もう一週間くらいのんびりしても、いいかもねぇ。




 後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。

 谷口( たにぐち )( すず )
 高校から出来た恵里の親友。使駆や卑弥呼とも少なからず交流はあったけれど、殺人鬼事情に関しては一切知らない、あくまでも一般人。
 美女や美少女が好物で、恵里の目的なきハニートラップに全力で引っ掛かりにいく。けれど、恵里に下心や悪巧みがあるときには回避する謎の直感を持ち合わせている。

 
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